???キノコ。

「わ〜マオの知らないキノコが出来た〜すご〜い。ぐふふ…」
「?」

カイカの目の前には一本のキノコがあった。
まだカサの開いていない、虫食いもない、とても綺麗なフォルムをしたキノコだ。
そしてそれは、どこがどう、という事もないのだが………何故か色がピンクなのだ。しかも鮮やかに綺麗な色な所が余計妖しい。
…カイカは首を傾げながらも、それを受け取った。



こしあん軍リーダーカイカ。
まんじゅう大好きvな彼は最近キノコ栽培に凝っていた。
見た目と裏腹に…いや、見た目よりやや幼い頭な彼は、そんな妖しいキノコをまんじゅう船第三通 路、食堂のある階へと持って行ったりするのだ…。



「………いや、あのねカイカさん…(汗)幾ら鑑定って言っても、貝やらキノコの名前はオレにはわからないんですって…;」
「…(不満そう)」


…………一体何をまたやってるんだ…;
テッドはまずカイカを見てそう思った。
人魚並の行動をとるカイカの姿を見て、声をかけるか悩んだが…結局声をかけた。惚れた弱みだろう。

「カイカ、」
「…」

言うならば、「あ。てっど。」という感じでカイカは振り向いた、…最近無表情な顔を見るだけでも言いたい事が伝わるようになってしまっていた。
そんな自分に溜息を吐きながらテッドは尋ねる、

「…何やってるんだよ」
「キノコ」

キノコ?

…疑問に思って黙って待ってみたが、相手は何も言わない。

「………(根負け)…が、どうしたんだよ?」
「生えた」

殴るぞ?


とりあえず、種類のよくわからないキノコが生えたという事を聞き出した。

「お前な…鑑定屋に聞いてもわかるはずないだろうが(怒)」
「?」

なんで?と首を傾げるカイカだ。さすが過去、宝の地図を鑑定屋に見せようとしただけはある。
現在テッドとカイカ、そしてその訓練時代からのお守り役である元ガイエン海上騎士団らは、少し遅目の昼飯をとっていた。…鑑定屋の営業妨害は止めさせたらしい。

「そうそうカイカ、鑑定屋さん困らせちゃダメだよ?」
「しかも新種のキノコならきっと名前もないでしょう、」
「あ、やっぱそうだよねー」
「…」
「…落ち込むな(怒)」

女性騎士らの言葉に、無表情に凹んだカイカにテッドが突っ込む。

「もう表情読めるようになったのか?」
「俺なんかまだたまにわからない時もあるぞ…」
「…煩い」

ムッツリと冷たく振る舞っているように見えるが、実際の所照れているらしいテッドだ。最近それが読めて来た、(保護者役をとられた)一同は影と言わず、正面 切ってムッツリスケベと言っていたりする。…吸われるが、
まあそれはともかく。
まだ恨めしそうに(でも無表情)まだキノコを見つめているカイカに、タルらが余計な事を言った。

「やっぱりそういうのは食べてみないとな〜(笑)」
「そうそう、MPは回復するんだしさ。(笑)」

あっはっは!と呑気に笑い合う二人だ。まさかそんな妖しい物食べる訳がないと思い込んでいる故に。…だがしかし…

「おまえらな…」

テッドが余計な事を言うなと止めかけた…その時。


もぎゅっ。


…カイカが食べた。
…妖しいキノコを、何の考えもなしに思いっ切り生で口にした。
………。
もぎもぎゅ、…ゴク、…ん?
ぷるぷると震えた手がカイカの顔前に迫る!

「こっの…;バカ!」
「!!」

怒りの形相でテッドがスパーン!とカイカの頭を叩いた。クリティカルヒットだ、これは痛い。
…しかし、勢い余り過ぎ、叩いた相手は椅子ごとひっくり返る。


「あ…」


やりすぎた…!
頭、打つ…!

