ガッ…………… キィ…ン!
鈍く響く金属音と肉の刔れる音………
それだけが辺りに響いていた、
「ふぅ、コレでラストです〜。 ユノさんの方はどーですか〜?」
敵から奪ったと思われる検を投げ捨て、少年は尋ねる。
闇に慣れた瞳は正確にユノと呼ばれた少年を捕らえていた。
周りの闇に溶け込む漆黒の黒髪をかき上げて、ユノは髪と同じ色の瞳を少年の方に向ける。
「こっちも終わったよ、カナタ君」
優しい笑顔の浮かべられた口元が僅かに開かれて、言葉を紡いだ。
直後、すぐ傍でドサリと重い音が響く。 生前人間として機能していた者が、腹から剣をはやし、倒れていた。 いつもの武器を使わずに、剣を使用していたのはカナタだけではなかったのだ。
「ふぁ〜。なんですねー、やっぱ殺傷能力が低い武器ってこーゆ〜時には不便ですよね?」
よっ、と声を出しつつ戦闘中に放り出していた愛機、トンファーを拾い上げる。
少年は血に塗れたそれに眉を顰た。
「洗うのメンドイです〜」
む〜と頬を膨らませると、カナタは辺りに倒れる死体を気にもせずに手近な岩場に腰を下ろす。
そしてユノを見た。
「ちょっとお話ししませんか?今『僕が倒した人の話』とか。貴方が何の為にこんな事をしているのかとか、」
少年は笑っていた…
どうしてこんなにも夜の中見える姿と、いつもの彼ととは違うのだろうか…話し方も表情も仕種も何も違わないというのに、
そして、それはユノも同じだった。
「話?」
ふ、と唇に一応笑みと呼べるものを漏らす。
いつもは見せない、無機質な微笑み。
当たり前だが、血の臭いが辺りに充満していて、少なからず煩わしく感じていた。
嫌な臭いだ…と。
「いいよ、少し話したい気分だ」
ユノはカナタの隣に座らず、少しはなれた所に立った。
『あ、ユノさんです〜vこんにちわー!』
『こんにちは、突然だけど今日は暇?』
『んーと、まあまあ暇です☆何の用事ですか〜?』
『大量殺人』
何の感慨もなしに言うユノにカナタは目をしばたかせると、微笑んで答えた。
『カイルさん寝てからだったらいいですよ〜』
そう、答えた………
それから数時間後…2人は行動を移した。
「知りたいよね、何でこんな事をしたのか」
瞳は伏せられたまま、そして笑顔を絶やさぬまま、ユノは何も言わずについて来てくれた少年に代わって自問の言葉を吐いた。
「そーですね、一応は知りたいです。まあ、休憩目的のが大きいですけど、」
ぶらぶらと足を揺らす。ブーツを濡らしている血が僅かに飛び散った。
「………イチハさんの為、でしょ?」
少年は目の前の人物をじっと見つめる。
ユノはすぐには答えなかった。
「…自己満足だよ」
イチハに何かしてあげたいと思う、自分の為…。
「それを言ったら終わりですよー。」
カナタはユノの方に手を伸ばそうとするが、途中で自分の手が血塗れであることに気付き動きを止めた。
「………」
多少迷ってから、自分のズボンで手を拭い躊躇いながら手を伸ばす。
「座りませんか?」
茶色に変色した汚れは、手袋からけして取れなかった。
だが、ユノは躊躇いなくその手を取った。 ユノの手袋もまた、血に薄汚れていた。
「じゃあ、隣いい?」
音もなく、ユノはカナタのすぐ横に腰を下ろす。
カナタは嬉しそうな顔をすると、空を見上げた。
森の中であるのに、ここは見通しがよくなんの疎外もなかった。
ただ、
「今日は月、出てないですね…」
「新月だからね…」
それがどうという事ではなかったが… いや、だからこそ行動を起こしたのだが。
「…死体、どうしましょう?」
「どうしようか…」
いっこうに本題に踏み込まない2人の会話。
その間を冷たい風が抜けるように吹きつけた。
カサカサ、と木の葉が揺れる。 しばらく静寂が辺りを支配したが、ふいにユノの言葉が沈黙を破った。
