ハムハム逃亡祭り!〜えっ!?あのお兄さんが大活躍!?〜

 

 

――確かな日付は、分からない。

時の流れなど全くの無意味と言える世界の住人達にとっては、細かい日時など関係ないと言えば全然関係ないのだから、「それ」が起こった時期については、ここではあえて深く触れないでおく。

…それは、とある村で開催された祭りを舞台とした、世界の存亡をも賭けた物語…。

夜も深まり、村の周囲を包むのは漆黒の闇。

けれど、村の内部にはあちこちに小さな丸い火が燈され、薄暗くはあるけれど人の心に重くのしかかる不快な重圧感はない。ないどころか、人々の心は今や、跳ね踊るような歓喜に満ち溢れていると断言さえ出来る。

今、この村では、年中行事最大のイベント――開村祭りが始まったばかりなのであった。

道の左右には、様々な屋台が並んでいる。それこそ、綿菓子や林檎飴やカステラ等の食べ物類からヨーヨー釣りや金魚掬い、くじ引き、的当て等の遊び場まで、ありとあらゆる屋台がこの村に集結していて、もう溢れんばかりの人、人、人の山。

祭りの知らせを聞いた周辺住民も、たまたまこの村を立ち寄った旅人も、祭りではしゃぐ子供心はいつまでも忘れていないらしく、村内はもはや超過密状態。

所々では、村内に入る事すら難しいようで、屋台の列までもが村の囲いの外に伸びているこの始末。

「うわ〜…、これは明らかに『賑やか』の域を越えてますよね…歩くのも結構辛い…」

「そうだね…こんなに凄いのを見たのは、僕も赤月帝国が滅亡して以来だな……」

人だかりで隙間もない程の、一応「道」と指定されている場所に辛うじて立っている彼らは、トラン共和国の英雄ユノ=マクドールとクロト国リーダーイチハ。双方共、正体がバレても面 倒な事しかないのでフードのついたマントを纏っている。

そんな風貌の旅人は人ごみの中に幾らでもいるので、さすがに見た目から判断して彼らを彼らと分かるのは難しいだろう。

「あ、あそこに輪投げがあるね。やってみる? イチハ」

「いえ、良いです…」

「じゃあ、サイコロ投げは? イチハ、ちんちろりん強いし」

「ユノさんの方が強いでしょ…」

「うーんと…それじゃあ……」

どこまでも閉じる事を知らない口は、左右の屋台の名を順に上げてゆく。いちいち答えるのも疲れるが、だからといって「それじゃあコレしましょうか」という逃れ方も面 倒らしい。祭りに来ておいて何もしないとは、一体何をしに来たんだと言われてしまいそだが…。

うきうきとしたユノの声に、おなざりに曖昧な返事を返し続けていたイチハは、

「…あ、……」

やや様子の違った彼の声だけは、聞き逃す事をしなかった。

「? どうしたんですか? ユノさん」

「いや、別に」

即座に答えが返ってくるあたり、何だか感じなくても良い怪しさまでも感じてしまって仕方がない。

傾げた首を元に戻し、イチハは怪訝な目付きでユノを見る。

「今度は何見つけたんです?」

「だから、別に」

先程と同じ返答が、余計追及の手を緩めたくなくなる気持ちにさせる事に、ユノが気付いているのかいないのか。

イチハは、ユノを問い詰める事を早々に諦め、先程ユノが声を上げた時に視線を向けていた方向を見る事にした。

と、視線はすぐに傍にある人々の頭に阻まれる――けれど、完全に隙間がない訳ではないし、なければないで、自分が背伸びするなりして隙間を作れば良いのだ。

果たして障害物を避けた視線が次にぶつかった先は…。

 

あ………」

 

奇しくも、ユノと同じ様な声を上げてしまったイチハだ…。

見た者はと言うと、『2人の少女』。あくまで他の村人らから見ればの話だが、

…そう、イチハには非常によく見知った顔だったのだ。

この地方特有の、浴衣にも似た衣装を身につけ、一つの綿菓子にかじりついている少女らの光景はとてもほほえましい物だった。

…鳥肌が立つ程に、

慌ててイチハは目を反らし、ユノの手を引いてその場から離れようとしたのだが…もはやそれは手遅れだった。

「あ。」

イチハとユノらに気付いた様子の、赤地の浴衣を着た方の人物は、白地の浴衣を着た少女に何事か声をかけ、まっしぐらにこちらに向かってダッシュ!をしてきた…。

…遅かった。

悔やまれてならないイチハだ。これこそ『後の祭』だろう。

「イチハさん達も来てたんですか〜!」

「…………」

にこにことした表情で話し掛けて来たのは、カナタと言う…れっきとした少年だ。

幼く見える容貌と、持ち前の元気の良さで難無く女物の衣装を着こなしていた…。

その隣に恥ずかしそうに頬を染めている少女の様な容貌の…いや今はまさに少女なのだが、そうでなく少年はカイルだった…。間違いなく素で少女に見えてしまう彼は、今は浴衣を着ている事とおそらく無理矢理つけられたのだろう唇の桜色のリップが艶やかな色気を滲ませている…。

