ただっ広いだけの部屋に、お茶を啜る音だけが響く。

青いビニールシートの上に肩を並べて座るのは、トラン国の英雄ユノとカイル…

「…イチハとカナタ君、遅いねぇ……」

ポツリと呟くユノ。

ただ今ユノとカイルは前回?の罰ゲーム「スイカ割り」の主役、スイカの登場を待つばかり…という所である。

 

そして、スイカはというと…――――

 

「とーーーーー!!!!」

鬼気迫る表情… まさにそんな感じだ。

スイカ狩り部隊(?)のカナタとイチハ…。

先ほど奇声を発していたのはオレンジドラゴン軍リーダーカナタ少年の方だ。

そして、それが何をしているかというと…

「そこかーーーーー!」

身の丈ほどもある釜を振り回し、草を伐採しまくっている…。

――――そう、

「ちぃっ!スイカはすばしっこいですね!」

 

スイカ『狩り』だ…。

 

そして、

「っ!?(汗)」

地面により近い場所にしゃがんでいたイチハの頭にカナタの釜が掠る。

ここまでくると、もうワザとではないかと思う…いや、思って間違いないだろう。

「刈るのは草だけにしろよ!」

少々髪の毛の先がなくなった頭を庇いながら激昂するイチハ。

「そこかーーーーーーーーー!!!!!」

どすっ!

びぃ〜〜〜ん…と音を立てて釜がイチハの身体の3センチ横に刺さった…。

「あ…。すいませんvスイカだと思って間違いましたvvv」

てへ☆っと笑い、あやまるカナタだ…

何を考えているのかまったくわからない。

「それにしてもスイカどこにあるんでしょうね〜?」

「………………っ」

そらとぼけたカナタの言動に、なんとか勘忍袋の緒を繋ぎ止める。

「スイカは、走って逃げたりしないから、足元を、よぉ〜っく見てみたらどうですか?」

かろうじて噴火を食い止め、冷静を装う事に成功。

しかし、この先何を起こすか分からないカナタと共にいて、無事でいられるだろうか…。 未来を想像し、イチハの背中に冷汗が流れる。

これは、自分でさっさとスイカを見つけるに限るな…と、一人考え、イチハはざくざくとカナタから遠ざかった。

「手分けして探した方が効率いいし」

「ですね、別れて捜索です!」

いやにあっさり頷くカナタだ。

 

しかし………

 

「でも、そこらに対スイカ用の罠仕掛けてますから気を付けてくださいね!じゃ!!」

ざかざかと網(スイカ用?)を掲げ歩き去るカナタ少年……。

ちなみにカナタの基準としては『そこら』=1メートル以下の間隔で、という感じであろう…。

いてもいなくともピンチには変わりなかった…。

 

一方待ち人は…

「…お腹すいたなぁ」

静かな部屋の中、ユノがポツリと呟いた。

朝からカナタに叩き起こされ、グレミオの作った朝食に箸をつける事なくマクドール邸を出たのだった事を、今、思い出したのである。

「スイカ割りのついでに、バーベキューの準備もしとこうか」

イチハ達もスイカ探すのに体力使ってるハズだしね、と付け足して、使えそうな物を見渡す。 しかし、青いビニールシート以外何もない部屋…

「…まず食料、調達しないとな」

ようやく地についた重い腰を上げた。

「じゃあ、僕は道具を借りて来ます…」

包丁やら、燃料やらだ。

「ハイ・ヨーの所だね。じゃあ僕はユズちゃんの所に行ってくるから」

また後で、と言って二人は別れた。

 

 

…………とは言うものの、行き道は同じだと言うのに何故別れて歩くのだろうとカイルは首を傾げる。

歩くペースの違いからか、既にユノの姿は見えなくなってしまっていた。

「、?」

ふと何かの気配がしてカイルは振り向く、 てくてくと歩いているといつの間にか後ろからムクムクがついてきていたのだ。

「ムム〜?」

「v」

嬉しそうにカイルは微笑むと、そっと手を伸ばす。

「一緒に行こう?」

「ムー♪」

その誘いにムクムクは賛同し、飛び付いてきた。

そして…残り4匹もと、どんどんと増えていった…………

 

