バレンタインSS

 

 

 

バレンタイン当日。

カイルは呆然と窓から地上を眺めていた。

視線の先には微かに、包装した箱が見えるが、落ちて途中に中身が飛び出したので、中身は地面に散らばっているだろう…。

「あ………;」

「ムム〜…」

申し訳なさそうな鳴き声を出すムクムクを撫でながら、カイルは考えた。

バレンタイン当日の早朝に、不慮の事故(ムクムクに飛びつかれた衝撃により、窓から落下)により食べれなくなってしまったチョコレート…。

予備はなく、この部屋の主であり、チョコが渡されることを楽しみにしている少年は今現在不在であるものの、後数分もすれば戻ってくることだろう…。

この後の被害を考えると―――

「…よし、」

書置きを残し、カイルは窓から脱出した。

 

 

 

 

「ちょっとトランへ帰るから…」

「「待ったーーーー!!;」」

バレンタイン当日にそんなことを言い出したカイルを、ビクトールとフリックは即座に止めた。

「何かあったのか!?」

「カナタへのバレンタインのチョコが駄目になったから…」

「作り直せばいいだろ!?」

「そう思ったんだけど…ここの台所はナナミちゃんのチョコで壊滅してて…材料も残ってないから、自宅で作った方が早いと思って…」

「考え直せ!;」

「もっと近くの街でいいだろ!!」

「あんまり近いとすぐに来そうだから…」

カイルからのチョコが事故により渡せなくなった騒動と

カイルがバレンタイン当日に行方不明になった騒動と…

どちらがマシかを考えた結果、後者がまだマシであると判断された。(後、事故の原因であるムクムクの身を守る為でもある)

「ちゃんとカナタには簡単に置手紙も残してるから…カナタなら、ちゃんと今日中にうちに来れるだろうし…」

そう言って、カイルはルックにテレポートで素早くトランまで帰宅を手伝ってもらった。急がないと、本当にバレンタイン中にチョコが用意出来ない。

カイルが消えて、「本当に大丈夫なのか…」と2人は悩んだが…。

 

 

「カイルさんが「実家(トラン)に帰ります」ってバレンタインに失踪しましたぁあああああああああああああああああ!!!!!!!(号泣)」

 

 

「「……………」」

大丈夫でなかった。

そして、その叫び声の後にすぐさま少年が酒場へと駆け込んできた。

「カイルさんがーーーー!実家にーーーーー!!戦争イベントも発生してないのになんでですかーー!!(泣)」

「ば、バレンタインという戦争イベントが発生したんだ…!;」

「そう!そうだ!;」

「というかカイルさんは本当に実家に戻ったんですか…!?僕とカイルさんの仲を引き裂こうという何者かの陰謀が…!!」

疑心暗鬼に陥っていた…。

 

 

 

その後、カナタは無事にトランへ向かった後、なんとかバレンタインチョコ付の夕食を頂くことになったという…。