『観用少年(プランツドール)』

 

着替え、バス、トイレの躾は完璧というのが『少女人形』の売り込みだったが…『少年人形』の場合はどうなのか………。


そんな事をテッドは今悩んでいた。



このカイカと名付けた人形の特色なのかもしれないが、他に人形を知らないテッドには何の参考にもならない…。
そう、カイカは少〜し、ほんの少し不器用だった。
(トイレはともかく)髪はうまく乾かせなくて生乾きになり、着替えはボタンを掛け違えてチグハグにする…。
見兼ねたテッドは、人形特有の可愛らしくもビラビラの衣装を着せるのは諦め、打開策として自分の小さい時に着ていたお古のシャツとハーフパンツを与えた。
…人形にお古の衣装なんて着せていいものか悩んではみたが、カイカ本人は気にした風もなく特に荒れた様子も見せなかったので良しとした。(『観用少年』は少しの事でも荒れたり枯れたりするデリケートなものなのだ)
これなら問題なく着れるだろうというテッドの読みは当たり、カイカは問題なく着替えが出来るようになった。(まあその恰好だけというのは味気無さ過ぎるかと思い、毎日赤いバンダナを頭につけてやっているのはテッドだが)

その『人形』はというと、一日3回ミルクを飲み眠りにつく以外に、何が面白いのかテッドのする事をじぃっと見つめていたりする。
それに何だか落ち着かない気分になりながらも、テッドは割合ほんわかと『少年人形』のいる日々を過ごしていたりした。




あるとき、テッドの元に、一箱のまんじゅうが届いた。
親友がどこか旅行に出かけたらしく、そのお土産が届いたのだ。
特に甘いものが好きでも嫌いでもないテッドは、ありがたくそれを小腹が空いた時につまんでいたのだが…

「…」
「………?(汗)」
「…」
「………?(汗)」

妙に視線が突き刺さる。

普段は、割と可愛らしくも無表情のカイカは、今、真剣な表情でテッドを見つめているのだ。
…いや、正確にはテッドの食べている白い塊を。
まさか、と思いつつ、テッドは人形に問いかけてみる。

「…食べたいのか?」
「…!(こっくり)」

その問いかけに、力強く首を縦に振るカイカ。
初めて明確な意思表示を見せた人形に、テッドの方が戸惑ってしまう。

「お前…ミルク以外は口に出来ないだろうか…;」
「…(ぶんぶんっ)」
「壊れるぞ!?;」
「…(ふるるるっ)」

うんと言わないテッドに、カイカはしがみ付いて上目遣いで首を振り続ける。

「〜〜〜〜〜;」

無意識なのだろうが、そんな可愛いおねだりの仕方をされては、強く拒絶できるわけがない。
一口くらいなら大丈夫だろう…と、テッドは箱からまんじゅうを取り出した。

「………一口だけだぞ、」
「…!(♪)」

ぱぁああvと、今まで見せた事がない至福の笑みを見せたカイカに、テッドは固まった。
そして、その隙に人形はもくもくとまんじゅうを平らげていて…

「…うまいか?」
「…v!(こくこく)」

キラキラと目を輝かせている人形は、はっきり言って可愛い。可愛いの一言に尽きる。
うっかり可愛さのあまり、カイカの行動を止められないでいた。

「…(♪)」

もぐもぐもぐもぐ…♪と、一気に人形は一つのまんじゅうを食べ終わってしまった…。
この時テッドは、拙かったか…!;とは一瞬考えたものの、次のミルクの時間になってもカイカが何の変調も見せなかった事で、少々安心してしまったのだ。

…この事がきっかけで、まさかあんな事になるとは!

 

ミルクの時間ごとに、もらったまんじゅうを一つずつ与え、まんじゅうの箱が空になった時…。

「カイカ?」
「…」

着替えの最中、どうしてかカイカの動きが止まっていた。
妙に服から頭を出すのが大変そうなのだ。それでも何度かもがくと、スポッと服の中から頭が出てくる。
…テッドを見つめる人形に、どこか違和感がある。

―――服が少し窮屈そうだ!

「カイカー!?;」
「?」

 

 

 

「…アレほど、ミルク以外は与えないで下さいと忠告いたしましたのに…」

残念です、と溜息を吐いて店主は言う。

「こうなってしまっては、お引取りはしかねますが…」
「引き取りはしなくていい!(怒) けど、何でこんな???;」
「ええ、人形は―――育ってしまったのです。」

ちょーん。と座る人形は、元々は通常の規格よりも小柄だったのに今では少し大人びた顔つきになってしまっている。

「よくあるんですよ…お客様のように『少年』にミルク以外のものを与えて、大人にしてしまうことは。
 しかし、まあ…この子の場合ですと大人という程育ってはおりませんし、このまま妙なものを与えなければ何とか人形として育てられるでしょう。」
「〜〜〜〜〜;」

なんつー非常識なものなんだ!!; …と、心の底からテッドは思った。


 

 

 

やりたい事がまだあるので、オチを2つ使いたいです…(笑)
お約束育っちゃったよネタともう一つ…!>趣味に走る。