バレンタイン…。
一体誰がそんな単語を知っていたのか…
まんじゅう船、こしあん軍では今まさにその「バレンタイン」という行事に盛り上がりに盛り上がっていた。
好きな人に「チョコレート」を渡す事が愛の告白であり、また愛の確認であるらしい、と…。
間違っているのか、間違っていないのか…そんな事はわからない。
しかし、軍全体として盛り上がっている事は一つである。―――確かに、カイカにチョコを渡したいという者らは多数いる…しかし、彼はまんじゅうが一番の好物だし、まんじゅう以外の物を渡したとしても、あのまんじゅうを受け取った時に見せる嬉しそうなオーラは見れないかもしれないのだ…。なら別 の機会にまんじゅうを渡して喜んでもらった方がいい、そう考えるまんじゅう船船員らだった。(…どこかズレている。)
それはともかく。
とにかく、満場一致で考えている事があるのだ。そう…


―――カイカ(様、さん)、アイツ(テッド、テッド君、テッドさん)にチョコあげるのかなぁ? …どんな反応見せるのかなぁ?


…だった。
平和といえば平和だが、本人にしてみれば余計なお世話な上に、迷惑な話ではあった…。





「ねぇねぇ、カイカ〜」
「?」

食堂でまんじゅうが作られる行程を眺めていたカイカに、ジュエルが声をかけた。このタイミング(まんじゅう作り観察中)で声をかけて、反応を見せてもらえるのは、船内でもそう多くはない者達だけである。

「バレンタインのチョコ、テッドにあげる?」
「…」


食堂に居たメンバー全員が耳を澄ませた。

先程まであんなに騒がしかった、船内が一瞬で水を打ったように静まり返ったのは…かなり異様な事であった。
それだけこのリーダーの反応が気になっているからかもしれない…。
で、肝心のカイカの反応は…

「?」
(訳:バレンタインって何?)
「あ〜;もうっ!タルー!ポーラ!ケネスーーッ!!ちょっと集まってよー!」

―――ああっもう!;問題外だーッ!!;(満場一致の心の声)



「―――で、チョコを渡すのは、付き合っているなら当然の事なんだ。(多分)」
「ここまではわかりましたか、カイカ?」
「…(こっくり)」

騎士団4人組の言葉を理解したらしいカイカは、こっくりと頷いた。
故に。現在この船は、チョコレートの原材料、カカオを確保する為に、最寄りの島まで航海中である…。(即決行動)

「あげる時まで内緒だからね?」
「テッドには言うなよ?」
「?(こっくり)」

今度の言葉は何故かという事は理解出来なかったようだが、一応了解したという頷き方である。…ちょっと不安だ。

「…バレンタインまでちょっと日にちあるよね?」
「それまでばれないでしょうか…?」
「バレたらおもしろくないしなぁ」
「いや多分バレないとは思うぞ?;」

一同は悩む。(本人そっちのけで)

「じゃあ時間もそんな長い間じゃないし、」
「そうですね、」

テッドには少しの間会わないようにしてもらう。
そう決定するが、それをそのまま伝えても、カイカが納得するはずもない。
いやいやっと、カイカに首を振られては、こちらが悪い事をしているような気がしてしまうのだ…―――なので言い方を少し変えてみた。

「カイカ、じゃあ俺らとテッドに渡すプレゼント取りに行こうぜ。なぁ?」
「内緒にして驚かせてやろうな?」
「(こっくり)」

作戦はうまく行った。





「何作る?」
「このままじゃダメなのか?」
「手を加えた物が本命という話ですが」
「じゃあ、チョコまんじゅうってのはどうだ?(笑)」
「決定ね、カイカって感じも出てるし」
「カイカもいいですか」
「(こっくり)」
生地の甘さと薄さを変える事で、カイカは許可を出した。
「じゃあテッドを部屋からおびき出して…」
「後はカイカを…」




 

 


