明らかにサイズの合っていないぶかぶかのズボンに、黒のジャケット。
幼い子供に、知り合いなんていない筈にも関わらず、嫌でも彷彿させるその衣装!
更に、触り心地のよさそうな栗色の髪に、まっすぐな澄んだ海色の瞳とくれば…出てくる名前はただ一つ。
「………カイカ?」
「こんにちわ、はじめまして?」
くりっと首を傾げて、ちみっこは拙くも大人びた挨拶を返した。
「――――で、原因は?(怒)」
「それが〜またカイカ、怪しいキノコ食べちゃってぇ;」
「貴方がいなかったのが運のつきでした。」
つまり、また怪しいキノコを口にして妙な副作用に見舞われたらしい。
「『幼児キノコ』と命名してみたんだが…」
「するなッ!(怒)」
割合呑気なケネスの言葉にテッドのツッコミが冴え渡る。
「というか、カイカの服、デカイけどちょうどいいぐらいの長さになってないか?」
「あの短い上着、普通の上着に見えるよね?」
「きっと幼い頃の衣装を仕立て直したんでしょう…」
「噂は本当だったんだな…」
「そういう話でもないッ!!(怒)」
しみじみと涙を浮かべながら、語り合う元騎士団員達に再び制止のツッコミだ。
「わ〜本当に、昔のカイカなんだね、」
「スノウ?」
「あ、ちゃんとこの年齢の頃の記憶はあるんだ」
「じゃあ、オレはオレは?」
「ばじる?」
多少疑問形ながらも、ちびカイカは知っている顔の名前を呼ぶ。
………妙に腹の立つ光景だった。(特にニコニコ笑っているスノウが)
「…お前らは知り合いじゃなかったのか?」
「オレらは騎士団に入ってからの知り合いだからな、」
「そうそう」
怒りを隠して保護者メンツに問い掛けるが、テッドの眉間の皺は寄ったままだ。
「そうか…」
「?」
ふとカイカと目が合い、相手は不思議そうにこちらを見上げて来た。
「………」
なでなで。
…無邪気な可愛いらしさに、無意識の内にいい子いい子と頭を撫でてしまうテッドだ。
撫でられたカイカは、大きな目を更に大きくしてきょとんとなっている。
「「「「「……………」」」」」
「はっ!;」
じぃ〜っと注がれた周りからの視線…。ようやくテッドは、自分が生暖かい目で見られるような、行動をした事に気付いた。
素早くカイカの頭から手を退けようとしたものの…
――――きゅっ。
「……………」
「…」
小さな手に阻まれ、撫でている形に留めさせられた。
「――――で、こうなる訳か…。(怒)」
「いいでしょ、別に減るもんじゃないんだから〜(笑)」
「そうです」
とは言うものの、椅子に座るテッドの上にカイカ(幼)が座る――微笑ましいのか犯罪なのかわからない――光景に、周りの船員らは笑いを隠し切れずにプルプル震えている。
カイカ本人はと言うと、身動きをするでもなくちょこんと大人しく座るままでいた。この年頃の子供にしては、有り得ないくらいの大人しさで。
…………肉付きの薄い姿態と相俟って、色々と健気な考えが浮かんで妙に泣ける…。
「…何か食うか…?」
「ううん(プルプル)」
首を横に振るいじらしい姿―――テッドより先に周りのメンバーがノックアウトされた。
「…遠慮「コレ!コレ食べて!!」
「すみません、まんじゅうを1つ注文お願いします」
「オレも」
「俺も」
「僕も」
「わたしも!」
…我も我もと、パムの元に山のように注文が寄せられる…。
「?????」
「オイ…!;お前ら…ッ!!」
「何か不憫な感じが可愛い…!」
「思わず可愛がりたくなるな…;」
「テッドお前だけ膝抱っこしてズルイぞ!」
そうだ!ズルイ!ズルーイ!ズールーイ!…とコールが上がり始める。
「〜〜〜〜〜〜(怒)」
…そこでテッドの限界がぷちんと突破した。
「世話がしたいなら勝手にやればいいだろうがッッ!!(怒)好きでやってる訳じゃないッ!!」
ちびカイカを持ち上げた上で、椅子を蹴ってテッドは立ち上がった。(変な所で冷静である)
一瞬で置いて行かれると悟ったカイカ(幼)は、反射的に袖を掴んだが…
「じゃあな!」
「…!」
――敢え無く振り払われた。
「あ〜;からかい過ぎたか…;」
「うっかりやり過ぎたな、」
「……………」
「あれ?カイカ?」
「大丈夫ですか?」
「……………」
テッドが乗り込んだエレベーターをじっ…と見つめていた子供の瞳に…、じわ〜っとその瞳から零れるように雫が溢れ出た。
「ぴ…び、っ〜〜〜びぎゃぁああああああああぁああぁあ!!!!!」
と、同時に子供特有の、別の生き物のような泣き声も響き渡った。
「わ、わ、わ!;ちょっとスノウ!;泣きやませてあげてよ!;小さな時からの付き合いなんだから、わかるでしょ??」
「そ、そう言われても…!;カイカが泣いてる所なんて、見た事もないし…!;」
「えええっ!?;」
「ぴわぁああああああぁ!!!!!」
泣き叫ぶカイカ(幼)に、耳を押さえて慌てる一同だ。
――――バタバタバタバタ…!
「今度は一体何なんだ!;」
「――…」
ピタッ。
階段から駆け登って来たテッドの姿を見て、子供はすぐに泣き止んだ。
「な、泣いたのか…?;珍しいけど、まあ…子供だからな…;」
「ぶしゅっ…」
「顔拭け;鼻かめ;」
ぶしゅぶしゅ言いながらも泣き止んだちびカイカに、顔を拭ってやるテッド…。
―――あ〜…泣かない子供を泣かせたり、顔見せるだけで泣き止ませたり出来るんだぁ…
と。
生暖か〜い視線が2人に降り注がれた…。(当然テッドに見るなと怒鳴られる)
結局、
「またキノコを?――なら『座薬』を使いましょう。(決定事項)」
とユウ先生から投薬され、騒動はすぐに納まったのだが………。
一度壊れた涙腺はなかなか元に戻らず――…
「??? 止まらない。」
ぼたぼたと無表情に涙を溢れさせるカイカ…。
別段悲しい事があった訳でもないのに零れる涙は―――常に一定の人物に非難の視線を浴びせられる事になる。
「医者だろ!コレも何とかしろッ!!;」
「こればっかりは無理です。」
「???」
滅多に使わない感情の発露を行った為、暫くの間カイカの涙腺は壊れっぱなしになってしまったという事だった………。
(ふと、ちみカイカを書きたくなっただけの話…>吐血笑)