カイルさん動物探訪記

 

本拠地シュウの部屋。

 

机の上に積み上がった書類

溜まりに溜まった債務

首に縄を付けられた城主………

 

「ギャーーー絶対終わらないッッ!!終わるはずがありませんーーーーッッッ!!」

書類の山の中からカナタの叫ぶ声がするが、その姿は埋もれてしまって見えない…

四方八方から『今日こそは仕事をしてもらいます!』 と怒声が飛んでいる。

部屋中に充満する書類………

いくら何でもコレを終わらせるのは無理だろう。

 

「うわ〜んっっ!カイルさんッ!カイルさん絶対帰らないで下さい〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」

カナタの悲痛な声に(帰ろうと考えていた)カイルは頷き、シュウに促され部屋を出てゆく

 

 

「あああーーーーっっ!!やっぱり心配ですーーーー!!!」

(姿は確認できないが)書類を片付けながら、カナタは叫んでいた。

「もしかしたら浮気←?されてるかもしれないッッ!!そうじゃなくてもっ!知らない人に誘惑されてるかも知れませんーーッ!!」

ギャースッと頭を抱えた瞬間、左右に積み上げられていた書類の山が倒れ、(おそらく)カナタは生き埋めになる。

 

「カナタ〜カナタ〜〜〜!!大丈夫?お姉ちゃんが力になるわよーーーーー!!」

バタンとドアが開き、部屋に飛び込んできたのは義姉ナナミその人だ。

その顔を見た瞬間、カナタ以外の人々はゲッとなった………。

それもそのはず、『お姉ちゃんが助けるわ〜!!』といって書類をまき散らされるかもしれないからだ。

現に今も、『カナタ〜どこーーー?』と叫び、書類の山を踏み荒らしている。

「ナナミぃ〜〜〜…」

ニョキッと書類の中から一本の腕が生える。

それを見つけたナナミは、書類を更に踏み荒らしながら駆け寄りその手を握る。

「カナタ!お姉ちゃんにできる事はある?!」

「カ…カイルさん見張って………」

それだけを(書類の下から)呟くとカナタの腕は力なく落ちた……………。

「カナタっ!!一一一一一一一っわかったわ!お姉ちゃん頑張ってカナタの遺言を守ってみせるわ!!」

だだだだだだだだだだ〜〜〜〜〜〜〜

書類の山を更に崩してナナミは去って行った…。

「ナナミー僕別に死んでないよーーー?」

と、復活したカナタに手を振られつつ…。

「軍師殿!書類の『おかわり』をお持ちしました!!」

「よし!どんどん運び込んでもらおう!!」

とりあえずの脅威は去った事で、カナタの『書類生き埋め地獄』はまだまだ終わりそうになかった………。

 

 

「え〜っと?カイルさんよね???カナタの部屋かな〜〜〜〜〜?」

ヒョイッと覗いてみるが、そこにカイルの姿はない。

「あれ?あれ?」

「どうしたんだ?」

「あっ!フリックさん!!」

ナナミが振り返った先にいたのは、青いバンダナを巻いた青年、ブルーサンダー…もとい、フリックだ。

「あのね!あのね!カイルさんどこにいるか知りませんかっ?」

「カイルなら一一一一たしか屋上の方に…」

「えっ!ホントホントっ?じゃあ速く行かないと〜〜!フリックさんも一緒に行こーーー!!」

「なっなんだぁ???」

誰よりも不幸(と言うより運が悪い)男、フリック青年は何故かナナミに巻き込まれ、屋上へと引きずられて行った………。

 

 

屋上入口から見える風景…

それはあまりにほのぼのとした景色だった。

カイルはムクムクたちに囲まれ…?いや、埋もれて眠っていた。

幸せそうに眠る1人と五匹。

思わずこちらまで眠りにつきたくなる程だ。

「ひゃ〜カイルさんってすご〜い」

「……………」

何に感心しているのかわからないが、ナナミはともかく感心していた。

それに反してフリックは緊張から額に冷や汗が垂れていた。

『ナ、ナナミはともかく、ばれたら俺はどうなるかわからない………』

今の所、カイルの意識はムクムクに集中しており、二人の気配に気づいていなかったがそれもいつまで続くかわからない。特に隣に騒いでいる少女がいれば尚のコトだ。

「フリックさんどうかしたの???」

きょとんとナナミが尋ねるが、フリックはどこか遠い目をしたまま黙っていた。

一体彼の過去に何があったのだろうか?とりあえずこの場では明かされる事はないと告げよう、

そんなこんなしていると、ばさばさばさと大きな鳥が飛ぶような音が聞こえてきた

その音にナナミは入口から再び顔を覗かせると、そこには……………

「フリックさんっ!!!」

ナナミが後ろ後ろときゃわきゃわ慌てながら、指差す

「何があるんだ………って!!なんだああああああああ?!」

屋上で繰り広げられていたのは、怪獣大戦争………ではなく、フェザーとジークフリードが結託してなにやらムササビ戦隊と対決していたのだ………。

ムームームー!!!!!