慌ててテッドが手を伸ばすが、間に合わず…

ドサ………と、カイカは背後にいた人物に椅子ごと受け止められた。

「こんにちはvテッド君、カイカさん」
「…ッアルド!」

ストーカーされていたのか?と言うくらいナイスな出だったが、…まあ偶然だろう。きっと、

「何でここに」
「え?お昼を食べようと思って来たんだけど、僕も一緒に食べていいかい?」
「嫌だ(即答)」

カイカを受け止めたまま話しているのが更にテッドの神経を逆撫でしているようだ。いつも通 り対応が荒い。
早く起き上がれとカイカに言おうとして、…その様子がおかしい事に気付いた。

「カイカ…?」
「え?」
「…」

目を回しているような表情で硬直しており、そんなに驚いたのかとも考えたのだが…

「もしかしてさっきのキノコか!?;」
「キノコ?とにかく、カイカさんしっかり…」

アルドが胸元にある顔を、緩く叩くとすぐにカイカの瞳は正気を取り戻し………


「…?」


不思議そうにアルドの顔を見た。
…そして何を思ったか、頬っぺたにあるアルドの手をきゅ〜っと握った。

「?;」
「なんだ?」
「カイカ?;」
「カイカさん?」

何事かと周りの面子が首を傾げてカイカを見る。いつも反応がわかりにくいが、今回のは更にわかりにくい。
じぃ〜っとアルドを見つめるカイカ…口を開いて言った事には、



「………………すき。」



ぶーッ!!;
…余りの珍事に食事中の仲間らが、口の中の物を吹き出した。
言われた本人とテッドは真顔で硬直してしまっている。
慌てるのは、元騎士団メンバーらだ…。

「かかかかかカイカ!?;」
「テッドはこっち!;ね? それにそういう事は部屋でね!?;」
「…(♪)」

周りの慌て具合もなんのそので、ぽや〜っとしたカイカはその(アルドにもたれた)恰好から戻ろうとしない。
………よくよく見てみると、テッドの額に青筋が浮いていたりする。

「………」
「え〜っと…その?」
「?」

魔のトライアングルを形成しているこの光景に、どうするべきかと一同が悩んだその時…ポーラが叫んだ。

「あっ!;カイカの頭にハートが…!」
「っキノコか!?;」


魅了キノコ。(命名)
効能:MPを1つずつ回復。最初に見た相手に惚れてしまう。


「魅了の回復アイテムって何!?」
「医者呼べ医者ー!!;」
「え!?ユウ先生有休取ってお休み!?;」

大騒ぎだ。








有休をとった医者を探すその間、…まあ他人を攻撃しないように見張っててもらえばいいか、…という結論になった。
………で、テッドの横にアルドが役得とばかりに、カイカを膝の上に乗せて食事を取っているのだ。吹き荒れるブリザードと言うか、のしかかる重い空気はとてもシャレにならなかった。…また一人また一人と、食堂から人が消えて行く…。
…さすがに、騎士団メンバーまでは逃げられなかったが、逃げたい気持ちは一緒だ。

「ねえ、テッド君」
「ああ?(怒)」

恐い物知らずなアルドは、にこにこと不機嫌なテッドに声をかけた。

「…こうしてると、なんか僕たち夫婦みたいだねv」
「…どこがだ」

殺すぞ?吸うぞ?と同意語な台詞を口にしたテッドに、辺りからまた人が消えた。

「…(♪)」

そしてカイカは、大人しくアルドの膝の上に乗っている

イライライライラ…(怒)

…イライラする事じゃない、と自分に言い聞かせても、異様に苛ついてしてしまう自分に苛立ち、堂々巡りだ。
元々突き放そうとしていたのだから、この状況は自分にとって非常に喜べる事なのだろうが………

(やっぱムカつく…)

…予想外にテッドはカイカに惚れてしまっていたらしい。
もっとも、それを表面に出すテッドではなかったが…今のこの状況にはさすがにキレかけらしい。

「………」
「……、」

不機嫌そうに黙りこくっているテッドの様子を見て、アルドは何かを企んだ表情をした。

「………(大体なんでコイツはこんなあっさり妙なもんを口に出来るんだッしかもよりによってアルドの奴に…〜〜ッいやそうじゃない、そうじゃなくて。俺は誰とも関わりたくないからこれはこれでいい筈なんだッ…あークソッ何でこんなにイライラするんだよッ!)」
「テッド君v」
「なんだよッ!?」