「ここに倒れてる奴らね、同盟軍の中から出た反同盟軍なんだ」
ハイランドとはまた違う、同盟軍に仇なす者たち…。
「イチハと顔見知りの人もいた…」
一旦カナタは間を空ける。
「………それは、イチハさん気付いてなかったんですか?リーダーでありながら?それとも気付いててその動きを放っておいたんですか?」
非難の色の強い言葉だが、どこか諦めているような響きがあった、
「貴方が動かなければならないくらいまで………」
カナタはぽふっと頬杖をつく。
「シュウ軍師に頼まれたんだよ、くれぐれも内密に…ってね」
だから、それ以上イチハを責めないで欲しい…そのような物言いだった。
「暗い仕事は僕にこそ似合う」
「………………貴方にも似合いません…」
ぽつりと呟くと、カナタは膝の上に顔をうずめる。
既に腐り始めたのか、死体から腐臭が漂ってきた…。
「………。」
鼻の奥をつく嫌な臭いに、しかし、ユノは安らかな笑みをさえ携えていた。
「僕が大丈夫だって事は、君が一番理解してくれると思う。 君は、何の為に戦うの?」
答えは分かっていたが、あえて聞きたかったのかも知れない。
「さ〜自分の為ですね〜?」
ぼ〜っと辺りを眺める。
意識しての態度なのかそうでないのか、ユノは思わず声を漏らして笑った。
「…自分がそうしたいと思って動いている内は、まだ大丈夫なんだよね」
「そうですか…?」
自らの思いの為に、他の全てを淘汰する…それを何と言うのだろうか?
「結局、バレなきゃ何やってもいいんですよ☆」
軽く言う中、その矛盾性をカナタ自身も気付いているのだろう微妙な響きがそこにはあった。
「そういう事だね」
まるでいたずらを考える子供のように口の端をつり上げ笑う。
そして、何の迷いもないというように、すっくと立ち上がった。
「さぁて、そろそろ帰らないと皆心配するかな?」
「そーですね〜…僕もちょっと眠くなってきましたし……死体はその辺の犬が…!」
カナタの目付きが変わる、
「ユノさん、ちょっとまだ帰れそうにないですよ…」
まあ、数10分くらいですケド…と言葉を続け、カナタは岩場から飛び降りた。
「コレも運命ってヤツですかね?」
低く笑ってカナタはトンファーを構えた。
「運命…か、」
やれやれ、と、ユノも自分の武器である棍を一振りする。 ヒュンっ、と棍が風を薙いだ…。
「そんなモン信じちゃいませんけどね、」
殺気に意識を置きつつ、カナタはユノを振り返った。
「ね、ユノさん。僕『マクドールさん』には幸福になってもらいたいんですよ?」
ニッと笑う。
「奇遇だね、僕も君達の幸せを願ってる」
それが、血塗られた幸せでも…。
「笑っていてくれるだけで良いんだ」
そしたら、僕も笑えるから…。
「たぁーーーーーーー!」
「奇襲で声上げちゃおしまいですね、」
剣を振りかざし襲って来る者をカナタは殴り倒し、その武器を奪う。頬に血が飛んだ。
「ユノさんの事結構好きですから、いつでも手伝いますよ、」
そう言って少年はいつもの笑顔で走っていった…
辺りは凄惨としか言えない状況の中で………
その背後を見つめるユノにも、敵が踊りかかってくる。
「きぇぇぇ!」
「さて、と…早く済ませなきゃね」
相手の攻撃をヒラリと避けると、棍を優雅に強く相手の後頭部に打ち下ろす。 頭蓋骨の砕ける嫌な音が静かに響いた。
「カナタ君、これが終わったらまた遊びにおいでよ」
緊迫した戦場に似つかわしくない、そんな言葉を紡ぎながら…。
また夜が終わる…
そして何事もなかったように朝が訪れるのだ…。
終
<血生臭いカナタ君、どうやってカイルさんをごまかしたのか!?>
カイル:カナタ…その匂い…なにかあったの?
カナタ:え?いえ!昨日、『活魚捌き料理大会〜集え!海の男達!!〜』に出場したんです〜!!見事優勝しましたー!
カイル:(またそんな…>汗)