面接
「はぁー、ここがニューリーフ学園かぁ。」
雲一つない真っ青な空をバックにそびえ建つ白い建物を前にぼんやりと呟く。
彼の名はシード。整った綺麗な顔、真紅の瞳そして何よりも人を引き付ける赤い髪を風になびかせ、校門の前に立っている。「今日の面接に通ったら4月からここの生徒かぁ……。うっしゃあ、頑張るぞッ!!」
ガッツポーズをとって張り切る彼をまわりの人間は見ない振りをして通り過ぎてゆく。
「ふぇ〜、広いな〜〜。」
人の流れにそって行きつつ、自分の待ち合い室を探そうとキョロキョロと辺りを見回していると、横にいた少年と目が合う。
少年は人懐っこそうな笑顔を浮かべて話しかけて来た。「きみも面接?」
「ん、まーな。そっちもだろ?」
「うん。僕はカスイ。カスイ=撒くド0ル。よろしく。」
「俺はシード。よろしくな!」
ニパッと笑って挨拶を返す。
「しっかし、カスイが一緒でよかったぜ。俺1人じゃこのただっ広い建物の中から面 接会場なんか見つけられなかったろ〜な。」
カラカラ笑いながらシードが言う。
あの後気が合った2人は目的地も一緒という事も手伝い、和気藹々として、行動を共にしたのであった。「でも、僕方向オンチなんだけどね。」
「またまた〜、ちゃんとついたじゃねーか。」
「うん、グレ…ここの先生に地図を作ってもらったんだ。」
「?知り合いなのか?」
「えっ、あ…う、うんまあね。」
しどろもどろな返事をするカスイを不審に思いながらもまあイイヤといういい加減さで片付けるシード。
「ちょっと注目して下さい。」
パンパンと手を叩きながら、先生らしき人が教室に入って来る。
「え〜、今から面接を始めます。番号順に隣の教室に1人ずつ入って下さい。」
それだけ言うと先生は行ってしまった。
「………あの先生けっこう美人だったな。」
ヒュウと口笛を吹きながらシードが言うと、
「ふふふ、あの先生はテレーズ先生って言うのよ。」
いつのまにかシードの横に立っていた美少女(?)が口を挟む。
「のわ、びっくったぁ〜。へ〜テレーズ先生っていうのかぁー」
「ふふふ、相性占いしてあげましょうか?」
妖美に笑う美少女にシードは、
「ん、いい。俺美人は好きだけど別に恋してる訳じゃなし。でも、あんたも美人だよな。」
「俺はシード!んで、こっちがカスイ!よろしくな。」
「よろしく。」
「ふふふ、よろしくね。」
そう言うと女は去って行った、
「…変わった人だね。」
ぽつりとカスイが言う。
「そうか?俺はあんまりそうは思わねーけどな…。」
「…。シードって誰とでも友達になれるんだね。」
にっこりと、
「ん〜、それしか特技ねーんじゃねーのかな〜」
あはははは、と笑い返す。
「特技と言えば、シードは何で受けたの?」
「俺?俺は武道、剣技とかいったの。カスイは?」
「僕も、そういった関係だよ。」
ここでこのニューリーフ学園の入学試験の規定を説明します。
この学園の入試は一般入試、推薦入試そして、特別入試の3つがあるのだ。
一般入試はまあ、そのまま。推薦入試は、”五教科成績優秀者”の試験。
特別試験。これは、スポーツ、戦術、武術、剣術、体術 etc ようは勉強以外のものの成績優秀者による試験である。しかも試験と言っても試験らしい試験はなく、報告書と面 接だけで済まされてしまう。しかし、その面接が難関なのである。何故難関なのかというと……その、怖いのだ…面 接官が。皆、面接官の威圧に負けて押し黙ってしまうのだ。ベテラン教師が去年まで努めていたのだが、今年は4月から教職につくと言う内定が決まったばかりの新任の先生に任されたのだ。何故、そのような大切な役目を任されたかと言うと、ベテランの先生がギックリ腰で入院中なのである。面 接官の条件として、『怖そう』『厳しそう』『冷たそう』に見えて、なおかつ『無表情』である事である。幸か不幸かそれら全てにあてはまってしまったその新任は大学卒業後の貴重な休みの中、面 接官として狩り出されたのであった。特別に給料がもらえるとは言え、彼にとってはいい迷惑であった。
