片思い

 

 

「ふああ、ねみぃ〜。こんな朝から軍事会議なんかしなくてもいいのによ〜。」

大欠伸をしながら会議室へと向かうシード。
廊下の角へ差し掛かった時、聞き慣れた名と聞き慣れた声が耳に入って来た。

「あ、あの、クルガン様。」

城のメイドがクルガンを呼び止めていた。

「何か用事か?軍事会議があるのだが?」

「こ、これを受け取って下さい!!」

メイドはそう言うと手に持っていた包みをクルガンに押し付けて走り去って行った。

「…私にこれをどうしろといのだか……。」

ポツリと呟きながらも包みを持ったまま歩き出すクルガン。

「ふ〜ん、クルガンってけっこーもてんだ……。って何で俺隠れて見てんだ…。」

ふぅっ
溜息を一つついて再び歩き出した。

「シード様〜!!」

自分の名を呼びバタバタと駆けよってくる兵士にシードは見覚えがあった。

(俺の隊の兵士だ。)

「シード様、お待ち下さい。」

「どうした、何があった。」

(まさか同盟軍が攻め込んで来たのか!?)

部下のあわてぶりに緊張が走るシード。

「シード様あなたが好きです!!」

「……………はあ!?」

突然の兵士の言葉にシードの頭は真っ白になった。

「シード様…。」

兵士がじりじりと近づいて来る。
手を握りしめられた時、シードは我に返った。

「俺に……俺に触れんじゃねーー!!」

「ぎゃああ〜!!」

 

ゴォー

 

シードの放った炎の紋章最大の『大爆発』が兵士に命中した。

「汚たねー手でさわんじゃねー!!(怒)」

ドカッ

兵士にケリを一発入れてスタスタとシードは会議室へと向かった。

(くっそぉ〜!おもしろくねぇ、おもしろくねぇ〜〜!!会議だし、男に告られるし、クルガンは…
  って、何でここでクルガンが出てくんだ…?あ〜も〜わけわんねー!!)

 

 

 

 

――――会議終了後

「ん〜、終わった終わったぁ〜〜。」

思いきり伸びをしながら退室するシード。

「シード。」

「ん、ああ、クルガン。何?」

振り向くシードにクルガンが耳打ちする。

「後で私の部屋に来い。」

そう言い終えると、クルガンは踵を返した。

「え、ちょっ、おい!」

何か言いかけるシードにクルガンは、

「わかったな。」

一言告げて行ってしまった。

「…なんなんだよ…あいつ…。」

(今朝メイドからプレゼント貰ってたくせに……。そういえば美人だったよな。小柄でスタイル良くて、髪、長くてサラサラッぽくて……って何考えてんだ俺は…。)

ぽりぽりと頭を掻きながらシードは自室へと戻って行った。

 

 

 

ボスッ

「だ〜、つ・か・れ・たぁ〜!!」

シードはベットに身体を投げ出し叫んだ。

「ふぅっ。」

溜息を一つついて、時計に目をやる。

「11時か。…そろそろ行くか。」

よっと勢いを付けて立ち上がる。
ドアノブに手を伸ばしかけた時、再び今朝の事を思い出す。

(クルガンのやつ受け取ってたけど…どーすんだろ。)

「あ〜も〜やめやめ!!んなこと俺の気にすることじゃねー!!」

頭を2、3度激しく振ってドアノブを掴んだ。

 

 

 

「よおっ、クルガンいるか?」

「…ノックをしろといつも言っているはずだが…。」

「んなかてーこと言う……。」

(あっ、そっか、あのメイドと最中だったら困るもんな。)

ズキン

「どうした?シード?」

「ん?い、いや何でもねー。」

(何で何で胸が痛むんだろう……。…腹減ってっからかな?)

「顔色が悪いぞ?」

そう言うなりクルガンはシードの額に自分の額をくっつけた。

ドキン

血が逆流しそうな感覚をシードは覚えた。ドクドクと心臓の音がドンドンと大きく早くなっていく。顔に体中の血が集まっていく、そんな感じがした。

(なっ、なんなんだよ、これ!!)

