城主様のお部屋☆

 

 

カラヤ族長の息子ヒューゴ、彼は現在真なる炎の紋章の継承者として、炎の英雄と呼ばれグラスランド中にその威光を轟かせていた。

しかし、本人はまだ至って『子供』である。それは良くも悪くもあるのだが…

ただ、おそらく彼はまだ『恋』の『こ』の字も知らないであろう………

 

 

 

その日、ヒューゴは何となく日課になっている、この『トーマスくん城』の散歩をしていた。

本人は気付いていないようだが、彼は必ずと言っていい程、この城の城主である青年(ほぼ少年)の元を訪れるのであった…。―――――――何か、自分にはない力に心の奥底で引かれているのであろう。(まあ、城主様は何かと忙しく、相手になってくれる事はほとんどないのだが…、)

なにはともあれ、ちょうどその時もなんとなくトーマスの部屋を訪れていた所であった――――――…

 

タタタタタタ……ッ…ピタ。

「いるかな?」

少年は、風呂場の隣、現在トーマスの部屋である場所の前で立ち止まった。そして、一呼吸おくと、中の気配を確認する。たまーにだが、この部屋の主は城の仕事(当番)で部屋を留守にしている事があるのだ。

――――ともかく、気配はある。

ヒューゴはほっとして中に入ろうとしたその時、中から声が聞こえてきた。

 

「トーマス様!このお部屋で本っ当ーーーに!大丈夫なんですか?」

 

「?」

セシルの声だ。

『この部屋で大丈夫』?

一体どう言う事だろう?とヒューゴは動きを止め、つい(するつもりはなかったのだが)盗み聞きをしてしまう。

 

「う、うん………大丈夫だよ、」

「本当ですかっ?でも、でも、城主様なのに、お風呂の横の部屋なんて、トーマス様が悲しすぎますっっ!!」

 

「…………」

ヒューゴはピタッ…と固まった。

そう言えば…、とヒューゴが思い出したのは出逢った頃のまだ新しい記憶だった。確かにあの時のトーマスの部屋は今自分が寝泊まりしている部屋であった。

一番いい部屋だとトーマス自身に案内され、本人はまったく気にしていない様子であった為に、ヒューゴ自身も気にしていなかったのだが…………………もしかすると本当は…。

 

「本当に大丈夫だよ、セシル…」

「トーマス様っ……」

 

その言葉にヒューゴはホッとするのもつかの間…。

 

「慣れてるから、こんな事」

 

きっぱりと(にこやかに言っているのだが、ヒューゴにはそんな表情は見えない)言い放つ言葉には…………………確かに何か含みがあるようにも聞こえる…。

そして、普段ほとんどと言っていい程、表向きの言葉しか受け取らないヒューゴであったが、今は「もしかして、怒ってる…?」と一度思った為、悪い方向へと言葉を受け取ってしまう…。

「っ………もしかして、オレ……」

 

トーマスさんにキラわれてる?

 

がーん…。とショックで落ち込むヒューゴだ。

本人の自覚はない、自覚はないのだが、この少年にとってはかなり珍しい反応であった…。

「ど、どうすれば…」

 

「本人に聞かないとそんなもん分かりませんよ〜(まあ、それで本音を話すかどうかはまた別 問題ですけどね。)」

 

スタスタスタ、と何故かこの城に逗留している謎の少年がそんなつぶやきを漏らしながら背後を通 過してゆく…。

赤い服、黄色いスカーフ、額の輪ッか…などなどが特徴的な人物だ。この辺りの人間ではないと言う事はわかっているのだが、他は(知りたいとそれほど思わない為、)不明だと言う。

普通ならば、そんな少年が何か言おうとも、首をかしげるだけなのだが………。

―――――――――――現在、ヒューゴはわらをも掴みたいと言う精神状態であった。

 

「ちょっとまって!」

「!?」

 

―――――――ガッ!バタッ!ズザザザザザーーーーーー!!

