不幸は人に移るもの

 

 

「カナタさんッ!」

 

ガシャガシャと甲冑の音を立て、一人の少女が高い声を上げながら走ってくる。

少女の名はセシル。このトーマス君城の守備隊長だ。

そんな人物が大慌てで駆けてくるとすれば、普通の者ならば何事かと思う所だったが………

呼び掛けられた少年はこう思った…。

 

――――――――ついに名前まで覚えられた。

 

この少年(15年前に失踪した英雄の一人であるのだが)にしては珍しく遠い目で虚空を見上げていた。何やら、世の中の無常を感じ入っているらしい。

「何かあったの……?」

そして、その隣に座る少女のような少年が、心配そうにセシルにそう尋ねた。

「はいっ!トーマス様が呼んでるんです!!」

「って!それだけの用事ですかッ!!」

「さあ!カナタさん大急ぎで行きましょう!トーマス様の所にっ!」

「人の話きいて下さいっ!!」

 

しかし、少年はあ゛〜〜〜!カイルさ〜〜〜〜〜〜ん〜〜〜〜!!という悲鳴を上げながら、甲冑の音とともにどんどん遠ざかっていってしまった。

 

「…………。」

残されたカイルは、セシルの後ろに付いて走ってきたコロクを抱き上げながら、いつも日当たりのよい石段に腰掛けた。

「カナタも友達が出来てよかったよね、」

「クゥゥ…?」

そんな(少し間違っている)事を言いながら、カイルはコロクと一緒にのんびりとした幸せのひとときを過ごすのであった……。

ちなみに、付け加えるとカナタにはほとんど友達がいなかったと言う過去の偉業(?)があった。どうでもいい話だが、

 

 

 

 

 

「え、えっと………皆さんが出かけている間に、僕達も何かできる事をしようかと思ったので………だからカナタさんも一緒に……」

「先に縄解いて下さいっ!つーか!なんで僕は簀巻き状態にされてるんですかッ!」

縄でグルグルとまかれた少年は地面に転がされ、その前で頼り無気な少年…いや、ぎりぎり青年な人物がしゃがんでお願いをしていると言う、けったいな情景があった…。(しかも、その周りには幾名かのメンバーも座っている…。)

「あ、あれ……?(汗)えっと………セシル、なんで縛って……??」

「え?え?なんでなんでしょうか?私にもわかりません!」

どうやら、カナタの抵抗で混乱した誰かが巻いたらしい。

とりあえず、言われた通りにカナタの拘束をとく。

「まったく……(怒)で?一体なんでそんな事するんですか!?」

僕を巻き込まないで下さい!とオーラを噴出させながら、少年はやけくそのように言い放つ。

「その…………皆さんが、この国の為に頑張っていらっしゃるんだし、僕も何か自分にできる事をして、元の平和な城を一日でも早く取り戻したいと思って……」

「トーマス様ッ…!」

そう言って照れたように頭をかくトーマスに、セシルは感極まった声を上げ、一緒に頑張りましょう!といっている。………が、その隣でカナタは小さな呟きを漏らしていた。

「…………それってなんか、(今いる人たちが)邪魔だからとっとと城から出ていけっていう意味にもとれるんですけど…」

無論誰にも聞こえていないが。

 

「ともかく、具体的には何するんですか?」

カナタは気を取り直して、そんな問いを口にする。

「えっと………」

「何ですか?」

とたんに困った笑みを浮かべて、トーマスは頬をいじった。

「それを今からみんなで相談しようと思ったんです」

「みんなの事はみんなで考えるっていい事ですね!トーマス様!!」

 

 

 

「と言う訳で、みんななにかいい案はない…?」

場所がない為、その会議(?)は城門の横あたりで行われていた。ほとんどピクニックのようにしか見えない。

「はーい!――――絶対ヒューゴ様グッツを作るべきよ!」

「え、えっと…はい、グッツ作り………で、資金集め………??」

困った表情でトーマスは羽ペンで書き留める………が、その時カナタが口を挟んだ。

「生温いです………」

「え?」

「そんな事じゃ生温いんです!―――――――今戦ってる相手は、4人。その主犯をとっつかまえましょう。」

「でもどうやって………?」

「うわあ!詳しいんですね!」

「あの妙な石版がある所がありますよね?―――――――――それをつかうんです。」

 

