シードの苦手2

 

「シード、往生際が悪いぞ!」

二の腕を掴み、自室から引っ張り出そうとするクルガンに連れていかれまいと柱にしがみ付くシード。

「俺は歯なんか悪くねぇってば!!」

頑丈なはずの柱がミシミシと悲鳴を上げる。

(ここまで訓練場のようにするわけにいかん……)

クルガンは数刻前のことを思い出し、シードから一旦手を放す。

―――数刻前、クルガンがシードをからかったが為に訓練場はそれはそれは酷い有様である。

只単にからかった、それだけのように思えても、相手は猛将と称せられるシード。

因みにどのくらい酷い有様かというと、最早、原型は留めておらず、何が建っていたかと言う事などわからないくらいに、である。

そして二人は上官であるソロン・ジーに2時間の説教をくらった上、始末書を書いて来い!!と言われたのであった。

 

「シード、これ以上私の仕事を増やすな」

「べ、別に増やしてねーよ」

そう言ってそっぽを向く。

「………………シード…」

額に青筋を浮かべ、諌めるクルガンに少々怯みつつもシードが反論する。

「大体俺がどうなろうとお前には知ったこっちゃねーだろっ!!」

ぴくっ

クルガンの片眉が跳ねあがる。

「なんだよ…虫歯くらい…」

ぴくぴくっ

「…そうか、わかった」

「えっ!?」

一瞬顔を輝かせたシードであったが、次の瞬間には一転してその顔を曇らせた。

「そこまで言うのならば今後一切お前に関わりを持たん」

冷たい目でシードを一瞥するとクルガンは踵を返し、部屋の出口へと向かう。

「えっ…く、クルガン?待てよっ!!」

慌てて呼びとめるが、クルガンはシードの声など聞こえないかの様に振り向きもせず、部屋から出て行ってしまった。

「う、うそだろ〜〜〜〜」

閉ざされた扉を暫し呆然と眺めていたシードだったが、呟きざまにクルガンを追って部屋から飛び出した。

 

暫らく走るとすぐに見なれた背中を見つけ、シードはその背に向かって大声で声をかけた。

「クルガン!!なあ、おいってばっ!!」

全く振り向きもせずに行ってしまうクルガンにシードは不安を覚えた。

急いでクルガンの横に並ぶとシードは素直に謝った。

「クルガン、悪かったよ、俺が悪かった!!ごめん!!!」

「何のことだ」

返ってきた返事は素っ気無い上、歩調を速められる。

その態度にシードはムッときて、シードはクルガンの前に立ちふさがると、怒鳴った。

「人が素直に謝ってんのにその態度はねーんじゃねーのかっ!!」

真っ直ぐな目でクルガンを見てくるシードに冷ややかに言う。

「お前が勝手に謝っているだけであろう、第一、それが謝罪の態度か?」

そう言ってシードの脇を抜け、自室へと入って行く。

シードもその後に続く。

「じゃあ、どうしたらいいんだよ…どうしたら許してくれんだよ…」

しゅんとしてシードが問いかける。

「知らんな、それよりも、用が無いならば早く出ていったらどうだ」

許すつもりは無いといったクルガンの冷ややかな態度にシードは胸が痛んだ。

半ば泣きそうな表情で懇願する。

「ごめん…ちゃんと謝るから…」

「……………………」

クルガンはカウスに腰掛け、目を瞑ったまま身動きしようとしなかった。

「お前に迷惑も心配もかけないから…」

「……………………」

「ちゃんと歯医者に行ってくるから…」

(うう、マジで泣きそう…)

「……………………」

「ちゃんと…見てもらってくるから…」

涙が溢れそうになり、シードはぎゅっと眼を瞑った。

「シード…」

クルガンに名を呼ばれ、弾かれたように顔を上げるとクルガンに抱きすくめられた。

「クルガン…」

「悪かった…冷たくして…」

シードの柔らかな髪を梳きながら、先ほどまでの冷たさが微塵も感じられない優しい声音でクルガンが囁く。

シードはクルガンの胸の中でもういいといった感じで首を振り、その背に手を廻した。

(クルガン……)

「シード…」

クルガンの手がシードの頬に触れ、触れるだけの口付けを送る。

それが次第に深いものへと変わり、クルガンの舌がシードの歯列をなぞった瞬間―――――

「いってえええぇぇえぇぇぇ〜〜〜〜〜!!!!!」

シードの絶叫が上がった。

「当たり前だ」

頬を押さえ、蹲るシードにクルガンがしれっとして答える。

「てめっ、わざとしやがったなっ!!」

「さあな」

涙目になりながら怒声を浴びせるシードにクルガンはニヤリと藁って答える。

そんなクルガンの態度に頭にきたシードが食って掛かる。

「てっめぇ〜、治ったら覚えてやがれ!!!」

「おお、そうだったな、歯医者に行って治療してくるのであったな、確かにそう行った筈だな」

「……げっ…」

「男に二言は無いな」

ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるクルガンを見たそのとき、シードは初めて自分がはめられた事に気が付いた。

(し…しまったあああぁぁぁあぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!)

「おお、もう予約は入れておいたからな、今から行けば兆度良い時刻だ」

「………………………」

「行くぞ、シード」

 

その日、放心状態の猛将をずるずる引っ張って歯医者に行く知将を見たものがいたとかいないとか…。

                                                END

 

 

 

☆おまけ☆

「やっぱりいやだあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

がっしゃあ〜〜〜ん

「うわあああぁぁぁ!!!!!」

「きゃあああぁぁぁ!!!!!」

歯医者についた途端、正気に返ったシードが治療を受けまいと、必死に抵抗する。

「いい加減にしろ、シード」

半泣き状態で暴れるシードを押さえつけるクルガン。

シードの治療に当たった不幸な歯医者と看護婦が遠巻きにそれを見ている。

「さあ、今のうちに治療をしてください」

ロープで雁字搦めにし、猿轡をくわえさせ、シードを黙らせたクルガンが歯医者に治療を促す。

「むぐ〜〜〜〜〜(いやだああぁぁぁ〜〜〜)!!!!!」

「しかし、口が塞がっていては治療の施し様がありません」

「紋章を使うもので…麻酔でも打ってもらえるでしょうか」

「むぐっ(何っ)!!!???」

「あっ、そうですね、麻酔の用意をっ!!」

「はいっ!!」

歯医者の指示で看護婦が急いで麻酔の用意をする。

「あ、猛獣用の麻酔で・・・」

「んむむむむむ〜〜〜〜〜(むちゃくちゃ言うなクルガン〜〜〜〜〜)!!!!!」

 

こうして治療は行われたとさ…。 ちゃんちゃん♪

 

 

 

後書き

最近誤字脱字が多いです。しかし、その中で面白いものを発見したりします。←実はこっていたりして…(笑)

一番面白い誤字は『口付け』が『栗付け』になったこと…。(死)

私的には全然OKですが、友人曰く「甘々LOVE×2砂吐き…。」だそうで…。(^−^;)

全然関係ないけれど、この友人に出会ってから1年間A型だと思われていました…。

それにしても、打っていて昔の作品ほど恥ずかしいものはないと痛感…。(爆死