※この話には、2組のテド4が出てきます。そこまでのパラレルが苦手な方は退避してくださいね☆

 

 

 

その日もまんじゅう船こしあん軍は平和だった…。
いや、戦争中に平和もクソもないのだが、まあとにかく小休止状態で、割と平和だったのだ。

「…釣りに行くけど、お前も行くか?」
「…!(こっくり!)」

――と、テッドが自らカイカを遊び(釣り)に誘うくらいには平和だったのだ。よほど機嫌がよかったのであろう、テッド(ツンデレ)が自発的にカイカを誘うなんて…。
―――しかし、今日はそれが裏目に出た。
釣り場へと向かう通路の途中、ふとビッキーが何やら不穏な気配を見せていたのだ。

「…」
「カイカ?」
「―――ふぁ…」

ビッキーが顔の下半分に手を当てた瞬間、カイカの身体が素早く動いた。

「どわあ!?」
「くしゅんっ!!」

どーん!とカイカの手により突き飛ばされたテッドだったが、それは間に合わず…2人の姿はいずこともなく消え去ることになった。

 

 

 

 

その時、彼は倉庫に頼まれた道具を取りに来た所だった。

「―――ったく。なんで俺が…」

手元にあるメモを見ながら(ついでにぶつくさ文句を言いながら)、木箱の蓋を開けていると。

 

―――ドンガラガッシャーーン!!

 

「……………」

彼の目前を何者かが通過して行った。むしろ、落下だ。

「なっ…なんだぁ!?」

彼が開けていた木箱からは、おくすりや特効薬が飛び出し、代わりに人の下半身がはみ出している。さすがに中にめり込んでいるわけではなく、上半身は箱の向こうに落ちているだけだが、それだけでも十分大事だった。

「おいっ!大丈夫か!?」

普段はツンケンと「俺に構うな」と明言している彼だったが、さすがにこんな非常事態では相手を助け起こすくらいの事はする。
じたばたともがいていた人物を箱から引っ張り出すと―――…彼は愕然とした。

「おまっ…!―――ルビィ!!」

なんでこんな所に落ちてきてるんだよ!?と混乱する彼は、その後更に混乱する羽目になった。
…なんと、相手は彼が認識している人格から、正反対の行動をとったのだ。

「?」

そう。(無表情ながらも)澄んだ瞳で「何を言っているのか分からない。」という風に、可愛らしく小首を傾げて見せるという…。
…彼は、じっとりと脂汗をかいた。背後には雷まで落ちている。(心象イメージだが)

「だっ―――大丈夫か!?さっき落ちたせいだな!急いで医務室に行くぞ!!」
「?」

ガッシ!と腕をつかんで足早に医務室へと引っ張っていくが…腕の主は、文句1つ言わずに大人しくついてくるのだ!その事が更に彼の心配を掻きたて、殆ど走る勢いで二人は倉庫から出て行った。

 

 

同時刻。
テッドも固まっていた。

「痛―――…」

カイカに押された為か、案外大人しく(カイカ対比)落下したテッドだったが、それでもしりもちをつくのは避けられなかった。
痛む腰をさすりつつ立ち上がると、辺りは見覚えのある食堂や武器や…割と近くに飛ばされただけらしい。テッドは安堵の息を吐く。
ふと、視界の端に見慣れた黒の衣装と双剣が映った。

「カイ―――…」

大丈夫か?と言いかけて、テッドは固まった。
赤いバンダナ、サラサラのショートヘア、海に生きる者を惹き付けてならないその瞳…確かにそれはカイカと同じパーツだったが、一番大きなものが違っていた。
それは雰囲気だ。(むしろカイカの独特な雰囲気と同じ者を探す方が大変だ。)
同じように無表情そうに見える表情の彼は、それでも口元に笑みのような形を浮かべていた。

「―――誰だ?」

多少混乱しながらもテッドがそう尋ねると、彼は手に持っていたジョッキを一息に煽って口を開いた。

「君こそ誰?」

微妙なムードが流れたが…

 

「大丈夫だ!!気をしっかり持て!!すぐに元に戻してもらえるぞ!!高飛車で理不尽で暴力的ないつもののツンデレルビィに!!(混乱)」
「???」

 

「「……………」」

あっちか…と、階段から駆け上ってくる声を聞いて、2人はそう確信した。…まあ、1人は混乱して、いつもはとらないような言動を口走っているが。

 

で!

