真夏の夜の夢

 

 

 派手な音を上げて夜空に花を咲かす花火。
 その美しさに思わずぽかんと口を開けたまま、シードは見入っていた。
 赤、青、黄…。色とりどりの花が夜空に咲いては消え、咲いては消え…。
 その一瞬の美を瞬きをするのも惜しんでシードは見た。
 高ぶる高揚感。
 それと同時に儚く、切ない思いも寄せて…。

 

 常ならば、「高みの見物」とばかりに城から見ている筈だった。
 何の障害もなく、少々遠いながらも、はっきりと花火が見える場所。
 ごく一部の許された者だけが見る事の許される…特権。
 しかし、クルガンとシード、二人が今いる場所は城下だった。
 それも人込みの中。
 二人は今、只のハイランド国民として、花火を眺めていた。
 将軍で無ければ、戦場を駆ける悪鬼でもない。
 それを酷く新鮮なものと感じながら、飽く事無く、立ち疲れて痺れる足を気にする事も無く夏の風物詩とも言える花火に見入っていた。

 どのくらいそうしていただろうか。
 ふと、シードは横に立つクルガンを見た。
 その顔は、いつもの通りポーカーフェイスを貼り付けてあり、何を考えているのか読み取れなかった。
 しかし、平生何の感情も見出す事の出来ない瞳に、美しいものを愛でる時の感嘆の光が宿っているのをシードは見逃さなかった。
 青い瞳に映る花火は、シードの脈を激しくさせた。

 誘ったのはシードだった。
 いつも城から見るのと違う視点で花火を見たかったからだ。
 でも、本当のところ、クルガンと二人で出かける口実が欲しかったのだ。
 ここのところ二人とも忙しく、行き違いが多かった。
 認めたくは無かったが、クルガンに会えないことはシードの心を孤独にさせた。

 側にいれば、一々小言を言うクルガンを鬱陶しく感じる事もある。
 側にい過ぎて、独りの寂しさを忘れてしまう。
 側にいなければ、温もりを覚えた心に冷水を浴びせられる…。

 午後から暇を持て余していたシードは、クルガンに仕事を早く終わらせるよう急かし、何とか理由をこじつけ、半ば引っ張るようにして強引に城下に下りた。
 そんなシードの我が侭に、クルガンは渋い顔をしながらも付き合っていた。
 恐らく、クルガンの中でも、ここのところ二人で出かけるという事が出来なかった事が酷く味気ないもののように感じられていたのだろう。
 意気揚揚と出かけていったは良いが、城下に出た途端、予想外の混雑に合い、次第に二人とも苛々していた。
 歩を進めて行くに連れ人が多くなり、花火の打ち上げが行われる場所に到着する頃には、「何故こんな思いをしてまで…。」という思いが二人の中で大きくなっていた。
 しかし、いざ花火が始まると、城の中からでは聞こえない音が鼓膜を激しく振動させ、高い位置から見るよりも花火が大きく見えた。
 まるで、心の鬱憤を景気よく飛ばしてくれるもの…いや、感情を物質化し、火を点けて空に飛ばしてくれるのものの様だ。
 更に突き詰めて言うなれば、魂のそのものだ。

 「花」が消えた後には独特な匂いだけが残り、硝煙が闇に溶けた。
 その名残を惜しみながら、二人はその場を後にした。

 

 人込みにおされながらの帰り道。
 個人で楽しめる小さな花火セットを買った。
 どちらが言い出したのか、定かではない。
 しかし、シードの手にはしっかりと花火が握られていた。
 幼子のように無邪気に楽しむわけでもない。
 只、何となく買ってしまった花火。
 城に持って帰るわけにも行かず、二人は近くの広場に寄ることにした。

 しんと不気味なほど静まり返った広場。
 全くと言って良いほど人の気配が無い。
 時折、花火の帰りであろう親子が通る。
 興奮を隠せないのか、楽しそうに親の足元をちょろちょろと走り回っている。

 「夜の広場で男二人が花火ってのも、悲しいよな。」

 苦笑いとも呼べる笑みを浮かべ、シードが言う。
 しかし、どこか楽しそうな表情は、先程通った子供と同じだった。

 

 「しっかし、お前って妙に線香花火が似合うよな。」

 悪戯っぽく笑いながらシードが言う。
 余計なお世話だ、と思いつつ、クルガンはちらりとシードを一瞥した。
 ちりちりと小さな火花を飛ばす線香花火。
 暫くは座って見ていたクルガンだったが、シードに無理矢理持たされ、今に至る。
 何となく、捨ててしまうのが勿体無く感じ、黙って持っていたのだった。
 シードはというと、暫くは大人しく普通の花火をしてた。
 が、今正に本来手に持ってするような類ではない花火を持ち、火を点けようとしていた。

 「おい。それは手に持ってするものでは…。」

 言いかけたクルガンにシードは、「気にするな」と言って導火線に火を点した。
 導火線を伝って火は花を咲かした。
 激しいまでの火花が飛び散る。

 「あちち。」

 「シード。」

 呆れ顔で注意を促そうとしたクルガンにシードはにんまりと笑った。

 「なあなあ、見ろよ!!」

 嬉しそうに言ってシードが花火を持ったままくるりと1回転する。

 「危ない。」

 言っても聞かないのはわかっていた。が、クルガンが再び嗜める。
 やはりシードは聞く気が無く、大丈夫だ と笑って尚もくるくると回る。
 そのシードの表情に、一瞬、クルガンは目を奪われた。
 花火の美しさに劣らない…いや、勝る美が今ここに存在する。
 クルガンは無邪気に笑うシードを見て、そう思った…。

 

 

く、くさいですぅ…。(滝汗)
すみません、タケ様…。
折角リクエスト頂いたのに…。(泣)
時間は掛かる、わけはわからない…。
ヘタレ根性ここまで浸水か!!!(叫)
心の底から謝ります!!!!!m(__;)m

紺野碧