浮気

「クルガン!!」

昼食を食べ終え、激務をこなしていたクルガンの所にシードが駆け込んできた。

「今度は何だ?」

顔を上げぬまま呆れたようにクルガンが尋ねる。

「クルガン…」

部屋に入ったときとは対照的に黙ってクルガンの側に近づく。

「どうした?」

シードの様子がいつもと違う ことに気が付き、顔を上げる。

ちゅっ

「シード!?」

シードの突然の行動に驚きつつ表情を変えないまま問う。

「クルガン、俺に隠してることない?」

真剣な顔をしてシードが言う。

「何故そう思う?」

「だって…!!」

泣きそうな顔をして、言葉を濁すシード。

「…もういい」

沈んだ顔を して部屋を出ていこうとするシードの腕を掴んで引き止める。

「何があった?」

「な、何もねーよ!!」

今にも泣き出しそうな顔をしながら意地を張るシードを壁に押し付ける。

「いてぇっ!!」

抗議の声を上げるシードの唇を塞ぐ。

「んぐっ……んん……」

唇から顎へと伝うどちらのもの ともつかない銀糸を拭ってやりながらクルガンが再度問う。

「何があったと聞いているであろう?」

クルガンの問いに返ってきたシードの答えは全く身に覚えのないものだった。

「……お前、浮気してんだろ…」

「はあ?」

滅多に(というか全く)表情を動かさないクルガンが面食らっ た顔をする。

「やっぱり噂は本当だったんだっ!?」

目尻に涙をいっぱい溜めて真っ青な顔をするシード。

「ちょっと待て、そんな話どこから…」

珍しく慌てた様子でクルガンが噂の出所を聞き出そうとしたとき…

どごぉっ

シードの膝蹴りがクルガンのみぞおちに炸裂した。

「クルガンの バカヤロー!!俺も浮気してやるぅ〜!!」

蹲るクルガンをそのままに捨て台詞を吐いてシードは部屋を飛び出した。

 

「どうしたというのだ?一体…」

シードに蹴られた部分を撫でながらクルガンは首を傾げた。

(まあ、大方誰かに吹き込まれたのであろう…。しかし、浮気してやると言っていたが…)

「まずいな…」

 

 

「クルガンのばかやろ〜」

とぼとぼと廊下を歩いてゆくシード。

「どうした、クルガンと喧嘩でもしたのか?」

「ルカ様…」

半泣き状態のシードに声をかけたのはハイランドの皇子のルカであった。

シードはぼんやりと歩いていたため、気が付かぬうちにこの皇子の部屋の前まで来てし まっていたのだ。

「そんな顔で出歩かれると迷惑だ。俺の部屋に寄っていけ」

そう言って目の前の扉を開け、シードに入るように促す。

「はい…」

小さく返事をしてルカの後について部屋に入る。

(逆らうと何されっかわかんねーし、俺もこんな顔部下に見られたくねーしな…)

 

「…っていうことなんですよぉ〜、ひどいと思いませんか〜?」

べろべろに酔っ払いながらグラス片手にルカに愚痴るシード。

「クルガンの奴、お前を手に入れておきながら他の者にも手を出しているのか」

こくんと無言でシードが頷く。

「あんな奴とは別れてしまえ!!」

「そ〜っすね 〜」

ルカの言葉にとろんとした目をして何度も頷くシード。

「そしてお前は俺のものになれ!!」

「そ〜っすね〜って、え"っ!!?」

ルカの言葉に一瞬にして酔いから醒めるシード。

「あの〜ルカ様、そーゆーご冗談は…」

「冗談?俺は冗談は嫌いだっ!!お前は今から俺のものだ!!」

酔って いるらしくルカの目はすわっていた。

「シードッッ!!」

「うぎゃああぁぁ〜〜〜!!!!」

抵抗する間もなくシードはルカに押し倒されていた

 

