○月×日(仏滅)
一冊の台本が僕の手元に届きました
角で殴れば人が殺せそうなほどの厚さでした
これで筋力トレーニングでもしろということでしょうか?

アリシラ少年の3日ぼうずな日記より抜粋






「うぇぇぇぇぇぇぇ!?何これ!?地獄門!?エセ戦国時代パラレル舞台!?演技ぃ!?やだっ!絶対やだっ!!」
「・・・・・・・・・」

送られてきた台本を手に、アリシラは大騒ぎしていた。
その隣で、ヒスイはぱらぱらと台本のページをめくって、何事か考え込んでいる。
アリシラは、頭を抱えて相変わらず、ぎゃぁぎゃぁと喚いていた。

「だってだって!こんな貧乏くじ男な上に最後には死ぬオチの男の役なんてっ!!絶対にやだっ!!!」

どうやら、いきなり最後のページを読んだらしい・・・
しかし、ヒスイは何やら冷めた目でそれを見ている。

「あのなぁ・・・お前、それ破棄できるとでも思ってるのか?」
「なんで!?」
「・・・・・・・・・」

すでに台本を破り捨てようとしていたアリシラはヒスイを振り返る。
ヒスイは盛大に溜息をつき、台本に視線を戻した。
やれるものならやってみろとばかりに。
そして、無言でアリシラの目の前に「出演承諾書」なるものを突き出す。
まっぴらごめん!と、アリシラは台本といっしょに承諾書も破り捨てようと手をのばした。
しかし・・・・・・

「え?ぎゃ・・・ぎゃーっ!!!いやだーっ!!!」






何やら謎の強制力が働き、哀れアリシラは承諾書に判を押す結果となった・・・・・・
ちなみに、ヒスイを含めた他の3人は、仕方ないとばかりに承諾したらしい






<ACT1:トラン戦準備?>



「まずは下準備からするらしいですよ・・・」
「・・・・・・・・・」

ロケ地には、あちこちに櫓が組まれ、その中央には祭壇が作られた。
何やら物々しい雰囲気の中、祭壇に火が灯され、祈祷師が怪しい祈りを捧げ始める。
いかにも怪しい儀式を離れた場所で傍観していた4人は、これが何の下準備なのかは知らされていない。
しかし、しばらくしてフィアルはきょろきょろと忙しなく周囲を見渡し始めた。

「フィアル・・・どうしたの?」
「・・・・・・ん〜・・・」
「・・・・・・・・・」

不思議そうにしているアリムラとアリシラをよそに、ヒスイは、またかとでも言いたげに、どこかうんざりしている。
そして、儀式も架橋に入る頃・・・・・・

「うん、おかえりなさい〜」

フィアルは、誰へともなく、何もない空間へのほほんと話しかけた。

「「・・・・・・・・・」」
「今日は誰だ?」
「父様とテッド〜」

かたまっているアリムラとアリシラをよそに、脱力しきったヒスイがフィアルへと問い掛ける。
それに対する、なんとも呑気な答えは、きっと・・・・・・・・・

「あ、ほらほら。出てきたよ?」

にこにこと嬉しそうに笑いながら、フィアルは祭壇のあたりを指差した。
そこに、もわもわと白濁した気体のようなものが一点に集まり始める。
それは次第に人型を形成し始め・・・・・・

「「「あ・・・・・・」」」
「父様もテッドもおかえりなさい〜」

のほほんとしたフィアルの声に、恐怖の絶叫が2つと歓喜の絶叫が1つ、同時に重なった・・・






要するに、撮影をするのに必要な人員を揃えるための降霊の儀式だったらしい・・・・・・






<ACT2:トラン戦>



撮影は炎天下の中決行された。
アリシラとヒスイには、撮影用に、君主用の赤い甲冑が手渡される。
ちなみに、ヒスイの甲冑は制作費が材料費の都合上、アリシラの倍近くかかったらしい・・・

「ほら、アリシラ。次、君のシーンなんだから、ちゃんと兜かぶって」
「い〜や〜だ〜・・・・・・・・・」

アリシラに比べればだいぶ軽装なものの、やはり同じように甲冑を着込んでいるアリムラも、かなり暑いらしい。
何度か汗を拭いながら、すでに汗だくのアリシラに兜をかぶせ、緒をしっかりと結ぶ。
この炎天下の中での撮影ともなれば、すでに甲冑の中は蒸し風呂状態だ。
もとより持久力に乏しいアリムラは、こんな条件下ではすぐに体力を消耗してしまう。
しかも、彼はアリシラとの殺陣が予定されているだけに、早急に撮影を終わらせなければならないらしい。
しかし・・・
君主様モードというだけあって、アリシラの甲冑は、かなりいろいろとゴチャゴチャした飾りがついている。
重い上に・・・・・・

「っだー!!!暑いし熱いですー!!!!!!」

天日で蒸され、甲冑の中は灼熱地獄。
さらに、甲冑に直に触れている肌は、熱せられた鉄板であぶられているのと同じ状態。
撮影は、大根役者の根性がないおかげで、やたらと長引いたらしい・・・・・・






<ACT3:お別れ>



やけに、しゅ〜んと大人しいアリムラとフィアル。
その隣では、マズイと評判の、冷えたロケ弁を食べているテッド。

「なんだよ、お前ら。ただでさえマズいメシが、さらにまずくなるだろうが。そういうシケたツラするなら、他でやれ、他で」
「「だ・・・だって・・・・・・〜・・・」」

ご丁寧に、仲良く、2人揃って同じ理由でしょげているらしい。
テッドは、マズイマズイと言いながら、一気に弁当の中身をかきこむ。

「仕方ねぇだろ?俺もテオ様も、今日でひとまず、全部のシーン撮り終えたんだからさ〜」
「もう帰るの?」

しゅ〜んと、叱られた子犬のごとき様子で、フィアルが寂しそうに見つめてきた。
垂れ下がった耳としっぽの幻覚まで見えてきそうだ。

「撮影が終わるまで、って契約で降霊されたんだしな?」
「・・・・・・・・・もう少しだけ・・・あとちょっとだけでいいから・・・まだ、聞きたいことも話したいことも、いっぱいあるのに・・・」