いや…まあ、そんな事より…

「ユノさん、これ向こうで売ってた美味しいって評判の松露焼ですvイチハさん達も色々見てますか〜?祭はやっぱ楽しいですよねー☆」

「…っ何で女装なんですか」

なんとかイチハはカナタの台詞を流して、当然のツッコミを入れるという行動に出た。多少声が裏返っているが、まあ成功した方だろう。

そして、質問を投げかけられた本人はというと…。

「カイルさんの浴衣が見たかったんですよ!」

だから僕も着ました!とあっさりと断言した。知り合いに見られた恥ずかしさを露にしているカイルはかなり常識的だろう。…まあ常識な者は端から女物の衣装等を着ないだろうが。

「やっぱ正体がばれないようにも変装は大事ですよ!」

「目立ってどうするんだよっ!?」

「変装は下手に目立つよりも別の意味で注目されてた方が有利なんですよー!」

「なんでだよっ!」

微妙に喧嘩になってしまっている…。

困ったような視線をカイルはユノに送るが、ユノはいつも通り「ふふ…」と、微妙に感情の判断がしがたい笑みを浮かべているだけだった。

 

「まあ、あんまり邪魔してもなんですから、僕等はこれで離脱しますよ〜v」

「え?」

あまりに意外なカナタの言葉に、多少驚いてしまうイチハだ。自分にとって嬉しい話に、僅かに目をしばたかせたのだが……

「だってデートですよね!」

なっ…

「誰がっ…!?」

「え。だってユノさんと二人…」

「ちっがっうッ!!」

「僕とカイルさんはデート中ですよ!?」

まだまだ照れるお年頃(?)なイチハ少年は真っ赤になって否定する…。

「あーーーっ!もうっ!じゃあ!一緒に行ったらいいじゃないですかっ!!(怒)」←切れた。

…まあ、何故かそういう話になった。

そして、誰にも見られていなかったが、「…ちっ。」と小さく舌打ちしたユノの姿があったとかなかったとか…。

 

 

「じゃあ何やりましょうね〜♪」

張り切ってカナタが手を振り回すと、ふいにカイルがその袂をきゅ、っと引いた。

「?カイルさん??」

「あれ…v」

嬉しそうに、にこっと笑ってカイルが示した物は…

『108匹ハムスターすくい』

…という、同盟軍を称えるような称えないような微妙な代物だった。

かも、 ご丁寧にそのハムスター達一匹一匹の背中には、何だか名札らしき紙が張り付いている。

茶色いマントを括り付けられている、ちょっぴりガタイの良いハムスターは「ビクトール」…青いバンダナを小さな額に無理矢理括り付けられているハムスターは「フリック」…他にも何だか見知った名前がそれこそ大量 にあるではないか。

「うわぁ、懐かしい名前が結構あるね〜…ねぇ? カイルさん」

「えっと……あ…グレミオが…」

ニコニコと「108匹ハムスターすくい」なる屋台に近づくユノとカイルは、その中にかつての仲間達の名前を…更には子供の頃から常に傍にいた彼の名前まで見つけて喜んでいた。

大きく仕切られた箱の中を縦横無人にチョロチョロと走り回るハムスターに、動物好きのカイルはともかく小動物嫌いのユノでさえ少々興味を引かれたように箱の中を覗き込んでいる…イチハはそのすぐ後ろに立って、やや意外そうな顔をした。

「へぇ…やっぱり昔の仲間の名前がついてたら、嫌いな小動物でも平気なのか……」

「イチハさんが妬き餅ですかー?」

「違う!」

すると隣にいたカナタにからかいを含んだ声音で肩を突かれ、ムっとした所で、

「イチハ、ジョウイ君とナナミちゃんもいるよ」

ユノが指をさしながら振り返ったので怒りはすぐに姿を変えた。

「えっ!? それはちょっと…」

本当か、とイチハもついついユノの肩越しに箱を覗く。…確かに、よく見るとすばしこく動き回るハムスター達の中でも特に動きの早い、ピンクのリボンが付いたハムスターには「ナナミ」と、追い掛けられるように逃げ回っている金の長髪をくっつけたハムスターには「ジョウイ」とあった…。

「うわ…すっごいソックリ」

思わず笑みが漏れてしまう程に、イチハも「108匹ハムスターすくい」なるものに惚かれてしまった。

その、嬉しそうな本気で喜んでいるイチハの表情に、今度は何故かユノがムっと表情を暗くしている。

「イチハ…あれ、欲しいの?」

「そうですね…ナナミとジョウイだけでも、何とかすくえないかな…あとビクトールさんとフリックさんと…」

もはや視線を愛らしいハムスターに向けたまま、独り言のようにそう答えたイチハ。彼としては決して嘘偽りもなく、ただ正直に答えたまでだ。それについては何の非もない事を、ここに記しておく。 …ただ、正直過ぎる事が悪い状況も確かにあるのだというだけで。

