あげるv



…。


間違っても、『私をあげるv』とか言われた訳じゃない。
―――――――それなのに、何でこんなに驚かれなきゃならないんだ?


「………!!」
「………!!」

驚愕の瞳で、甲板での戦闘の後、騎士団員時代から(カイカと)の付き合いがあると言う2名が困っていた。
その視線の先には、(無表情のように見えて実は)にこにこと笑って、テッドにまんじゅうを渡しているカイカの姿があったりする――――…

「な、なんだよ…?;」
「カッ!;」
「テッ!;」

まんじゅうを受け取ったままの体勢でいるテッドに、硬直したままタルとジュエルは声にならずに、口をパクパクと動かした。
…こんな反応をされては、さすがにテッドといえども、困惑してしまうだろう。
そして、


「「――――まんじゅうっ!!」」


…みごとハモった。

「…どうみてもそうだろ?」

そして、訳がわからないテッドは、多少引きながらそう答えた。

「そうじゃなくて!カイカがまんじゅうを―――…」
「あげてるしっ!!今まで誰にも渡した事なんてなかったのに…!!」


…こしあん軍リーダー、カイカ。
彼はめっぽうまんじゅうに目がなく、船の名前さえも『まんじゅう』とつける程に、まんじゅうが大好きだ。
そんな彼はいつでも無表情でいて、表情が変わる訳ではないのに、それにもかかわらず異様に子供っぽい性格をしていたりもする。


「カイカのまんじゅうを食べたヤツは、それはもう口では言えないような恐ろしい目にあわされたって聞いたぞ;」
「あたし、流刑船にあったあの嫌がらせみたいにあったまんじゅう、まだ大事に持ってるの知ってるよ…;」
「……………」

どこにどうつっこんだらいいのやら。
取り敢えずテッドは、この騒動の原因であるカイカを見た。
…相手は、我関せずと言うか、何もわかっていない様子で、袋からまんじゅうをもう一つ取り出している。
…。
ふと思ったが、

「…あのさ、その話いつ頃?」
「え?流刑船?…かなり前の話だけど―――…」
「もう食べれないだろ?それじゃ、」
「いやさすがに(幾らカイカでも)食べる用じゃなくて、記念用にとってるだけだろ?」
「そうそう、さすがにカイカでもさあ…(笑)」

ぱくっ。

――――――和やか(?)に話している中、タイミングよくカイカがまんじゅうを食べていた。
…何か緑色のまんじゅうだ。

「…抹茶味ってあったか?」
「…さあ?そう…思いたいケド…」
「何かコレも緑色してるんだけどさ。」

―――――テッドの一言と、その示した物体を見て、その場は凍り付く…


…カビ?


「カッ!」
「バ…!!;」(※カバでなく、)

ズビシッ!!


…テッドがカイカの手から、素早くまんじゅうを叩き落とした。

「「………!!」」

しかし、そんな事をしてしまったなら―――…今度2人は、別の意味で凍り付いた。

「…」

息を飲んで見守る中、カイカは、落ちたまんじゅうと自分の手を交互にゆっくりと見つめ…そして、呟いた。

「…いたい。」

えっくん。と泣きそうな顔に見えるような表情のおまけ付きでだ、

「食べるな、」
「………」

カイカの反応に恐怖と驚きと意外さを感じ、固まってしまっていた2人は、テッドとカイカの会話を暫し見つめていたが、ハッ!とある事に気付いた。

「食べた分が!;」
「どうしよ…っカイカ口に入れちゃったんなら、もう呑み込んでるしっ…!」←子供か…;

「――――――ぅ、エ”ッ。」

………サポートメンバーに組み込まれていたユウ先生が、カイカの口に思いっきり指を突っ込んでいた。
―――うわっ強行手段ーー!!!
カイカの指に噛み付いて暴れると言う抵抗も何のそので、医者はとっとと、ノドに指を突き入れて思いっきり吐かせていた…。(リーダーにあるまじき醜態だ。)

「治療代はツケにしておきますから、」

後で胃薬を取りに来て下さいね、と言い残して、医者は医務室へと帰って行った―――…

「……あれ、治療?」
「しっかりしろカイカ!;」


 

 


そんな訳で、カイカに教育が施される事になった。(特にまんじゅう絡み)
幾ら可愛いおバカさんとはいえ、このままでは命が危ない。ので、



「だから、なんで俺なんだよ?」
「だってほら、アンタだけじゃない。カイカにまんじゅう絡みで何もされなかったのって、」
「そうそう」

タルはもう食事の注文をして、その事に目がいってしまっているし、肝心のカイカも出来たてのほかほかまんじゅうにうっとりと無表情に見蕩れていた。…てんで自分勝手なふるまいだ。こんな者達に何を言っても聞く訳がない、
は〜〜〜…と、テッドは息を吐いて、その年の功で何かイイ案はないかと考えていた。
…その時、

「あ、カイカ様v一つまんじゅうもらいますね、」

「…」
「「バッ…!!;」」

…命知らずな新人クルーが、カイカのまんじゅうに手を出した。





「―――――――――バッカヤロー!(怒)罰の紋章なんか使うんじゃねーーーーっっ!!(怒)」

ヒィィィィィイィイキャアアァアアアァアアア…!!(発動)



…(実質年齢)150歳の男の怒声と、罰の紋章の悲鳴が響き渡った…。




<ちょっと間。>


「…」

発動直前だっただけなので、ちょっと具合が悪くなっただけのカイカさん。

「取り敢えず…―――――古くなったまんじゅうは食べるな!」

((―――――紋章攻撃するのはイイんだ…))

一同の声。

「わかったか?」
「………」

じぃ〜っと、カイカに精神集中をして表情を読んでみる。…とても不満そうな顔だ。

「(ふるふる)」
訳:もったいないから、イヤイヤ。

「なら食べれる時に食べろよ」

「(ふるふる)」
訳:もったいなくて食べれないの。

「…………………………」

無表情なやつだとは思っていたが、仕草と視線(と後行動。)だけでも、かなり子供っぽい事がようやく理解出来た。
テッドは頭を抱えた。

(一体こんな相手にどう理解させって言うんだよ…?;)
5才くらいの子供にするように、「これを食べたらお腹が痛くなっちゃうよ〜」と言うにしても、相手はまんじゅうに愛を持ち過ぎている…。

「…はあ〜〜、」
「、」

知らない間に溜息を突いているテッドだ。カイカがそれに気付く、
自分の前にあるほかほかまんじゅうの山から、てっぺんの一つを取ると、頭を抱えたままのテッドに、そっとそれを差し出した。

「………」
「あげる」

…よくよく見ると、眉が少し寄っている…。
つまり、

(あげるから元気だしてっ)

…という意味なのだろう。

「……………………はぁ;」

人と関わってはいけない、…その為には突き放すべきなのだろうが…

「??」
「…ありがとう、」
「…(♪)」
「でも――――――カビたまんじゅうは食うな、」
「………(こっくり)」




そう少し顔を怒らせて言ったテッドに、今度はカイカも何故か素直に頷いた…。





…2人の世界を(奇妙に)形成した2人…。
…そんな彼らに、船中の嫉妬の視線が集まっていた…。




まんじゅう…それはこの『まんじゅう』号の中では相当の位置を占める物であったりした…。