そう思った時、シードは反射的にクルガンを突き飛ばしていた。

「だ、大丈夫だ。何でもねーって言ってんだろ!!」

真っ赤な顔をしてまくしたてるシードを半ば呆然と見つめるクルガン。
暫しの沈黙後、シードが口を開いた。

「…悪りぃ。心配してくれたのに…」

「…いや、気にするな。…本当に大丈夫か?」

様子がおかしいシードを気遣ってか、クルガンはいつもより何倍も優しい口調で言った。

「本当に何もないんだ…。ただ……。」

「ただ?」

「ハラへった……。」

シードらしいといえばあまりにもシードらしい答えにクルガンは思わず笑った。

「ったく、お前というやつは。」

「しょ、しょーがねーじゃねぇか。もう昼なんだし。」

「しようのない奴だ。話の前に昼食にするか。」

「やっりー。メシメシ〜〜v」

とりあえず昼食をとる為に2人で部屋を出た。

(…クルガンの話ってなんなんだろ…?)

ふと、自分がクルガンの部屋に行った理由を思い返してみるがシードに思い当たる事はなかった。

「なあ、クルガン。」

「なんだ?」

「話って…なに?」

「…後で話す。それよりハラが減って仕方がなかったんじゃないのか?」

「そうそう!!早く行こーぜ!!」

 

 

 

「ふう、食った食った。」

幸せ気分で言うシード。

「お前は食べる時と眠る時と戦う時にしか生き甲斐を感じないのか?」

呆れたように言うクルガン。

「…お前失礼だぞ、他にも生き甲斐感じてるぞ!!」

「例えば?」

「う”っ…え〜と……遊ぶ時!!」

「………。」

ビシィとポーズを決め自信満々に言うシードにクルガンはこめかみを押さえて唸る。

「別にいーじゃねーか。俺の人生なんだしよ。」

やれやれといった感じで溜息をつくクルガン。
しかし、気を取り直すように真剣な顔でシードを見る。

「…本題に入っていいか?」

「…ああ…。」

(何だろう。何かしたか?遅刻はしてねーし、会議中も寝てねーし、後えーとえーと…。)

「お前今日どうしたんだ?」

「はぁ?」

予想していたものと全く違う質問にシードは思わず目を点にした。

「会議中に寝てなくて、大人しかっただろう。何かあったのか?」

クルガンに言われ、今朝あった事を思い出してみる。
言うべきか、言わぬべきか…。シードは迷った。
しかし、クルガンはそのシードの小さな迷いを見逃さなかった。

「何かあったんだな。言ってみろ。」

「……今朝……。」

「今朝?」

長い沈黙の後、シードが口を開く。

「今朝お前が、メイドからのプレゼントを受け取ってんのを見ただけだ。」

「…なんだ、そのことか。」

「な、そのことって…!!」

思わずカッとなるシードとは対照的にあくまでクールにクルガンは言った。

「?何故、お前が気にする必要があるんだ?」

そう言われシードは言葉に詰まった。

(そ、そうだよ…何で俺がその事気にしなくちゃいけないんだ?相棒…だから?ずっと一緒にいるから?)

シードが思考を巡らしているのにも関わらず、クルガンが言う。

「それに、そのことならばちゃんと返事をしておいた。」

ズキン

(なんでだ?胸が…痛い。)

「そ、そっか……。おめでとう。堅物のお前もついに彼女持ちかぁ。うらやましいぜ!!あーあ、俺もかっわいーい彼女が欲しいなぁー!!」

上擦った声で棒読みするようにシードは言った。と言うよりも、口から言葉が勝手に出て来た。

「シード?」

クルガンが吃驚したような顔をしてシードを見た。
二人の視線が合わさった瞬間、シードは目尻が熱くなるのを感じた。

「は、話ってそれだけだろ、じゃな。」

そう言うと凄い勢いでクルガンの部屋を飛び出していった。

「シード!!」

クルガンに呼ばれたような気がしたけれど、シードは一度も振り返らずひたすら走った。
一刻も早く一人になりたかった。

 

 

 

 

闇雲に走って来たシードだったが、気がつくと裏庭のいつもの場所へと来ていた。滅多に人の通 る事のないここは、シードの昼寝の場所だった。

(馬鹿だ…俺……。)

シードの目からとめどなく涙が溢れた。

「今頃気付くなんて…。」

――――クルガンが好きだなんてどうにもならないのに…。クルガンが自分の事を好きになってくれるはずがないのに……。ましてや、二人は男同士なのに……。

「あ…はは……」

シードの口から乾いた笑いが出る。

『?何故、お前が気にする必要があるんだ?』

『そのことならばちゃんと返事をしておいた。』

クルガンのセリフが頭の中でリピートする。

「うっ…ひっく…」

シードの口から嗚咽がもれる。

(ちくしょう!!何でよりにもよって…!!)

