Morning Call
光の礫によって私の瞼は刺激され、私はうっすらと目を開けた。
カーテンの隙間から清涼な朝の日の光が零れていた。朝…か…
心の中で呟き、崩れた前髪をかき上げ、軽く手足を動かした
布の擦れる音が室内に響く。隣で、昨夜床を同じくしたシードが小さな寝息を立てて眠っている。
私はシードを起こさぬよう、気を配りながら身体を反転させ、その寝顔を覗き込んだ。
いつもは長い紅の前髪によって遮られている全貌が露になっている。何と幸せそうな表情だ…。
シードの寝顔に私は微苦笑した。
普段はきつく釣り上がっている眉が笑った時同様、いや、それ以上に下がっている。
昨夜の激しい情交からは想像もつかない程、幼さの残る顔…。
そのあどけないシードの寝顔を暫く見つめた後、私はベットから下りると軽く身支度をし、寝室を出た。
「おい…、そろそろ起きろ。シード…。」寝室に戻った私はいつものようにカップ二つをベットの脇にあるテーブルに置き、シードに起きるよう促した。
「んんん……。」
カーテンを開けるとシードは眩しそうに眉を顰め、毛布の中に顔を沈めた。
私は毛布を引き剥がしに掛かる。
だが、シードは毛布を握り締め、離そうとしなかった。そして、起きようとしなかった。「シード、起きろ。」
もう一度無駄とは思いつつも声をかけ、身体を揺さぶる。
先程よりもきつめの口調で、揺さぶり方で。
しかし…反応無し。…遠慮は要らんな…
私はそう判断するとシードの鼻を摘んだ。
軽い呻き声を上げるが、また直に寝入ってしまった。
私は薄い笑いを浮かべると、鼻を摘んだ事によって半開きになったシードの唇を塞いだ。
「……………」
「…………んぅ?」
「………!!!!!」
シードが私を引き離そうと必死に服を引っ張る。
だが、私に離す気はなく、息苦しくなり、酸素を求める口に変わりに舌を差し入れた。
シードがもがく。
だが、それも私の巧妙な舌使いによって黙らせて行く…。
恐らく、今は苦しいのか気持ちいのかわからなくなってきている頃であろう。
シードの表情から私はそう読み取った。しかし、時間が経つにつれ、その顔がだんだんと赤くなって来た…。
…そろそろ潮時か?
暫くは大人しく口付けを受けていたシードだったが、鼻を摘んだまま口付けを交わしていたため、流石に苦しさが勝ってきたらしい。
酸欠状態になったシードは私の背中を叩いて抵抗を始めた。
私はシードの唇を一舐めすると顔を離した。
「お前は俺を殺す気かっ!!!!!」ぜいぜいと息をしながらきつい眼差しで私を睨み抗議するシードに私は平然と返した。
「寝汚いお前が悪い。」
「だ、だからって他に起こし方があんだろっ!!!」
一瞬、自分に非があると避難され、怯んだシードだったが、直に私に口答えする。
しかし、言ってそっぽを向く彼のその頬は薄く朱に染まっていた。思わず苦笑が漏れる。
何も返さない私に訝しげに顔を上げ、何笑ってんだよ!!と言わんばかりの視線を向けるシード。
私は笑いを沈め、テーブルに置いていたカップを手に取った。「別に要らないのならば、起こしはしないが?」
そう言ってシードにコーヒーを差し出す。
シードは不て腐れた顔で私を見、手を差し出した。「……いる…」
シードの手にカップを持たせ、ベットサイドにおいてある椅子に腰掛ける。
「……美味いか?」
猫舌のため、ちびちびと私の入れたコーヒーを飲むシードに私は問うた。
シードが無言で頷く。素っ気無いように思えるが、私は知っている。
シードが私の淹れるコーヒーが好きなことを…。
ただの自惚れのように聞こえるが、私は確信している。
素直でない彼は口では何も言わない。
しかし、その表情が如実に語っている。
比べるのもどうかと思うが、彼の好物を食べた時と同じ顔をしている。
朝の光に負けない柔らかい表情をしている。ふと、微笑が漏れた。
参ったな…。
この表情を見たいが為、王侯貴族との付き合いのために覚えた腕を振るってしまう。
貴族との会話、取引の進行をスムーズにするためだけに覚えた腕を…。そう、いつもそうだ…。
彼の笑顔は純粋に私を突き動かす。
誰かに何かをしてやりたいと思ったのは初めての事だった。
自分から進んで何かをしてやりたいと思ったのはこれが初めてだった…。
「シード。」「んっ?」
冷めてきたコーヒーをごくごくと咽喉に流し込んでいる彼に向かって私は言った。
「今日も午後は紅茶か?」
ったりめーじゃん♪と言って笑うシードに私はほんの少しだけ、笑みを向けた。
THE END
えー、甘々です。(汗)
これで良かったでしょうか?ゆきやなぎ様…。(^−^;)
なんだかクルガン氏の惚気???
と言うよな感じですが…。
まあ、その、あの…すみませんっ!!!(殴)
紺野碧