 

小一時間が過ぎ、青いビニールシートしかなかった部屋には数多くの食材と道具が揃った。

後は、メインのスイカを待つばかりである。

「うーん…遅すぎると思わない? カイルさん」

「………はい…少し……」

スイカを探し持ってくるだけの行為に、一体何時間かかっているのだろう。

そろそろ心配の虫が騒ぐ頃だ。

「…僕ちょっと……」

そう言って、ユノが腰を上げたその時、

「ただいまですーーーーーー!!」

ばったーん!とドアが壊れる程の勢いで開け放たれ、子犬のように少年が元気よく飛び込んで来た…。

「ほら!スイカ狩って来ました〜!!後、お土産に花です〜vユノさんにもありますよ〜☆カイルさんには白い花でユノさんには赤い花を−−−」

「カナタ…;それ…」

「はい?」

カナタの言葉を遮るようにカイルは少年の手(に持たれている網の中)にある物体を指差した……

緑色の謎の生命体(複数)

それがぐにょぐにょと網の中でうごめいていた…

しかし少年は

「何って…スイカですよ。」

あっさりとそうのたまった…。

「絶対違うっ」

「それはともかく花です〜v」

そっとカイルの手に渡すカナタだ。

「ユノさんにもです♪」

「ありがとう、カナタ君♪」

ニッコリと微笑み、一輪の可憐な花を受け取る。

そのままイチハの方を向き、

「イチハは?」

しおらしげに首を傾げてみせた。

「……えっ…?(汗)」

突然話題の方向が自分に向き、慌てるイチハ。しかも、ユノの瞳は明らかに『イチハからのお土産はないのかな?』と言っている。(話脱線/笑)

「お、俺…?」

「まさか、スイカ取りに行っただけじゃないよね? カナタ君も一緒だったんだし、当然…ねぇ、カナタ君?」

「そーですねー」

あはははは、と笑う少年の内心はしかし読めない。 その隣では、カイルが困ったような表情でイチハ達を傍観していた。助けてやりたいのだろうが二人のペースに口を挟む機会を奪われているようだった。

「……そうだなぁ、赤い花は貰ったから今度は黄色い花がいいな♪」

…つまり、取って来いという事か。

スイカ割りパーティー(?)が何故こんな事にってしまったのか解らないが…

「……分かりました…取ってきます…(敗北)」

再び三人に背を向け、いずこかの草原へと向かっていった。

「じゃあ僕はその間に――…」

パタン、とイチハの出ていった扉が完全に閉じてじてから、おもむろにユノが動きだす。

カイル・カナタ両名は何事も思わずじっとユノの動作を目で追っていたが、その後…

「さすがにこんな物をイチハに食べさせられないよねぇ」

相変わらずニッコリと微笑んだまま、ユノは緑色の謎の生命体(複数)を素手で掴み、窓から勢いよく放り投げた。

「あ゛――――っっ!!! せっかくのスイカがぁー〜」

「スイカ? スイカならもう用意してあるから大丈夫」

今は星となって消えた物体を掴んでいた方とは反対の手から丸々とした(本物の)スイカを出したユノである。

…ならば、命掛けでスイカを狩ってきた(謎)カナタ(…は違う)とイチハの苦労は何だったのだろう…。

イチハ自身がこの場にいれば、間違いなく問うていたに違いない。

「主役は全部揃ったね。後はイチハがお土産を手にして戻って来るのを待つだけか♪」

…しかし、この人にとっては、何においてもそれが最重要問題らしかった…。

「そーですね〜(泣)」

まだ恨めしげに外を眺めているカナタだが、カイルにあれは違うし、食べられないから…と言い諭され、ぱっと表情を変えた。

………どうでもいいが、床にはあの生命体が吐き残した紫色の液体が点在している…。

「まあイチハさんをまちましょう!そしてカイルさんv」

「?」

「これv飾らせてくださいvvv」

ポケットから取り出したのは先程渡したのと同じ白い小さな花。

…カイルに断りきれるはずはなかった。

 