「………」

暗い眼差しでハムスターの群れた箱の中を見つめ続けるユノ。

もはや特定のハムスターしか目に入っていないイチハは勿論、動物好きのカイルも当然背中の暗い存在に気付く事はない。

「あ、カイルさん。そういえば俺達のハムスターだけないですね」

「そうだね…あ、」

「あれ、これは知らない名前だ…えっと?」

「可愛い…」

「そうですね…これ、城で飼えないかな…」

「うん……」

箱の傍でしゃがんで並ぶ二人、一方は女ものの浴衣を着ている事もあって、よく見るとほのぼのカップルのようだ。

「一回100ポッチか…全部ノーミスですくえたとしても10800ポッチ…カイルさん、今いくら持ってます?」

既にイチハの中では、この箱の中のハムスター全てを城で飼う事に、たった今なったらしい。

しかしカイルもまんざらでもない顔で、財布を取り出し中味を数えている。

「やっぱり二人分じゃ足りないか…、ユノさん―――…」

財布の紐を再び絞めながら、イチハは背後に佇むユノにもこの際出資を頼もうと、そして更にこの際カナタにも財布の紐を緩めてもらおうと、何気なく振り返った。

いや、振り返ろうとした。

一向に箱の傍へ近づいてこず、イチハ達の背後で佇んだまま声もかけてこず、けれども別 に姿を消した訳ではないだろうカナタとユノの方へと。

!?」

振り向く前にイチハの頬を何かが掠めた。

イチハにはただ風が当たっただけだったが、その正面にあるハムスターの入った水槽には見事なまでの勢いでヨーヨーが減り込んでいた。ちょうどその部分にはハムスター達はいなかったのだが、そんな勢いのヨーヨーが小動物に当たっていたら、ただでは済まなかっただろう。

カナタは不満げに、水の入ったゴム風船をベインと弾いた。

「カナタ…!?」

「危ないじゃないですかっ!」

非難と困惑とが入り交じった瞳で2人は見つめるが、その見つめた先にあった物は…漢の本気の表情であった(謎)

「カイルさんの愛を奪う奴は絶対的に許しません!!(泣)ていうか僕を差し置いてカイルさんとイチャイチャしてるイチハさんも滅殺ですっ!!!!!(怒)」

怒りを露に叫ぶカナタの姿は恐ろしいまでに本気だが…

何やら微妙な三角関係の様で嫌だ。

というかかなり目立っている。

「「………(汗)」」

…とりあえず、どうするべきか、と悩む2人だったが、ふいにユノが動きを見せた。

 

ガキッ!

 

「イチハに何かしたら許さないからね?」

「あ゛たたた〜;」

見事なまでに容赦のない棍の攻撃がカナタの頭に放たれた。しかも笑顔な所が余計に恐いだろう。

「ユノさん…」

ユノが今回は敵に回っていないと知り、明らかにほっとした表情を見せるイチハだが、まだまだ甘かった。

…ユノはツッコミを入れた後も、いつものごときイチハの傍に立つのではなく、そのままの場所に立っていた。

「…ユノさん?」

さすがに嫌な予感がしたイチハは、問い掛けるようにしてユノを見た…。すると、

にこっ…

何?とばかりに彼は微笑んだ。

イチハは知っていた、この笑顔は危ないと、以前この笑顔を見た時にはティウがロボ化していたり、人には言えないような恥ずかしい事を強要されたり…(※イチハ君攻です。)

まあとにかく危険なのだ。

多少頬を引き攣らせ、イチハは何か言おうと口を動かしたが、何が言えるだろうか?いや、何も言えやしない。カナタも少々頭を痛そうに摩るだけで、もう復活していた。

…どうすればいい?

イチハはごくりと唾を飲み込み、ハムスターを見た。

108匹ともが哀願するように見上げて来ている。

今更あの2人がハムスター達を見逃すはずがない。そして、カイルもイチハもハムスターを見捨てられるはずもなく…

「、」

「…」

イチハは素早くカイルを見た。カイルは小さく頷く。

その瞬間、身の危険を察知していたハムスター達は正確に54匹ずつ二手に別れ、イチハとカイルの腕によじ登った。

「おじさん!これお金!!残りは必ず後で払いに来るから!」

「おうよ!四角関係かい!?そんな顔して隅におけねぇな〜v頑張りなよ兄ちゃん!」

何やら誤解した店のおじさんだったが、その言葉に対してカナタ(一瞬にして浴衣を脱ぎ捨て、いつも通 りの衣装になっている)が絡んでいる間にイチハら2人はその場から逃げおせる。

ごめん…っ!

そんなやるせない感慨を抱きながらも、とにかく逃げなければと人込みを掻き分ける…。

逃げなければ…!

遠くへ!遠くへ…ッ!

しでも、彼らから遠ざからなければ!

本気でハム達の命が危ない。

「! カナタ君! そんなオヤジの事は放っておくよ!」

逃げゆく背後でユノのそんな声と、未練たらしい少年の声、そして、ピタリと息の合った妙な掛け声が聞こえたような気がしたが、

「カイルさんっ…このままじゃいずれ…!」

「う、ん…!」

イチハは人ごみに出来た僅かな合間を縫って(どうやらお祭りのイベントと思われているらしい)、腕やら胸やらスカーフやらに詰め込んだハム達を必死で落とすまいと抱き締めながら隣のカイルを見やった。

カイルも、イチハと同じ事を考えていたらしく、即座に肯定の言葉が返される。

―――…このままではいずれ、超人間離れしたかの二人に、あっという間に追い付かれてしまう事間違いない。

嫉妬に狂ったあの少年がみすみすイチハ達を見逃す筈はなく、きっと人ごみに行く手を阻まれれば地上を走る事を諦めてどうやってでも…そう、空からでも追跡を続けるだろう。

……空!?

「そうだ…!」

「っ…?」

追い付かれてしまう方法ばかり考えていたイチハは、その中に自分達が逃れる方法も発見した。怪訝な表情で走り続けるカイルの隣でイチハは懐から何やら長細い物体を取り出すと、全力疾走で荒くなった呼吸も気にせず、 それを一気に吹いた。

 

フィィィィィィィィ―――!