涙が止まらなかった。声を上げて泣きたかった…。

 

 

 

 

「…んっ、あ、あれ?俺……。」

泣き疲れ、寝てしまっていたらしく、シードが目覚めた時、太陽は傾いていた。
無言で夕日を見つめるシードだが、何かが頬を伝う。
―――涙。

「ははっ、一年分は泣いたと思ってんのにまだ出るぜ。本当…もう…重症だな。」

そう言って涙を拭う。
うっすらと見えている月がクルガンの顔を思い出す。

(クルガン変に思ったろうなぁ。後で…はまだ無理っぽいから、明日!明日の朝一番に謝りに行こう。心からおめでとうって、言おう!!)

そう心に決めて、シードは月を仰いだ。
その時、

「何だ、ここにいたのか。シード。探したんだぞ。」

ガサガサと木々を分け入って、クルガンが来た。

「クっクルガン…どうしてここ…に!!」

ドキン

シードの心臓が跳ね上がる。

「どうしたも、こうしたも…。お前が変な事言って出ていくから…。」

やれやれ、とクルガンはシードの横に腰を下ろす。

(クルガン。探してくれたのかエtん。あっ、い、言わないと…。)

「ク、クルガン。さっきは、悪かった!!反省してる。」

そう言って謝るシードにクルガンはポンポンと頭を叩いて言った。

「全くだ。人に彼女が出来たとか自分も彼女が欲しいやら。いきなり訳のわからん事を言って…。一体、今日はどうしたんだ…。」

「へっ?あのメイドと付き合うんじゃないのか???」

クルガンの言葉に目を点にして言うシード。
そんなシードにやや呆れ口調で言う。

「…人の話を最後まで聞いていけ。私は『断りの』 返事をしたんだ。」

「…ええっ!?で、でもプレゼント受け取ってたじゃねーか。」

はあ、と溜息をつくクルガン。

「あのように押し付けられて、走り去られたら持っておくしかなかろう。廊下を走るのは勿論、会議に遅れる訳にいかんだろう。後で断りの返事と共に返しておいた。」

「……………。」

驚きの余りボーゼンとするシード。

「?シード??」

「…はは、あははは!!お前らしい、お前らしすぎるぜ!!あはははは〜〜!!」

突然のシードの大笑いに今度はクルガンがボウゼンとなる。

「うん、いや、こっちの話…はははっ。」

「…なんだ、言ってみろ。」

訳がわからないといったふうにクルガンが言う。

「え、いや、…これだけは言えん!!」

頬を赤らめて、シードが言う。
ますますわからないといったふうのクルガン。

「そう言えば、何で断ったんだ?けっこう、美人でいい女だと思ったんだけど。」

思い出したように言うシード。
クルガンは慌てた様子もみせず、サラリと言った。

「何でって?本命がいるからに決まっているだろう。」

「………まじ?」

「私が嘘をついているとでも言いたいのか?」

いささかムッとした様子で言う。

「だ、だれ?俺の知ってるヤツ?」

「それは言えんな。」

勝ち誇ったように言うクルガン。

「……。教えてくれたっていいじゃねーか!」

クルガンを揺さぶりながら言う。

「おい、やめろ。」

「教えてくれるか?」

「絶対に教えん。」

クルガンの言葉にむくれるシード。

「あーそう、教えてくんねーんだ。お前にとって俺ってその程度なんだ。相棒だと思ってねーんだ!!」

しまった。と思ってももう止まらない。

「俺は、お前の事いい相棒だと思って……。」

言いかけた時、

「私はお前の事を相棒だなんて思った事は一度だってない!!」

シードは冷水を浴びせられたような感覚に見舞われる。
クルガンの言葉だけが頭の中で繰り返される。

「そ、そんなに嫌われてたのか…俺……。」

絞り出すように言葉を紡ぐ。

「ちがう!!そうではない!!」

「じゃあ…じゃあどういう意味なんだよ!!」

まくしたてるようにシードが言う。

「だ、だから…それは…。」

珍しくクルガンが言葉に詰まる。