「♪〜〜〜」

「………(汗)」

たのしそうに飾っているカナタを見てユノは本当にたのしそうだね〜と呟きを漏らしている。

「できました!」

「………」

出来たのは、(バンダナを外され)白い花をで髪を飾られた可愛らしい姿のカイル…。

すでに諦めの境地に達しているカイルであった。

「ユノさんもしますか♪」

きらきら☆と目を輝かせての問い掛けである…そんな姿はどこか子犬のイメージを彷彿させる。

「うん、でもイチハにしてもらうから♪」

しかしユノは二つ言葉なしに却下した。

「そーですか〜」

あまり残念でなさそうに、なら…と呟いて再びカイルの髪をいじっている。

「ゆ、ユノ…っさん!」

そこへ丁度イチハが戻ってきた。息は乱れに乱れて肩が大きく上下している。

しかし右手には小さな野の花がきちんと握られていた。

「おかえり、イチハ♪」

「……た、だいま…」

笑顔で出迎えられ、文句を言う気力も失せてしまう。

イチハはよろけながらもユノの傍まで進むと、花を突き出した。

「…はい、黄色い花ですよ」

「イチハが飾って♪」

は…? 

と首を傾げると、諦めの心中にいるらしいカイルの頭に花が飾られているのが視界に入った。つまり、アレと同じ事をしろと言いたいらしい。

「………〜、」

一つ溜息を落としてから、イチハは怠慢な動作でしかしユノの髪に一輪の花を挿した。

「…これでいいですか?」

「うん、ありがとう」

本当は『似合うよ』まで言って欲しかったのだが、妥協しよう。

「じゃあ、スイカ割りしようか」

ようやくメインイベントに入る気になったらしい。ユノは準備完了の道具の傍で、スイカ(本物)を掲げた。

「じゃかじゃーーん☆暗幕の生地で作ったハチマキです!もはや完全に視界は封鎖されます!」

一体どこからそんな物を…

「えっと…誰からするの?」

カイルが控え目に問い掛ける。

「そーですね〜」

「そうだねー…」

カナタとユノはダブルで悩む。

そして結論は…

「「じゃ、イチハ(さん)から☆」」

何でだ、とツッコミたくなる…。

「イチハさん頑張ってましたから功労賞ですね!」

「カナタ…;(イチハ君疲れてるんじゃ…)」

カイルが止める間もなく準備は進んで行く…。しかしどうでもいいが、髪に花を飾っているせいか何やらヒロインの様に見える……

「じゃあ、更に特典をつけようか」

その横から、同じくヒロイン調の出で立ちのユノがイチハに目隠しをしながら言い出した。

「…特典?」

「うん。十分以内にスイカを割る事が出来たら、何でも命令出来るってゆーのはどうかな?」

…ユノの賭好きがまた始まったらしい。

「いーですね! それ」

「じゃあ順番だけど、イチハが一番で次は誰にする?」

する?と言葉ばかりは疑問形だがチャキ…とトランプが差し出された。

スイカ割りの前にイチハを除くクラシックハーツ大会が開始された…。

 

「えー、統計の結果は…僕が二番、カナタ君が三番でカイルさんが最後だね」

「でしたね〜」

クラッシクハーツ…まあ詳しい説明は省くが、勝負模様はユノとカナタの足の引っ張り合いであり、カイルはそれに巻き込まれて最下位 になった感じだ…。

「えーっとじゃあスイカ割りのルールは、10分以内に割るを目標として、10回転してからスタートでいいですね!イチハさん!ちゃんと10回転ですよ!ズルしたら僕とユノさんで100回転くらいまわしますからね!」

「カナタ…(汗)」

取りあえず目隠しとスイカを割る為の棒を手渡してながら、突っ込むカイルだった…。

 

 