 

長細い物体から吐き出された、音にもならぬ空気の振動が、夜の空に響き渡る。

そして、

「来い…っティウ!」

満天の星輝く夜空をきつく睨みつけ、イチハはその名を呼んだ。

クロト国から遠く離れたこの地にでイチハとユノを運んでくれ、今は村の外で主の帰りを待っている、以前イチハがその命を助けたという獣の身体と鳥の身体を持つ――つまり、翼持つ神、ジグジリスを。

「キュイイイイン!」

耳をつく高音の鳴き声は、凄まじい羽ばたきと共に即座に現れた。

ゆうに人の三倍はあるかと思われる巨体を軽く空中に浮かせ、鋭い爪で空気をかいて疾走する、ともすれば村に突然現れたモンスターと思われるそのジグジリスは、

「ティウ…っ!」

―――こっちに来い! と叫ぶ少年の言葉に忠実に従って、もはやお祭りどころでなく逃げ惑う人々にぶつからないようギリギリその頭上に降りてくる。

もはや全ての事情を知っているのか、高く腕を伸ばしてくる少年の手を獅子に酷似した前足に上手く引っ掛けた。カイルも続いて鳥に酷似した後足にイチハを真似して捕まる。その途端、ジグジリスは再び上空高く舞い上がった。

「ちっ…! その手があったか……っ」

その後クルリと身体をジグジリスの背中に上手く乗せたイチハとカイル、合計108匹のハムを連れて夜空に消え行くジグジリスを見やり、ユノは舌打ちする。ユノもその方法は考えていたものの、あのジグジリスとあまり仲が良くない少年の呼び出しには、当然イチハの場合のようにいかないだろう事は解っていたし、また当然イチハがその方法に気付いてジグジリスを呼ぶ事を阻止する事も出来はしないとも解っていた。解っていながら、むざむざ目の前で逃亡を成功させた彼等を、だから仕方なく諦める事も、これまた当然出来る話でない事も、だが解り切っている。

「…仕方がない……こっちは奥の手を使う…! カナタ君!」

―――君にも手伝って貰うよ! と叫んだユノは、既にいつもの微笑を顔から消滅させていた…。

了解です!」

皆まで言わずとも、少年は心得ているといった風に頷く。

能面のような、無表情の中に、妙な凄みを見せたユノはその返答に口の端だけで笑って見せた。

「じゃあ行ってみようか?」

「準備は万端です!」

カナタは、周りの騒動も何のそので、すぅ…っ!と肺一杯に息を吸い込んだ。

そして…

 

「レックナート様の小姓で下僕で料理番の根性悪魔法使いよ!でてこ〜いっ!!」

 

カナタは悪口とサモンナイト石(ゲームが違う。)…もとい、真なる紋章の力を虚空に向かって解き放った。

…すると、どこからともなく。

「誰が小姓だって?(怒)」

 

切り裂きが炸裂した。

 

テレポート能力を駆使してわざわざツッコミを入れた彼、2ルックは(何故「2」と形容がつくかは、後々わかる。)少年が血塗れで地面 に平伏したのを確認すると、さっさとその場を離れようとしたのだが… ふいに首筋にヒヤリとした感触を感じた。

「…協力してもらうよ?」

「…君か、」

背後からのユノの声に、ルックは眉をひそめた。…しかし、何を?とは言わなかった。聞かずともわかるからだ、このユノと言う人物が本気で何かに挑むと言う時にイチハが絡んでいるという事は…。

「………」

「………」

しばらく二人は沈黙を決め込んでいた。しかし…、 首筋に当てられた凶器(棍)、それにゾンビのようにむっくりと起き上がって来るカナタの姿に、ルックは自分一人では低坑しても意味がないと悟った…。

そして、了承を示す代わりにルックは瞳を静かに閉じてみた。

 

 

 

一方こちらは上空の二人。

「…これからどうします?」

「…うん」

今だ浴衣の姿のままのカイルは、それでも真剣な顔で頷いている。その二人の袂や襟首からは108匹のハムスター達が懇願の瞳を注いでいた。

ごうごうと吹き抜ける風の壁で会話が多少困難だが、揺れの少ない飛行に、不快な思いはない。

「北に…いえ、グラスランドの辺りにでも逃げましょうか?」

「そうだね……あ、グラスランドなら…」

「?」

カイルは何か思い付いたのか、ふいにイチハに進路指定を告げた。

 

グラスランド、その土地にあるとある地下遺跡。

「斬る斬る斬る斬る…!」

狂ったように黒い服の三編み男が剣を振り回している。

その隣で、3ルックは溜息をついていた。…なんでこんなのに協力を頼んだのだろう、と。

ここは破壊者一行の隠れ家であった。

この4人組の中に置いて紅一点の少女、セラは現在お使い中で留守であったりする。

まあそんな状況の中、時を越えた呼ばれざる客が現れた…。

ふいの騒々しい足音に赤髪のコートの男が机から顔を上げた。

その瞬間…

 

「「ルック!!助けて!」」

「キュイー〜〜!」

「「「「「ちゅーっ!」」」」」

 