 

「仮にテッド2人を、テッド1テッド2とすると、僕の所のテッドは、テッド2になるんだ?」
「「勝手に番号を振るな!!」」

思わずハモって怒鳴るテッドらだ。
カイカはそれを無表情に見て、感心したように手をぽすぽすと叩いている。

「お前も呑気にしてるなッ!!」
「いたい。」

ぼすー!と頭を叩くテッドと叩かれるカイカ…。周りからは珍しいものでも見るような視線が注がれている。

「じゃあテッドとテッド?ってことにしようか。」
「それもどうだよ…いや、もういいか…。」
「良い訳あるかッッ!!」

ルビィの言動に慣れたテッドは諦め、カイカを叩いたテッドは更に切れている。
どうやら、同じ見かけとは言え、多少反応に違いがあるようだ。

 

「じゃあとりあえず、自己紹介。僕はルビィ、一応この船の軍主をしてるよ。コレは言われなくてもわかるだろうケド、テッド。一応恋人ね。」
「一応って何だよ一応って…」

なんだか疲れたような表情で言うテッドからは、日頃の苦労が窺える。

「で、そっちは?」
「俺はテッドで、こっちが…」
「カイカ。」
「…だ、え〜っと、一応まんじゅう船こしあん軍のリーダーとかやっている。」
「いや、そのネーミングはなんだ!」
「知るかッ!!俺が知り合った時にはもうこの名称だったんだよ!!」
「…」

無表情かつ無口で、とっつきにくそうに見えるカイカだったが、何となく窺える子供のような雰囲気から、妙に可愛らしくも見える。
同じ無表情じみた表情を浮かべるルビィとも、また違った無表情さだ。(それにルビィは、テッドといることで、常に貼り付けたような微笑を、少しは感情のこもった笑みに変えている。)

「それもだけど、そっちは付き合ってるの?付き合ってないの?」
「そこも聞いておく所なのか!?」
「だって気になるし。」

そして、聞かずもがなな事でも、聞いて楽しみたい趣味があるらしい。

「だっ!誰が―――…」
「…」

誰が答えるか!と、相手のテッドは答えようとしたのだが、否定しようとしたことでカイカは「恋人ではない」と言われると感じ取り、見るからにしゅんとした。
いや、表情自体は変わっていないのだが、どうしても落ち込んでいるような雰囲気が伺えるのだ。

「………」
「…」
「………」
「…」
「………付き合ってる。」
「…!」

自らの良心に負けたテッドは、ぼそりとそう答えた。
そして、嬉しかったらしいカイカが、みとっ♪とくっつき、「くっつくな!」と怒鳴った。しかも顔が赤い。

「なるほど。これがツンデレ。やっぱり似てる部分は似てるんだ。」
「…どこが似てるって?」
「素直じゃないとこ。」
「……………」

あっさり返され、こちらのテッドも撃沈した。
どうやら最強の座はルビィのようだ。

 

 

 

「―――よし。大体の紹介も済んだし、泊まる場所の相談しようか。」
「「は?」」

テッドとテッドの声がハモった。

「だからさ、今すぐ帰る方法がないんだから、泊まる場所を決めておかないといけないでしょ?」
「そりゃなぁ…」
「そうだけどな…」
「じゃあそういうことで、テッドはそっちのテッドを部屋に泊めてあげてね。カイカは僕の部屋。」
「…(こっくり)」
「「ちょっと待て!!」」

あっさり決めたルビィと、異論なく頷くカイカに、同時に待ったがかかる。

「何?」
「こういう時は、普通別の分け方をするんじゃないのか!?あんな質問までしておいて…!」
「カイカ!お前もホイホイ頷くなッ!」

ギャースギャースとカイカを怒るテッドに対し、ルビィは自分のテッドに向けて挑発的な笑みを向けて口を開いた。

「―――そんなに僕と一緒の部屋がいいんだ?」

向けられたテッドは…

「そんな訳あるかっ!!同じ顔のヤツと同室よりはマシだから―――」
「―――――」

テッドの照れ隠しの余計な一言に、ルビィは笑顔のままぷちっと切れた。

 

「さあ行こうか、カイカ。」
「てっど、明日。(訳「テッド、また明日ね」)」
「おー…(この様子だと夕食時に会うのも無理そうだろうから)また明日な…」
「……………」

スッキリとした顔のルビィと、血みどろで倒れるテッド…。
変な所で見栄を張ろうとするから、ドツボにはまってしまうテッドだった。

 

 

 

 

そして翌日。
当然のごとく、2人(テッドとカイカ)は、自分達の世界に戻れて居なかった。
…まあ、戻れる理由もないのだが。

「おはよう〜」
「おはよう。」
「「………はよう。」」

無闇やたらに平常どおりな2人に対し、テッド2人はかなり冴えない顔色で挨拶を返した。

「どうかした?」
「…飲みすぎた…」
「カイカっ…頼むから俺にそのまんじゅうの山を近づけるなっ…匂いがっっ!!」
「水?(訳「水持ってこようか?」)」

同じ苦労を重ねる者同士として、意気投合した結果、自棄酒…もとい。酒盛りを行ったようだ。その結果、両者共酒豪であったが故の度を越えた飲み会になり、この有様のようだ。
二日酔いにもなっているようで、話している最中も頭を抑えながらの状態だった。

