例えば君が…

 

 

 

夜が来る―――――

静かな――――――

 

 

 

 

 

 

闇だけが満ちた部屋

何も起こるはずのない空間で、身じろぐ気配がする。

 

「………」

 

ゆっくりとした動作で身を起こすと隣に目をやる。

隣には、少年が眠っている。

 

 

――――『カナタ』

そう呼ばれている者。

 

 

カイルはゆっくりと手を伸ばす。

漆黒の瞳、いつも穏やかな色を宿すそこに、今は暗く澱んだ光があるように見えた。

 

生暖かな奇妙な空気

異質の気配

 

カイルは自らの右手――――――…呪われし紋章の宿る右手を見つめる。

自我のない闇の瞳。それが右手から隣の少年に移る……

 

右手から放出されるオーラ

それが、カイルの全身に纏いつく

 

明確な意志を持って、死の闇がカナタにも近付こうとした。

右手が、少年の首にかかる。

 

 

 

 

 

それに力がこもる瞬間――――――――…

 

 

 

 

 

「ダメですよ、」

 

 

 

 

 

少年の瞳が開かれる。

大地の色をした強い目を見た直後

体勢が逆転した

 

 

「―――――!」

「カイルさんになら、殺されてもいいですけど、アンタに殺される訳には行かないんです」

 

右手から溢れる黒いオーラが怯んだような動きを見せた。

「もう少し、眠ってて下さい」

カナタはそのまま片手でカイルの両腕を頭の上でまとめると、無理矢理右手を重ね合わす。

少年が放つ光が、押さえ込むようにソウルイーターを包み始める。

幾度か抵抗するようにソウルイーターから黒い光が洩れたが、それもすぐ納まった………

急速に、カイルの身体から力が抜け落ちるのがわかる。細い肢体が、ベッドに沈んだ…。

 

――――――空気が変わった。

もう何の異質感のない闇に……………

 

 

 

カナタは、息をつくと、窓を開ける為に床に足を降ろした。

「………ふぁ。」

 

以前から何度も繰り替えされる行為…

ソウルイーター自身からの警告……………

 

「そんなに、僕が目障りなんですかね、」

この紋章。

と呟きながら、窓を開け放ちベッドに戻る。

窓に背を向けた瞬間、涼やかな風が頬を掠めた

 

「僕も諦める気ないですけど。」

 

カイルの隣に潜り込む

「――――、」

そして、何かを独りごちるように呟くと、再び何事もなかったように目を瞑る。

 

そう、これは夢だ。

誰の記憶にも残らない…

本人が知れば、『悪夢』であるはずの――――――…

 

 

 

 

 

 

少年は眠りに落ちる…

――――――再び繰り替えされるであろう行為を予測して……………