傍らに…〜side.主坊〜

 

 

蒸し暑い、夏の夜。
風は生暖かく、じっとりとした汗が肌に纏わり付いている。
テラスに出ると、そこから見える湖によって、少しだけ涼しさが感じられた。

「カイルさん…」

深い闇。
その中に消えてしまいそうな背中に向かって、僕は恐る恐る呼び掛けた。

「………カナタ」

ゆっくりと、愛しい人が振り返る。
驚いたように見開いた瞳がとても綺麗で、思わず言葉を失った。

「どうしたの?」

カイルさんの言葉にはっとする。
それは僕が言う筈だった台詞。
こくんっとその言葉を飲み込んで、僕はカイルさんの傍に立つ。

「触れても、いいですか?」

いつもならば聞かない。
僕は相手の都合お構い無しに抱き着く。
けれど今日はそれが出来なくて…思わずその言葉を口にしていた。
暫く、じっと僕を見つめていた漆黒の瞳がふいっと前を向くと同時に、首が縦に振られる。
そして、その頬に珠が走る。それがとても嬉しくて、笑みが零れた。

「…ありがとうございます」

ゆっくりとした動作で、僕はカイルさんを抱きしめる。
まるで、縋り付くように。

「終わった、ね」

呟かれた言葉に、ぎゅっと目を閉じた。

「………貴方がいれば、それでいい…」

血を吐くように告げた言葉は本心で、強がりで…。
涙が僕の頬を伝った。

 

 

 

バッドエンディング設定です。
はい、駄文です。
ナナミもジョウイもいなくなってしまったけど、坊ちゃんさえいればいいって言う2主。
カナタとカイルだけど、雰囲気が全然違いますねぇ…。(遠い目)
海月に捧げます。

 

深海紺碧