珍しく、アリムラも、かなりしょげているらしい。
しかし、テッドは2人を切なそうに振り返った。

「仕方ないのさ。俺だって、本当なら、まだこっちにいて、もっとお前たちといっしょにいたいところだけど・・・・・・」
「「けど・・・?」」

鸚鵡返しに聞き返すアリムラとフィアルに、テッドは苦笑し、背を向ける。

「てめぇらの旦那が殺気ふりまいてて、怖ぇんだよ」
「「は?」」

アリムラとフィアルの背後には、しっかりとアリシラとヒスイが、寒い笑顔でテッドを睨みつけておりましたとさ。






その日、テオとテッドは、霊界へと帰っていったらしい。
ちなみに、アリムラとフィアルは、しばらく2人で部屋の隅でおとなしくなっていたそうな。






<ACT4:ハイランド戦>



トラン戦と同じく、降霊の儀式が行われ、召喚されたのは・・・・・・

「ふはははははははは!ブタどもは、舞台上で死ね!!」

おなじみ、狂皇子様でございました・・・・・・






「冗ッ談じゃねー!!!!!!」

がしゃーん!とセットをひっくり返す音が響く。
ヒスイが、一気に台本をばりぃっ!と引き裂いていた。

「なんでこの俺様が、あのブタ皇子にぶった斬られなきゃならねぇんだよ!!あぁ!?」

どうやら、自分の役回りが、激しく気に入らないらしい。
しかし、ここまで収録が進んでいる以上、今さら配役やストーリー進行を変更するわけにはいかない。
アリムラはひとつ溜息をつくと、自分の台本を手に取り、さらさらと何かを書き足すと、ヒスイの前に差し出した。

「ヒスイ・・・ほら、ここ」
「あぁ?」

ぎろりと睨んだヒスイの目の前で、指差された一節。

「どう?やる?やめる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やらせていただきます・・・」

どうやらフィアルからの薬口移しシーンは、ヒスイを納得させるために、即興でアリムラが作ったものらしい・・・






「ルカ殿は、もう手遅れでした・・・・・・せめて、その方だけは助けましょう・・・」

フィアルがヒスイに止血を施すシーン。
誰もが、その危なっかしい手元に緊張の眼差しを向ける。
張り詰めた空気がただよう中・・・・・・

「・・・・・・・・・っ・・・ぶはっ・・・!!!」

青ざめた様子のヒスイが、血糊で真っ赤になっている身体を起こした・・・

「あ〜・・・ダメじゃん、ヒスイ・・・・・・お前、意識がない状態なんだから、起きちゃさ〜・・・」

思いっきりNGを出され、アリシラは思わずヒスイの脇で膝を崩す。
しかしヒスイはといえば、青ざめた表情で肩で息を繰り返していた。

「フィアル!!!」
「なに〜?」
「オマエな!!!包帯で首絞めるんじゃねぇよ!!!」
「・・・・・・・・・・・・絞まってた?」
「俺を殺す気かー!!!」

首付近の血糊は厳禁になったらしい・・・






<ACT5:デュナン攻防戦>



背中に矢をつき立てた状態の仕掛けを施されながら、アリムラは一つ溜息をついた。

「どうしたの、アリムラ?」
「ん?うん・・・・・・」

どうにも乗り気でない様子のアリムラに気付いたのか、フィアルが声をかけるが、アリムラはやはり上の空。

「いやな予感がするんだよね・・・」
「予感?」
「うん・・・・・・今回のこのシーンってさ・・・」

台本に目を落とし、アリムラは再び溜息をついた。
そして、ちらりと背後に視線をやる。
しかし、そこにあるべきはずの姿はなく・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・」

アリムラの頬に引き攣った笑みが浮かんだ。
彼の嫌な予感とやらは、既に現実のものと化していたらしい。

「ルックとホウアン出てこーい!!!なんなんだ、このルク坊やらホウアン坊やらなシナリオはー!!!」

あたり一面を揺るがすようなアリシラの怒号が響き渡っていた・・・






アリシラを騙し騙し、ようやく始まったシーンの撮影。
寝台の上に横になったアリムラは熱に浮かされた演技をしている・・・はずだった。
その演技の迫真っぷりに、その場にいた誰もが、ほーっと場を見守っている。

「はぁ・・・本気で熱出して苦しんでるみてぇだなぁ・・・」
「ね〜・・・頬とかも、メイクなしで赤くなってるし、汗もかいてるしね〜」

出番待ちのヒスイとフィアルは、感心したように裏でそれを見ていた。
やがてシーンは進み、アリシラがアリムラの手を握る場面。
ところが、アリムラの手を握り締めたアリシラは・・・・・・

「・・・・・・・・・!!!」

驚いたように瞳を見開く。
その様子もまた、気迫に満ちていて、見守る誰もが2人の演技に感動・・・するかに思えた。

「ホ・・・ホウアンっ!!!ホウアンはいるか!?」

いきなりアリシラは慌てたようにセットの奥に呼びかける。
誰もが、その瞬間驚きを露にした。

「なぁ・・・そんなセリフあったか?」
「アドリブ・・・?」

ヒスイとフィアルの2人は、ぱらぱらと台本をめくる。
しかし、その必要はなかった・・・

「誰でもいいから、早く医者!!!アリムラさんがほんとに熱出してるー!!!」

どうやらアリムラにしてみれば、あまりにアリシラがルックやらホウアンやらにつっかかっていくのが、いい加減精神的に限界に達していたらしい・・・






<ACT6:魅惑の一夜・・・>



「おい、いたか!?」
「いや、だめだ・・・そっちは?」
「こっちにもいない・・・まったく、どこに行ったんだ!?」

ばたばたとロケ地内を走り回る役者たち。
一人しまりのない顔をしているアリシラを除き、全員がとある人物の捜索に借り出されていた。

「ほんとにどこに行きやがったんだ、アリムラ!?」

相当イヤなシーンの収録があるらしく、珍しくアリムラは現場から逃亡していた・・・
アリムラがロケ地から遥か遠く離れた場所で捕獲されるまで、収録が3日延期されたらしい・・・・・・






