I wish you a merry Christmas!

 「寒っ……」

 会場を出た途端、刺すような冷たい北風が青年の身体を凍てつかせた。
 身震いする身体とは対照的に紅い髪が踊るように靡く。
 まるで、自由を喜ぶかのように…。

 慣れない礼服。
 慣れない群集。
 慣れない社交辞令…。

 「うんざりだよ…」

 後ろを見ると先ほどまで自分がいたパーティーの会場が闇夜に浮かぶようにその煌びやかな外装を誇っていた。 そして、その中では外装に負けぬ豪華なパーティーが催されていた。
 しかし、青年―――シードは戻る気など更々なかった。
 いくらパーティーが豪華であろうと、室温が温かろうと、そこにいる人間同士のやり取りに垣間見えるものは北風より冷たいもので、元来王侯貴族との付き合いを苦手とする彼にとっては何よりも居心地が悪いのであった。
 そうはいっても、将軍職につく者として出席しないわけにもいかず、幼少の頃習った通りある程度会場に留まり、義理だけ済ますと隙を見てふけて来たのであった。

 (あいつは怒るかな?それとも呆れるかな?)

 パーティー会場に於いて来た相棒の顔を思い浮かべ、くすくすと笑う。
 常に隣にいる相棒がご婦人方に掴まり、ダンスを強要されているのを横目に出てきた。
 いや、正直に言うと見たくなかったのだ。
 相棒が才色兼備の貴族令嬢や未亡人と踊っている所を…。
 だからそっと抜け出してきた。

 愛想だとわかっていても自分以外の者に笑いかけるところを見たくない。
 義理だとわかっていても自分以外の者の腰に手を回しているところを見たくない。

 わかっていた、わかっている…自分の一人よがりな我侭だという事を…。
 相手の貴族令嬢、未亡人に嫉妬するのもお門違いだという事も…。
 しかし、わかっていても自分だけを見ていて欲しい。
 自分のことだけを想って、考えて、気にしていて欲しい…。

 (どうかしてるぜ…)

 自嘲気味に笑うと蝶ネクタイを乱暴にもぎ取り、踵を返した。

 「さて、と…これからどうしようかな?」

 コートは会場だ。
 目立つ格好で街中を歩く事に抵抗を感じたが、寒さには勝てまい。
 当初の予定通り行き付けの酒場に行くことにし、シードはその足を城下へ向け、踏み出した。と、ふわりと暖かいものがシードを包み込んだ。
 会場に置いて来た筈の自分のコート。
 振り向くとクルガンが呆れ顔でこちらを見ていた。

 「そんな格好で出歩くと風邪を引くぞ…」

 「クルガン…」

 驚きを隠せず、思わず目を見開く。

 「何を呆けた顔をしている。このような所、義理を済ませた以上長居する必要はない。さっさと帰るぞ…」

 そう言うとクルガンはシードの返事も待たずに歩き出した。その背を見たシードの口元に笑みが零れた。

 「クルガン!!」

 呼ばれて振り返った相棒に飛びきりの笑顔を向け―――。

 Merry Christmas

 いつの間にか振り出した雪が二人の足跡を消してくれた…。


END

 

†言い訳(撲殺)†

以前、露城琉那様に捧げたクルシーSSです。
露城様、このようなへタレを押し付けてしまってすみませんでした。(汗)
ふふふ、DATEが消えたっ!!!と思っていたのに…
おかしな…今頃になって出てきました…。(爆死)
これは…パソコン一回洗い浚い見てみないと…。(真剣)
もしかすると他にも埋もれたSSが出てくるかも…。(苦笑)

深海紺碧