「…じゃあ…、…いきます……(気分悪;)」

結局ユノとカナタによって百回回しの刑(?)に処されたイチハは、足元もおぼつかない様子で言った。

…しかも、二本の足では到底歩く事すらままならない為、スイカ割り用の棒を別の形で利用する羽目になっている。 棒で身体を支え、ヨロヨロと前へ歩き出そうとしたその時、

「イチハ、そっちは危ないよ―――……って言った傍から!」

グラリと揺れたイチハの身体を、傍の壁に衝突する直前で抱き留める。背後から掬い取られるようにユノの腕がイチハの腹を抱いた。

「あ…すみませ――…」

しかし、こうなったそもそもの原因に礼を言うのも釈然としないな…とグラグラと揺れる思考で思った。

「まだ時間はあるんだし、少しの間だけこうして支えててあげるよ」

自分の身体にしっかりとイチハをくっつけ、ユノは耳元で囁くように提案した。

…裏を考えると辞退した方が身の為なのだろうが、気分の悪さに負けてイチハはただ頷くだけである。

「そろそろ三分前ですね〜」

カナタがタイムウォッチの針を見ながら呟いた。

「…あ、もういいです。ユノさん…っ??」

「そう? でもまだまだ顔色悪いよ?」

「いや…一応スイカ割り――…」

離れようとすると、しかし逆の方向に力が働いてユノの腕に逆戻りしてしまった。

「…ユノさん? ふざけてないで、」

「ふざけてない。」

「ユノさんっ!?」

「ふふ、」

以上の問答を繰り返しながら、イチハとユノの文字通り押し問答が始まった。

しかし一面暗闇に閉ざされた視界では思うようにユノの腕から逃れられない。ユノはユノで、イチハを放す気がないのか、逆に、さらに力を込めてイチハの腹に腕を絡めた。

「まぁまぁ」

「まぁまぁ、じゃなくて…っ放して下さいってば!」

「嫌」

「ユノさん!!(怒)」

「〜(頬ずり)」

「〜っっっ!(悪寒)」

傍で見ている方が赤面しそうな程のいちゃつきだが、本人達(ユノを除く)にとっては至って大真面 目である。

「本当に放せってば!(マジ切れ?)」

 

しかし、時間は無情にも過ぎていったのだ。

 