「俺はお前を信じて、戦場でも命預けてる。それなのに…お前が俺を嫌ってたなんて……。」

グッと口唇を噛むシード。

「悪かったな。気がつかなくって……。」

そう言って走り去ろうとするシードの腕をクルガンが掴んだ。

「待て、シード。違うんだ。」

「触るな!!」

バシィッ

クルガンの手を思いっきり振り解いたまでは良かったが、勢いあまってその手がクルガンの頬に当たってしまった。

「っつ。」

「あっ……。」

凍り付くように立ち尽くす二人。
先に動いたのはクルガンだった。シードの腕を乱暴に掴むと自分の方へと引き寄せた。
シードが抗議の声を上げる。いや上げようとしたが叶わなかった。

(えっ…?)

シードの口唇にクルガンが己のそれを重ねていた。

「んっ……。」

シードが再び抗議の声を上げようとすると、クルガンの舌が進入して来た。
絡み付き、吸い上げる。
何度も何度も角度を変えながらクルガンはシードの口内を犯していく。
唾液が含み切れず、シードの口から溢れ、顎を伝う。

「はぁ…っ」

解放されたかと思うとまた塞がれる。

「ん…んん…。」

(クルガン…苦しい……。)

抵抗しようとするがクルガンのキスで体中の力が抜けてしまい、ろくな抵抗も出来ない。

(クル…ガン……、)

長い長いキスから解放されたシードは、もう抵抗する気さえおきず、クルガンの腕に包まれていた。
シードはキスの余韻で朦朧とした意識の中でクルガンの声を聞いた。

「シード……。」

クルガンの腕に力がこもる。そして、シードの耳元で囁いた。

「シード…愛している……。」

クルガンの言葉が甘い戦慄となり、シードの脳を犯す。

「んっ…。」

また、クルガンの口唇がおりてくる。

(クルガンが俺に愛していると言うなんて…、俺にキスするなんて…。夢なのか?現実なのか?)

夢見心地でいるシードをクルガンが解放した。

「……すまない…。ムリヤリ……。一生言うつもりはなかったのだが……。」

(……え?)

辛そうな顔でクルガンが続ける。

「犬に噛まれたとでも思って、忘れてくれ。…明日からは…いつも通りでいてくれ。」

そう言って寂しげに微笑むクルガンを見て、シードの中で何かが動いた。

「…んだ…れ…。」

「えっ?」

「なんだよ、それ!!」

そう言うなりシードはクルガンに噛み付くように口付けた。

「シード!?」

「…そんなのお前らしくねー。」

真っ赤になってそっぽを向くシードを抱きしめながらクルガンが言った。

「いいのか?」

「…何とも思ってなかったらキスなんかしねーよ。」

「ふむ。それもそうだな。」

「ふん。いつもの調子が出て来たじゃねーか。」

「そうだな。私らしくついでに、今夜、私のものにしてしまうか。」

「……言ってろ!」

ますます赤くなるシードに、深く、そして甘く口付ける。

「シード、愛している。」

「…俺も…。」

「じゃあ私の部屋に戻るとするか。」

そう言ってクルガンはシードの肩に手をかけた。

「しゃーねぇ、付き合ってやるよ。」

二人が去った後、月だけが淡い光を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ。

 

―――クルガンの部屋(ベッドの中)

「そう言えば、俺今朝って、もう昨日か。」

「?何があった?」

「俺の隊のヤツに告られて、大爆発とケリをお見舞いしてやったんだっけ。」

「ほう、お前の部隊のヤツ…。」

「…おい、目が据わってんぞ……。」

「大爆発とケリなんて生温い…。誰か教えろ。私がじきじきに調教してやろう。」

「……どうやって……?」(ドキドキ)

「そうだな…雷の嵐を3発食らわして…。」(考え込むように。)

「………。」

「ムチ打ち1万回に……。」

「………………………。」

「けり1万回に…、水攻め、火あぶり…他色々…だな。」

「…それ死ぬって、絶対。」