「今年の面接官って歴代1位ってくらい無表情で怖いらしいよ。」
「ふぅ〜ん。」
カスイの言葉に対して気にした様子もなくシードは相づちを打つ。
「ふぅ〜んって何とも思わないの?」
首を傾げながら尋ねてくるカスイにシードはあっけらかんと答える。
「ん〜、面接官が怖かろーが無表情だろーが落ちる時は落ちんだし、受かる時は受かんだろ。」
一瞬言葉を失ったカスイだったが
「君っておもしろいね。」
と、くすくす笑い始めた。
「俺、そんな変な事言ったか?」
きょとんとし、聞くシードにカスイは首を横に振り、僕とは違う考え方だから、と付け加えた。
「あ〜あ、まだかよ〜。」
カスイが面接に行ってしまい、話し相手がいなくなってしまったシードは暇を持て余していた。
「ヒマそうですね。」
「んあ?」
顔をあげるとにこにこと人当たりの良さそうな笑顔の少年が立っていた。
「ん、あんたもヒマなのか?」
「ええ、まあ。友人が今ちょうど面接室に入ってるんですよ。」
じゃあカスイはその次か。と思いながらふうんと生返事を返す。
「あんたは終わったのか?」
「ええ、あなたはまだですか?」
「ああ、俺は……もうちょっとかな。」
「面接官の噂、聞きました?」
手元の受験番号を見る。
「え、ああ、歴代1位の『冷徹鉄面皮』なんだろ。」
「ええ、噂に違わず、いやそれ以上なんじゃないでしょうか。」
「へー、そんなに無表情なのかぁ。」
面白い物を発見した、と言ったふうに瞳を輝かせるシードに少年は呆れたように言う。
「そんなに瞳を輝かせる程面白い話題ですか?」
「だってさ、『冷徹鉄面皮』とか『無表情』って崩してやりたくなんねぇ?」
ニヤッと笑って言うシードに、
「とても興味深い人ですね。私はカミューと言います。今面接を受けているのがマイクロトフです。以後よろしくお願いします。」
苦笑して言った。
「俺はシード、よろしく。」
廊下の椅子に座って自分の番を待ちながらシードはカスイやカミューマイクロトフの言った事を思いだしていた。
『噂以上の威圧感だったよ。』
『ああ、始終緊張しっぱなしだった。』
『私もいつもの笑顔が崩れそうになりましたよ。』
(……どうしようってフツーのヤツだったら思うんだろうななんで俺こんなわくわくしてんだろ。)
前に入って行った人物の緊張した青い顔を思いだしニヤニヤと笑う。
「失礼しました。」
パタン
入室する前より明らかに青白い顔をして出て来た少年は
「君の番だよ。」
と言うとふらふらとした足取りで去って行った。
「…手ありゃ落ちたな。」
頬を掻きながらポツリと言う。
(まぁ、人の事より自分の事、と。えっと、まずノック、と…。)
コンコン
「入れ。」
「失礼します。」
中に入ると面接官は下を向いて報告書に目を通していた。
2、3歩近寄って顔を見る。
端正な顔立ちだが……(嘘だろ?俺は23才って聞いたぞ?どう見たってこいつは30代ぐらいだろ?33才の聞き間違いだったのか?いや、でも新任って言ってたし………。)
様々な思考が飛び交い、軽いパニックを起こす。
「座れ。」
面接官の一言に我に返り言われた通り椅子に座る。
顔を上げると目が合った。(あれ?)
