「『ホワイトデー』?」


まんじゅう船こしあん軍…
今日も平和である。
戦争中であるというのに、船内で交わされる会話は戦況以外の雑談ばかり。全く以て平和である。

しかし、そんな中…テッドの心情は平和から程遠い境地でいた…。
そう、原因は先月(?)あったバレンタインである。

「バレンタインにチョコもらったんだから、今日お返ししないとね〜♪」

と、ジュエルが言ったのだ。
ちょうどテッドが食事を取りに部屋から出た隙を見計らって、
どうも、この騎士団員時代のカイカの知り合いにはお節介な者らが多い。不幸な境遇にいる友人(カイカの事だ)を少しでも幸福にしたいという気持ちでいるのだろうが、テッドにとっては迷惑な話である。
何しろ、テッド自身も悪いと思っている所を突いて来て、罪悪感を感じさせるのだから…。本人に悪気がなくとも、かなりのダメージが来る。

「言っておくけどな、俺は何をやるつもりもない」
「でも決まりなのよ?ねえ、ポーラ」
「ええ、聞いた所3倍返しだとか…」

ぼったくりもいい所だな、それは。
テッドの変に冷静な部分がそう突っ込んだ。

「カイカもお返し欲しいよね?」
「…(ふるふる)」

どう答えるのかと思われたカイカだったが、彼は首を横に振った。
表情は変わらず、無表情だった為、何を思ってそう答えたのかはわからない。少なくとも『哀』の感情ではない事だけは確かだ。
………しかし、その方が逆に罪悪感というものが刺激される。
いっそカイカが、そこで頷くようなタイプだったならまだ対処のしようもあっただろうが…
テッドは溜息をつく、
――そして、そんな部分も気に入ってしまっているのだ。…自分でも末期だと思う…。
が。

「でもカイカ、3倍のまんじゅうがもらえるかもしれないんですよ?」
「…(ぴくっ)」
「今悩んだだろッお前!?(怒)」

ちょっとだけ、どうするか悩んだテッドは、真剣になった分だけ悔しかったりする。
ついでにそのせいでキレた。

「何度言われても嫌だ!俺は何も渡すつもりはないッ!(怒)」
「形に残る想い出くらいカイカに残してやってよって言ってるの!」
「まんじゅうを渡してか!?食べずに残されたら腐るだろうがッ!」
「いいじゃない!」
「嫌だ断る!」
「ケチッ!」

激しい言い争いに、今回は我関せずと離れている男性騎士団員2名が首を竦める…。…この辺りの件に関しては女性陣に関わらない方が良いと思っているのだろう。

「だから!俺はカイカに何も残すつもりはないって前から言ってるだろ…ッ」
「どうしてなのか納得出来る理由を言って下さい」
「渡したら―――(…未練が残る…ッどっちにも!)」

頭に血が上り、思わず本音を口走りそうになったのだったが、テッドの台詞はカイカの…

「まんじゅう…(悩)」

と真剣に悩んでいるらしい声で、途中で消えた。

「〜〜〜〜」
「…カイカ、お昼まだでしたね…デザートに私からプレゼントしますね、」
「…あたしからもあげる〜」
「…(♪)」

ジュエルが言うと、その声が聞こえたのかタルとケネスがまんじゅう屋とフンギの店へと移動する。付き合いが長い故のチームワークだ。
…というか、一つ気になった事がある。

「カイカ…お前昼飯まだだったのか?」

その言葉に、カイカは首を傾げてテッドを指差して、一言で答えた。

「てっど」
「…あんたと食べたかったんだって、」
「〜〜〜〜;」

無表情にクル所が恐ろしい。
………テッドは考えた。
どうするか考えた。
…形に残るような物を渡すつもりは、これからも今もない。
―――なら、形に残らない物なら?
ついでに、今の心情を簡単確実に伝えられる物。

「…カイカ、」
「?」

立ち上がり、手招き。
カイカは素直に従い、後ろを付いて来る。

「…こっちだ、」
「?」

このフロアの隅、死角になった薄暗い場所に移動した…。
そして2人の姿は、完全にジュエル達の前から消える。

「あれ?カイカは?」
「飯2人分持って来たぞ?」
「あっちに行ったんだけど…」
「何でしょうか?」

一同の視線が隅に集まる。(誰も見に行こうとはしない。)

1分後…
動き無し

3分後…
まったく動き無し

5分後…

「…食事、無駄になりそうですね」
「俺が食うかな。」
「あたしスノウどうしてるか見てこよーっと」
「オレは訓練でもしてくるか…;」

何を感じ取ったとか、一同は素早くどこぞへと散らばった…。



…そして、約8分後…

頬を扇情的に染め、呼吸も荒く(どこか幸福そうに)ぐったりとしたこしあん軍リーダーが、テッドに支えられ部屋に連れ込まれている姿が見受けられたという………

 

 

恥ずかしい話だ…(吐血)