「あれはシードの悲鳴…」

そう呟くと同時にクルガンは走り出していた。

「やだやだやだやだいやだああぁぁ〜〜〜!!!!」

「抵抗するな!!もうお前は私のものだ、はっはっはっはっはー―――!!!!!!」

「く、くるがぁ〜〜ん!!」

シードは思わずクルガンの名を必死に呼んでいた。

「黙れっ!!」

「くる…んぐっ!?」

叫び続けるシードの唇をルカのそれが塞いだ。

シードはルカに両手首を掴まれ、馬乗りされていた。

混乱する頭でどうにかしてこの狂皇子から逃れようと考えるが、

両手足をベットに繋がれ、シードは完全に自由を奪われてしまった。

「ふん、おとなしくしていろ」

ルカはそう言うとシードの口にタオルを突っ込んだ。

「んむー―! !」

びりびりびりぃっ

必死に抗おうとするシードの衣服をルカは力任せに引き千切った。

「っっ!!!!」

「いい表情だ」

言い知れぬ恐怖にかられ抵抗を激しくするが、思った以上にがっちり繋がれていてシードの両手足首から血が滲む。

「心配するなクルガンのことなどすぐに忘れさせてやる」

そう言ってルカがシードの下肢に手を伸ばしかけた時

こんこん 

この場に似つかわしくない音がした。

「今、取り込み中だ!!」

ちいさく舌打ちしてルカが答えた。

しかし、扉の向こうの人物は臆した様子もなく再び扉を叩いて言った。

「ルカ様、此処をお開け下さい」

静か な声に怒気を孕んでいるのがわかる。

(クルガン!!)

「んー、んー!!」

「ふん、姫を守るナイトのおでましか?」

拍子抜けするほどあっさりとルカは扉を開いた。

「そういうわけではありませんが、シードは返して頂きます」

「好きにしろ」

 

「そんなに怒るなら疑われるようなことを最初からしなければいい違うか?」

「………」

にやりと笑いながら言うルカに無言でシードの拘束を解く。

「それでは。失礼しました」

安心したのか眠っているシードに自分の服をかけてやり横抱きにしてクルガンは退室した。

「ふん、なかなか食えん奴だ」

二人が立ち去った後、誰に言うでもなくルカは不敵な笑みを浮かべ一人ごちた。

 

「んん………??」

シードが目を覚ましたのはクルガンの私室であった。

「あれ……クルガン…」

辺りを見回しクルガンを発見すると安堵のため息を吐いた。

しかしそんなシードとは正反対にクルガンは無言のまま冷たい視線でシードを見ていた。

「クル…ガン?」

「私が信じられないか?」

「えっ?」

怒りを含んだ声音でクルガンが言う。

「私は浮気などしていない」

「でも………」

「お前は私よりも噂を信じるのか?」

「………」

クルガンの言葉に思わず沈黙するシード。

「私が信じられないならばそれまでだな」

「っ!!」

「そうであろう?信じられぬ者といても仕方がないであろう?私も信じてもらえぬ者といても仕方ないしな」

そう言ってクルガンは冷めた視線をシードに送る。

「い…やだ………」

目尻にいっぱい溜った涙を堪え、シードはかろうじてそれだけ言った。

必死に涙を堪え俯くシードをクルガンが抱き締めた。

「クル…ガン?」

驚きに目を見開く。

「私を信じるか?」

先ほどとはうって変わって優しい声音で言う。

「信じる、クルガンを信じる…」

「シード…」

2人はどちらともなく唇を重ね合わせた。

                                       end

おまけ

クルガン:そういえば噂とはどのような噂だったのだ?

シード :んんっと、『クルガンがカナタとできている』っていう噂だった

クルガン:………誰から聞いた?

シード :カイルから……

クルガン:……………(カナタ殿も今頃苦労されているのでは…)

 

カナタ:うわあ〜〜ん、誤解ですぅ〜〜〜、カイルさあぁ〜〜〜〜〜ん!!!!!(涙)

カイル:……………(旅に出ようかな)

 

あとがき

はあ〜〜、これはなかなか楽しんで書けた作品でしたvvv

そう、特にルカ様が出て来た辺りが………。(にやり)

また書こっかな、浮気ネタ。裏でvvv

                                   深海紺碧