「トランを守りたかったら・・・大人しくしていることですね」
「・・・・・・・・・」

演技と呼ぶには、あまりにも鬼気迫る何かがある。
セットの中で、アリシラがアリムラを押し倒した状態で、タチ悪く笑んでいた。
誰もが固唾を飲んで見守る中、緊迫感に耐えられなかったらしいフィアルは「怖いよ〜・・・」と本気で怯えて、ヒスイの陰に隠れている。
やがて、アリシラがアリムラの首筋に顔を埋めた。

「しっかしまぁ・・・アリムラの奴、よくもあんなに大人しく辛抱してるよなぁ・・・絶対に、一発くらい裏拳いくんじゃないかと思ってたけど・・・」

感心したようにヒスイがぽつりと呟いた途端

「ッ!!!」
「げふっ!?」

どかっ!!!とニブい音が響き渡った・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

痛いほどの沈黙が、場を支配する。
アリシラの鳩尾にアリムラの蹴りが見事に決まっていた・・・






アリムラが完全に覚悟を決めるまで、そのシーンの撮影は延べ20回以上にも渡って撮り直しがされたらしい






<ACT7:ハルモニア>



「はぁ〜っ・・・いくら役回りとはいえ、俺も妻帯の身かぁ・・・・・・」

なんともやる気のない声で、ナッシュが溜息をついた。
ぱらぱらと台本をめくりながら、どうせなら綺麗なお姐サマ系がよかったよな〜などと呟きながらも、ぶつぶつとセリフを覚え込んでいる。
ナナミはナナミで、やはりセリフを覚えることに躍起になっているらしい。
前回のシーンの収録がよほどショックだったのか、アリムラは完全に落ち込み、役作りの必要などないくらいに落胆の色を見せていた。

「アリムラさん・・・何もそこまで本気で落ち込まなくたって・・・・・・」

どうやら落ち込む必要のないアリシラまで落ち込んでいるらしい。
なんともビミョウな雰囲気の中で、収録はスタートした。






アリシラとアリムラの再会シーン。
このシーンのためだけに、国中から鳩がかき集められたらしい。
そして、バサバサと鳩たちが、いっせに飛び立つ・・・
その直後、不自然な悲鳴が石段の方から響いてきた。
鳩たちが飛び去った後には、真っ白になったアリシラの姿・・・・・・

「だー!!!ハトの野郎が、フンひっかけていきやがりましたーっ!!!!!!」

収録現場には、急遽簡易風呂が設置されることが決まったらしい・・・




さらに場面は進み、アリシラがササライたちに狙撃されるシーンまで収録は進んでいた。
アリムラは、何やらぶつぶつと呟いている。
発しているオーラが尋常ではないらしく、フィアルは「怖いよ〜」と本気で怯えながらヒスイの陰に隠れていた・・・

「一応崖のセットの下には落下衝撃を和らげるクッションが敷かれてるけど、これ高さは楽に4メートルはあるな・・・」
「うぅ・・・怖いよぉ・・・・・・」

転落シーンでは、予算不足でスタントを雇ってもらえず、結局アリシラとアリムラがそのまま崖から落ちることになった。
出番が近くなっているヒスイは、ぼんやりと崖のセットの上から下を見つめている。
アリシラは完全に、セットの高さにビビり、萎縮してしまっていた。

「いっくら、緩衝材が下にあるとはいえ、ヘタすりゃ骨折どころじゃすまないかもな〜」
「ここから落ちない奴は演技でもないこと言うなー!!!」

ケラケラ笑い飛ばすヒスイに、アリシラは怒鳴り散らす。
しかし、同じくこの崖から落ちることになっているアリムラは、心ここにあらずといった感じだった。
相変わらず、何やらぶつぶつと呟いている。

「ア・・・アリムラ・・・・・・ねぇ、さっきからどうしたの?」

その気配に怯えながら、びくびくとフィアルがヒスイの背後に隠れつつアリムラに尋ねる。
しかし、アリムラは、どこを見ているのやらも怪しい瞳で、ぼんやりとフィアルを見つめて、一言。

「別に・・・・・・」

その様子に、さらにフィアルが怯えてヒスイの後ろに完全に隠れてしまったことは言うまでもない・・・




「僕はあなたのことが好きです」

演技と呼ぶには、あまりに真に迫ったものがあるそのシーンに、場面 を見守るスタッフたちは固唾をのんでアリシラとアリムラを見守っていた。
真剣にまっすぐにアリムラを見つめるアリシラと、ひどく固い表情でアリシラを動揺したように見つめ返すアリムラ。
どう見ても、2人のそれは演技ではないのだろう・・・・・・
さらにシーンは進み、アリシラが銃で狙撃される例のシーン。
あらかじめ録音されてた銃声がロケ地に響き渡り、覚悟を決めたアリシラが崖側に大きく体制を崩す。
予定では、そこでアリムラがアリシラに手を差し伸べ、2人いっしょに落ちるはずだった・・・・・・が。

「ぎゃー!!!!!!!!!!」
「あ・・・・・・」

アリシラの腕をつかむはずだったアリムラの手は、あと一歩というところで虚しく空を切り、アリシラは一人でセットの下へと転落していった。
推定落下高度4メートル強。

「あ〜あ・・・早速NGかよ・・・・・・」
「また、あの高さから落ちなきゃいけないなんて、かわいそうだね・・・」

その場を見守っていたヒスイとフィアルは人事のようにコメントしている。
現に人事なのだから仕方ないといったところか。

「アリムラさん!!!今思いっきりやる気ありませんでしたね!?初めからやる気ゼロでしたね!?」
「うん」

必死の思いでセットの下から這い上がってきたアリシラはアリムラに詰め寄るが、アリムラは平然と答えるだけ。
どうやら、アリムラは何が何でも、崖下落下後のシーンの収録をしたくないらしい。
結果、この落下シーンは、その日一日延々と続けられ、アリシラはひたすら一人で崖下ダイブを続けたらしい・・・




