花火

 

「カイルさん花火しませんか?」

「花火?」

なぜか浴衣を見に付けたカナタが、手にいっぱいの花火を持って立っていた。

その隣には当然ナナミがいる。

「はいっvいっぱい作ったんですよ!!」

ナナミが元気よく答える。

「作ったの?」

「はいっv色んな人に協力してもらって♪」

「あたしは炊き出しやったんだよね〜♪」

「そうなの…(大丈夫かな〜?みんな食中毒になってたりして…)」

カイルの勘はあたっており、ほとんどのメンバー達は全滅していた。

この花火大会に参加できるのは、奇跡的にナナミの料理を食べずに済んだ者たちだけである。

(同盟軍メンバー三分の一ぐらい。)

「じゃあ…行こうかな?」

「「ホントですか!?」」

仲のよい姉弟は声をそろえて叫ぶ、

「う、うん…(何でそこまで驚くんだろ?)」

「「じゃあ!浴衣着てくれるんですねっ!!」」

「え゛………」

 

 

「アレ誰だ?声かけてみるか?」

「でも、カナタ様と一緒にいなるんじゃないのか?」

「構わないだろ?トランの英雄さんじゃないし、」

そんな声があちこちで飛び交う。

 

ナナミちゃんが女物の浴衣を着るのなら、わかる。

でも、なんで僕が…?

俯いて歩く中そんな事をカイルはぐるぐると考えていたが、

カイルが着ている浴衣(女物)はかなり似合っている。

青い生地に白い花をあしらった素朴な物だが、それがかえってその美貌を引き立てていた。

周りでは、同盟軍のメンバー達がチロチロと視線を送ってくる。

それがなんだか、よけいにやるせない気分にさせる…。

「カイルさん本当に似合いますね〜v」

「そ、そう?」

ナナミにほめられ、それをどうコメントしてよいのかわからない。

「そう言えば、カナタは?」

さっきまでいたはずの城主様が、なぜかいなくなっていた。

「えっと〜、その〜…んと、そう!トイレに行ってるの!!」

バレバレの嘘だ。

「…そうなの、」

カイルの胸に何か小さな堅い物が落ちる

『そりゃあ、自分といるよりは同年代の子達といる方がいいに決まってるけど…

呼んでおいていなくなるのは理不尽だと思う…』

雰囲気が暗くなったのに気づいたのか、ナナミはごそごそと袋から筒形の花火を取り出す。

「カイルさん!これ、これ!コレのもっと大きいーのがあるの!!」

ナナミの心づかいに気づき、気を取り直してカイルも適当な花火を取り出す。

マッチで蝋燭に火を灯す、周りでは少ないが他のメンバー達も花火を始めていた。

「待って下さ〜〜〜〜〜〜いっっ!!!!」

花火に火を灯そうとした瞬間、カナタが慌てて駆けてくる。

「先に始めるなんてひどいですよ〜ッ!!」

「あ、ごめん…」

「カナタが帰ってくるの遅いのが悪いのよ〜!!」

「ええ〜〜〜!!!」

じゃれあっているように見えるが、実は目と目でこんな会話がかわされていた。

『---で、始末はついたの?』

『うんv今回のメインイベントに使おうって思ってv』

『う〜ん…まいっかvカイルさん(私の義弟)に手を出そうとしてたのが悪いんだもんねvvv』

『そうそうv…そう言えば年齢からいって、カイルさんが義兄になるんじゃあ?』

『いいの!弟にしたいんだもん!!』

 

「ファイヤ〜〜〜v」

「カナタ、振り回すと危ないよ?」

ブンブンと花火を振り回す傍らで、カイルは線香花火をしている。

ナナミは夜食を作る〜っと言って、ハイヨーのレストランに(止める間もなく)行ってしまっていた。

「振り回すと綺麗なんですよ?」

「そうかな〜?」

「そうです!」

「あ、もう花火終わりみたいだよ?」

袋の中を探りつつ言う

「えっもう終わりですか!?じゃあ早く、屋上に行きましょう!!」

「何で屋上?」

「いいから、早く行きましょう〜♪」

慌てたように腕を引かれ、屋上へと連れて行かれる。

 

 

「もうすぐ始まると思うんですけど…」

「?」

2人は仲良く、外柵の上に並んで座っていた。

ドド〜ン、

大きな音がし、空に明るい花が浮かび上がる

「うわあ…」

「た〜まや〜〜〜!!キレイですよね?」

「うん、」

またひとつ、ふたつと花火が打ち上げられる。

このままでいれば、それなりにいいムードと言えたのだろうが…

「『カイルさんラブ』っていう文字も打ち上げようとしたんですけど、みんなに却下されちゃったんですよ〜」

「………」

却下されてよかったとカイルは心から思った。

「もうすぐ、今夜のメインイベントです!」

「メインイベント?」

何だろうという、好奇心からそう尋ねた

「はいっ!名付けて『人体打ち上げ花火』です!!人を詰めるのが一番大変でしたv」

「じ、人体ッ!?」

そこでカイルは、はっと気づく

「もしかして、さっきいなかったのって…」

どど〜ん、うぎゃああああああああああっっっ

「上がりました〜vちゃんと落下傘開くんでしょうか〜?ねv」

にこっと子供のような笑顔で、微笑まれカイルは何も言えなくなってカナタの肩に凭れ掛かる。

「……………はぁ、もういいや…」

「vvvvv」

何かを諦めたようなカイルに、カナタも凭れ掛かかった。

 

 

この日、カナタにとっては最高の花火大会になったそうだ。

ちなみに、カイルの浴衣姿によろめいたメンバー達は城主様自ら『ナナミの夜食』をプレゼントしたそうだ。

 

 

終わる