注射
「絶対イヤですーーーー!!」
じたばたと暴れ、抵抗しているのはカナタだった。
「カナタさん、すぐ済みますから、」
「そうですよ!ちょっとチクッとするだけです!」
ホウアンとトウタはそれを困った様子で見ていた。
「落ち付けーーーッカナタ!!」
そして、抵抗は増々ヒートアップしてきた。
「予防注射くらい、うけてもらわないと困りますよ、」
フリックとシュウはそれを押さえ付けているのだが、その拘束ももうそろそろ解かれそうだ。
今日は、城内一斉予防接種の日なのだ。
「カナタ、ちゃんと受けなきゃ駄目だよ」
軽くたしなめるのは、カナタにより連れて来られたまま帰るに帰れなくなり、ついでに予防を受けるはめになったカイルだ。
「いくらカイルさんの頼みでも、これだけは嫌ですーーーーーーー!!!」
言うが早いか、カナタはフリックの手を振り切りどこかへと走り出す
「カナターー!!頑張るのよ〜〜〜!!」
エールを送っているのは、既に掴まり注射を打たれたナナミだった。
「あっ…行っちゃった。」
物凄いスピードで駆けて行くカナタを、呆然と見送る
「他人の事より、自分の心配したらどうだい?」
「…受けなきゃダメかな?」
ルックに尋ねるカイルの目は、うっすらと涙が滲んでいた。
「駄目ですよ、」
「あ゛ぅ……」
やさしく(?)ホウアン先生に微笑まれ、トランの英雄は観念した。
一方、ハイランドでも予防接種が行われていた。
「い〜〜〜〜や〜〜〜〜〜〜だ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
シードが両手を振り回して暴れていた。
「シード様、落ち着いて下さい!」
「そうです!チクッとするだけですから!!」
子供をあやすように、シードをなだめる補佐官達。
「ジョウイ様!クルガン様はどこにいらっしゃるんですかっ!?」
「今ちょっと出かけているっ!!」
ジョウイは、自ら注射器を構えシードと揉めあっている。
「クルガンいねえのかっ!?…チャ〜〜〜ンスッ!!」
それを聞いて、シードは周囲の兵士達を拳でなぎ倒し、何処へと駆け出してゆく。
「あ゛ーーーー!!逃げたぞ!追え〜〜〜!!!」
グリンヒル周辺(の森の中)
二つの影が同じ場所に向かって走ってくる、カナタとシードだ。
しかし、お互いの存在にはまだ気づいていなかった。
「ふう…、ここまで来たら…」
「安心だ〜、」
息をきらせて、地べたに座り込む。
そして、聞き覚えがある声が聞こえた事に疑問を持った。
「え?」
「って?」
2人は同時に顔を上げ、叫ぶ
「シードさんッ!!」
「カナタッ」
「「何でこんな所にッ!?」」
叫んだ瞬間、遠くから2人を呼ぶ声が聞こえてきた。
「バカ軍主、諦めて、予防摂取したら?…まったく、何で僕がこんな事…」
ルックの声だ。
「シード、諦めて出てきたらどうだ?」
クルガンの声も響く、
他にも大勢の声が聞こえてくる
そして、カナタとシードは顔を見合わせた
「…協力した方がよさそうですね!!」
「その通りだな!!」
ガシイッと互いの手を握りあった。
一方その頃
「互いに手を組んだ方がやりやすいと思うのだが、」
「そのようだ、」
シュウとクルガンが手を結んでいた。
「----で、結局どうした物かな…」
「簡単だよ、弱点を使えばいいんだから、」
ルックは(どこからか現われた。)ムササビと戯れているカイルの方を指差した。
「カナタ様〜〜〜!ちゃんと注射をうけたら、プリンが出ますよ〜〜!!」
「シード様〜〜〜!ちゃんとうけて下さったら、多少職務をさぼっても見逃しますよ〜〜!」
それぞれの兵士達は、2人が隠れている場所に向かって叫ぶ、
「うっ…」
「くっ…」
少し心が動いたカナタとシードだった。
しばらくすると、兵士達の中から2人の人物が現われた。
クルガンとカイルだ。
『…クルガンさん、本当にやるの?』
『仕方がないですからな、』
2人は何やら目配せをしあっている。
「カイルさん!」
「クルガン!」
それに気づき、茂みから顔を出す。
そして、それに気づかないクルガン氏ではなかった。
「カナタ殿、カイル殿を犯されたくなかったら、早く出てこられることだ。」
言うが早いか、クルガンは思いっきりカイルの服を引きちぎる。
「「なっ!!」」
「クルガンさん!やり過ぎじゃっ…」
「………」
クルガンは黙ってカイルにのしかかる、いつもながら表情のわからない顔で、
「カイルさんになんて事するんですかーーーーーーー!!!!!!!」
「クルガンてめえっ!オレの目の前で浮気かーーーーー!!!!!!!」
2人が飛び出した瞬間、
クルガンは素早くカイルから離れ、シードを捕まえる
「あ゛っ………」
「掴まったな?」
「hh…」
シードは心底悔しそうな顔になる。
「…後で、私が注射をしてやろう、」
「注射なんか打てるのかよ?」
「まあ…な、」
クルガンは意味ありげに呟くと、シードを軽々と担ぎ上げ帰路へとつく。
「はあーーー、よかったなー。」
「クルガン様に来ていただいて、本当に、」
などと、兵達も呑気そうに後に続いて行った。
「カイルさ〜〜〜〜んっっ、すみません!僕の為にこんな目に合わせちゃって!!」
「…カナタ、」
抱き着いてきているカナタの背に、カイルの手がまわされる。
「えっ!?(こっコレはもしや誘ってるって考えてもいいのかなっ!!?)」
「…ごめんね、」
「えっ!?」
「カナタ殿〜〜〜〜〜?覚悟は宜しいかな?」
「はい、ちょっと痛いですよ?」
ぷすっ
「うぎゃあああああぁぁぁ………」
その日、オレンジドラゴン軍リーダーの悲鳴が、グリンヒル中に轟いたという。
おまけ
「ひっく、ひっく、カイルさ〜〜んっっっ」
「大丈夫?」
「ひどいですよ〜〜〜〜…」
こういう所は子供だなあとカイルは思った。
「ごめんね、何でも言う事聞くから、」
しがみついてくる身体を(ちょっと押し倒されぎみだが…)、優しく撫でてやる
「----なんでも?」
ぴたりと泣き止んだカナタは、カイルを引っ張り自室へと直行したという。
どうなったかは言う間でもない。(シードについても)
おわる