「・・・・・・あぁ・・・無事だったか・・・・・・探した」
「ヒ・・・スイ・・・・・・」

今まで、ずっと舞台裏で出番待ちだったヒスイの出番がようやくまわってきた。
回想シーンでフィアルも登場し、ひとまずは主役格の4人は再び全員出番がまわる状況となったことになる。
しかし、1シーン収録が終わるごとに、アリムラはさっさとアリシラから離れてセットの片隅へと戻っていった。
一人で、セットの片隅で台本を片手にセリフを覚えこんでいる。

「アリムラさん・・・・・・そんっなに僕とのラブラブイチャイチャシーンを演じるのがイヤなんですね・・・・・・」

だばだばと涙を流しているアリシラの台本は、既に印刷文字が解読不能なほどに濡れていた。
そんなアリシラなど完全無視を決め込んだアリムラは、ぶつぶつとその先のセリフをひたすら覚え込んでいる。
まだまだ、最終回の収録までは先が長そうだ・・・・・・
その後も、イヤというくらいのイチャラブシーンの収録をいくつか経て、アリムラにとって地獄のハルモニア収録シーンは、ようやく終わりを告げたらしい・・・






<ACT8:トラン再戦>



「まさか、本当に来てくれてるなんて・・・意外ですよ、アリムラさん・・・」

薄暗い森の中でロケは行われていた。
やはり、ずいぶんと乗り気なアリシラは役作りなど必要ないのだろう。
迫真の演技で、冷たい笑みを浮かべ、アリムラと向き合っている。
対するアリムラは、既に表情が強張っていた。
どうやら、本気でアリシラ曰く「僕とのイチャラブシーン」がイヤらしい・・・
例の如く、フィアルは完全にビビり、怖いよ〜と怯えながらヒスイの背後に隠れてしまっている。

「は〜・・・しっかし、アリシラの奴・・・演技でも、アリムラにあんな乱暴はたらくなんて絶対イヤだってごねてやがったのに、案外まともに演技できてんじゃねぇか・・・」

どこか感心したように、ヒスイは2人をセット裏から見つめていた。
しかし・・・・・・

「今日のところは・・・これで・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「でも、あなたの命は必ず僕が・・・」

台本通りに、アリシラの唇がアリムラに触れる。

「あ〜、役得だな、あいつ・・・絶対これ終わった後、顔にやけて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

ヒスイがぽつりと漏らしてから、数秒が経過。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

30秒経過。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

一分経過。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ・・・フィアル・・・?」
「なに〜?」
「・・・・・・・・・台本には、確か一瞬で離れるって・・・」
「うん、そうだね」
「・・・・・・・・・・・・長すぎやしねぇか・・・?」

ちーん。




NGvv




「いい加減に離せ、この変態がっ!!!」
「げふぅっ!!!」

さすがに我慢の限界がきたのか、アリムラの張り手が見事にアリシラの左頬に炸裂する。
すさまじい音と共に頬を真っ赤に腫れあがらせたアリシラは、それでもにやにやとだらしなくにやけていた。

「あ〜もう・・・何するんですか、アリムラさん〜・・・顔が命の役者に向かってぇ〜・・・」
「思いっきり今わざとNG出したね!?」
「ふっ・・・これでおあいこですよ、アリムラさん・・・僕は、何回あなたのやる気のなさのおかげで崖下ダイブをやり直しくらったと思ってるんですか!?それに比べればかわいいもんでしょ!!!」
「何回NG出す気だ、お前はーっ!!!」

喧騒をよそに、セット裏では、漬物をぽりぽりと噛む生活感たっぷりな音が響く・・・

「あ〜、もう当分俺の出番までまわってきそうにねぇな〜・・・今のうちにメシでも食っとくか・・・」
「あ、ぼくも食べる〜」

セット裏にいつの間にやら持ち込まれたちゃぶ台の上で、出番待ち組はのん気に白米と沢庵と味噌汁、少量 のめざしを囲んでいた・・・






「・・・・・・・・・アリシ・・・ラ・・・僕・・・・・・君のこと好きなんかじゃない・・・」
「うん・・・・・・」
「でも・・・・・・好きじゃないけど・・・・・・愛してる・・・」

炎上するトランの屋敷の中での仮祝言のシーン。
さんざん渋ったあげくに、アリムラはようやく覚悟を決めたらしい。
ここまでは、何の問題もなく収録は進んでいた。
やがて、祝言シーンも収録が終わり、ひとまず休憩が入る。

「アリムラお疲れ様〜。火、熱くなかった?」
「熱かったよ、そりゃ・・・」

フィアルに差し出されたタオルを受け取り、ほとんど無表情のアリムラは、さっさとセットから遠ざかっていった。
そして、もう一人・・・

「おい・・・アリシラ?」
「・・・・・・・・・」
「アリシラ・・・おいって・・・・・・おい?」

セットの中で硬直したまま動かないアリシラを心配したのか、ヒスイが近寄り、肩を揺さぶる。
しかし、まるで無反応。

「アリシラ?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?!?!?」

そこでヒスイが見たものは
しまりのない顔で、すっかり、あちらの世界へ旅立ってしまっているアリシラの姿・・・

「うへ・・・うへへへへ・・・白いお家に大きな犬・・・暖炉の前でレース編みをしているマイハニー・・・給料3ヶ月分の婚約指輪・・・・・・」
「うわーっ!!!誰か担架もってこい、担架ーっ!!!すぐにホウアンとトウタを呼べ!!!こいつ、現実と妄想の区別 がつかなくなってやがるっ!!!」






<ACT9:ハルモニア戦>



「ねぇ、急に10年も経過してるんだね〜・・・」
「あぁ」
「なんかね、脚本家の人が『収録時間が足りなくなったから、急遽いろいろカット』なんだって」
「へぇ〜・・・」