…その日、テッドは不機嫌だった。
…正しくは、ここ2、3日の間だったが…
…別に、カイカがやって来なかった事が理由ではない、どうせ何かまた仲間に捕まって来れなくなっているだけだろうと予測がつく為に…、
自慢ではないが、それくらいは相手の性格からわかってしまっていた。
だからこのテッドの不機嫌具合には、別に理由があった。

…最近、周囲の視線が生暖かいのだ。

『カイカさんに…』
『カイカ様が、…を〜から…』

と、ヒソヒソヒソヒソ…ッ!(怒)まるで、中学生のカップルを見つめる保護者のような視線に晒され、今にもキレそうな気持ちで一杯だった。
今もアルドが訳のわからない理由を付けて、部屋から引っ張り出そうとしてきた為、張り倒して来たばかりだ。
テッドは苛々としながら自分の部屋の前に立ち…

―――異様に甘ったるい匂いが中から漂って来る…いや、人の気配もある。

(…何だ?)

『リボン余ったー!;もう一周巻いていい?もう手にも巻いちゃうよ?』
『苦しくはないですか、カイカ?』
『そろそろヤバくないか?』
『とにかくどこかに隠れよう…しかし何もない部屋だな…;』

ほっとけッ!(怒)

テッドはその怒りのまま、物も言わずにドアを開け放つと−−−…

絶句した。


そこにあるまんじゅうの山に驚いた訳ではなく、その隣のカイカの姿に驚いた…

乱れた服(作業の間にめくれたらしい)…
ベットの上に座る生足…
何より、リボンらしい赤い紐で結ばれた…いや、縛られた姿が問題だ…
胸の上部、下部の2箇所を巡るリボンは、カイカの背中に回された腕を、見事に縛り上げており…
頭に付けている筈のバンダナは、目元まで落ちてきていて…
―――――異様にSMチックだ…。

「ッ…だ……!ッ誰だカイカに後手縛りなんかした奴は―――ッッッ!!!!!(怒)」

きゃー!わー!;縛り方に名称あったのー!?と、慌ただしく壁に張り付いていた騎士団員達は逃げ惑った…。

「お前もちょっとは抵抗しろよッ!?」
「…てっど(♪)」
訳:久しぶりに会えて嬉しい嬉しい♪
「あーもうっ違うだろうがーッ!(怒)」

…しかし、あの生暖かな視線の理由は今なんとなく理解出来た。







「バレンタイン…で、こうなった?」
「…(こくこく)」

縛られたカイカは未だそのままの状態で、頷いた。…ただし、バンダナだけは話しにくい為、外している。
余計な面子はさっさと退場し、この場は二人っきりである。
で、バレンタインの説明を本人からされた訳で…
こう、胸の辺りがむず痒い。

「………」

黙りこくったテッドに、カイカは何を考えたのか無表情に、嬉しそうに更に駄目押しをする…

「…てっど大好き!」

惨敗。
…とりあえず、首謀者に乗せられる事だけは避けたかった為、リボンは解いてやった…。
その後はご想像にお任せする…

 



〜おまけ〜入らなかったシーン…。↓



テッドの方を見張る為に、ケネスは一人船に残り、4人は船から降りてカカオを見に行った。

「うわ〜…これ全部カカオ?」
「見事ですね」
「うまそうだけどなぁ…生じゃ食えないよな?」
「っていうか、どうやって作るの?これからチョコ。」

ジュエルが言って、黄色に実を手に取った時、後ろから バキャッ! と見事に殻を割る音が聞こえた…。
カイカが無表情に中の種を割って取り出している。

「…そうやって作るんだ?;」
「さすがカイカ…」
「小間使いやってただけは…」

それは禁句!(怒)と女性陣からボコられるタルだ…。

「乾燥させるの?」
「どれくらいかかるのですか?」
「1週間」
「バレンタイン終わってるぞ!?」
「もー;チョコになってるの買って行こう!?;」
「?」

とりあえず購入…。