同盟軍本拠地アイギス城。

その最上階…5階に、少年の自室はあった。

「はぁ〜…」

北向きの窓から外を見つめ、何やら重たいため息をつく。

普段明るく元気なその姿に似つかわしくない…物思いに耽っている様子を、また、どこか遠くから見つめる者がいた…。

 

その者名は、カナタ。

 

一応はオレンジドラゴン軍のリーダーであった…。

「む!なんか面白そーな気配です!!レッツ進入!」

 

 

「はあ…」

イチハが溜息を付いた瞬間、ドアをノックする音が響いた。

少年が返事をし、訪問を許すと…

「こ〜にちわ〜v」

「!?」

カナタだ… しかも、『メイド服』の!

似合う似合わない云々よりも、『恐ろしい』!

変な恐怖に油汗を流しつつ、加えて、すごく嫌〜な予感を感じた…。

「さぁっっ! 着せ替えゴッコですー―――!!!!!」

「ひっっ!!!?」

突然の訪問者…もとい、乱入者は有無を言わせず部屋の主を大きな布の塊で覆う。

イチハの視界に最後に映ったその顔は、やはり嬉々としていた…。

「…あのさ、聞いていい?」

「何ですかー」

片や、暗く低い声…片や、明るく高い声。

2人を判別するのは簡単であった。

「…た、楽しい?」

「いえ。別に、」

けろりとカナタは言い放つ。

ついでにいうとそのままの恰好で床に胡座をかいて座っている。

「いや、ただ単に変装して来ただけですしね。さあ!」

楽しくもないのにする、という事は、まだ裏に何かあるのだろうか。

「………『さぁ!』、何…?」

全身着ぐるみ状態のイチハは、やや諦めた感じでカナタの次の言葉を待った。

「ユノさんの所に行きましょうか」

「ー―――――は!? え、ちょ…こ、この格好で!?」

「変装ですし」

あっさりいうと、カナタはイチハごと窓から飛び降りた。

ちなみに5階だ。

 

 

 

「は〜は〜(汗)」

「イチハさんが悩み事!それはユノさん関係ですね!」

マクドール邸前。

二人のリーダーはとてつもなく怪しい恰好でたっていた。

しかし、街の住民にジロジロ見られる事など、もはや気にならなかった。

「か、関係ないだろ!?」

顔が微かに赤く染まる…どうやら図星らしい。

「甘いですね」

ちっちっち、とカナタは指を左右に振った。

「愛のある所にカナタあり!『ブレイカーラバーズ』と呼ばれた僕が来たからにはもう安心です!さあ!相談してみてください!!」

「どういう理屈なんだよっ」

と、その時、

 

「いらっしゃい、2人とも」

 

唐突にマクドール邸の扉が開かれた。

現れたのは、当然、2人の会話の中心となっていたユノ=マクドール。

「ユ、ユノさん…!?」

『何で』という顔をしているイチハにユノは、

「家の前でこんなに騒いでたら、誰でも気付くと思うけど?」

あきれたように言った。

「まあそりゃそうですよね〜☆」

メイド姿のカナタは嬉しそうに近づくと、こんにちわ〜と頭を下げる。

「こんにちは、カナタ君」

よしよし、とカナタの頭を撫で上げる。

何だか先程とはうって変わった和やかな雰囲気に、

「…っ俺、帰る!」

着ぐるみの長い耳を揺らしながら、イチハはくるりと扉とは正反対の方向を向いた。

これは、かなり重症らしい。

「喧嘩中…なんですね」

カナタは嫌〜な汗を流した。

そして、イチハが歩いていると…

 

どん

 

「あ、ごめんなさいっ…」

あんまり苛々していたのか、周りが見えずに人にぶつかってしまった。

「いえ…こちらこそ、あ…、」

「あ。」

カイルだった。

「カイルさー――んっっ!!!!!VV」

そして、すぐに、カイルセンサーに反応したカナタが走ってくる。

「カナタ…」

メイド服姿で…。

「その恰好…(イチハ君もだけど…>汗)」

「え?いや、イチハさんとこの、城に侵入するのに変装したんです!ついでにイチハさん驚くかな〜って思ったんです〜vvv」

「そうなの…?(汗)」

驚く驚かない以前の問題である。

「そして!なんか今!!イチハさんとユノさんが喧嘩祭(!?)中であら大変〜!なんですーーー!」

見事な説明っぷりだ…?