フィアルの言葉に、ヒスイはやる気なさそうに相槌をうっている。
その後ろで、ぽつりと呟かれたアリシラの腹いせ行為には、恐らく気付いていないだろう・・・

「その10年間の中にあるはずだった、ヒスイとフィアルさんのイチャラブシーンことごとく削ったのは僕ですけどね・・・」

気付かれていたら、この収録は主役降板の憂き目を見ていたに違いない・・・






「え〜と・・・今回首を刎ねるヒクサクの人形について会議があるみたいなんですけど」
「会議?」

アリシラの言葉に、アリムラは不思議そうに首をかしげた。
会議も何も、ただ1回分の収録に使用するためだけの生首の人形だ。
そこそこの見栄えで作れば問題なかろうに・・・

「いえ、これは天の神様からの極秘の啓示なんですけどね?ヒクサクって、ゲームに名前しか登場してないから、ビジュアルをどうするか決めないと・・・」
「ゲ・・・ゲーム・・・・・・登場・・・???」

別次元の話についていけないアリムラは、一人悶々と悩み続ける。
かくして企画会議の結果、ヒクサクのビジュアルは「へのへのもへじのかかし」に決まったのだとかなんだとか・・・

「こんな臨場感のない生首でいいんですか!?」
「いーんだよ・・・ただでさえ、この話、あちこちで血とび肉とびちる話なんだから、そのへんでほのぼのしとかねぇと・・・」
「ほのぼのの必要性はまったくないと思う・・・」

アリシラの言葉に対して、妙な理由をつけてとっとと会議を終わらせようとしているヒスイに、脱力しきったアリムラのツッコミは的確であった・・・
ちなみに会議中、ヒマだと言いながら、フィアルはぐっすり熟睡中だったそうな。
かくして、へのへのもへじなヒクサクの首を刎ねるシーンは、なんともいえぬ緊迫感の中、似つかわしくない生首人形を使用して無事終了した・・・



「アリムラ・・・さ・・・ん・・・なんで・・・なんで・・・・・・」
「・・・・・・アリシラ・・・」

墓地での、アリシラとアリムラの再会シーン。
他の共演者たちが見守る中で、着々と撮影は進められていく。

「アリシラ・・・生きよう・・・」
「・・・・・・・・・」
「2人で生きよう・・・」

通常では考えられないような、微笑をアリムラは浮かべていた。
演技とはいえ・・・・・・

「うっわ・・・なんか企んでそうで怖・・・」

思わずぽつりと口にしてしまったヒスイの一言をアリムラの地獄耳は聞き逃さなかった・・・

「アリシラ・・・大丈夫・・・・・・僕が絶対に助けるからね・・・」
「・・・・・・・・・」
「2人でいっしょに帰ろう・・・デュナンに帰ろう・・・・・・」

アリシラを抱き起こすフリをしながらも、さりげなく足元に転がった小石をピンポイントで弾き飛ばす。
アリムラが放った、その小石の行方は・・・・・・

「!?」

ヒスイの頬を掠め、壁にめり込んだ・・・
直後に出番を控えていたことが、ヒスイの命を救ったのだろう・・・・・・




「・・・・・・・・・」
「なぁ・・・」
「・・・・・・・・・」
「いい加減、機嫌直せって」
「・・・・・・・・・」
「俺が悪かったから・・・」
「・・・・・・・・・別に・・・怒ってない・・・」

ヒスイとフィアルの痴話げんかシーン。
誰もが、はらはらとフィアルの様子を伺っている。
もともと演技派ではない彼が痴話げんかシーンを演じるなど、誰がどう考えてもムリだと踏んでいた。
しかし、台本の指示事項である以上、何が何でもこのシーンは収録しなくてはならない。
そんな周囲の心配をよそに、思いのほか収録は順調に進んでいた。

「ヒスイだから、こんなに不安にもなるし、心配にだってなるんだよ?他の人で意味があるはずない」
「・・・・・・・・・」
「次そんなこと言ったら、はり倒すからね」

憮然とした表情で、フィアルはセリフを言い切る。
予想外にも、一度のNGを出すこともなく、このシーンの収録は終了した。
収録の最中に本気で耳を引っ張られ、未だにひりひりとした痛みを訴える箇所を右手で押さえながら、ヒスイはセットからおりる。

「はぁ・・・まさか、フィアルが無事演じきれるとはなぁ・・・」

感心したように呟き、そこでふと、セット裏から聞こえてくる話し声が耳に入ってきた。

「アリムラさん!どうしてそんなに僕を避けたがるんですか!?」
「さぁ?自分の胸に聞いてみたら?」
「心当たりありません」
「そう。なら、もう君とは絶縁だね・・・」
「なんでですかー!?」

毎度のことか・・・とヒスイは溜息をつく。
収録の最中も、アリムラとアリシラのいつもの痴話げんかは続いていたらしい。
倦怠期もいいところだとぼんやり思いながら、あぁ、と思いつく。

「なるほどな・・・こりゃ、フィアルにも演技ができるわけだ・・・・・・」

他人の感情に、とかく同調しやすいフィアルのこと。
どうやら、収録の最中にセット裏で繰り広げられていたアリムラとアリシラの痴話げんかの様子を敏感に察知し、アリムラの気持ちに同調してしまっていたらしい。
このときばかりは、倦怠期の2人も役に立ったのだった―――――






<ACT10:ヒスイ死没>



「ふざけるんじゃねーっ!!!」

ばりぃっ!と台本が引き裂かれる音があたりに響く。
同時にヒスイの怒号があがった・・・

「なんだってこの俺様が、名前すらもらえねぇような端役ごときに殺されなきゃならねぇんだよ!?」
「落ち着きなよ、ヒスイ。お涙頂戴のシーンなんだからさ・・・」
「冗談じゃねぇ!!!これなら、まだルカに殺されてた方がマシだ!!!」
「まったく、聞き分けないね・・・」

あくまでも自分の役回りが気に食わない様子のヒスイには取り合うつもりもないのか、アリムラは冷めた答えしか返さない。
台本をぱらぱらとめくりながら、アリシラとのイチャつきシーンを見つけるたび、チッと舌打ちしている。

