白色の軸。
薄黄色の笠。



…それだけを見れば、バッチリ食用キノコに見えるのだろうが、いかんせん…

「カイカ…」
「?」

笠の上に、三角形の突起が二つ…。

形が妙だ。


そう…そのキノコは、フォルムが妙に猫を連想させる物だった。
こんな妖しげなキノコを食べる者は普通いまい。しかも、キノコマニアのマオにもわからない新種のキノコだ。(先程から彼は人体実験をしたそうな目をこちらに向けている)
確実に食べたいと思う者はいない。
…しかし。それはたった一人の者を除いての事だと、テッドはすでに悟っていた。
このこしあん軍リーダーであるカイカ…彼は意外に好奇心旺盛であり、また危機感が欠落した存在である。
故に直ぐさま、忠告(というか、命令というか)を、キノコを無表情に注視しているカイカに、告げようとした。

「いいか、絶対食…」

ぱくっ


「…(もぐもぐ)」
「――――…」

遅かった。
カイカ躊躇なくキノコを口に入れた。

「?」
「カッ…こっ…!(怒)」

パクパクと口を開け閉めするテッドを、カイカは不思議そうに眺めて首を傾げる。
そして、テッドは大きく息を吸い込むと―――…


「なんでもかんでも口に入れるなッッッ! この馬鹿野郎ッ!!(怒)」


と、怒鳴り散らした。







(まったく…何考えてんだアイツは…ッ!)

おそらく何も考えてないのだろうが、それでもムカツクものはムカツクのだ。
その感情は、(危機感のなさに腹を立てているというのもあるが、)相手の命を心配するという気持ちが起因しているという事実に、テッドは敢えて目を背けていた。そして一人ベッドの中、腹を立てている。
…ちなみにカイカは、部屋に張ったハンモッグの上で、ゆらゆら揺られて眠っている。(喧嘩中でも、可哀相だから一緒に寝てやれと船員全員から押し付けられたのだ。)
とりあえずカイカは、怒っているテッドを気にしてはいたようだが、結局はそのまま寝てしまっていた。…気のせいか、罪悪感からか、ハンモッグの上で揺られる姿は酷く頼りなげに見えたりする…。

「………」

ささいな事でいつまでも怒っていて大人げなかったか…いや、それでも躾はきちんとしておかないと、命に関わる!―――と、テッドはグルグルと悩んでしまう。
で、更に自己嫌悪だ。
意外に自分はあの生き物(カイカ)を好きでしょうがないのだ…

(あ〜クソッ;もうどうでもいいッ!放っておいたらその内こっちに入って来るだろッ)
そう自分に言い聞かせ、テッドは頭から毛布を被った。



………。

そして朝、

「…………」

もう船のメンバーらは起きているのか、ドアの外からは人が活動する気配がしていた。平穏な日常の喧騒といった音は、不快な事ではない。
自分がその平穏を壊さない限り、その間に身を置くのは(口には出さないが、)決して嫌いではなかった。
…そんな心地良い日常の中、テッドは身じろぎ、のろのろと目を開いた。
…予測通りカイカの頭が見える。
やはり夜の内にこちらに移動して来ていたようで、栗色の髪がシーツの上に見え……………いや、それともう一つ何か見慣れない物も見えた。

「………耳?」

「くぅくぅ…」

(呑気に寝ている)カイカの髪の間から見える物は、まごう事なく――――猫の耳だった。
髪の色と同じ栗色をしたそれは、作り物とは思えない程柔らかそうであり、かつリアルだった…。

