「カイカ様可愛い〜♪」
「さ、触ってもいいですか??」
「あたしもしっぽ付けようかな〜?」
「…」

子供らに囲まれ、尻尾を触られまくるカイカの姿…。
…気のせいだろうか…?確か昨日も同じような事があった気がするんだが…?(怒)
―――テッドはやや現実逃避気味にそう思った。
気のせいも何も、現実には、昨日よりも悪化した事態が目の前にあるだけなのだが。
カイカに猫耳と猫尻尾が生えたという…現実が…

(投げ出してぇ…!)

ピリピリとテッドの神経が逆立つ。
他人に係わり合わないようにしようとしているはずだというのに、現実にはかなりの面倒事に巻き込まれていた…。

「マオ見つかった!?;(早く何とかしないとテッドが怖いよ〜っ;)」
「いえ、それが…キノコ栽培に必要な物を買い出しに、船内をさ迷っているみたいです(私も少し…;)」

バタバタと何とか問題解決をしようと、元騎士団員達が率先して走り回る。
…何故なら、いずれテッドがキレそうだからだ。(カイカがいつも以上に、変態を寄せ付けているのもそれに拍車をかけているだろうが…)

―――しかし、こんな異常な騒動が簡単に解決する訳もない。
その為、ついつい現実逃避をする者さえ出始めていた。

「…なあ、ケネス」
「何だ?;」
「カイカなぁ、最終的には猫になると思うか?ネコボルトになると思うか…?」
「イッ!?;」

タルの問題発言に絶句するケネスだ。

「あ、あたしは…チープーみたいなネコボルトになると思うな…;(ドキドキ)」
「そうでしょうか…? カイカは普通の猫も好きですし、完全な猫になるとも思いますが…」
「おい;止めろよ、そんなシャレにならない話…;」

ケネスは止めるが、そうは言っても軽口くらいは叩いていないと、身が持たないのも事実だ。何しろ、マオは未だ見つからず、医者に見せてもどうにもならないし、テッドは今にもキレそうな程不機嫌…というのが現状なのだから…。(四面楚歌)
――そう考え、ケネスも同じように遠い目になった。

「賭けるか?俺は猫だと思う。;」
「あたしネコボルト;」
「猫だと思います」
「あ〜…;ネコボルト、か?」
「ちょうど半々に分かれたな、」
「ね、テッドはもし、カイカが猫かネコボルトになっても、愛せ…」

「愛せないからとっとと戻す方法考えろッ!!」


いい加減にしろッ!!と、テッドはキレた。
この呑気さは一体何なのか…
カイカが呪いの紋章を受け継ごうが、男の恋人(一応テッド)を作ろうが動じなかったのは、友情からではなく、ただ単に呑気だったからなのか?妙なキノコを口にして猫になるリーダーというのはどうなんだ?…など、テッドの心情は複雑に混乱している。

「や〜;テッド酷ーっいッ」
「非道です…」

が、しかし。女性2人は、そんなテッドの苦悩(?)も知らず、姿が変わっても愛せないなんて酷いと責める…。
…物には限度というものがあり、ネコボルトならまだしも、普通猫になってしまった、既に人の形をしていない物を、果たして愛せるだろうか?いや愛せないのではないだろうか…。ついでに愛せたら変態ではないだろうか?
少なくともテッドは愛せない。
(…ハッ! というか、オレはむしろ普通の状態でも愛してなんか…!;)
今更になってしまった言い訳をテッドが叫びかけた時…

「カイカ様?」
「あ、カイカさんが〜…」

子供らの声に振り向いて見ると………

「…」

―――表情はいつも通りながらも、耳と尻尾をへにゃりと垂らせたカイカの姿があった…
一応さっきのテッドの言葉にショックを受けていたらしい。
いつもなら多少しか伝わって来ない感情が、耳と尻尾のお陰でダイレクトに周囲に伝わっている。
カイカの視線と周囲の視線がテッドに突き刺さり…

「っ――う…さっきのは…い、言い過ぎた…;」
「…」

ついつい謝ってしまうテッドだ。
するとカイカの片耳がぴこりと上がる。

「…その…〜〜〜悪かったな;」
「…」

両耳がピコピコ動く。尻尾もついでに動いている。
言葉で言うならば、本当?本当?と言う感じだろうか?少なくとも喜んでいるだろう事はこの場の者全員に伝わった。

「…わかりやすくて便利だな…」
「そうだなぁ…」
「カイカ様可愛い〜」
「良かったですっ」

いやあんまり現状的によくない。(確かに解りやすいが)
ピロピロと機嫌良さそうにゆっくりとしっぽを揺らめかしているカイカに、その場のメンバーらは、ほんわ〜vと見つめている。(癒し効果スキルS)…が、テッドだけはそれを睨み付けるように見ていた。今はそんな場合じゃないだろう…というのが、その心情である。

「…お前もさあ、自分の話なんだから、何か口を挟めよ(怒)」
「?」

八つ当たり気味に、そうカイカに言うが、…カイカは首を傾げるだけだ。

「だから――」


………いや、まて…―――喋らなさ過ぎではないだろうか?