「しかも、なんなんだよ、これは!!俺は、断崖絶壁からノーロープバンジーもどきしろってのか!?」
「いいじゃんか、それくらい!!!」

ヒスイの抗議の声に、どこからともなくアリシラの声が重なる。
台本を片手に、だばだばと涙を流していた。

「僕なんて、ハルモニアでの、あの崖下ダイブシーンを何回撮り直ししたと思ってるんだよ!?」
「それは、てめぇとアリムラが倦怠期だからだろうが!?」
「違う〜っ!!!僕とアリムラさんは倦怠期なんかじゃなくて、ちょっとした、犬も食わぬ なんとやら・・・」
「倦怠期なんかじゃないよ。だって、初めから恋人でもなんでもないんだから」

ヒスイとアリシラとの会話に割り入るように、アリムラの冷めた声でのツッコミが入る。
その瞬間、痛いほどの沈黙があたりを支配し、次の瞬間・・・・・・

「うわーんっ!!!アリムラさんにフラれましたーっ!!!」
「うるさいよ、いちいち・・・セリフが頭に入らない」
「誰か脚本家を今からリストラして、新しく書き直させろーっ!!!」

様々な思惑が交差する中、フィアル一人はのんびりと・・・

「今日のお弁当まだあったかい〜♪」

まずいと評判のロケ弁をご機嫌で食していた・・・




「・・・悪い・・・な・・・結局・・・・・・お前ら、2人の約束・・・どっちも守れねぇ・・・」

なんだかんだと文句を言いながらも、今さら台本を差し替えるなどムリな話。
結局、逆らいきれない謎の強制力が働き、ヒスイは、名もなき兵士に背後からぶすっvと刺されたのだった・・・
かくしてシーンは進み、ヒスイが滝壺に身を投げようかというところまできていた。

「・・・・・・・・・・・・」

ヒスイは、ギッと眼下の滝壺を睨みつける。
やはり予算不足でスタントを雇ってもらえなかったがために、本人が飛び込むしかないのだ。
とはいえ、相当な高さ。
素人が飛び込むには、相当の勇気がいる。
なんとか呼吸を整え、ヒスイは意を決し、滝壺へと飛び込んだ。
微妙な長さの浮遊感を味わった直後、それこそ地面に叩きつけられでもしたのではないかと思うほどの衝撃と共に大きな水しぶきがあがる。
はい、カーット!と声が響き、わらわらとスタッフたちがチェックに勤しみ始めた。
しかし・・・・・・

「ねぇ、アリムラさん・・・ヒスイ浮いてきました?」
「さぁ?」
「・・・・・・・・・・・・」

アリシラは、嫌な汗が背中に伝うのを感じる。
しばらく波紋と水泡を浮かばせていた水面は、今は、ぴたりと静まり返っていた。

「ぎゃーっ!!!!あいつ絶対溺れてるーっ!!!!!!」

レスキュー隊が出動する騒ぎになったらしい・・・






<ACT11:フィアル吐血>



「絶対やだ」
「フィアル・・・わがまま言ってないで・・・・・・」
「やだ!死んでもやだ!!!!」

何やら、セット裏で、フィアルとアリムラが揉めていた。
このロケで、フィアルが自分の役回りに対して、あそこまで頑なに嫌がる光景など見たこともない。
なんだなんだと、見物人の輪が2人のまわりにできる。

「フィアル・・・仕方ないでしょ?予算不足で、血糊が高くて手が出せなかったんだから・・・」
「だからってトマトジュース(しかも業務用パック。味最悪)を血糊代わりなんて、絶対にやだー!!!」
「・・・・・・・・・」

まるっきりお坊ちゃんのフィアルは、食べ物に関する好き嫌いが、意外に多い・・・
なんでもウマい味覚のアリムラとは、見事に対照的だ・・・
トマトジュースもお気に召さないらしい。

「でも、絵の具なんかを口にするよりマシじゃないか・・・」
「その方がまだマシ!!!」
「フィアル・・・・・・(汗)」

よほどトマトジュースを口にしたくないと見える。
しかし、鬼の撮影スタッフたちに「人情」という言葉は見当たらない。
カメラさんが2人、フィアルを取り押さえて、無理矢理セットへと引きずりあげる。
そして、美術スタッフが3人がかりで、これまた無理矢理にトマトジュースを口に流し込ませた。
もがもがと必死の抵抗を繰り返しているフィアルも、大の大人5人がかりでこられては、どうしようもない。
それこそ、その光景をヒスイが見ていたら大騒ぎするだろうが、滝壺に飛び込んだ後レスキュー隊に救出されたヒスイは、現在病院送りで集中治療室。
不幸中の幸いといったところか。
ついでに、入院費は労災が効いたらしい・・・
さておき

「監督!全部流し込みました!」
「よし今だ!!すぐ離れろ!吐血シーン撮影だ!」
「ラジャ・・・・・・・!?」

スタッフたちがフィアルの傍を離れようとした途端。



ごふっ



耐え切れなくなったフィアルは、カメラがまわる前からトマトジュースを口から噴射していた・・・
それはもう、撮れなかったことを後々監督が悔やみ続けた程の見事さだったらしい。

「げほげほっ・・・ごほっ・・・・・・」
「失敗だ!お前たちもう一度流し込め!!!」
「ラジャー!!!」
「もういやだー!!!!!!!」

フィアルの涙の絶叫がセット内に響き渡る。
幾度となく撮り損ないが繰り返されたそのシーンは、大嫌いなトマトジュースの飲みすぎでフィアルの顔色は真っ青になり、目には涙が浮かんでおり、迫真の演技と評される出来に仕上がったらしい・・・






<ACT12:土下座>



「おま・・・お前・・・・・・」
「久しぶり・・・シーナ・・・・・・」
「アリム・・・ラ・・・?」

アリムラの、トランでのシーナとの謁見シーン。
久し振りの演技復帰となったシーナだが、勘はまだ鈍っていないらしい。
スタッフたちの心配をよそに、撮影は順調に進んでいく。

「お願い・・・お願い!!お願いだから・・・なんでもするから・・・アリシラのこと裏切らないで!?」
「アリムラ・・・おい・・・?」
「お願い・・・デュナンに反旗を翻すつもりなら・・・そんなこと・・・」
「おい、アリムラ!ばか、やめろって、そんなこと!!手ェあげろ!」

