He is in bad humor.
〜彼が不機嫌なそのわけ〜




「―クルガン様の様子が何処かおかしいのですが」
「…なんでそれを俺のところに言いにくるんだ?」
新兵の訓練をひととおり終えて、一息ついたところに尋ねてきたクルガンの副官―ルースが言った一言に、シードはその形のいい眉をひそめながらそう言った。
「…はっきり申し上げてもよろしいでしょうか?」
「…言ってみろよ。」
なんかやな予感がするけど…と返したシードにルースが一言。
「シード様が原因ではないかと。」
しっかりきっぱり言ってのけた副官に予感的中と盛大に溜息をつきながら
「…なんでそうなるんだよ。」
…と、そう返せば
「今までがそうでしたので。」
笑顔でさらに言い切られる。
「ルース…お前、日に日にクルガンに似ていくよなぁ…」
笑いながらじゃなくて無表情で言ってのけたら完璧だよと頭を抱える。
「…で、結局、何がどんな風におかしいんだよ?」
「……そう言われますと説明しづらいのですが、なんと言いますか…近づきがたいような感じがするといいますか…」
「……それ、いつものことじゃねぇの?」
あいつが平素無表情で無愛想なのはいつものことだろう?そう問いかけるとそうではないと首を横に振る。
「……?」
「言うなれば、ピリピリしていらっしゃるというか、イライラしていらっしゃるというか…」
「…へぇ?」
あの冷静沈着つうかむしろ普段は徹底した無表情で鉄面皮なヤツが珍しい、そりゃ確かにどっかおかしいわ。とシードは立ち上がった。
「…それじゃ、俺ちょっと見てくるわ。」
「よろしくお願いいたします。私は資料室の方におりますので。」
そう言って頭を下げる副官に、シードはひらひらと手を振った。



   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇



「――クルガン、居るか?入るぞ。」
コンコンと2回軽くドアをノックすると、返事も待たずに扉を開ける。
クルガンはいつものごとく、自分の執務机で淡々と仕事をこなしていた…が
(…なるほど、そりゃ、あいつから見ても変に思うわな…)
いつも能面のように無表情な自分の相棒だが、今日は無表情の質が違うというか。
「…シードか…何の用だ。」
書類から視線を上げようともせず言われた言葉はいつもと何の変わりもない言葉だったが、シードにはクルガンの顔に極太マジックで書かれた“不機嫌”の三文字が見えたような気がした。
「お前の様子が変だって言うから見に来てやったんだよ。」
「…別に何の変わりもないが。」
そう言ってようやく顔を上げたクルガンに、シードは扉に寄りかかりながら嘘吐けよと言い放った。
「…お前ン所の副官に判別ついて、俺に判らねぇと思うのか?その無愛想な顔に極太の文字で“不機嫌”って書いてあるぜ?」
そう言いながら自分の頬を指さす。
「…ルースのヤツが俺が原因じゃねぇかって泣きついてきたんだよ。」
「…まあ、お前が原因といえばそうかもしれないが。」
「何だよ、それ……ッ?!」
身に覚えがないと反論しかけた所に、いつの間にかすぐ傍まで来ていたクルガンに顎を掴まれ、口付けられる。
「…んん…っっ!」
いつもとは何処か違う乱暴さに、呼吸を奪われて息が詰まる。
「…っは……何、すんだよ…」
荒い息の下からのその問いには応えず、シードの項に唇を落とすと、きつく吸い上げる。
「…っ!!おい、クルガン、お前ホントに何処かおかしいぞ、熱でもあるんじゃねぇのかっ?!」
いつもはどれだけ邪魔をしても構ってなどくれないのにと、無理矢理クルガンを引き剥がし、真っ赤な顔で睨み付ける。
「…そうだな。自分でも少々どうかしていると思うが。」
相変わらずの無表情でさらりと言ってのける。
「…さっき、俺が原因って言ったよな?」
「そう言えなくもないと言ったんだが。」
「屁理屈はいいよ。俺、今日お前を怒らせるようなことしたか…?」
「……………いや…」
珍しく言いよどむクルガンに、シードは埒があかないと自分の今日半日の行動を思い出してみる。
確か、朝の練兵の後、いつものごとく書類整理をサボタージュして…中庭で昼寝していたところに…
「ああ!!」
そこで原因であろうことに思い立った(というか、それしか思い当たらなかったのだが)らしく、やおら素っ頓狂な声をあげる。
「お前さ、もしかしなくても中庭で俺を見かけただろ?…城の女官と一緒にいた。」
「…………………ああ。」
しばし沈黙した後、苦々しげに応えるクルガンの、自分より頭ひとつ分高いところにある顔を見上げると、シードはやおらニヤニヤと笑いだした。
「な、に、を、勘違いしてるかしらねぇけど、あの娘は俺の遠縁の娘だよ。」
「……………?」
「この夏に結婚することが決まったんだと…顔真っ赤にしてさ、あんまり幸せそうにしてるから、俺からもお祝いしてやったわけさ。」
その時に、ちらっと銀色が見えたと思ったんだけど、やっぱりあれお前だったんだなぁと言ってから悪戯な色をその深紅の瞳に浮かべつつ、クルガンに問うた。
「…もしかして、“ヤキモチ”ってヤツ?お前の機嫌悪かったのって?」
「……………そう…らしいな…」
そう言いながら気まずげに視線を逸らすクルガンを見て、シードは耐えきれないといった風に笑い出した。
「…っは、あははははははははは!!め、珍しいっつーか、お前にも意外と可愛いところあるんだな!!ははは、ははははっっ!!」
「………」
涙さえ浮かべつつ爆笑するシードに、クルガンの表情はまた憮然としたものに戻っていく。
…もっとも、そのうちの半分は自分の早とちりに対する情けなさもあるのだが。
「…まあ、けど、なんっつーか。」
そこまで言ってようやく笑いを納めると、自分の腕をクルガンの首に回す。
「……嬉しいモンだよな。」
「シード?」
「いつも俺ばっかりやきもきしてるモンだと思ってたからさ。」
まあ、だから、嬉しいなってさ。
そう言ってクルガンを引き寄せると、首筋にひとつキスをする。
「…仕返し。」
俺のここに痕つけただろ?だからお返しだ。と自分の首を指さしながらクスクスと笑う。
「仕返しになっていないがな。」
いつもの余裕を取り戻したクルガンが微かに口元に笑みを浮かべてシードの柔らかい深紅の髪を引き寄せると、それじゃあ、とシードも笑みを浮かべながら自分の言葉を訂正する。


「珍しいものが見れた、記念としとこうか?」



                                        〜fin〜

カウンタ5432を踏んで下さった深海紺碧様のリク。
お題は『嫉妬の炎メラメラなクルガン氏』…なのですがっ!
…お題、クリアできてますでしょうか??なんか微妙に違う気が…(爆)
なんかもう、うちのクルガン氏淡泊で…つうか、最後までバカップルでごめんなさい(さらに爆)
うちの二人はもう何処でも何処まででもいちゃベタしてますね…はう(溜息)

何はともあれ、カウントゲット&リク、ありがとうございました!!