 

タックルをかまされ、顔面から転がる赤い服の少年…。

……………少しの間、少年、カナタは顔をあげる事が出来なかった。

「〜〜〜〜〜〜っな!」

「いてて…(汗)」

「何すんですかーーーーーー!!(怒)関わるのは嫌ですよ!?今ちょうどカイルさんが行方不明で、そのカイルさんを探す為にフッチを脅しに行こうと―――――――…」

「トーマスさんに怒ってるかどうか聞いて欲しいんだ」

しかし。カナタの言葉は真剣に悩んでいるらしいヒューゴにはまったく届いていなかった。(因果 応報)

カナタは苦虫を噛み潰したような表情で唇を噛み締めた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜自分で聞きましょう。(わざわざ危ない場所に行きたくないという気持ち。)」

「じゃあ、ついてきてくれ」

服を掴んで離さない少年の熱意(?)に負ける(???)形で、カナタは(強制的に)部屋に入る為の手伝いをする事になった。

 

「だから、ドア開けて、パーッと入ったらいいんですよ!つーか、大体なんで僕が巻き込まれてるんですかッ……!」

ぶつくさいいながらも、盗聴の為に耳をドアに当て、盗み聞きをするカナタである。犯罪行為は好んでしたがるのだ。

 

「トーマス様〜、隣からの湿気が凄いですよ〜〜…あ!本とか大丈夫なんですか!!」

「うん………多分。(汗)ちゃんと大事な本はアイクさんに預かってもらってるから、」

「でも、こことか………きゃーーーーーー!!(汗)トーマス様っ!カビです!!湿気でカビがっ!!;」

「え!?;ちゃんと毎日(自分で)掃除してたのになぁ………(汗)」

「このままじゃ、キノコまで生えちゃいますっ!!」

 

「…………(汗)………………怒ってない方が変ですよ。」

「えっ!?(汗)」

そんな事を呟くカナタだが、正直に言っては、問題解決が長くなる。

無理矢理にっこりと(引きつった)笑顔を浮かべると、ヒューゴを振り返る…。

「『ダイジョーブですよ☆なーんにもきにしてないですよ☆それでも心配なら、やっぱり本人に直接聞いてみたらドウデスカっ☆?』」

むちゃくちゃ声が裏返っている。

「そ、そうかなあ…?」

「『キットソウデスヨ。』」

パクパクと口を開き、わざわざ腹話術(の人形)のように喋る…。

納得しかけるヒューゴを見て、ほっと息を付いて、カナタは踵を返そうとしたが、

「じゃあ、僕はこれで帰りま…」

 

ガチャッ!

 

………………逃げる前に、ドアを開けられてしまった。

もはや、カナタの姿は中の住人から丸見えだ。

「あれ?ヒューゴ様?」

「ヒューゴ様もお掃除のお手伝いですか?」

扉を開けられ、振り向いたトーマスとセシル(掃除中)は、急な訪問者に首を傾げている。

異様な程のほほんとした光景であるが、ヒューゴの方も焦っている為、そんな事にツッコミを入れる余裕はない。(と言うか、通 常でも入れない)

 

「オレが部屋とったの怒ってるか!?」

 

………………単刀直入だ。

 

そして、聞かれた本人はと言うと、少しの間何のリアクションも返さなかった。……まあ、普通 突然こんな事を聞かれて、あっさり答えるのも珍しい。

―――――暫くして、ようやくトーマスは口を開いた。

そして、にっこりと笑みを浮かべると、珍しく、はっきりとした口調でこう答えた………。

 

 

「はい」

 

 

ピキーーン…

 

その時、世界は凍り付いたという…。

 

 

 

「……………………なーんちゃって…?」

珍しく、ちょっとしたジョークを言おうとしたトーマスは、思いっきり外して、間の悪い思いをしていた。困ったように頭をかいている。

「あ、冗談だったんですねー、トーマス様〜」

「よかった……(汗)」

ようやく硬直状態から解き放たれる2人だ。

「あ、すみません………(汗)

 でも、本当に気を使って頂かなくても、僕はこういう普通の部屋で過ごす方が性にあってますから…………」

 

 

和気あいあいとした空気……。

これでこの話は決着が付いた………のだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カナタさん…………(汗)一体ここで何をしてるんですか…(滝汗)」

「いーじゃないですか、そんだけでかくなってりゃー、僕の1人や2人隠せるでしょーが………。っつか、絶対アレは本気でした…本気で……(汗)」

ブツブツ…と良く分からない事を繰り返し呟くカナタは、何かから隠れるようにフッチの正面 足下を陣取っていた。……………しかも、体育座りで。

 

そしてこの日カナタは、カイルが迎えに来るまで、そうしていたと言う………。

 

 

 

ネバーエンディング。(謎)