悲しみを超えて
「なんだって!!!そんな!!!!お前、それでも!!!」
ホウアン先生に食って掛かるフリックさんの声。
押し黙ったままそれ以上何も言おうとしない先生。
苦悶の表情でフリックさんの抗議を受け止めている。
激化するフリックさんの責めを止めようとビクトールさんが宥めている様だった。だけど、その真横で行われるやり取りが妙に遠かった。
僕の頭を支配していたのは只一つだけ。
ナナミガシンダ…
ボクトジョウイヲカバッテシンダ…
まるで鈍器で殴られたように僕の頭は重かった。
ナナミが死んだ事実を受け止めきれず、強張った身体を動かす事も出来ず…。
じっとその場に立ち尽くした。
唯一理解した事は、あの笑顔を見ることがもう2度と出来ない、と言う事だけだった…。
遠慮がちに開かれた扉から暗い室内に一筋の光が差しこんでくる。
「カイリ?」
珍しい人が来た。僕はそう思った。
逆光で顔は見えないけど、それが誰だか僕にはわかっていた。
「こんにちは、カスイさん。」
腰掛けているベットから動かず、顔だけを上げて挨拶をする。
僕の憧れの人は綺麗な黒い瞳を大きく見開いて僕を見た。
その表情には哀れみといった感情は見て取れず、只純粋に僕の変わり果てた様子に驚いていた。「お久しぶりです。お変わりなさそうで何よりです。」
口だけがカスイさんを快く迎え入れる。
だけど、その口調はとても機械的なものだった。
彼もそう思っただろう。
怪訝そうな顔をして僕を見た。聞いていないのだろうか?
ナナミが死んだことを…。カスイさんの様子に僕はそんな考えが浮かんだ。
明らかに回りの同盟軍の者たちとは違った反応を彼は見せている。
だから少しほっとした。カスイさんはするりと入り口を潜ると扉を閉めた。
真っ暗な室内。
だけど僕にはカスイさんが見えた。
多分カスイさんにも僕が見えているだろう。
お互い、心に闇を持つ者だから…。
「暗くない?」
「変わりませんよ。」
「何が?」
「光があってもなくても…。」
「…………」
「…聞いたんですか?」
「何を?」
「いえ何も…。」
「………」
単調な会話が続く。
沈黙が重い。
でも、この人だからまだ僕は話す気になれた。
同盟軍の人間だと、顔すら見る気に慣れなかったのに…。何故だろう…。
安心する…。
まるで…「ナナミちゃん…亡くなったって?」
カスイさんの言葉に頭の中が真っ白になる。
どくん、と、鼓動が早くなる。
手が、身体が…震える。
「聞たんですか…。」
「うん、皆心配してたよ…。」
「…指導者である僕の心配を、ですか?」
自嘲気味に吐いた僕の言葉にカスイさんは一瞬眉を潜めた。
「悲観的なるのは仕方がないことだとは思うけど、それは皆に対する侮蔑だよ?」
「そうですね。」
「…………」
また沈黙。
「泣いて…良いよ…。」
「え…?」
思いもかけなかったカスイさんの言葉に僕は思わず間の抜けた声を発する。
「我慢する必要はないよ?」
優しく言い募るカスイさん。
哀しげな微笑を僕に向かって浮かる。「我慢?何を我慢す……」
熱い…熱い何かが僕の頬を伝った。
「カイリ…。」
ごくごく自然に涙が出た。
誰の前でも見せられなかった涙が…。
「っく……。」
ナナミ…
ナナミ…
ナナミ…
僕の大切な家族…
僕の大切な姉さん…
君までいなくなってしまったら、僕はどうやって…
誰の為に頑張れば良いのだろう…
ずるいよ…
僕を置いていくなんて…
抑えていた感情が涙と共に一気に溢れる。
もう止まらなかった。
「…っつ…っく…ナナ、ミ……。」
カスイさんは只黙って僕の頭を撫でていてくれた。
それが酷く安心できて…酷く心地良かった。
ナナミが死んでしまった今、そういう事をしてくれる人がいなくなってしまったから…。
「悲しい時に涙を流す事は恥ずべき事じゃないよ…。」
「………」
「悲しい時に悲しいと涙を流す…。それが、人間だから…。」
「…っく…カスイさん…」
「うん、君が眠るまで側にいてあげる。」
「…りがと…ざいます…」
「…うん……。」
僕は泣いた。
カスイさんの前で…。
見っとも無いくらい泣いた。
今だけ…今だけ君のために涙を流す…
明日からはきっと忙しい日が始まるから…
今だけしか時が無い…
許してくれるかい?
ナナミ…
THE END
…すみません。
散々お待たせして出来あがったものがこれとは…。(汗)
ヘボいです。へたれてます。
AKIちゃんすみません―――!!!
自分は良い物貰っておいて―――――!!!!!(殴)
一応ナナミが死んだ時の話なんですが…。
主と坊の話と言うよりもナナミメイン?(死)
紺野碧