ちゅー? 何事だと一同が見た先には、旅人姿の少年と浴衣姿の少年(知り合いの為判別 できた)、それに巨鳥とハムスターもっさり。

「…なんて恰好してるのさ?」

当然の意見をルックは呟いた。

い掛けは当然カイルに向けられたものだが、それに答えたのは、

「今は詳しい事情を話してる暇はないんだっ…ルック! 俺達に力を貸してくれ!」

切羽詰まっているのがありありと分かるイチハである。

カイルはその隣で大量のハムスターを抱えたままこくこくと必死に頷いていた。

涙すら浮かんだ懇願の瞳×2に穴が空くかと思う程見つめられた3ルックは…

「……と、とりあえず簡単にでも説明してもらわない事には…」

本来ならば即座に一蹴しているだろう「お願い」を――何故ならば3ルック自身にも何より優先すべき事があり、それに全力を注いでいるのだから貸すべき力などどこにもない事は分かり切っていて――けれど、そうはせずに(正しくは出来なかった、であるが)まずは二人を落ち着かせるべく立ち上がった…。

 

こぽぽぽ…

お茶を注ぐ音が、静かに響く(ユーバーにはご退場して頂いた)。

この場にいる人数分の湯飲みに緑色の液体を注ぎ終わると、3ルックは急須をコトリと置き、

「……で、間もなくここへカナタとユノが来るって訳だね…」

仮面を外し嫌そうな表情を惜し気もなく晒して、イチハ達から聞いた大体の事情を非常に端的に、纏めた。

「ルックが今大変な事は分かってるけど…どうにかして俺達を匿って欲しいんだ」

「って言われてもね…」

「…、ルック……」

内輪揉めに巻き込まれたくなどない、と言いかけるが、うるうると涙ぐんだ瞳×2+108匹分の懇願の眼差しの前ではさすがに「うっ…」と怯む。

けれど、どうにかしてイチハ達を追い返そうとしているのは目に見えて確かだ。その方法に困っているだけで。

このまま「皆で懇願大作戦」を続けていても、きっと今以上の効果は無い…意を決したイチハは、

「…ルック、」

「……何だい、」

嫌な予感がするのか、眉をしかながらもチラとイチハを見る3ルックに、

 

「もし俺達を助けてくれたらその報酬としてクロト国から1000000ポッチを破壊者一行に寄付するけど」

 

「―――何ぃ!?」

何と交渉作戦を持ち出した。

同情で駄目なら金だ! と考えるイチハの脳内構造は一体どんな風になっているのだろう……。

「君、自分で何言ってるのか分かってるのかい!? 僕らはいわばテロリストで、そんな奴らに国の名前で堂々と寄付するなんて…! しかも一国の主が、だよ! 国賊になりたいのかい!?」

「だって、別に俺の国でテロやってる訳じゃないし〜?」

素知らぬ風のイチハに、3ルックは「くっ…」と歯ぎしりする。

カイルは二人を交互に見やりながら、オロオロとするばかりだ。

ただ一人、

「…ふむ。それが真ならば我々にとって有益には違いない…ですが」

破壊者一行内1の切れ者軍師――アルベルトが、ずずーっとお茶を啜りながらボソリと呟いた。

「っアルベルト! 余計な事は……っ」

「あ、やっぱりですか? 何かここ見てもそう思ったんだけど、ルックかなり貧乏な生活送ってるんじゃないかと思ってさ〜」

「煩いよっ! とにかく僕らの貧困事情なんて放っておいてくれないか!?」

せっかく仲間に取り込めそうだった赤毛の男との間にある机をバン! と叩かれ、イチハはしぶしぶ黙る。

……しかし、今ので分かった事が一つ。

破壊者一行の動き全て、鍵を握るのはこの赤毛の男に違いない…。つまり、この男さえ味方に引き入れられれば、3ルックとてイチハ達に力を貸さない訳にはいかなくなるという事であろう! けれど初対面同然の彼をいかにして味方にするか……イチハが思案していると、

「あ…っ…シーザーが…!」

「なに?」

カイルの手元に乗っていた、シーザーとの名札をひっ付けたハムがシュタっと逃げたので咄嗟にその名を呼んで捕まえようとした途端、 アルベルトが、カイルのすぐ傍に来ていた。

?;」

はっしとシーザー(ハム)を両手で捕まえたまま、カイルは首を傾げる。

他のハム達は一旦ティウの背に預け、今はそのハムだけなのだが、そのハムを赤毛の男、アルベルトは見つめている。凝視ともいう、

「…それはシーザーと言うのですか?」

「はい、?」

赤っぽい毛並みの眠そうな瞳をしたハムスターだ。

名札に書いてあるから間違いないだろう。

「……………」

「…?」

無表情に見つめる視線にシーザー(ハム)は怯えて、手の中から逃げ出そうとじたばたと暴れるが、カイルはまだ気付いていない。

それどころか…

「あの…よかったら、この子…」

「ぢゅっ!?;」←嫌そうな鳴き声

「これはどうも、」

渡す時に逃げそうなハムスターを、赤毛の軍師はしっかりと鷲掴む。

哀れ、シーザー(ハム)はアルベルトの玩具に決定してしまった。

そして…

「ではルック様、協力する事にしたしましょうか」

「え゛ーーー!?」

いつ決まったのさ!?と、ハムスターを握りしめた軍師に向かってルックはツッコムが、黙殺された。

その後ろではさりげなくイチハが小さなガッツポーズをとっている。

「無論資金は頂きますが、」

やはり軍師だ、ちゃっかりしている。

「カイルさん、よかったんですか?あげちゃって…」

「大切にしてくれそうだったから…」

「無論大切にいたしますよ、…なあ?シーザー、」

「ぢゅぢゅーっ!!;」

イチハとカイルは、昼寝をし始めているティウを毛繕いするように撫で会話し、その周りで107匹のハムスター達も大人しく眠りについている。そして、アルベルトもシーザー(ハム)に話し掛けており… 一見、ほのぼのとしている光景に見えるが、アルベルトの黒さが見えるルックにとっては、ハムスターが哀れに見えて仕方ない…。