「…………。」

黙ったままそれに手を伸ばす。

ふにっ。

柔らかい、暖かい…。
しかも、触られた感触がカイカに伝わったのか、くすぐったいと言うようにピルピルと動く。
………間違いなく、本物の耳である。

「耳…耳?;何で耳なんか生えてるんだ…?」

現実か…はたまた夢なのか…一瞬、わからなくなる…。
しかし、悲しいかな…確かにこれは現実だった。

「起きろカイカーーーーーッッッ!!!!!」



とにもかくにも、テッドは異常事態にある張本人を叩き起こした。






「カイカ可愛い〜(笑)」
「確かに可愛いですね、」

酒場前の広間で、カイカの騎士団時代からの仲間である女性2名は、そう感想を言った。…この、非常事態というか非常識事態に対して、わりと呑気なコメントだ。
………確かに、触られる度ぴくぴくと動く耳は可愛いかもしれない。付け耳だったならば、テッドも可愛いと感じたかもしれない(…実際今も少し可愛いと思ってしまっているのだから)…しかしあれは生耳である。本物の耳が生えてしまっているのだ。かなり異常な事態だろう…。
今、カイカは髪に隠された元々の耳と合わせて、計4本も耳があったりする…。何とかしなければならない事件だ。…だと言うのに……………
テッドの…その殺気さえ感じさせる…強い視線が伝ったのか、ジュエルとポーラは素早くカイカから目を戻し…

「大丈夫だって、明日になったら戻るよきっとね、」
「…その根拠は何だ?」
「それはないけどさ。;ほら、カイカも別に気にしてないし」
「子供達にも大好評ですしね」


「カイカ様可愛い〜♪」
「さ、触ってもいいですか??」
「あたしとお揃い?」
「…」

子供らに囲まれ、耳を触られまくるカイカの姿があった。
…確かに別に気にしていないようだ。


「〜〜〜〜…(怒)」

―――悩んでるのはオレだけか、オイ。(怒)
と、テッドは正しい感想を抱いてしまう。
しかし、その激情を何とか押さえ込み、

「〜〜〜〜アレはいいとして、」
「して?」
「あの変態どもはどうする気だ?」
「え?」


「猫耳…v」
「萌え……♪」
「メイド服も…」


「「………」」
テッドが示す方向には、変な集団が出来ていた…。
―――思わず二人は目を反らした。
…耳が付いて、いつもより1.3倍変態寄せスキルがパワーアップしたようだ…。

「え〜っと…どうしよう?;さすがに恐いかも…慣れてるとは言え…;」
「取り敢えず自室に戻ってくれませんか?食事とまんじゅうは部屋に届けますから…」
「ああ……(怒)」

結局預かる羽目になるのはテッドなのだ。

「カイカ、…戻るぞ(怒)」
「…」

テッドの声に頭の上にある耳が、ピクリと動き、そして嬉しそうにピーンと立った。
(………わかりやすくなったな…)
耳で感情の判断がわかる。
………ちょっと可愛い。

「っっ!!!;」

必死に頭を振って、そう思った感想を脳内から振り払う。

「?」
「〜〜〜何でもない。(怒)」

耳をピクピク揺らし、何?何?と不思議そうに(でも無表情で)問い掛けてくるカイカを引きずり、テッドは部屋へと戻って行った…。





…確かに可愛いと言えなくもない、この異常事態…。
しかし…
だからと言って、

猫は抱けまい…。

耳だけだが…可愛いが…獸●は…

「…………」

就眠時間になった時、そんな事をテッドは悶々と考えていた。
まあそれでも、悩んだのはたった30秒程だったが、

「…寝るか」
「…(こっくり)」

欲望よりも理性が勝った瞬間だ。
せめて寝る場所くらいは、分けて欲しいようなそうでないような気持ちを胸に、テッドはベットに横になった。…そう広い訳でもないベットで、カイカとくっつきながら。これに耐えられているのは、150年の年の功がある故だろう…普段あまり耐えられていないような気もするが。



―――で、次の日。



「……………」
「くぅ…」

朝目が覚めた後にも…やはりカイカの頭には耳があった…。
髪の色と同じ栗色をしたそれは、作り物とは思えない程柔らかそうであり、かつリアルで、やはり触ると柔らかく温かい。
………で、更に。

跳ね上げてしまったシーツの間、詳しく見てみるとカイカの腰の辺りに…スボンの隙間から伸びていた物は………
やはり髪と同色で、柔らかな短毛種の短くも綺麗に生え整った毛並みの…スラリとした尻尾


「尻尾…?尻尾まで生えたのか…」

テッドは息を吸い込む…。それから、

「―――悪化してるだろうがッ!!!!(怒)」


テッドはカイカを理不尽ながら、叩き起こした。

 

一旦続く。