「はい、時間切れです〜。残念でしたねイチハさん〜」

「………………(怒)」

あっさりというか、ぬけぬけとというか…そんな調子で呟くカナタを怒りの視線で睨み付けるイチハだった…。

ちなみにカイルはすまなさそうな表情で俯いている…。

「あんなおいしいシュチェーション嫌がるなんて〜…イチハさん!ダメですよ!食わず嫌いは!」

意味が謎的な程間違っている…。

「次はユノさん……」

カイルが棒を渡そうとするが、先程のカナタの台詞で何やらかなり揉めているようであった。 たっぷりと一時間少揉めた後、ようやくユノの番が巡ってきた。

「…十分以内に割れたら、イチハに何してもらおうかな……」

目隠しの布をつながらボソリと呟く声が、しかしイチハには確かに聞こえていた。

「っ!?(冷汗) ユ、ユノさん…?」

何やらとてつもなく恐ろしい真剣さが伝わってくるのだが…何故かそれに悪寒を感じるイチハである。

「よし。頑張ろう♪」

一息おいてそう宣言するユノは、確かに何かをやらかす気であるらしかった…。

「…っ???(寒気)」

「じゃあ、いくね〜」

開始前の十回転をものともせず、ユノは好スタートを切った。

「あああああ゛…(汗)」

なんだかよく解らない声を上げながらイチハはユノの歩みを見守る事となる…。

「ユノさんかなり張り切ってますね〜。イチハさん、何かこの事についてコメントありますか〜?」

マイクを持つ仕種でカナタはそう尋ねる。

「何かって…?;」

「そう、ユノさんにそこまでさせてしまう自分はああっ!男らしくない!とか反省する点があるっ!次からは積極的にアプローチしよう!って思ったりとか…」

「なんでだよ!(怒)」

思わず怒鳴るイチハだ。

「ねー、ユノさんも積極的にこられた方が嬉しいですよね〜?」

「そうだね〜」

あははーなどと言いながらも、ユノは心眼でも持っているのかスタスタとスイカの方に歩んで行っている。

「あのなぁっ…!」

「ユノさーん、スイカ割れたら一体何命令するんですか〜?「積極的になれ」とかどうですか?」

「それもいいかもね」

と謎の会話が行われていたのだが…

「…いや、でもカナタ君と一度も手合わせした事ないからそれでもいいなぁ……」

再びポツリと呟かれた台詞に、今度はカナタの身体がビクリとなった。

「そうですよね! あ、ユノさん。スイカ真っ直ぐ前ですから!」

興味が自分から離れたらしいと感じた途端、イチハは好意的(?)にスイカの位置を教えてやる。わざわざ教えるまでもなくユノは着実にスイカとの距離を詰めていたのだが、イチハなりの喜びなのだろう。

「ありがとう、イチハ♪」

「あ゛ーーー!(怒)イチハさん何ほざいてんですかっ!!?(怒)大体手合わせなんて出来ませんよ!」

がー!と切れるカナタだ。

「そんな事を言うのはこの口ですかー!このー!」

「あだだだだ…!」

ぐい〜とほっぺたを引っ張られているイチハ…。

「…こら。何してる」

直後、コツン…とカナタの頭にスイカ割り用の棒が降ろされた。

「ユノさん…」

頬抓り地獄から救出されたイチハが上目遣いにその人物を見ると、口元だけは笑みを浮かべたユノが漆黒の布越しに、確かにこちらを見ていた。

「イチハに、何したの? カナタ君」

さすがにイチハが何をされたのかは『見え』なかったらしい。明らかに怒気を含んだ声音に、口元の笑みがミスマッチである。

「何かイチハの悲鳴(?)が聞こえたんだけどなぁ…」

ブン、とカナタの眼前一センチで棒の先端を寸留めした。

「イチハさんが酷いからほっぺつねってました!(泣)」

かなりきっぱりと言い放つカナタだ…。

 

「……えい、」

掛け声と同時に、カナタの悲鳴が響いた…。

 

 

「ユ、ユノさん…十分経ちましたけど……」

「あ、そう?」

結局スイカは割られずに残った。代わりに、血の気が失せたイチハと目隠しの布を取り去りながら笑うユノの足元には、無残にもボロ切れと化した少年の姿がある。

「時間切れじゃあ仕方がないな。次、誰だっけ?」

「カナタさんですよ…」

「……。じゃあその間にバーベキューの準備でもしとこうか♪」

カナタの回復する時間を一応考慮しての提案に、反対の者はいなかった…。

しかし…

「え?」

先程から姿が見えないと思われていたカイルだったが、バーベキューの下拵えをしていたのであった。無論全て完璧に終わらせている…。

「………(汗)」

かなり申し訳なさそうな表情だ。

「カイルさ〜んっ!!う゛わーーー!ユノさんとイチハさんに虐められました〜っ!(泣)」

かなり唐突に復活したカナタは号泣しながらカイルに抱き着いた…。

「カナタ…っ(汗)」

タックルされ…もとい勢い良く抱きつかれ、カイルはカナタごと後ろにこける。

「うわ――――んっっっ! 本当の事言っただけなのに酷いです―――!カイルさ〜ん慰めて下さい――っ」

「っカナタ…!(怒)」

頭をグリグリとカイルの胸に押し付け、カナタは喚きつつ服の下に手を忍ばせていた。

「はいカナタ君。次君の番だからね〜」

しかし至福の時は長く続かず、突然漆黒の布で視界を奪われズルズルと引き剥がされてしまった。

「カ――イ――ル――さ――――ん――――〜っっ!!!!!(涙)」

哀れな悲鳴がエコー効果を放ちながら響いていた…

 