危惧されていたアリムラの土下座シーンもすんなりと進む。
久し振りに安堵して撮影できるシーンだと、スタッフたちも胸をなでおろしていた。
しかし、こんな時に限って、かなりの確率でトラブルは「こんにちはv」するものである・・・

「お前が、今ここで俺のものになってくれるってんならな」
「・・・!?」
「できるだろう?さっき、なんでもするって言ったよな?そのへんに関しちゃ、俺が遊び人だってこと、お前もよく知ってるだろう?」

何のNGもないまま、シーンは終盤へとさしかかる。
ここまできたら、もう後は安心して見ていられそうだと、スタッフたちは安堵の息をついた。

「その代わり、絶対に約束して・・・アリシラに・・・協力するって・・・・・・もう絶対に裏切らないって・・・」

肌蹴たアリムラの肌を前に、本来なら狼狽してシーナがそれを止めるはずだった。
しかし、どうしたわけか、シーナは動く気配がない。
さすがに様子がおかしいと気付いてはいるものの、どうしていいやら分からないアリムラは、とりあえず演技はそのままに悲痛な瞳でシーナをじっと見つめている。

「シーナ・・・・・・?」
「・・・あぁ、分かった・・・・・・」

そう言いながら、シーナは目の前でかたまっているアリムラの身体を抱きすくめた。
台本にないセリフと動作とに、それを見ていたフィアルは「おや?」と台本を確認し始める。

「ちょ・・・ちょっとシーナ・・・台本と違うっ・・・!」
「いや、分かってるんだが・・・こんな据え膳放り出したりしたら、男としてどうかと・・・」
「ちょ・・・ちょっと何言って・・・って・・・ほんとにやめてってば、もう!(汗)」

未だにカメラは回り続けており、NGのダメだしも出ていない。
とりあえず、アドリブの連発に次ぐ連発でなんとかして演技を続行しているために、アリムラとシーナの会話は、集音マイクすら拾うことができないほどの囁き声でやりとりされている。
背中にまわされたシーナの腕に困惑しているアリムラに、シーナは、その耳元でぼそりと告げた。

「いっつもアリシラがお前の傍に居ついてるから、なかなかお前に接近できないんだよな・・・こんなチャンス滅多にねぇし・・・・・・」
「な・・・何言って・・・(汗)」
「ここは一つ、俺を男にしてくれよv」
「シーナ!ちょっと・・・ふざけるのもいい加減にっ・・・!!」

相変わらず、集音マイクにさえ拾うことができないほどの小声で、ぼそぼそと会話が行われている。
耳元で低く囁かれることに弱いのか、いつの間にかアリムラの肌は紅潮し、シーナの腕の中で、ぴくりと軽い反応を示していた。
そのままゆっくりとした動作で床の上に押し倒されても、撮影は続行されたまま、いつまで経ってもNGのダメだしの声はかからない。
話の流れから考えて、ここでアリムラが抵抗するのはおかしいだろうし、ここまで順調にきているところを、NGなど出して台無しにもしたくない。
再びシーナに抗議の声を届けるべく、演技の流れに支障がないよう、いかにも怯えた様子で恐る恐るといった感じに両腕を彼の背中にまわし、アリムラはシーナの身体を自分のすぐ傍へと引き寄せる。

「シーナ!バカなことしてないで、早く台本通りに!」
「ここまできちまったものは、今さらなぁ?」
「何言ってんの!どこまで本気か知らないけど、こんなの監督や脚本家の人に怒られるよ!?」
「その割には、ダメだしの声かからねぇじゃんv」

すっかり気をよくしたのか、それとも単に遊び人の本性が顔を出し、調子にのったのか・・・
シーナの唇が、アリムラの唇に触れてきた。
さすがにそれは予想外の行動だったのか、思い切り目を見開き、思い出したようにアリムラは両腕でシーナの服を引っ張り、軽く抵抗を示す。
そこまできて、ようやく収録カットが告げられた・・・・・・



「こ・・・っ・・・これじゃ全然台本と違うよ、シーナぁっ!!!」

ようやく大声を張り上げることができる状況になり、開口一番のアリムラのセリフはそれ。
しかし、シーナはけろりと・・・いや、むしろ残念そうにしている。

「ちっ・・・いいところで打ち切られやがったか」
「そういう問題じゃない!しかも何!?いいところって!?」

2人の喧騒をよそに、スタッフたちは、今撮られた映像をマジメな顔をしてチェックしていた。

「監督・・・これはむしろ、台本通りに進めるより、使えるんじゃ・・・」
「そうだな・・・まさに、ぎりぎりの駆け引き・・・昼のメロドラマ並みのドロ沼感が・・・!!」

スタッフたちのやりとりを何気なく小耳に挟んだ2人は、それぞれ微妙な反応を示していた・・・

「もしかして、あのまま使われたりするの!?(汗)」
「ちぃっ!どうせ使われるなら、もっと露骨にせまればよかった!!!」
「そうじゃないでしょ!?」

アリムラがシーナに鋼鉄のツッコミをいれるのと同時に、どこからともなく轟音が響き渡る。

「だらーっ!!!!!!!」

聞き慣れた、騒動を呼ぶ声・・・・・・

「誰がそんな映像流させますか!!!断固撮りなおしを要求ですっ!!!!!」

予想通り、アリシラが登場していた。
ご丁寧に、内容が収録されているテープを木っ端微塵に粉砕して・・・
スタッフたちの絶叫が響き渡る中、結局そのシーンは、台本通り収録され直したらしい・・・






<ACT13:ゼクセン・グラスランド連合>



「よ・・・ようこそ、おいでくださいました、アリシラ殿・・・・・・」
「突然であるにも関わらず、無礼を承知の謁見をお許しいただき、感謝いたしております。連合軍軍主トーマス殿」