怒気凄まじいテッドの言葉に、騎士団メンバーが首を竦めた。…その心は、カイカ早く治れ〜ッユウ先生まだー!?の気持ちで一杯だ。

「カイカさん…触り心地いいよね☆」
「…ッ」

テッドは机を投げたい気持ちになった。
アルドの台詞は神経を逆撫で所か、擦り金で削ったような物である…

「テッド君はカイカさんを取られて悔しい?」
「…別に」

にこにこムカムカと非常に対照的な2人だ。

「じゃあこのまま僕が貰っちゃってもいいよねv?」
「!?」

好きにしろ、とも駄目だ、とも言い様がない。…いや、心情的には「駄目に決まってるだろうが!?(怒)」と言いたいのだが、言える筈がない。ましてアルドに、
にこにこと笑っているアルドに何も言葉を返せないままでいると、それをどう捉らえたのか、相手は目を細めた。

「じゃあそう言う事で☆」
「あ…っ」

聞き覚えのある甘い声が突然上がった。
反射的に見ると、カイカが(かなり無理に)胸の防具の下に手を突っ込まれ、弱い部分を触られている所だった。
しかも無抵抗に、
多少困ってはいるようだったが、嫌がる様子もなしに、ぽ〜っとした目で大人しくしている…

「…ぁ…あっ、ん」

…。
…。
…。


プチッ


ガン!ドガッ!バタバタバタ!!







「…生きてる?」
「あぃたたた…;うん、平気みたいだ…」

吹っ飛ばされたアルドは、暴れるカイカを担いだテッドの後ろ姿を見送りつつ言った。
どうしてああ言う事やるかなぁという質問には、

「友達(予定)だから、テッド君が正直になるように協力しようかと思って…v」
「思いっ切り株下げたよ?;」








「〜!!」
「………(怒)」

暴れに暴れるカイカを抱えながら自室に戻るテッド、
暴れる相手を運ぶのがこんなに大変だったのかと噛み締めつつも、なんとか部屋まで戻る。
ペィッ!とカイカをベッドに投げると、慌てて起き上がり、何かを探すように辺りを見回している。


「…ッ」


理不尽な思いが込み上げる…
キノコの効果のせいとわかっていても、苛立って落ち着かない、
しかも効果がいつまで続くのかもわからない、消化するまでか?
いつまでもこんな気持ちが続くのか?

求める相手がいないとわかったのか、カイカが元の場所に戻りたそうに起き上がろうとするのにカッとして、

「ここに居るだろ…ッ!?」
「ッ!」

カイカの胸倉を掴み上げた。
苦しそうに顔をしかめたカイカに、はっと我に返るテッドだったが…

…勢い余り過ぎたらしく、思いっ切り咳込んでいる。

げほげほげほっ…!;

「あ…;カイカ…」

げほっ!げっ!ぐっ…;

「しっかりしろ!;オイ!!」

余りにも酷い咳込み具合に、テッドは慌てて介抱に走る。

げっ!;

…ポロリと口から噛ったキノコが転がった。
……………まあ、白雪姫も吐き出した例があるので、こんな事もあるのだろう。
しっかりと頭の上のハートは消えたように見えた。

「…?」
「カイカ?大丈夫か…?;」
「!」

カイカが何かに気付いた顔になった。
その視線は自分の乱れた(さっきの首絞めで)服に行っていた。…そして、

ぬぎぬぎ…

…脱ぎ出した。

「いや…;脱がなくていいからさ、」
「え??」

何か勘違い。


でも脱いでいただき、美味しくいただきました。






 




〜おまけ。騎士団員の呟き〜

「でもさ〜」
「あぁ?」
「風の紋章か水の紋章かで治せば早かったんじゃない?」
「あ゛。」
「…盲点でした」
「おーい!ユウ先生いたぞー!;」

まあいっか☆あははははー♪で片付いた。


…しかし、カイカの噛りさしのキノコがマオに回収され、栽培所で繁殖している事は………この時誰も知る事はなかった…。

 

エンド?