受胎告知
ハイ・ヨ−のレストラン。
味よし、量よし、値段よし、でなかなか繁盛しているようだ。
………と言うのは、まあどうでもいい事だが。
珍しくカナタから解放されているトランの英雄が昼食をとっていたのだ。
「カイル、何か他に注文するか?」
追加の注文を取りにきた女の子と喋りたいのか、シーナがそんな事を聞いてくる、特に断る理由かがなかったカイルは、何となく思い付いた物を口にした。
「じゃあ…みかん。」
そう、ただそれだけだった………。
ガタンッ
隣に座っていたナナミが驚いた顔で立ち上がる、
何事かとそこにいた全員がそちらに注目するが、ナナミは気にした素振りもなく恐る恐るといった――それでいてうれしそうな――表情で喋り出す。
「カイルさん、『にんしん』したんですか〜!!!?」
くるくるくる〜…
なぜか全員の頭の中で『ニシン』が踊る。
『妊娠』?
誰もがパニックになっている中、更にこの状態を悪化させる人物があらわれた…言わずと知れた暴走軍主コトカナタである。
「カ、カイルさんが妊娠ッッ!!!!!」
ボトッ…
いつの間にあらわれたのか、カナタは動揺も露に自らのサンドウィッチを床に落とした。、もうこのサンドウィッチは食べれないであろう。
「ぼっ!僕の子供ですよね−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−ッッッッッ!!!!!!」
ガッシャーン!ドガシャー−ーーンッッ!!
よほど慌てたのか、テーブルに一直線に突っ込んでいき、皿やら残っていた料理やらを吹っ飛ばす。
「は?え???」
何やら訳がわからなくなり、思考を中断していたカイルだ。
「僕以外の人がいるんですか−−−−−−−ッッッッ!!!!!!!!!!!」
今にも泣きそうな声で抱き着かれ、余計にパニックに陥る。(迫力に負けたとも言う。)
「い…ないケド???(何がだろ…)」
「。。。」
いつもよりも更に愛おしそうに頬擦りしたあと、カナタの目の色がかわる。
「こうしちゃいられませんっ!」
パチンと指を鳴らすとどこからともなく、担荷を持った(カナタに巻き込まれ、気の毒な)傭兵の皆さんがあらわれカイルをそこへ括りつける。
「さあ!はやくホウアン先生の所へ!!」
「なっなに???」
カイルがパニックっている間にズダダダダーとそのまま走り去られる。
「……………」
沈黙が満ちたレストランで最初に口を開いたのは、――いたのか?と思われるが、――最近不幸に慣れすぎたフリック氏だった…。
「な、ナナミ……なんで『妊娠』なんだ………」
パニクリすぎてうまく喋れていないが、なんとかナナミに問いかける事が出来た。
「え?ヒルダさんが妊娠中は酸っぱい物が食べたくなるって言ってたから……」
ガクゥッ…
一同肩を落とす。
今後の課題は少年少女らの正しい性知識と、暴走中の現リーダーの止め方だろう……………。
ガラガラガラガラ〜〜〜〜〜〜〜〜(ストレッチャーの運ばれる音。)
「カイルさーーーんっっっ!!呼吸は『ひっひっふー!』ですよっ!!!大丈夫ですっ!何時間でも一緒にいますからッ!!」
「?????」
未だに暴走中のカナタだった………。