vs夏の風物詩

 

深夜、同盟軍リーダーカナタの自室

 

「……………」

「……………」

ここでは未だかつてない程、真剣かつ深刻なムードが満ちていた………。

二人は目を閉じ、一言も口を開かない……………

蝋燭の光だけで照らされた部屋の中には、沈黙だけが満ちている……………――――と、思いきや、何やら耳障りな音が響いていた。

 

プーン……プーン…プーン………

プーン…プーン………プーン…

 

ピクピクとカナタの額に血管が浮かんでいる。――ちなみにカイルは眠いのか、ぼーっと…いや、無心に目をつぶったままだ。

不快な音が一瞬途切れた時、カナタは勢い良く立ち上がると素早い動きで壁に向かい手を振り上げる。

 

「そこですっっ!!」

 

べちいっ!

 

予想していたよりも遥かに情けない音を立てたが、少年の目的は達成された………。

「――――――……」

「……………」

壁に手をついたまま、暫しの沈黙。

そして、カナタの顔にはいつもの表情が浮かんでくる。

「やっ、やりました〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!カイルさん!ほらv倒しましたよーーーー♪♪♪」

「うん。(でも、もう少し静かにした方が……)」

感極まりカイルに抱き着くカナタ、その手には一匹の蚊が潰されていた。そして、よくみれば手足には2、3ケ所すでに喰われた後が残っている。

そしてなぜか、頬には棍の跡までついている。

「もうコレでゆっくり寝れます〜〜〜〜〜!!!!!」

カナタが感動の涙をとうとうと零す中、それを嘲笑うかのように再びあの不快な音が耳に届いてきた………………そう、プーン…プーン……と、

 

「っっっっっっっっっっっっっっだあぁああぁぁああああああぁぁああああああぁっっっっ!!」

頭を抱えて絶叫するカナタ。人はだれしも(カナタであっても…)精神的ダメージには弱いものである。

「カナタ落ち着いてっっ…(汗)」

 

 

 

この日、至って普通に2人は布団の中に入りすやすやと安らかな眠りについていた………はずだった。

幸せそうな寝顔、規則正しい寝息、それを邪魔すべきものが出没してきたのだ………。

 

プーン…

「ん゛ーーー?」

プーン……

「hーーーー?」

プーン

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!」

プーンプーンプーン…

「があっっ!一体何なんでっ――――ぐはっっっ!!?」

鋭い棍の一撃が叫ぶカナタの頬を打つ。

どう考えても、カイルからの一撃だろう、

「あhう…カイルさん痛いです……………」

頬をさすりながら、カイルの方を見ると―――まだ眠っていた………。

手に棍を握りしめながら、すやすやと、

頬を擦っていた手に、何か感触を感じ、ふとその手の平を見ると音を発していた物体がついていた。

カイルの一撃で潰されたもの………それは『蚊』だ。

眠りながらもそれに攻撃を仕掛けたのは、過去の野戦の成果なのだろうか?

そして辺り(壁等)には、蚊を潰した形跡がかなり残っていた。………せめて、起きたらどうなのだろうか?

「蚊ですか…………やっぱり暑いからって、窓開けて寝ちゃダメですよね…………」

明日は網戸つけましょう!と意気込みながら窓を閉めたカナタだったが、すでに手後れだった………………。

 

プーン…プーーーン……プーンプーン…プ…ん……………プーンプーン………

 

辺りからは多数の不快な羽音が響いている。

 

「………………………――――カイルさん…。」

ボソリとカナタは呟く…そして息を大きく吸い込むと、

「カイルさーーーんッッッ!!起きて下さいーーーーーーッッッッッッッッッッ!!!!!寝れませーーーーんッッッッッッッッッッ!!!!!」

「んー……」

 

 

そして今に至った訳である。

 

「あーーーーっっっっっ!もうっっ!今のままじゃ寝れる訳ありません!!」

おもわず、涙目になるカナタだ。

「…………もう、あきらめて朝まで起きてる…?」

眠そうに呟くカイル、蚊を全部倒そうと思えば倒せるのだろうが、眠気の方が勝り動けないらしい。

「ダメですーーーーーーーーーーーー!!!!!!ここで負けたら負けなんです〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッ!!!!!!!!!(?)」

眠気の為からか、訳のわからない事を叫んでいる。いや、いつものことかも知れない…。

 

「もうこうなったら、殺虫剤です!!」

チャキっと懐から何やら取り出す、初めからそうしろと言いたい所だが、懐から取り出されたものは殺虫剤と言えば殺虫剤だが、蚊どころか人までも倒せそうなものだった……………そう、それは『バル●ン』……。

カイルが止める間もなくそれは、開封され、部屋中を真っ白な煙で包んでいった……………

 

 

 

 

 

「おうっ!こんな時間に風呂か!?粋だな!それでこそ風呂好きだ!!」

「はい!蚊の所為なんです!!」

「……………(蚊の所為じゃない)」

 

『バルサ●』で物凄い事になった二人がお風呂に直行したのは、当然の結果である…………………。

ちなみに、彼等は医務室を占領し、安らかな眠りに就いたそうな……………………。