先程までのピリピリとした威圧感が和らいだような気がした。
(??? な、なんか…めちゃ見られてる?)
面接官は無言のままただじっとシードを見ている。
「あ、あの…。」
沈黙に耐えかねてシードが口を開く。
「お前で最後だったな。」
報告書を捲りながら何事もなかったように面接を再開する。
「え、あ、はい。」
(あ、あれ?)
本日何個目かわからない?マークを頭の上に浮かべながら返答する。
(……?聞いた話とずいぶん違うような気がする…。無表情は無表情なんだけどな…?雰囲気が聞いてたよりも柔らかいよーな?…それよりも……)
クルガンが質問し、シードが答えるごくごく普通の面接なのだが、
(それよりもこの状況をどーにかしろ!!)
面接官がシードから全く目を話さないので、シードも目を逸らせないでいた。
(つ、疲れる〜。これは疲れるぞ……)
額にじっとりと汗を浮かべ面接官と向き合う。
何分…いや何十分も経過しているようにも思えた。
「趣味は?」
「武術、剣術、スポーツ……です。」
「好きな教科は?」
「体育と戦術です。」
「最近の政治をどう思う?」
「……あんまし難しい事はわかんないけど、私利私欲の為に国民がいるのではないという事だけはわかります。」
「ふむ。では、私を見てどう思う。」
「無愛想で無表情。」
「………………。」
暫し流れる沈黙。
(し、しまったああ…つい本音が…!!)
頭を抱えて呻くシードを見て、面接官は苦笑した。
(なかなか面白いヤツがいたものだ。)
「では、次の質問だ、その髪は自毛か?」
「自毛です。だめ…ですか?」
(承諾書とかっていってんじゃなかったっけ?)
自分の気性とあっていたせいか、親譲りのこの髪と瞳の色をシードはいたく気に入っていた。
(ぜっったい、染めねーぞ!!)
シードのこの固い決意を裏切って返って来た答えは意外なものだった。
「いや、だめではない。染める必要もない。」
(へ?)
目を丸くして驚くシードに面接官は続けて。
「綺麗な色だ。」
一瞬の事だったので見間違いかと思ったが…
(笑った…!!)
驚きに目を見開いているシードに構わず、何事もなかったように次の質問を言う。
「この学校を選んだ理由は?」
「え、はい、親に勧められたのと、自分の力を試す絶好の場だから、です。」
「ほう、自分の力を試す…とは?」
「俺はもっともっと強くなりたいんです。その為には自分より強いヤツと手合わせするのが一番!…だからです。」
「なるほど、しかし勉強も頑張らねばな、」
苦笑しながら言った。
「う〜ん、俺はあまり勉強は好きじゃないし…。」
ぶつぶつと言って納得しかねるシードに面接官は、
「まあ、私が力になれる事があるなら協力してやるから、頑張れよ。私は社会科担当のクルガンだ。」
「えっ!?えと、ありがとう…ございます。」
しどろもどろにお礼を言うシード。
「少し長くなってしまったな。もういいぞ。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
シードが退室した後、クルガンは薄く笑った。
「面接官も悪くないな。これからの学校生活、退屈せずに済むな…。」
「どうでしたか?」
「すごい威圧感だと思いませんでしたか?」
「緊張しなかった?」
戻るなりシードは質問攻めにあった。
「なんか聞いてたのと違った……。」
「そう言えばシード殿だけ物凄く長かったですね。」
「最後だからじゃねーの?」
マイクロトフの問いにシードはあっさり答えるが、
「そうでしょうか?」
と訝しげにカミューが言う。
「で、どう違ったの?」
小首を傾げてカスイが尋ねる。
「う^ん、意外に親切だった。」
「「「え”!?」」」
「あと〜、笑ってくれたぜちょこっとだけど」
「「「え”え”っ!?」」」
「何だよそのリアクション…」
シードから10mは下がって驚いている一同をじと目で見る。
何はともあれ、面接は終了したのであった。