切れかけた瞬間、ふとテッドは冷静になった。
…そして、思い当たったのは、一つの悪い可能性…。

「…カイカ?」
「?」
「いいから、何か…何でもいいから話してみろ;」
「…」

いつもならば、単語なり「てっど」なり、ある程度言葉は喋るはずであるカイカ…。しかし、喋らない。喋っていない。
カイカは何か考えるように首を傾げると―――



「にゃぁ」



…と一声鳴いた。

「おわぁあッ!?;本気で喋れなくなって…!; いや!それよりッいつからだッ!?」
「…に〜。」

いつから喋ってないッお前ッ!?テッドは叫ぶ。
…一体いつから人語を話せなくなっていたのか…辺りはさすがに、騒然となる……。
幾ら普段から必要時以外、単語しか喋らないとは言え…気付くのが遅過ぎだった。



緊急会議。〜どうやってカイカを元に戻すか〜(in食堂)


「いつから喋れなくなってたんだろうね?」
「そう言われてみれば…昨日から一言も喋っていなかったように思います。」

そう、カイカは昨日から確実に言葉を話していなかった。

「………(頭痛ェ…;)」

まあ、テッドがそう思うのも無理はない話だった。

「エレノア様が、マオ捜索の指揮とってくれるらしいぜ」
「後は…今所用で出掛けているリノ様が、カイカの猫耳を是非見たいと連絡が…却下だな;」
「そうですね。…でも、一体どうしましょうか?こちらで解決出来そうな事態ではなさそうですし…」
「う〜ん…あ!そうだ! ジーンさん、こんな状態異常を直す封印球ってないですか?」(※ちなみに水の封印球では直らなかったらしい。)


そのジュエルの声に、少し離れた場所で店を構えているジーンは笑みを浮かべ、

「ふふ…残念ながら、」

にこりと否定の言葉を言った。

「な〜んだぁ…」

「ふふふ…ただ、遠い国で言われている物語では、そう…奇妙な呪いは『王子様からのキス』で解けると聞いた事があるわ、…ふふふ」

…他の誰かが言ったなら、ただ単に面白がって言っただけの言葉だろうが、――妖艶なまでの美貌と神秘的な魅力を持つジーンに言われたなら、何だか真実のような気がしてならない。

「王子様…;」
「からのキス…?」

一同の視線が、額に青筋を浮かべたテッドと、その隣で機嫌良さそうに尻尾を振っているカイカに注がれる。
期待をするような視線が半分。王子様ってガラか?と訝しがっている者が半分。
しかし、どちらにしてもテッドの返答は…。

「――断る。(怒)」

「ええーっ!何で!? 減るもんじゃないんだからさぁ…」
「勝手過ぎます!」
「絶っ対に、断る。(怒)」
「無駄でもやるだけはやってみてくれ!」
「ホラ一回だけ、一回だけ」
「少なくともッこんな場所でするのは、オレはお断りだッッ!!(怒)」

プチッとキレたテッドが、ギャーギャーと騎士団メンバーと言い争う…。

「こんな場所でって事はここじゃなきゃいいんだよねっ!?」
「でも、今なら幸いな事に、この場に幼年者の姿はありませんし…」
「もう減るもんでもないんだし、ガバッとやって見せてくれよなぁ」
「オレらも心配してるんだ、だから今すぐ…」

キース!キースっ!キース♪
………と、囃し立てるような声が、施設場全体に満ちる。
――明らかに面白がっているだけだ。
横に座るカイカは、よくわかっていないのか、しっぽを揺らしながら真っ直ぐな視線をテッドに注いでいるだけだ。
…テッドは、テッドは―――ぷちっと切れた。



「〜〜〜〜っふざけんなァアアアアァァアッッ!!!!(怒)」



…照れ隠しか何なのか…少なくとも、テッドはソウルイーターを発動させる程度には怒ってたりした。
―――一応言っておくが、死人はゼロである。(手加減)

 

 

 

まだ続いた…。