「うえ゛ーっ(泣)目隠ししてもしなくても涙で前が見えません〜っ!」

何やらかなりの泣き具合だ…。

「もうイチハさんなんて嫌いですー!(泣)」

なんでイチハだ…。

「………………」

何故か言われのない怨みを買ってしまった少年はただ溜息を漏らすしか出来なかった。

元凶の元凶はしかし常ににこやかにイチハの傍で肉を焼いている。

「ユズちゃんに特別にさばいてもらった『バーベキュー』牛だって、イチハ。さ口開けて〜」

「…いや……自分で食べるんで…(汗)」

先程はカナタ(達?)の幸福を邪魔し、しかし次の瞬間には自分の幸福に浸るユノ(達?)の幸せそうな会話が聞こえてくる。視覚が使えない今、やけに聴覚が敏感になっているのだ。

「こんちきしょ――です――――〜!うわ―――ん!!」

やけっぱちのように、カナタはブンブンと棒を振り回した。

どこをどう歩いているのか…しかし『カイルさんレーダー』が働いた結果なのか…カナタは蛇行を繰り返しつつもユノ達のいる方へ向かってきている。

「カナタ…っスイカ向こう……(汗)」

「カイルさ―――んっっっ(涙)」

そして、

 

ガッシャ――ン!

 

転んだ…。(というかなんというか…)

しかもカイルを下敷きにしている…。

「もうふんだり蹴ったりです〜〜〜っ!(大泣)」

「………(汗)」

カイルは何もコメントする事が出来ずに、とりあえず頭を撫でてやっていた…。

カナタも失格?なようだ…。

「はい良く頑張ったね〜カナタ君」

よしよしと頭を撫でつつ、ユノはカナタの下に近寄ってきた。 手には焼肉がこんもり乗った紙皿…。

どうやらカナタに手渡すつもりで持ってきたらしい。

「次はカイルさんだし、一緒に応援しようね〜」

何を企んでの発言か…しかしマクドールさんには逆らえないカナタは頷くしか出来なかった。

「…………(汗)」

真っ暗になった視界の中カイルは棒を握っていた。

「ふへ〜ふへふほは〜(泣)ふっはっへふははひ〜」

「カナタ…(汗)」

食べるか泣くか喋るか、どれかにした方がいい…。

「カナタ君カナタ君。カイルさんはどんな命令すると思う?」

先程とはうって変わって献身的にカナタの身の周りの世話をしながら、さりげなくユノが聞いた。

「ふへ〜、はふふほへひひふは〜」

…全然分からない。

そんな間にも、カイルはスイカに近づきつつある。

「…あぁ。『実家に帰らせて』とか?」

 

間。

 

「うわ―――んっっ! カイルさん帰っちゃ嫌です―――――っっっ!!(涙)」

「カナタっ(汗怒)」

「嫌です〜〜!!捨てないでください〜っ!」

「何が!?(汗)」

「うわあああああん!!!!!(泣)」

大泣きして抱き着いてくるカナタに抵抗するカイル…

どうにもこうにも話が通じない…

5分くらい揉めていると、何故かだんだんと服がはだけてきており…

「カナタっ!」

「えう゛ーーーー!!(泣)」

「っいい加減に、してー!!」

 

ばきーっ!…ぐしゃっ!

 

残り1分… 見事にスイカを割った…カナタで

「うわぁ、すごいな」

「っっっ…(汗)」

見事に砕け散った元・スイカを見つめユノは拍手しながら言った。

イチハはというと、その隣でやや青ざめている。

カイルは息も絶え絶えという状態、カナタはもはや生死の判別もつかない。

「さぁカイルさん。誰にどんな命令をするの?」

しかし臆する事なく、ユノはすたすたとカイルに近づき、インタビューのように手をマイクにして差し出した。

「っ…!」

胸元をかき合わせ、カイルは涙目でキッ!とユノを見上げる…。

そして、

 

「みんな人に迷惑をかけないーーーーーっっ!!!(泣)」

 

 

麗しい美声がよく晴れた空の下、城中に響き渡ったという…。

 

謎なまま終了…(死)