ばさばさばさ………

「あっ!ムクムクの体当たりがさけられた〜その隙にフェザーの引っ掻く攻撃〜〜〜!!!」

「なんでアイツは寝ていられるんだ………」

カイルは未だすやすやと眠っている。

ムクムクたちがフェザーの攻撃に怯んだ瞬間、ジークフリードがカイルを背に載せ下へと跳び去ってゆく…

そして、フェザーが勝ち誇ったように一鳴きし、ムクムクたちは悔しそうに『ムー』と言った

「えっとぉ、ムクムクたちとフェザー達のカイルさん争奪戦?」

「……………そうだな…」

それしか言えないフリックだった。

「あ!カイルさん追い掛けないと〜〜〜」

はっと思い出したようにナナミは立ち上がり階段を駆け降りる、

「フリックさん速く〜〜〜〜」

「俺もかッッ?!」

 

 

「カイルさん今度はフェザーとジークフリードのブラッシングしてる〜、」

木の影に隠れつつ、カイルの姿を伺うと、池の前で2匹の毛並みを嬉しそうにブラシでとかしている姿が見えた。

「フリックさん、聞きたい事あるんですけど…?」

「なんだ?」

こそこそと隠れつつ、フリックとナナミはしゃべる。

その姿はいちゃつく恋人同士…というものより、子供と保護者と言うものだろう。

「カイルさんって、昔から動物好きなんですか〜?」

ナナミの手には『カイルさん秘密ノート♪』と書かれたノートがあった。無論カナタの字だ。

「まあ…そうだな………」

なるべく声をひそめつつ、フリックが語る

「前の時はそんなに動物はいなかったが、猫とか……他にはコボルトとかを異様に……」

「ああっ!!フリックさん!!」

ナナミは最後まで聞かずに、声を張り上げ後ろを指差す

「こ、今度は何だ???」

多少声が上擦っているが、まあ気にせずに行こう。

「………………!!!!!」

何が起こったのかと言うと、カイルの周りに本拠地内の犬、猫が集まっていたのだ………それだけならともかく、どうやって抜け出したのかユズの所の牛やら鶏やら羊やらがやってきていたのだ。

むつご○うさんもびっくりだ。

何が一体彼等をそこまで駆り立てると言うのだろうか、カイルの周りはもはや動物まみれだ。

本拠地にここまで動物がいるのも悪いのだろうが、もうパニック状態だ。

「フリックさん!フリックさん!!も、もぐらもきたよ〜〜〜!!?」

「うわーーーーーーーーー?!!」

きゃーきゃーと騒ぎながらも、ナナミは賢明に出てきた動物のメモを取る。

 

 

「あ〜びっくりしたぁ〜〜〜、」

「ユズがきてくれて助かったな……」

さっきの騒動は、ユズの所の動物が主だったせいか、比較的速く騒ぎは納まった。

ちなみにもぐらはトニーが回収して行ったのだ

「カイルさんどっか行っちゃったねー」

騒動のどさくさに紛れ、カイルを見失っている二人だった。

「一旦中に戻るか…」

ナナミは、フリックの提案にしぶしぶ従いつつ城内に戻ると……そこには何やら怪し気なムードが漂っていた。

 

「あ、カイルさん見つけた〜…」

フリックはナナミを引きずり側の柱の影に隠れる

カイルを見つけた事は見つけたが、1人ではなかったのだ、

「あれって」

「ボブだな…」

なにやら親し気な様子で二人は話していた、

カイルは頬を桜色に染め、ボブの方は少し戸惑うように頭をかいている

「えええ!!まさかカイルさんのうわき現場???」

「……………それはないんじゃないのか…」

「でもっ、でもっ!!」

カイルが何やら頼むように頭を下げると、ボブは仕方ねえなあと言うように頷いた…そして〜

カイルはニコ〜vと笑ってぎゅうっとボブの身体に抱き着いた。そう、そのふわふわな犬科特有の毛皮にスリスリと………………………………、

「……………」

なんというか、フリックはそこまで動物が好きなのか…と頭を抱えた。

ナナミは一応メモをとっている。

 

その間も、酔っ払い熊(人間かどうか不明)やらナンパ師(ある意味動物?)やらも現われ、カイルにちょっかい(?)を出している。

 

その後も、カイルはゲンゲンやガボチャを撫でまくり、シロと戯れ、城中の動物と遊び回った。

そして、『カイルさん秘密ノート♪』が埋まる頃にフリックが下した結論は、世の中には必要悪(カナタ)も必要だと言う事だった………。

 

 

付け加えるならば、何とか業務を終えたカナタが『カイルさん秘密ノート♪』に目を通 し、思わずそのノートを引きちぎってしまった事だけをお知らせしよう。

そう、『カイルさんは絶対に誰にも渡さない〜〜〜!!』という決心と共に………

 

                        終わる