「ケンカ…?」

イチハの方に視線を合わせ、カイルは柔らかく尋ねた。

「う…ま、まぁ………」

カナタの時とはえらい違いの答え方である。

「何か…譲れないことがあったの…?」

首を僅かに傾げ、カイルは尋ねた。

………後ろでカナタが威嚇している。

「………………………………」

イチハは頭のみをフイ、と横に向ける。

こればかりは言えない…というような態度。

「…………」

カイルは多少哀しそうな顔をすると、どうしていいか解らず黙り込んだ。

「は!カイルさん!!僕に任せてください!今原因吐かせますから!!」

「え…?(汗)」

カナタはどこからか取り出した荒縄でイチハを音速で縛り上げた。

「やーめーろーよーっ!!!」

縛り上げられて、うぅ…と苦しそうな声を漏らす。

着ぐるみでのその姿は、まるで猟師に捕らえられた小動物のようだった。

「…そのくらいにしたら?」

カナタの背後に、ふっと影がかかる。

「………ユノさん、う〜。」

不満げに唸るが、カナタは手袋に仕込んである短剣で獲物を解き放つ。

「イチハさん!カイルさんに哀しそうな顔させたら次こそ逆さ吊るしくすぐりの刑ですからね!つーか、何で喧嘩なんかしてるんですか!一向に話の進まないっ!しゃーーー!」

「カナタ…、(汗)」

カナタの暴走をカイルが宥める。

「言・い・た・く・な・い!!」

ぐぐぐ…と、イチハとカナタの間で反発重力が働く。

イチハも、ここまできたら半分意地であった。

「…ねぇ、カナタ君はシチューをご飯にかける派?」

『…!???』

唐突すぎるユノの発言に、その場にいたイチハ以外の2人は一瞬動きを止めた。

それでもカナタは自分の思った事をきっぱりと言った。

「シチューはご飯にはかけませんー。みそ汁はかけますけど…。」

つーか、喧嘩の原因それですか…と微妙な表情だ。

「カイルさんもかけませんよね?」

「うん、」

カイルも頷く。

「ほらね、僕もかけない」

くるりと身体の向きを変え、ユノはイチハに向き直った。

「っ俺とナナミはかけて食べてたんです!!」

がぁ、と吠えるように叫ぶ。

味オンチと一緒にされても…。 誰もがそう考えたに違いない。

誰もがそう考えたに違いない。

「とにかく、ご飯にかけて食べるのは止める事!」

「イヤ、ですっ!」

ケンカの原因が些細な事程、長引くと後に残るのは意地の張り合いのみである…。

「あ〜っと…。なんか、こーゆー争いって聞いてるとお腹減ってきますよね〜♪」

「………?(汗)」

そういう事でもないと思うが…。

「まあ、騒動の一因。ご飯とシチューでも食べましょう!」

「なんで!?(汗)」

「なんとなくです〜♪」

少年(メイド服)はそう言うとマリーの店から机やら何やらをレンタルしてき、野外食卓は完成した……。

 

 

本人達の意思に関係なく、それぞれの席へと座らせられる。

テーブルの上には、熱々のシチュー、湯気立つ純白の飯が置かれて、後は食べるのを待つのみとなった。

…が、しかしー―――

「ユノさんも一度かけて食べてみて下さいって! 絶対美味しいから!」

「かけない! いくらイチハでも、許さないよソレは」

…ケンカはまだまだ続きそうであった。

「いただきま〜す!」

「………(汗)」

周りの雰囲気をものともせずカナタは手をあわせる。

「でこれが、原因なんですよね〜?シチュー…って、どんなのかけたんですか?」

「え、普通にだよ」

話しかけられたイチハは、まさに今かけようとしていた。

「いえ、シチューの種類ですよ。」

「別に、普通のクリームシチューだけど…」

他にどんな種類があったっけ…と考えながらも、素直に答えるイチハは同時にシチューをご飯ののった皿の上に流し込む。

ナナミと共に培われてきたこの癖はなかなか抜けそうになかった…。

「うげ。(汗)」

思わず地の言葉が出たのか、カナタはそう呻くと懐から何か取り出した。

「却下です!」

フッ!

と吹き矢を吹いた…。

目標には見事に刺さっている…。どうやら痺れ薬のようだ。

「まあ、シチューも結構種類ありますよね〜v」

「イチハ君っしっかり!(汗)」

「やっぱり、ご飯にシチューをかけるのは邪道だよね…でも、」

ユノは静かに席を立つと、椅子から落ちて動けなくなっているイチハの傍からカナタを見た。

 

「イチハに次こんな事したら………殺す」

 

いつもと同じ笑みが、そこにはあった…。

「死なないからいいじゃないですか。」

特に気にした様子もなくカナタは返す。

「?(汗)」←聞いてなかった。

ずり落ちたイチハをカイルは重そうに起こし何とか椅子に戻す。

本人は痺れているが、意識はしっかりしているようだ。

「はぁ…(汗)」

一気に疲労感に襲われたイチハ…何でも良いから早くこの場から逃げ出したいと願うも、身体の痺れによりそれも叶わない。

そして、椅子に座り直されても動けないのだから自分では何も出来ない…イチハは再び、嫌な予感に包まれる。

「はい、イチハ。あーん」

ずい、とシチューのすくわれたスプーンをイチハの口の傍まで運ぶユノに、先程までの怒りは微塵もなかった。

「いや…ユノさん、いいですから…」

やっぱり…と、思った。

「これは…喧嘩は終わったと取るべきか…それとも毒殺を企んでるのか…、シチューオンリーの美味しさを教えようとしてるんでしょうか?」

カナタはそこで言葉を切ると、カイルが自分の口に運ぼうとしているシチューを横からぱくっと食らいつく。

「♪♪♪」

「(汗)」

「可能性としては『餌付け』かも知れませんね☆」

カナタはただ楽しそうだ。

「…いただきます」

イチハもようやく観念したのか、ユノのスプーンに口をつけた。

「おいしい?」

「………ま、まぁまぁ…」

仲直りも出来たようだ…これにて一見落着である。

 

 

 

 

数日後…。

「だーかーら、納豆にマヨネーズ入れるのはよしなって!」

「好きなんだから、放っといて下さい!」

…全然分かり合えてなかった。