「あ〜…もうやんなっちゃいますよ〜」

 

カイルと引き離されたのは元より、無理矢理溜め込んでいたためこんでいた仕事をやらされたことに腹が立っていた。

おかげで、朝から軟禁されていたというのに、もう辺りは真っ暗だ。

―――元々は自分が悪いとわかってはいても、腹が立つものは腹が立つ!

廊下には既にランプに火が灯されているとはいえ、結構な暗さになっていて就眠時間になってしまっているのがわかった。…つまりはもう殆どカイルとの時間がとれないという事だ。

「暗くて歩きにくいじゃないですか! 今日は月もあんまり大きくないですし!今日は三日月でしたか!?」

八つ当たり紛れに窓を開けて身を乗り出すと、消えそうなくらいの大きさの月が何とか見える。

「ぅぐ〜〜ッ(怒)」

月に向かって吼えてやろうかと思ったその時、ふいに何か音が微かに耳に届いた。

 

小さく響く声。

 

 ―――夕闇迫る雲の上…

 

風に乗って歌声が響いてきていた。

 

 …いつも一羽で…

 

…綺麗な歌声だが、物悲しいようにも聞こえるメロディが妙に耳に残った。

どこかでその歌声を聞いた覚えがあった気がしたからだ。

「………?」

 

 …空を舞うような悲しさを…

 

耳を澄ませて聞いてみたが、途切れがちに幾度か同じようなメロディが繰り返され、その内にその声は止んでしまっていた。

誰とも判断がつかなかったことには、怪訝に感じたが、とりあえず部屋に戻るのが先だ。

カナタは首を傾げながらも、足早に自室への道を進んでいった。

 

 

 

 

「戻りましたーーー♪♪」

「お疲れ様?」

部屋に戻るとカイルが本から顔を上げ、少し微笑を浮かべてそう言葉を返してくれた。

自分を待ってくれていたのだと思うと、それだけで即座に磨り減った神経が回復するような気がする。

「カイルさん〜〜〜〜vvvv」

思いっきり抱きつき、思う存分ハグをかまして満足すると、ふとしたことに気がついて動きを止めた。

「あれ?カイカさんは留守ですか?」

「カイカさんなら、ちょっとお散歩するって外に行ったよ…?」

「危なくないですか〜?;」

「カナタ…;」

カイカさんはそんな子供じゃないんだから…と、カイルが言っていると、その話題の主がそっと戻ってきた。

ただいま、というように頭を一つ下げると、ちょこんとベッドの橋に腰掛ける。

「…」

いつもどおりの無表情ながらも、…どことなく気配が違うような気がした。

「どこか行ってたんですか?」

「?」

小首を傾げるカイカ。

質問の意図が分からないときは、大抵この反応だ。

答えを聞くためには、もっと詳しく問いかけをしなければならないが…カナタにも何を聞きたいのか分からない。

「…夜は冷えますから、気をつけてくださいね〜?」

そう答えを濁してカイカに言う。

カイカは頷くばかりだった。

 

 

 

 

 

「あ”〜〜〜〜(怒)今日も終わりませんーーー(怒)」

「自業自得でしょう。さっさと手を動かしてもらおう」

「…正軍師がもっと有能なヤツならこんなに仕事ないと思うのに…(ぼそっ>怒)」

「なッ…!(怒)」

「まあまあっ!二人とも!…窓を開けて、風を通しますから;」

室内に閉じ込められ、いい加減お互い切れそうになっているカナタとシュウを宥め、クラウスが窓を開く。

頭を冷やしてくださいという意味だろう。

そう理性では理解していても、簡単に落ち着けるようなら苦労はしない。

「う〜〜(怒)」

羽ペンを指で遊びつつ、書類の上に無駄なラクガキを書き綴る。

ひやりと冷えた夜気が頬を撫で、ふいに小さな声が聞こえた。

「あ。」

「カナタ様?」

また昨日の歌だ。

 

 …色も霞んだ雨の中…

 …薄桃色の花びらを…愛でてくれる手もなくて…

 

ほんの小さくだが、昨日よりもまだハッキリと聞き取れた。

「クラウスさんーこの歌、何だか分かりますか??」

「さあ…私には分かりませんが、この辺りの歌ではないことは確かですね、」

「う〜ん??」

 

 …雨に打たれる切なさを…

 

―――何だろう?

この歌は、とても…

 

「っいい加減書類にサインをしてもらおうかッ!!」

「あ”ーーーーーー!!(怒)うっさいですーーーー!!聞こえないじゃないですかーーーッッ!!」

 

シュウの罵声をきっかけに、ドカーン!ガシャーーン!!と(我慢の限界を迎えて)暴れたため、いつの間にか歌は止んでしまっていた。

 

 

 

 

おかげで昨日よりも遅くに部屋に戻る羽目になった…。

 

「カナタ、おかえり」

「ただいまです〜;」

「…おかえり」

カイルの声と、今日は部屋にいたのか、カイカからも挨拶の言葉が送られた。

「カイカさん、…あ。」

 

そして、その声を聞いたとき、あ。と気がついたのだ。

 

 

 

 

 

 

次の日も、カイカは唄っていた。

月明かりもないくらい屋上で、

独りカイカは唄っていた。

 

 ――人影絶えた野の道を…私と共に歩んでる…

 …あなたもきっと寂しかろう

 

「…………」

 

 

カイルにも深い傷がある。

親しい人を亡くした、深い傷、

―――その中の一人、カイルの親友だという人物は、カイカにとっても大切な人だったらしい。

誰も彼もが過去の者となってしまった世界で、再び会えるかもしれなかった人物。

その死が分かってからも、カイカは平常のように振舞っていた。

殆ど誰も知るものもない、異境の中で独り。

―――カイカを残し、皆逝ってしまったから。

 

 …虫の囁く草原を…共に道行く人だけど…

 …絶えて物言う…こともなく

 

少しうぬぼれていいのなら、この戦いで自信が命を落とせば、きっとカイルも………独りになる。

誰もいなくなった独りの世界…。

 

 心を何にたとえよう…一人道行くこの心…

 心を何にたとえよう…一人ぼっちの寂しさを…

 

―――自分の手を見つめ、思う。

この手に宿るのが、全ての事象の始まりだという紋章なら…

少しでも道があるというのならば―――

 

大切な人を…還してあげたい、

 

「…ちょっとホンキで頑張ってみますかー…」

 

後。大切な人を二人も置いて逝ったというヤツを一発殴ってみたいから。

カイルさんには怒られますケド、と肩をすくめながらカナタはその場から背を向けた。

 

 

 

悲しい唄は、もう聞きたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

カイカさんに『テ●ー唄』を唄わせたかったダケv(吐血)

悶え死にますNE!(ギリギリだーっ!;)

訴えるのは禁止の方向で☆

ぶっちゃけ恥ずかしいので隠し!(血反吐)