天魁星3人日常劇(仮)8

 

 

この城には今現在、3人の天魁星がいる。

 

一人、現在の天魁星カナタ。

一人、3年前の天魁星、トランの英雄カイル。

一人、約150年前の天魁星、カイカ。

 

バランスが崩れたような、新たな均衡をとったような、それなりに上手く行っているような…

そんな彼らの日常。

今日も今日とて何かが起こる…。

 

 

 

オレンジドラゴン軍、リーダー自室。そこは一応、現在3人が過ごす事になっている部屋だ。もちろん、常にそこにいる訳ではないし、寝る時にしかいないという事さえある。

3人が暮らしているとなると、当然部屋がごちゃごちゃしていると思われるが、そんな事はなかった。

カナタは大っぴらにできる物を棚に入れているだけだし(公に出来ない物は?ついでに、よく分からない薬品類はある。)、カイルの私物も図書館から貸りて来た本が、机の上に置かれているぐらいだ。

そして、そこに最近、宝箱が増えた。

部屋の隅に置かれているので、そう邪魔にはならないが…部屋の中に宝箱があるのは少々異様な感じだ。

そう、これはカイカの私物だ。カナタが「せっかくですから!」とカイカの荷物を入れる為に、製作した物でもある。(一応、彼が発見された時に入っていた宝箱ではないらしい)中には、何がなんだかよく分からないガラクタのような物から、せっけんまで入っている。…どうやら人からもらった物を残しているらしいが、殆ど『子供の宝物』のノリであった。

しかし、重要なのはここからである。

彼、カイカはそこに大事な大事なまんじゅうを入れていた。

本当は出来たてを食べるのがいいのだろうが、非常食、そして部屋でのおやつの為に、彼は宝箱に常にまんじゅうを五箱(8個入り)入れていた。

テーブルの上に熱〜いお茶を入れ、おやつの時間はカンペキ。もし、この部屋の残り2名が帰って来た時の為に、2つ茶器も用意している。カンペキであった。

後は、宝箱からまんじゅうを取り出すだけ…

「…」

カイカは無表情にわくわくしていた。

ギィ…と音を立て、まだ新しい宝箱の蓋が開かれた。新しい木のいい匂いがする。

中からまんじゅうの箱を、1つ2つ3つ、4つ…

「…?」

何かがおかしい。何かが違う。

カイカは首を傾げながら、外に出したまんじゅうをもう一度数え始める。

1つ2つ3つ、4つ…

「…」

…1箱、2箱、3箱、4箱…

「!!!!」

 

―――――1箱足りない…!

 

「―――――――――――――!!!!!!」

カイカは声にならない悲鳴を上げた。

「っ!どうしたの!?」

部屋のすぐ近くまで戻って来ていたカイルが、慌てて部屋に飛び込んだ。そして―――

 

 

 

 

 

「え?カイルさんが?」

「はい、どうしてもすぐ戻って来て欲しいとの事で―――…」

申し訳なさそうに、兵士はカナタではなくシュウの顔を見た―――…カナタが久しぶりに執務についたと言うのに、結果 はこの通り。何かもう呪われているのではないかと、生え際が危ない危ないと言われている(カナタが言っているだけ)頭を抱えた。

「じゃあ速攻行きますねーvあ、決済印押したきゃ勝手に押しといていいですよー☆」

「そんな事ができるか!(怒)」

「じゃあ押すな」

あははははー♪と勝ち誇った声で、カナタは逃げて行った。…それを見逃すのは、ひとえに『トランの英雄からの呼び出し』という理由からだけだろう。

トラン云々の話ではなく、カイルの呼び出しと言う事が、何か理由(しかもとんでもない事件の)があるのだろうと思われるからだ。(今日少年が仕事に来ているのだって、カイルの言葉だという事が理由なのだから)

――――それに、無理矢理少年を止めると、被害が拡大するだけで、ロクな目に合わないと言う事を、彼らは身体で理解していた。

 

 

 

 

「るららー♪カイルさんからの呼び出しってなんでしょうねー♪もしや…!!」

 

『…寂しかったから…(///)』

恥じらうカイルの姿…。

 

「とかだったらメロキュンドッキン☆なラブコメ展開ですよねーーーーーーーーッッッ!!!!(鼻血)」

…一体この少年の中で、カイルはどんな存在として捉えられているのだろうか?