今は敵(?)を待ち構えている所なのだが、まだユノとカナタはやってこない。

「…今の内にその恰好をどうにかしたら?」

ルックはカイルを示していう。

そう、彼はまだ浴衣姿だったのだ。

「っ…;」

「カイルさんこれ…」

何も他に着る物がないカイルは、困った表情で固まったが、そんなカイルにイチハが助け船をだす。着ていたマントを脱いで差し出したのだ。

確かに上に着たらマシだろう。

「ありがとう…」

「いえ、」

ほのぼのとする…。

しかし背後でシーザーを弄くっているアルベルトを見ると恐ろしくなる…。

うなったら、いち早くこの事態をどうにかして収拾するしかないだろう。

つまり、この場合はイチハとカイルをユノとカナタから匿う事であり、けれど篭城戦などという悠長な事もするつもりはない。

…ようは、敵を全滅させればこちらの勝利となるのだろう?

その敵が未だここへやって来ないのであれば、

「……こっちから出向くだけだよ」

ふふ…ふふふ…、と奇妙な笑いを漏らしてから、3ルックは手に持っていた仮面を再び装着した。

「お〜、ヤル気になってる」

「…ルック……」

かつての仲間の壊れた姿を目の当たりにし、イチハとカイルは対称的な反応を見せはしたが…とりあえず彼を止めるような事はしない。107匹のハム達も、ふるふると固唾を飲んで見守っている。 3ルックは、おもむろに右手の手袋を外すと、

「…真なる風の紋章で、ソウルイーターと輝く盾の紋章に照準を合わせて…たとえ地の果 てにいようと、見つけてみせるよ…」

仮面の奥から漏れる不気味な笑いは止まらない。

そして、今こそ真なる紋章を発動させようとした所で、

「…ルック殿。それならば策があります」

無表情だがヤル気であるらしいアルベルト。片手に「シーザー」をしっかり握ったまま、同行を求めて静かに近寄った。

 

 

 

「…で、確かにこの地のどこかにいるって?」

同じ時刻、漸くグラスランドに辿り着いたユノが、傍に不機嫌露に佇む2ルックへ向けてそう呟く。 2ルックは、瞼を閉じたまま頷いた。

「そういう事だけど…これ以上は、何か嫌な感じがするから僕は遠慮させてもらうよ。ここまで連れて来てもらっただけでも有り難いと思うんだね」

―――シュン。

「あ、」

止める間もなく、2ルックは呼び出された時と同様どこへともなく姿をくらました。…まぁ、彼の言葉が本当かどうかは別 として、彼の不機嫌指数からすればここまでがやはり限界なのだろう。

「…でも、こんな広い中を探すのはちょっと僕だって遠慮したいんだけどな…」

眉をしかめて、ユノは広大な大地を一望出来る丘の上から周囲を見下ろす。

こうなれば、頼みの綱は人間レーダー・カナタである。きっと間違いなくイチハ+108匹のハム――この時点では、1匹が赤毛の男の犠牲となった事はまだ知らない二人である――はカイルと共にいる筈だ。彼に照準が既に合わせてあるだろうカナタのカンを頼りにする他なさそうであるが…。

 

「その必要はないよ」

 

不意に聞こえてきた声にハっと振り向いた。 声は、先程「帰る」と一方的に宣言して消えた人物と良く似ていたが…そこにいたのは謎な仮面 を装着した男。+背後に、赤毛のマント姿の男。

「………えっと、」

ユノは、薄い笑みを浮かべながら、首を傾げた。

「キミタチ、ダレ?」

「…っ君は! 全く全然変わってないな! 前にこの姿でも会っただろうっ!」

「分かってるよ。…全く、冗談が通じないのも変わってないな、ルック」

前――3ルックが敵であるヒューゴ達と相対しているその時にわざわざ家に手紙を届けてくれと、たかがそれだけの用事を押し付けに、真剣な場へ侵入してきた事件であるが――確かにユノは今までここにいた15年後の彼と会っている。

「で、…イチハをどこに隠したか素直に白状しに来たの?」

偶然――を信じていないユノは、2ルックが嫌な感じがすると言って消え、そして合わせるように3ルックが現れた事を、タイミングが良いなぁ…だけでは済ませない。

まさか、…むしろ、その逆さ、」

ユノが予測していた通りの言葉をルックは返した。

僅かにユノの眉がひそめられる。

…しかし、それは一瞬だった。何を考えたか、ユノは次にとても愛想の良い笑顔を浮かべたのだ。

これにはルックも眉をひそめる。

そしてユノは形のよい唇に笑みの形を浮かべたまま口を開いた……

 

「ルック、僕ならトラン共和国名義でイチハ提示した額の倍のお金を払うけど?」

 

