「泳げない?」
「うん。」
テッドの問いかけに、カイルは首を縦に振った。
勿論、泳げないのはカイルではなく、カナタだ。
「………」
テッドは少し考えて口を開く。
「…この城の裏手、湖だよな?」
「うん?」
「もしかしたら、水上戦とかあるかもしれないよな?」
「…うん。」
「船が沈んだら?」
「…溺れる、ね。(汗)」
「船での移動もしてるだろうし…もし、船から落ちたら?」
「…溺れる(汗)」
「………泳ぎ方覚えさせといた方がいいんじゃないのか?;」
「………そうだね…;」
溺死はしないと思うけど、とは両者共に思ったことだったが。
ふと、テッドは何かを思いついたように瞳を光らせた。
「カイカなら教え方が上手いぜ!」
「あ、じゃあカイカさんにお願いしようか?」
笑顔のテッドにつられ、カイルも笑顔でそう言った。…裏があるとは全く思わずに。
「絶対嫌ですーーーー!!!!(怒泣)」
グルグル巻きにされたカナタが、小船の上で絶叫していた。
傍目から見ると、まさに湖に沈められに行っているように見える。というか、そうにしか見えない。
しかし、今少年は、泳ぎ方を教わる為に強制連行をされているだけなのだ。
「アレです!!;カナヅチは個性です!個性を潰そうなんてことはやめた方がいいですよ!?ゆとり教育ですよ!?;」
溺れるという恐怖にか、カナタは思いっきり混乱している。
「泳げるようになってた方がいいと思うから…; …カナタ、よく溺れてるし…(汗)」
「泳げなくたっていいんです!!;溺れたって生き残ってみせます!というか、泳げなくても泳げるようになる道具とか作ります!!こうっ『テキ●ー灯』とか!!」
未来の国から来たいらしい。
「大体泳げるようにならないと、カイルが溺れた時にも助けられないだろ」
「その時は湖底を歩いてでも助けますー!(怒泣)」
最終手段のカイルの名を使っても、カナタは承諾せず、もう本人の意思を無視して特訓は行われることとなった…。
「…カイカ、もういいから行ってくれ。」
「…(こっくり)」
「ギャー!鬼ー!!(怒泣)」
黙って待っていたカイカは、無表情に見える顔で頷き、少し離れた場所へと船を漕ぎ出した。(…あまり漕ぐのはうまくないのか、微妙に蛇行している。)
ギャースギャース!;と騒ぐカナタは、抵抗も出来ずに湖上へと運ばれていく…。
「カナター;最初は、ここまで戻ってくればいいから…;」
「オレもそいつに泳ぎ方教わったから、すぐに覚えられる筈だー」
岸からそう声をかける2人に、カナタが何か言っているが…それも何かわからない程の距離になっている。
湖面に足をつけ、(あの煩さでは、釣りをしながら待つにしても魚は全部逃げてしまっている、)2人はじっとカイカとカナタの様子を伺う。
…簀巻きになったカナタの縄を、カイカが剣で切り落とす。
そして何か一言喋り、カナタが叫びかけた後―――――湖に投げ込んだ。
「………え?;」
「海上騎士団方式だってさ。」
思わず目を疑うカイルだったが、テッドは予測済みだったのか呑気に竹筒から水を飲んでいる。…確か、間違いなく着衣のまま水中に投げ込まれた気がする。
「ふ、服も着たまま!?;」
「…最終的には装備つけたままらしいぞ。」
遠い目になるテッドに、カイルは彼の過去の一端を知ったり知らなかったりしたが―――今はそれどころではないだろう。
カイルの悲鳴が上がる中、湖面にはカナタ(落ちた瞬間沈んだ)の最後の一泡が浮かんだ…。
―――まあ、たまにはテッドが勝つ日があってもいいだろう。
「納得いきませーん!!ゲホガハッッ!!;(怒)」
「…もういっかい。(訳:もう一度挑戦してみよう)」
「もう嫌ですー!(怒泣)」
しかし、やはりカナタは泳げるようにはならなかった。