シードのニガテ

 

明け方、まだ城内が寝静まっている中、一人の人物が起き出していた。

ごそごそとベットの中から這い出ている人物がいた。

彼を知る人には考えられない程の早起きである。 しかし、その表情は冴えておらず、不機嫌のオーラが醸し出されていた。

「う゛〜〜〜、最悪だ……」

右の頬を押さえ、呻き声を上げている。

「……クルガンにだけはばれないようにしないと…」

ポツリとそう呟くと枕を抱きかかえ、再び暖かい布団の中へと、潜り込んだ。

 

「シード様の様子がおかしいんです」

ハイランドが誇る知将、クルガンの元へシードの補佐官であるジェイドが急用とのことで尋ねてきたのでが、その実、シードに関することの相談であった。

「あいつがおかしいのは今に始まったことではなかろう」

酷いことを冷たく言い放つとクルガンは再び書類へと視線を戻した。

「しかし…朝食も昼食もお取りにならないのです!!これはもう、天変地異の前触れ としかいいようがありません!!」

クルガンに負けず劣らずひどいことを言うジェイド。

しかし、彼なりの心配の表れなのである。

「ふむ、二食も抜いた、と?」

少々驚きを露にして

――といってもはたからは全くわからないが――クルガンが問い返した。

「はい…」

「確かにそれはおかしいな…」

暫し考えた後、クルガンは持っていた書類を置くと小さく嘆息した。

「クルガン様、書類の方は私が何とか致しますので、お願いします」

今にも泣きそうな顔をしているジェイドに書類を手渡した。

「目は通してある…」

そう告げて部屋を出て行こうとする。

「あっ!!クルガン様、シード様は今…」

「訓練場、だな?」

「え?あ、はい!!お願い致します!!」

クルガンに一礼をする。

と同時にふとした疑問が頭を掠める。

「あれ???なんでシード様が訓練場にいることを???」

この時間、シードは昼休みのはずだったのだが、突然訓練を始めるといって、訓練場に出向いたのであった。

小首を傾げながらジェイドは深く考えないでおこう。

と仕事に意識を戻した。

 

(全くあいつは他人に迷惑ばかりかけて…。しかし、朝食の昼食も取っていないとは…?…まさか…)

訓練場へと向かわせていた足を止め、暫し考え込む。

そして、クルガンは自身が推理したシードの変調の理由(ほぼ当たっていると断定)を思い、楽しげにニヤリと笑った。

 

「次!んなへっぴり腰じゃあ、死ぬのが早まるだけだぜ!!」

兵士達の手合わせをしながら苛々とした様子でシードが怒鳴る。

「一体どうしたんだ?シード将軍、今日は随分と機嫌が悪いよな…」

「さあ、クルガン様と喧嘩でもなさったとか?」

先ほどからのシードによるめちゃくちゃな訓練により、ぼろぼろになりながらも、ぼそぼそと兵士達が陰口を叩く。

「てめーら、無駄口を叩く元気があるなら今度は本気で相手してやろうか!!」

『い、いえ!!何もありません!!!』

聞こえていたなんて…といった風に兵士達は全員青くなり、首を横に振った。

 

「そう八当たりしてやるな、シード」

「ク、クルガン・・・・・・!!」

ぎぎぃっと強張らせた顔を声のした方へ向けると、想像した通りの人物がそこに立っていた。

(何でこいつがここにいんだああぁぁぁああぁ〜〜〜〜〜!!!!!)

心の中で大絶叫しながら平静を装おうとする。

「よ、よう、ど・・・どうしたんだよ、お前、仕事中じゃなかったのかよ?」

引き攣ったままの顔で必死にこの場を切り抜けようとするシードを見て、クルガンは思わず噴出しそうになった。

(嘘のつけん奴め…)

「お前が二食も抜いた、様子がおかしいとジェイドに泣きつかれてな」

そう言ってくくくっと笑う。

「・・・・・・ジェイド・・・・・・」

(よっけ〜なことしやがってぇぇ〜〜〜!!!!!)

拳を握り締め、肩を震わせるシードを見て、その場にいた兵士達は退散し始めた。

(良い選択だな…)

そう思いつつ、意識はシードに置く。

「で?医者には行ったのか?」

最早誰一人としていなくなった訓練場で二人は対峙していた。

「お、俺はどこも悪くねーよっ!!」

半歩後退りながらシードが答える。

「ならば何故私の目を見て話さんのだ?」

クルガンが詰め寄る。

「う゛っ」

「まだ目が泳いでいるぞ?」

クルガンは素早くシードの顎を掴み、自分の方を向かせる。

「………………」

(ううっ、何か…何か言わねーと余計怪しまれるっ!!!何か〜〜〜〜〜!!!)

(この顔は言い訳を考えている時の顔だな…)

「お前の言い訳は聞かん、さっさと病院に行って来い。そう、歯医者にな」

ぎっくぅっ

「なっ!!く、・・・!!!!!!」

「何故わかったか?」

コクコクと頷くシードに クルガンはニヤリと笑って、言った。

「お前はお子様だからな…ちゃんと歯医者に行ってこれたら教えてやらんこともない」

「なんだよっ、それっ!!俺はお子様じゃねーよっ!!!は、歯医者なんか、べ、別 に怖かねーよっ!!」

「どもっているぞ・・・」

「…………………………………」

シードの顔から血の気が引いた。

「まさかとは思っていたが…シード、お前本当に歯医者が怖いのか?」

「こ、怖かねーって言ってんだろっ!こ、こら、人の話を聞けっ!!!」

ムキになって怒鳴るシードをよそにクルガンは考え始める。

(ふむ、仕方がないな…)

「シード・・・」

「な、なんだよ・・・」

突然クルガンが真剣な面持ちで口を開いたため思わずどもる。

「もし、お前がちゃんとは医者に行ってこれたならば…」

「………ならば?」

ぐいっと、シードを引き寄せ、耳元で囁く。

「今夜は優しくしてやっても良いぞ?」

ぴきっ

「・・・な、何考えてんだこのエロジジイィィィィ〜〜〜〜〜!!!!!」

シードの放った『大爆発』により、訓練場が崩壊寸前となったのは、言うまでもないであろう…。

 

                                                END

 

後書き

いやはや、昔の作品は恥ずかしいですね…。(///)

何やら、自分の作品ではないような気がして仕方がないです…。(笑)

これ、友人には大ウケだったのですが、どうでしょうか?

確か…海月の歯医者に着いて行った翌日に書いた記憶が…。(^−^;)←どうよ、海月…。

しかし・・・なくしたと思ったものが…、今更出てくるとは思わなかった…。(汗)

まあ、暇があれば『2』も書きたいかも…。裏にあらず…。(爆笑)