…考えることが一緒なのか、愛故か…ばっちり読まれているイチハだった……。

「ぐっ…!;」

これにはルックも多少揺らいだ。

明らかに動揺の走る顔で頬を引き攣らせている。

その背後では赤毛の男も「…倍額、」と呟き、ぴくりと眉が動いていた…。その手の中のハムスターが「ぢゅっ!?」と怯えてたりする。

そして、ユノは追い撃ちをかけるように、次いで言葉を紡いだ…。

「何かテロを起こすらしくて、資金不足なんだって?君も苦労してるね〜?ね、カナタ君。」

呼ばれた少年もこくりと頭を縦に動かした。

「ですね〜。あんまり馬鹿な事で苦労してると頭のてっぺんから禿ますよ?」

「うわ〜さすがにそれは見たくないね、禿たルックなんて(笑)」

「笑えますけどね〜v(笑)」

「まあね、」

「あははははv」

(悪笑)を語尾につけた会話に、ピキリとルックは額に青筋を浮かべた。

どうやら覚悟は決まったようだ。

「うるさいよ!君ら両方とも!(怒)」

「…まあ、正論ではありますが、」

呟くアルベルトを無視し、ルックは宣言するが早いか、右手を高らかに掲げた。

「どうやら、交渉決裂のようだね?」

「ですね〜。」

「元々交渉する余地なんてなかっただろうがっ!!(怒)」

その通りかもしれない。

しかし、真なる風の紋章(+軍師)VSソウルイーター&始まりの紋章…どう考えてもルックの不利だろう。まだ有利な点と言えば、ルックの方が紋章の扱いに長けているという事とレオン=シルバーバーグ直系の軍師がいるというくらいだろう、他の総合的な戦略やら威力やら悪知恵やらはWリーダー組(仮)の方が長けている…。

何故そんな中、ルックが一人(アルベルト戦力外)で戦っているかと言えば、そう。

これも策の一つであった。

 

 

ルックとユノとカナタが戦っている場から少し離れた地点、そこに2人と107匹と1頭(?)はいた…。

アルベルトとルックが出立する前にアルベルトは言った…。

「ルック様が誘惑に勝つ事が出来るか否かに、この策の始動の全てがかかっております」

重々しくアルベルトは言った…。

それに対してイチハはちょっと考えるようなそぶりを見せる。そして、カイルにのみ聞こえるように呟く、

「なるほど…ユノさん、倍額を出すとかって言ったならどうすれば―――ルックが抵抗出来るかどうか…」

「ルックを信じよう…?」

カイルが珍しくも前向きな事をコメントする。

「…そう、ですよね!」

二人はほのぼのとした笑顔を向け合う。

…しかし、その心中は、

 

どうせルックとあの二人(ユノとカナタ)仲悪いし、

 

…だったりした。

意外に可哀相なルックである。

そしてドナドナよろしく(本人は気付いていないが周りからのイメージ)ルックはアルベルトと共に隠れ家から出て行ったのであった。

 

そして今…

「キュイイ…」

「ティウ?」

「お腹減ったのかな…?」

元々ティウはお腹が減るという感覚のない生き物なのだ、食物から補給するのは力であって栄養ではない。普段から力を蓄えている神鳥にとってはお腹が減っているはずがないのだが…つまり。

敵(ユノ&カナタ)と戦う為に力を補給したい。

という意思表示であった…。

「じゃあハムスター達にもご飯を…」

「そうですね、」

2人はまだほのぼのとした雰囲気で向日葵の種を始めとする木の実を与えるのであった…。

 

その頃ルックは…

 

 

くっ…なかなかやるね」

「ふふ…そっちこそ」

「でもいつまで保つか楽しみですね〜」

真なる紋章×3が、グラスランドの大地を根こそぎ崩壊させん程の凄まじさをもって、ぶつかり合っていた。

しかし嵐と同じで、比較的安全なのはその中心――ルック・カナタ・ユノは余裕すら浮かばせて右手を高く掲げ続けている。

そしてアルベルトは、

「…ふむ、そろそろか……」

ルックのすぐ傍、風の結界内で無表情にボソリと呟いた。

そして、

「ぢゅぢゅー!(汗)」

しっかり握られた手の内で潰れた悲鳴を上げ続けるハムことシーザーに視線を降ろすと――

「案ずる事は何もないぞ、シーザー。全てこの兄に任せておけば…な」

「ぢゅーっっ!(涙)」

悲鳴の意味を(故意に)都合良くすり替え、無表情のまま喉で笑った……。

一方、周囲に多大なる被害を及ぼしている事もお構いなしに攻防を続ける3ルック達。

「そろそろ諦めたらどう…っ?」

「っそっちこそ、これ以上見苦しい真似は止めた方が良いんじゃない?」

「誰が!」

事態はなおも今以上にヒートアップしてゆきそうだ。

そこへ、

「ルック様、」

無表情のアルベルトが静かにルックに近寄って来る。と、耳元で何やらを告げた。

「……。よし、分かった」

それに対して3ルックは確かに頷くと、

「…とりあえず、」

掲げていた右手をいきなり地面の方へと向け、

「…ここで一旦引かせてもらうよ!」

今度は自分達の足元に魔法陣を出現させ、一瞬の内に姿を消してしまったのである。

強大な紋章の力もまた次第に存在を薄くし、…後に残ったのは砂を巻き上げながら過ぎ去る黄土色の風……。

「っくそ! また逃げられたか……!」

悔しげに舌打ちするユノ。

……だが…―――

 

ヒュンっ

 

「あ?」

「え?」

「は?」

代わりに眼前に出現したのは、 ティウに果物をあげている真っ最中のイチハとカイル――だった。

しかも、突然の変異によって多少呆けてはいるものの、何ともほのぼのとした雰囲気ごと、持ってきている。

 