「何でそんなになるまで呑むかな。」
「…お前に俺らの気持ちがわかってたまるかっ…」
「頭痛ぇ…」

朝食も食べれずに机に突っ伏す2人を、冷たい目で見据えるルビィだった。
この瞬間まで、何の変哲もない(かどうかは疑問だが)ほのぼのとした朝の光景だった。

「そういえば、カイカのヤツ…どこまで水貰いに行ったんだ?」

食堂の隅を陣取っているとは言え、戻ってくる気配のないカイカに、テッドは「また変なやつに絡まれてるんじゃないだろうな…」と不機嫌そうな顔になった。
が。

 

…ッバタバタバタバタッ!

 

「クソッ!クールークからの間者だっ!!」
「追え!逃がすんじゃねぇぞ!!」
「動くな!軍主の命がどうなってもいいのか!?」
「…」

「「「……………」」」

…もっと面倒な者に捕まっていた。
「ッ…カイカーーーーー!!!!」

テッドの絶叫が轟く。
しかしそれよりも早く、軍主(ルビィ)が人質になるという(ありえない)事態に、船内の人間全員が固まった瞬間に、犯人は素早くエレベーターに飛び乗っていた。
途端、暴動でも起きそうな程の勢いで船員達が動いた。まさに船を揺るがす勢いだ。

「待てー!動くなッ!全員で行っても相手を刺激するだけだろッ!」

本気で床が抜けるのを心配したテッドが制止の声を上げる。ちなみに、もう一方のテッドは、あまりの防犯意識のないカイカに、頭を抱えて悶絶している。

「主要戦闘メンバーだけ僕に続いて」

そしてルビィはそう言い放って階段を駆け上っていった。―――両手に抜き身の剣を掴んで。

「「…待てーっっ!!」」

明らかに殺る気満々な様子に、テッド2人も慌てて後を追いかけた。

 

 

 

バタバタと帆がはためく潮風の中、甲板では張り詰めた空気・・・のようなそうでないような、空気が漂っていた。

「…」
「軍主の命が惜しいなら!今すぐ小船を準備しろ!!」

小刀を首に当てられ、後ろ手を掴まれたカイカは、明らかに人質の体である。
しかも、状況を理解しているのかいないのか、特に抵抗する様子も見せずにきょとんとしている。

「あの馬鹿…」

そんな姿を見たテッドは、青筋を浮かべてそう呟く。刃を当てられた状態で抵抗しろとまでは言わないが、抵抗したそうな素振りぐらいは見せろと言いたいようだ。しかし、そんな事を言っても仕方ないだろう。

「さて…」
「ちょっと待てッッ!お前…人質がいるのに何するつもりだ!?」

海を背後に陣取る間者に向け、双剣を握ったまま近付こうとしている相手に待ったをかける。

「何するつもり?助けるんだよ…早くしないと危ないじゃない。」
「真顔で言い切るな真顔で!!少しは交渉くらいして人質から気をそらせろッ!」

どーん。と言い切った相手に、テッドは慌てた様子で突っ込む。…しかし、そんなテッドに対し、ルビィの行動に慣れたテッドが肩を叩いて、首を横に振った。

「…諦めろ。」
「諦められるかーッ!!」
「煩いな…すぐに行動しないと、軍主が人質にとられたなんて事件が広まったら、この船も混乱するよ。この船の人間全員が、今僕らが2組いるって知ってる訳でもないし。」
「うっ…」
「それに、ここの本物の軍主じゃないって分かったら、カイカも危なくなるよ。」

テッドは黙り込んだ。

「もう文句はないね?それじゃ――」
「って!だからってわざわざ正面突破するなーーーッッ!!」

そんな制止も虚しく、ルビィの身体は疾風のごとく動き出す。
甲板を駆けるその姿はまさしく、海賊達をも纏め上げる資質の持ち主と言わんばかりの漢っぷりだ。(そんなルビィさんと付き合っている彼氏のTさんから一言「大人しい顔してるけど、中身は悪魔だ。」しかし、そんなルビィさんにベタ惚れのTさんでした〜。)

 

 

そして犯人側はと言うと、周りは船員達に囲まれているとは言え、人質である少年が大人しい為に、犯人はまだ少し余裕を持っていた。…しかし、腕の中の存在は、幼い様子と対比するような大人びた容姿で、妙な色香を放っている。そのアンバランスさに犯人もムラムラしてしまい、そろそろ別の犯罪が勃発しそうだった。
その時だ。