気になる所ではあったが、とにかくこの頭に花が咲いた状態は長くは続かなかった。

「カイルさーんv戻りましたー☆入りますねー♪」

「カナタ」

…中からかけられた声は予想外の冷たさだった。そして、部屋の中の空気も。

「う、うわぁ…;」

カナタが見た時、そこは紋章の力が黒く禍々しい気配として噴出されているようだった…。出所はと言うと――――…カイルの右側、カナタから見て左側に、力なく踞っていた。しかも、その手はしっかりとカイルに握られている。

「ガーーンッ!!(汗)」

「カナタ、こっちに来て、ちょっとそこに座って」

少しその光景にショックを受けるカナタだったが、カイルは再び冷たい声で自分の前の椅子を示した。

さすがの少年も、怒られる為に呼び出された事は理解する…。

「――――――僕、何かしましたか?(汗)」←心当たり多数。

「………さっき、ね」

どう言おうかカイルは悩んでいる所だった。この様子から見るとどうやら本当に怒っているのは、カイルではなく、床に座り込んでしまっているカイカであるようだ。カイルは、カイカの怒りで噴き出そうとする紋章の力を、手を握る事で押さえ込んでいるらしかった。

そして次の言葉は―――…

「カイカさんのおまんじゅうが1箱足りなくなってたんだって…」

「そっ…!」

…れは、一大事じゃないですか…!;

と、カナタが言外に言った。…しかし、まんじゅう1箱でこの状態というのは、恐ろしい話だ。

「…で、兵士に話を聞い回ったらね、」

「はぁ」

「―――カナタが一昨日の夜、それらしき箱を持ってどこかに出かけてた、って…」

「はぁ、僕がですか〜…―――ってええっ!?;…あ!い、や…でも;」

カイルの言葉にカナタが妙な動揺を見せた。

その途端、カイカの方がピクッと動き、どこか遠く…この次元ではないだろう場所で、悲鳴のような声が響いた…。

「っ!カイカさん!落ち着いて…っ!;」

「ギャーーー!!;落ち着いて下さい!僕じゃないです!!この部屋灰にしたら、僕秘蔵のマクドールさん写 真集☆が台無しにーーーーーーッッ!!;」

「それは後で灰にしてもらうから!(怒)…とにかく落ち着いてッ…!」

「…」

二人がかりで、紋章の発動を食い止める。決め手にはコレだろう、

「罰の紋章以外ならいいからっ…ね?」

「ええっ!?;」

「…」

――――収まった。

が、

「…」

―――――シャキィ

スック、とカイカは立ち上がり、腰の双剣を抜いた…厭に綺麗な金属の触れあう音が響いた。………本気だ

 

 

 

 

<暫くお待ち下さい>

 

 

 

 

…とりあえず、カナタも部屋も、原形は留めていた。

「誤解です、誤解。(汗)」

「…?(訳:本当?)」

「本当に…?」

「確かに僕は一昨日まんじゅうを持って歩いてましたケド、幾ら何でもカイカさんの持ってく程命知らずじゃありません…;」

確かに言われてみればその通りかもしれない。

「じゃあ…カナタの持ってたおまんじゅうは?」

「…(こくこく)」

「あれはちゃんとレストランで造ったヤツですよ〜…カイカさんに見られたら大変(=食べられる)と思ってちょっと挙動不審になってましたケド〜;理由はまあ…ちょっと、え〜…人に会う為にお土産として持ってったんです。」

「出かけるって…夜に?」

「夜にです、」

…怪しい。

しかし、深夜徘徊は、この少年、よくする事なので、元から怪しい。

「とにかく!僕じゃないですよ!!;」

「じゃあ一体誰が…」

「…、」

 

「ムム〜〜♪」

 

……………………………………………窓の外、赤いマントを付けたムササビが、美味しそうにまんじゅうを食べていた…。

「ムクムクーーーーー!!お前かーーーーッッ!!(怒)間違って僕が怒られたじゃないですかーーーーッッ!!(怒)」

「ムム?」

「この宝箱は、普通の宝箱じゃなくて…カイカさんのだから、勝手に食べちゃ…!!;」

「…………………………………っ…………………、……………………〜……………………………。(泣)」

…さすがに、ムクムクを倒す訳には行かなかったカイカは、無表情に泣きそうになって、それから拗ねた。

今夜の夕食は、ひたすらまんじゅうになる予感だ…。

 

 

「も〜!ムササビ鍋でいいじゃないですかッッ!!(怒)」

こねこね。

「ムムーーー!!(怒)」

ぎゅっぎゅ。

「カナタもムクムクも…;」

こねこね。

「…」

ぎゅっぎゅ。

 

…総出で、まんじゅう製作をしたので、カイカの機嫌は回復した。

そして、蛇足。

宝箱の蓋には、『カイカさんの!』と大きく彫られたという事だ…。

 

 

 

続く