「うわっ!?」

今さらながら、イチハは驚いた声をあげた。

「え? あれっ? ここは一体…って!」

しかも、気付くのが遅かったりして、眼前に現れた――この場合、イチハ達の方が突然現れたのだが――ユノ達を指差し、訳が分からぬ ままヤバイという顔をしている。

「成程…案外ルックも物分かりが良かったんだ……」

その中で、ユノは合点がいった、というように頷いた。……目の前にばら蒔かれた生き餌に惑わされ(意識的にかどうかは不明だが)、当初の目的であるハム達の存在などもう遥か彼方へ消し飛んでしまっている。

「ふふ…イチハもルックを見習ってそろそろ観念したら?」

「っ誰が!」

挑発的な言葉と微笑にイチハも漸く我に帰り、キっと眼差しも強くユノを睨んだ。

…こちらも、今回の騒動が何で勃発したのか綺麗さっぱり忘れているようである。

ユノ相手にトンファーを構えるイチハ、ティウは言わずともがなイチハを守るべく既に立ち上がって戦闘体勢を取っているしで、 まるでこれが、双方共に戦ってカタがつくような代物であるかのよう。

ハムを間に挟んでの攻防、という図式もすっかり影を失くしてしまっていたかに見えた、

そこへ、

 

イチハ様、確かにハムスター達の命は確保致しましたよ』

 

と、アルベルトの声がどこからともなく響いてきた。しかしその姿はどこにもなく、どうやら音声だけをこちらに届けているらしい。(やっているのはルックだろうが…)

「な!?」

今更そんな事忘れていた為、イチハの中で混乱が起きる。

その隙をユノは見逃さなかった。

キラリと瞳を光らせると、素早くイチハの傍まで近寄った、

そして…

 

むぎゅっ

 

「………」

「カナタ君見習ってみたんだけど、どう?」

抱き着いた。

「うわあああっ!(///)」

「ふふふ♪」

確実にわざとだろう。イチハ君のリアクションの全てを読み通していたに違いない。

そしてティウは、イチハとユノの距離が余りに近過ぎる為に攻撃が出来ずに困っていた。

『約束の報酬は指定の口座に支払って下さい、では…−−−−シーザー(本人)、これが兄が最近可愛がっているシーザー(ハム)だ。この兄の愛の深さがお前にも理解出来るだろう?』

『やーめーろー!!;(怒)』

…何やら、『放送室でマイクのスイッチ入りっぱなし現象』が勃発しているが、それは置いておくとして、 イチハは心中で絶叫した。

 

誰が払うか!!(怒)

 

…と、

そんな中カナタらはと言うと…

「………」

「………;」

じりじりじり…

そんな音が聞こえて来そうな中、カナタとカイルは互いに距離を取り合っていた。一方はにじり寄り、一方は後退りと…

何やら先にユノに抱き着き攻撃を実施されたからか、カナタはいつものように上手く抱き着けないでいるらしい。

「カイルさん!なんで逃げるんですか!?(怒泣)」

「………;」

カイルの背後で107匹ハムスター達がちゅ〜;と不安げに鳴いている…。

「くっ……!(怒)」

再びハム抹殺!の黒いオーラがカナタの身を包むが、ふいにそれが和らいだ。

そう、いうなれば暗雲+雷をバックにしていたのが、いきなり花畑になった感じだ。

「カイルさん…v」

「…?;」

にこ〜vと笑いかけられ、カイルは不信さを感じて後ずさる。

「ハムスター飼いたいんですよね?」

「…うん、」

「じゃあその代わりに僕に愛のキッス(あわよくばその他の特典付で!)を下さい♪無論カイルさんからで、」

「!!!!!;」

セコい。

手段がセコすぎる。

しかし、ハムスターは結局カイルの家では飼えまい、じゃあどこで飼おうとしていたかというと同盟軍本拠地だ。一応の取引にはなっている。

「っ……」

カイルは背後を振り返った…。

助けを求める107匹ハムスター。(残り1匹も助けを求めているが、それは置いておいて。)

「さ〜♪どうしますか〜?」←悪役。

「………っ!!(泣)」

ふるふると泣きそうになりながら、カイルは一歩足を少年の方へと踏み出す。

「………」

「………」

 

ちゅっ

 

…ほっぺただ。

「…後で口にお願いします」

「………(泣怒)」

まあ多少カイルに(人前でキスという)心の傷を残しつつも、なんとか解決したらしい。

「イチハは…」

「や・り・ま・せ・ん!(怒)」

キュイィイイ!と、ティウが高い声で鳴いた…。

 

 

 

結局このハムスター達、1匹余りつつも、カイルとイチハで半分ずつ持って帰ったらしい。

まあなんとか、メデタシメデタシ…

 

 

 

「……で?なんで、カイルさんイチハさんの上着着てるんですか…?」

「え?」

「は?」

「………」

…にはならなかった。

 

上着←マント…

確かに置き換えると、何やら妖しい響きがあるかもしれない…(?)

結局どちらが勝ったかは不明である。

 

 

 

 

何故だか赤毛軍師兄弟も混ざってますよ〜…

理由は野依さんがはまったからです。(爆)

この話はもろこさんと行っていた祭りリレーを

野依さんに話した事から始まりました…(吐血)

 

海月:ティウさんはネズミが苦手で祭りで…云々v(普段どんな会話してる…;)

野依:へ〜?

海月:ユノさんは?

野依:ん〜?潰す?

海月:(Σー□ー;)

 

どんな始まり方だ!;

 

もろこさ〜ん;ネタにしてすみませんーーーっ!!;(土下座)