コンコン、



珍しくも控え目に鳴らされたノックの音(この部屋に入ってくる者は限られているので、ノックをする人口は殆どいない)に、テッドは怪訝に思いながらも、扉を開けてやった。

「―――何の用…」
「鬼は外。福は内。」

だ。と言う前に、テッドの顔面にバシバシと何か固く細かい物がぶつけられた。

「……………」
「…?」

ぶつけたのはカイカ。この船のリーダーだ。(こんな抑揚なく、しかも楽しいですといった器用な雰囲気を出す人物は彼しかいない)
ぶつけられたのは豆。しかも容赦なく一掴み分。(床に転がっているのを目視確認。)

恐らく、何らかの間違った情報で行動したのは明らかだ。もしかしたら、面白がった船員達に騙されたのかもしれない…。
しかし、痛いものは痛いし、驚かされたという腹立ちが消える訳でもない。

「…カイカ…」
「?」

ガシッ!
と、無防備に立っているカイカの頭を両手で挟むように掴む。

「食べ物を粗末にするなッ!!(怒)」
「!!!!」

そのまま激しく前後に揺さ振ってシェイク。(新しいお仕置き方法)


 




程よく頭の中身がシェイクされ、目が回ったカイカを開放すると、カイカは床の上に座り込んだ。どうやら立っていられなくなったらしい。
そんなカイカを見下ろしつつ、とりあえず豆をぶつけてきた原因を聞けば、カイカは端的にこう答えた。

「豆まき」
「豆まき…?」

そしてターニャから借りたらしい行事の本をテッドに見せる。
そこには何やら、「鬼は外福は内」と掛け声をあげつつ豆を撒いて一年の幸せを願うとか願わないという行事が書いてあった。

「すきな人にぶつけて厄を払ってあげるといいって(皆が言ってた。)」


そっちは嘘だろ。


しかし、カイカが信じたのは本当である。
故に、(これ以上)怒るに怒れない。

「〜〜〜〜にしても、食べ物を粗末にするなよな…」
「拾って食べる」

ふるふるとカイカは首を振って、豆の入っている器を掲げてみせた。
そこにはわざわざ200入と大きく書かれてある。
………というか、わざわざ撒いたのを拾って食べるのか…

「いいけどな…」
「、」

ふぅ〜;と溜め息をついて、テッドは遠い目をする。部屋に散らかされた豆はどのみち片付けなければ、足の踏み場もない。
自分が相手を揺さ振ったせいで、更に豆は辺りに散らばったのだから…。
そんな思考をしていると、カイカは何かに気付いたようにもぞもぞと身じろぎ、居心地悪そうな様子を見せた。(無表情だが)

「どうかしたのか?」
「豆。」
「………服の中に入ったのか?」
「…(こっくり)」

先程のシェイクの時に飛び込んでしまったらしい。
いわゆる「いや〜ん服の中に入っちゃったぁ〜」という出来事だが、胸のない相手な為、あんまり嬉しい事はない。

「まず胸当て外せよ」
「…」
「上から取ろうとするなっ!;裾から出す方が早いだろ!?あー!もうっ貸してみろ!」

ごそごそごそ!


ズボンから上着の裾を引っ張り出し、腹を丸出しにする事で豆を取り出そうと画策している中―――――

「カイカ〜豆まき出来た〜?」
「怒られませんでしたか?」
「いや怒るだろ…;」
「テッドもたまには楽しく船内の行事に参加――…」

――――――。

固まる元騎士団一同。
状況だけ見れば、豆だらけの部屋の床の上で、テッドがカイカの服を脱がしている訳で……………


「「「「お邪魔しました」」」」


声を揃えて退場。

「〜〜〜〜〜(怒)」
「?」

妙な誤解を受けたと、怒りで震えるテッドの耳に、(中途半端に開いた)ドアの外の会話が聞こえる…。



「床の上で!?」
「すぐ傍にベッドがあるというのに…」
「しかも豆だらけだったぞ…」
「新しいプレイか?」
「マンネリ防止」
「特殊な性癖…」
「豆プレイ…」
「とりあえず、船内の噂で流すか…」



「流すなッッ!!(怒)」


カイカから強奪した豆を、部屋の外の者達に力いっぱいぶつけるテッドだった…。

 

 



鬼より何より、お邪魔虫に外に行ってもらいたいようだった。