事の起こりは、カナタの男のロマン(?)への憧れだったかもしれない。

 

「……………」

 

カナタが感心するようなうっとりするような…何と言うか、瞳に羨望の色を浮かべて見つめる先には―――巨大で厳つい大型バイクがあった。

黒光りするフレームに、大きなタイヤ…一体どうやったら乗りこなせるのか思わず考えてしまうような乗り物だった。

「カッコイイです…!」

小さい子供が面白いおもちゃを見て目を輝かせるのと同じ羨望………で、あるだけならよかったのだが。

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドド…

 

地面が少し揺れているような気がして、カイルは目の前の大きなバイクと、その上にまたがっている少年を困ったような表情で見た。

「カナタ…それ;」

「カッコイイですよね!?」

カイルさんも惚れ直してくれますかー!?…と、大興奮のカナタは、バイクにまたがったまま叫んだ。

「そうじゃなくて…どうしたの、それ?;」

「そこらの人から強奪…もとい!もらいました!」

…不穏な事を口にしかけた。

「さあ!カイルさん!僕の後ろに乗ってくださいー!ランデブーです!!」

「……………(汗)」

足がバイクの下についていないような運転手の後ろに、一体誰が乗るというのか…。さすがのカイルも頷くことは出来なかった。

しかし、それよりもまず気になる事を思い出した。

「カナタ…―――運転免許証、持ってるの?」

「え?持ってませんよ?」

あっさり。

「………」

カイルは迷わず、カナタの腕を掴んだ。

「カナタ、降りて;」

「え? やですー!;まだ乗りますーーー!!」

「いいからっ;早く降りて!」

「ヤですーーー!!幾らカイルさんのお願いでも嫌ですー!!カイルさんとランデブーするんですーーー!!」

「危ないからっ!;」

グイグイ!と引っ張り合いになっていたが、ふいにカナタの手がアクセルを回してしまい―――――…

 

ギュギュギュギュギュギュル…ゴーーーーーーー!!!!

 

「ぎゃーーー!?」

「カナタッ!!;」

…タイヤ一つで、バイクは校庭から中庭へ向けて暴走を開始した。

 

 

 

 

 

その中庭…。

 

「あっちに見えるのが旧校舎、噴水の向こうの建物が食堂で…」

「…」

テッドが率いているのは、最近この学園に吸収合併されてきた生徒の一人、カイカだった。

この学園では余り見かけない水兵服のような制服(膝上ズボン)と、無表情ながらも可愛らしく整った容姿にあどけない様子。…妙に周りの視線が集まっているのが感じられる。

「わかったか?」

「…」

首を傾げる。

…ちなみに、手にはちゃんと学園のMAPが握られている。

「………まあ、広いからな…;」

今までの案内が無駄になった事に、顔を引きつらせながらも、テッドは言った。

ひょんな事がきっかけで出会い(部活の試合で行った先の学校で何故か池に落ちかけていたところを助けられたという…)、ひょんな事から一緒の学校に通うことになって、テッドはカイカの面倒を見ていた。

まあ、今テッドがカイカを学内を案内している理由は、その面倒を見る一環だったが、他の吸収されて来た面子がいないのは何故かと言うと―――

 

『あたし達はいいからカイカをよろしくね〜♪』

『よろしくお願いします』

 

…と、にや〜と不思議な笑みを浮かべた女生徒らが率先してカイカを預け、自分達は遠慮すると姿を隠したからだ。

…あの笑みの疑問はさておき、確実に押し付けられたのだろう。

「!」

テッドが自分の思考に没頭していると、ふいにカイカが真剣な表情になった。

 

ギュギャギャギャギャギャギャギャギャ―――!!!!

 

「退いて下さいーーーーーッッ!!;」

「どわぁッ!?;」

 

カイカがテッドを押し倒した瞬間、暴走バイクが間近を爆走して行った…。

そして直ぐさま、ドガッシャーン!と激突する音が響いて来た。

(何なんだ一体…;)

呆然となるが、テッドはすぐに立ち直りカイカに助けられた礼を言おうと口を開いた。…が。

「悪い、助かっ……た」

「…(♪)」

間近にある海色の瞳。

すべすべと感触の良い何かに触れていると感じたのは、剥き出しのカイカの足で………

一気に血液が顔に集まった。

「わーーー!!?(///);」

「??」

のしかかっている身体を突き飛ばす訳にも行かず、テッドは絶叫を上げるだけ上げた。

それでも胸の動悸はバクバクと高まり、間近の身体と滑らかだった肌の感触に何だかやましい気分を抱いてしまう。

 

―――まさか、カイカの事を…?

 

と、ふとテッドが好意を自覚した瞬間だった。

「〜〜〜〜〜〜;」

幾ら可愛くても相手は男だ!;とテッドは必死に自分に言い聞かせようとしていたが――――自分に注がれる生暖かな視線がある事に気付いた。

 

「……………にや〜♪」

 

カイカの級友らと同じ視線のソレを注いでいるのは暴走バイクの運転手…(そしてテッドの親友の恋人)カナタだった。

わざわざ「にや〜」と含み笑いを口に出して言った少年は、倒れた木と半壊したバイクの間、(何故だか無傷で)逆さに笑っていた。

 

「カナタ大丈夫!?;(特に他の人巻き込んでない…?;)」

 

駆け寄って来る親友の姿を見ても、テッドはマズイ相手に知られた…と硬直するばかりだった。(…押し倒された体勢のまま)

 

 

 

つづくとか何とか。

「学園の合併後、テッドを応援(邪魔?)」というお言葉にお答えして!(爆)