「るびぃ。」
「!?」

目前から双剣を構えて走ってくる相手に犯人は驚愕した。何せ、捕らえている相手と瓜二つだったのだから。

「なっ…!」

思わず混乱した瞬間、相手は床に沈み、そして跳ね上がるように迫っていた。
向けられた刃物に対し、人質に当てていた刃物しか対抗できる武器はなく、犯人は反射的に人質に当てていた小刀を構えた。

―――それが最後だった。

犯人が構えた小刀を弾き飛ばすと、ルビイはもう一本の剣で思いっきり相手の身体を薙いだ。
当然飛び散る血。
上がった絶叫と共に飛び散った血は、ルビイのみならず、傍にいたカイカにまでビシャリとかかった。

「えい。」

トドメ、とばかりにルビイが蹴りを入れると、船のへさきに立っていた男は、ドッポーンと良い音を立てて海へ落ちた。おそらくはサメの餌になるだろう。

「カイカ、大丈夫だった?」
「…(ふるふる)」

ルビイの差し出す手に捕まりながら、質問に対しては首を横に振るカイカだ。どうやら、返り血に塗れたので、大丈夫でなかったと言いたいのだろう。
とりあえず、船上では歓声が沸いた。…一部を除いて。

「無茶するなァッ!!」
「いつもの事だ…」

良い所のなかったテッドは、懐から取り出した手ぬぐいを差し出しに向かった。

 

 

 

「―――このッ馬鹿!人の所の船に来てまで騒ぎに巻き込まれて…もっと自衛手段を考えろッッ!!」
「ごめんなさい。」

怒鳴り散らすテッドと、その前で正座をさせられて謝るカイカ…。ルビイとテッドの関係を知る船員らからすると異様な光景だが、本人らは周りの視線などお構いなしに説教を続けている。

「ほらっいい加減返り血を拭け!顔まで飛んでるぞ…」
「む」

…しかし、わざわざ返り血を拭ってやっている姿を見れば、仲が良い事は一目瞭然だろう。

「……………」
「どうかしたか?」
「別に。」

そんなカイカらの姿を黙って見ているルビイに、テッドは問いかけるが、問われた本人は何でもないと自分で自分の返り血を拭うばかりだ。…鈍いにも程があると、周りに船員らは思った。…が、わざわざ恋敵に塩を贈るような真似は誰もしなかった。

「あ、ルビイ」
「なに?」
「髪に拭き残しがあるぞ」
「、」

とテッドが言い、指先でルビイの髪を拭う。(乾いた血がパリパリと取れた。)

「…何か機嫌良くなってないか?」
「そんなことないけど?」

目に見えて機嫌の良くなったルビイに、その原因に気付かないテッドは訝しむばかりだ。
…まあラブコメしているが、その題材にされているものはだ。海に沈んだ犯人の事など全く気にしていないその態度に、船員らも邪魔をすることを躊躇ってしまう…。

 

 

 

「は〜…なんか異様に疲れたな…」

ため息をついてのテッドの言葉に、ルビイが一つ提案をする。

「それならお風呂にでも行く?」
「その血生臭いのも取れるしな…」
「…(♪)」
「それは断る!(どんな生殺しだ…!)」

賛成意見の中、(ムッツリ度が高いらしい)テッドは1人反対する。

「え〜なんで?」
「?」
「いいからお前らだけで行って来い!」
「…そうだな、」

そして少し遅れて一緒に入浴するエロス(?)に気付いた、もう1人のテッドも同意した。
当然ブーイングをするルビイらだったが、それも長くは続かなかった。 そう、一旦広間へ向かおうと足を進めた一行は…

 

「何で嫌がるのさ…」
「こんにちは〜あれ〜?ルビイさんがお2人〜??あれ?あれ?ふ、ふぁっ…」
「「「「あ。(…。)」」」」

「くしゅん!!」

…何の因果か、再びビッキーのくしゃみの洗礼を受けた。
そして、4人の内2人が消え、2人が残った―――…。

「……………」
「……………」
「…え〜っと、テッド?」
「ルビイ…だよな?」

おそるおそる残った2人は互いに確認し合う。
あれ?やっぱり1人ですよね、見間違えました〜?と首を傾げるビッキーをよそに、2人はほっと安堵の息を吐いた。

「なんだ、もう帰っちゃったんだ…面白かったのに。」
「お前はな、」

はぁ〜っと、今度は安堵以外の意味で息を吐くテッドだ。その姿をじっと見詰め、ルビィは口を開いた。

「ね、テッドはさ…僕とカイカ、どっちの方が良かった?」
「は?どういう意味でだ?お前はお前だろうが。」
「そっか。」

ふふ、っと笑うルビイは、この日で一番機嫌が良さそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(楔名たんと海月のみが楽しかった話。
…が、もったいなかったのでリサイクル>吐血笑
ちなみに渡した話では更にオチが入り、
ギャグに走ったという…>いやいや、全体的にギャグだから。 )