 

 

 

石版のある所。

 

ほとんど人の手入れが入っていない荒れた土地。そこにそれはあった。

 

「とりあえず、相手は魔法使い!肉弾戦ではタコ殴りでやれます!」

「薙刀も『肉弾戦』に含まれるのでしょうか?」

「魔法封じの攻撃に抵抗力をつけるのには、寝る時に頭の下に水の封印球を敷いて寝たらいいって師匠が言ってました!」

「トーマス様〜!ゴミ捨て用の穴、これくらいでいいですか〜?」

「あ、うん、ありがとうセシル。」

わっさりとあつまった少年少女らは、既に隠れる気もないのか、石版の前を陣取ってアレコレと会話を交わしている。しかも、一部は何故かキャンプと勘違いしているグループまででて、トーマスらが苦労しているようだ。

 

「でも、なんでここにくるってわかるんですか?」

トーマスの手を借りながら、セシルはひょっこりと穴から顔を出しながら、そう問いかけた。

「ふっ………僕は知っているんです……。あの元仮面の人物がなんと、実はとある女性の下僕で下男で小間使いな召し使いで、しかも――――――――石版フェチおたくと言う事を!」

カカッ!と瞳を開いてカナタはいいきった…。

「え…?ほ、本当なんですか???(汗)」

「ほんとーですよ!アイツは毎日毎夜、この石版の前に立っとかないといけないという習性の持ち主なんです、だから今も禁断症状に悩まされて、今日もまたきっとここに現れて一人で立っているはずです!!」

 

 

「『切り裂き』(怒)」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ……!と風の唸る音が響き、少年の身体は切り裂かれた。

―――――ちなみに、周囲のメンバーは巻き込まれない所まで逃げ出している…。

「誰がなんだって?(怒)」

怒りのあまり姿を表してしまった元仮面の男は、少年を足げにしながら、そう口を開いていた。

 

そして、息も絶え絶えな少年は――――

「…………い、今です…(汗)」

 

「!」

ルックが気付いた時には既に手後れだった。

水の紋章の力が辺りを包み込む―――――

「みたか!体力無し魔法使い!これで抵抗する暇なく、タコ殴りに――――――って!うわあ!指輪ビームがっ!!!ロッドは!?」

「お城の為です!頑張りますーーー!」

 

キャー!わー!と大混戦になる…。

 

しかし、ルックも簡単に掴まるはずがない、攻撃を交わしつつ、魔法効果が切れるのをまって逃げようとしたのだが………

―――――――ズルッ…!

「!?」

突然、足場を失ったような感覚が襲った。

反射的に確信した。

穴だ。

穴に落ちたのだ。

何故こんな所に穴が?

「ああっ!せっかく私が掘ったゴミ捨て場の穴がっ!!」

「うぎゃーーーーー!!なんで僕まで落ちてっ!!!!!」

「『ゲへヘへへへ!今だ!縛っちまえーーー!!』」

「も〜〜〜!ブランキー!そんな乱暴な事ばっかり言ってたら―――――…こうよ!こう!こう!」

何やら混乱の果てに縄が飛び交った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕暮れ時…

 

コロクと平和に昼寝をして過ごしたカイルは目の前の光景に大きく瞳を見開いていた……。

 

「うわーーーーーーんっっ!!カイルさ〜〜〜〜んっっ!!!(泣怒)」

「……………(怒)」

 

だんご状態で縄で縺れたルックとカナタ……。

そして、それをどうやって解こうかと悩んでいるトーマス…

一体何が起こったのかわからず、カイルはコロクと一緒に首を傾げるばかりであった…。

 

 

結局ルックは、セラが迎えに来るまでの間、トーマス君城で滞在するはめになったとかならなかったとか……