降霊があるというなら、もはや何でもありの世界。
15年後の世界から、どういう方法を使ってかは知らないが、未来のゼクセン・グラスランドあたりを活動拠点とする人間達が集められていた。
約一名の銀髪の大根役者を除き、他はそれなりの演技が期待できるといったところか。
撮影は、それなりに順調に進んでいる。
君主モードのアリシラも、多少の危なっかしいアドリブはあるものの、なんとかここまで収録は成功といえる出来で進行していた。

「あぁ、これはご無礼を・・・他意はございませぬ。ただ、以前の私の言葉を、そのように解釈されたのであれば、どうかご理解願いたい。我々は、決して自らの力を誇示するがために戦を起こしているわけではございませぬ ゆえ」

しかし、次第にアリシラの口調は、どこか不自然さを露呈してくる。
だんだんと棒読み状態になり始めてきていた。

「トーマス殿・・・先日も申し上げたと思うが・・・統一さえ果 たされれば、この天下より争いの火種は根絶される。今は、平定のために我々もこうして戦う以外に術はないが、その先に統一が果 たされたとするのであれば、私のように・・・ただ戦う以外に能のない男は、ただのお飾りの統治者にしかなれない・・・貴殿のような方が私には必要なのれらっれろれられ・・・」

ちーんvv

「あ〜あ〜、惜しかったねぇ。あとちょっとだったのにね〜」

慣れない口調と長すぎるくらいのセリフ。
まして、目の前には、面識のない15年後の人間たち。
見事にNGを出したアリシラに、間延びしたフィアルの労いらしき言葉がかけられる。
もはや頭がパンク状態なのか、アリシラは、ただぱくぱくと口を動かしているだけ。

「そもそもが、そんな難しいセリフを連続でっていうのがムリなんだよ。ただでさえ、頭が足りてない子なんだから」

思わずその場が凍りつくような冷たい言葉がアリシラに突き刺さる。
セット裏で台本をチェックしながら、視線を寄越すことさえせず、アリムラがきっぱりと言い放っていた。

「あ・・・あの・・・あの2人って、もしかして仲が最悪とかなんでしょうか?」
「俺に聞かれても・・・・・・」
「デュナンの地の国王もたいしたことはないわね・・・」
「あれでは、先が思いやられるな・・・」

ブリザードのような寒さに覆われるその場をよそに、15年後のゼクセン・グラスランドメンバーは、来る未来に不安を寄せていたらしい・・・






<ACT14:指輪交換>



「まだ死にたくない・・・遣り残したこと、これからしなきゃならないこと、たくさんある・・・それに忙しさや病のこともあって、ヒスイの弔いだって満足にしてやれてない・・・・・・」
「当然だ。死にたいなんて思う奴はいない」
「もっと・・・もっと生きてたいよ・・・シード兄様やアリムラや・・・・・・みんなと、もっともっといっしょにいたいよ・・・」

まさにお涙頂戴の兄弟劇。
これでもかといわんばかりに目薬をさしまくったフィアルの泣きの演技は、見た目がお子様ということもあり、怖いくらいにハマっている。
どうやらそれに庇護欲をそそられるらしく、シードの方の演技も、どこも問題ない。
アリムラの方も、この時点では何の問題もなく演技を続けていた。
しかし、問題は山積みなのである・・・・・・

「だ・・・大丈夫かい、アリシラ?」
「えへ・・・えへへへへ〜・・・vvv」

出番待ちのアリシラを心配してか、ジョウイが声をかける。
そう、この先に控えているのは、アリシラとアリムラの砂を吐くくらいに甘いシーン。
アリシラにとっては、まさに棚ボタ。
アリムラにとっては、それこそ逃亡を企てたくなるくらいのシーンだろう。
現に、今までの収録でも、2人の恋愛劇を描くシーンでは、見事なまでのNGやら、収録後の恐ろしい雰囲気やらがお目見えしている。
まして今回のシーンといえば・・・

「アリムラさんと、とうとう指輪の交換・・・えへ・・・えへへへへへへ〜・・・」
「アリシラ・・・帰ってこいってば・・・」

しまりのない顔をさらしつつ、アリシラは早くも意識をそちらへと飛ばしつつあるのだった・・・




「これ・・・中身なんですか?」
「・・・・・・開けてみれば・・・分かるから」
「?はい・・・」

案の定逃亡を試みていたアリムラを必死に捜索し、問題のシーンの収録は始まった。
明らかにぎこちないアリムラの演技は、どうやら照れ隠しと目に見えるらしく、今の時点では問題ない。
ますますぎこちなくなっていくアリムラの動きとは対照的に、アリシラの表情は晴れ晴れとしている。

「・・・・・・アリムラさん・・・愛しています・・・」
「・・・僕・・・も・・・僕も大好きだよ・・・」

そのまま、アリシラの腕がアリムラの肩を抱き締めた。
台本では、額に軽くキス程度のはず。
ところが・・・・・・

「・・・っ!?」
「・・・v」

唇同士。
おまけに、少々深すぎやしないかというぐらいの。

「監督!」
「いや、待て!止めるな!!」

スタッフたちの動揺と、アリムラの助けを求める視線とをよそに、そのまま撮影は続けられる。

「・・・アリシラ・・・僕・・・・・・」
「はい」
「僕は・・・君を好きでいてよかった・・・」

泣く泣く最後まで続けられた収録。
最後までぎこちなかったアリムラの演技は、それも功を奏したらしい。
撮影監督は、涙ながらにアリシラの手を握る。

「ありがとう!ありがとう!君のおかげで、最高の感動シーンが撮れた!君は天才だ!!」
「そうでしょう!?そうでしょう!?」

熱き男のトークを交わしている2人をよそに、セット裏でしくしくと泣きながら、アリムラはぽつりと呟いた。

「僕の人権はどうなるんだ・・・」






<ACT15:再会>



滝壺にダイブシーンで溺れて集中治療室行きだったヒスイが撮影現場に呼び戻された。
思いっきりむっつり顔で、出番を控えている。

「うわ〜・・・ヒスイ、怖い顔〜・・・」
「うるせぇよ」

誰もが怯えてヒスイに近寄らない中で、相変わらず何を考えているのか分からないフィアルだけが、その隣に座っていた。

「なんか怒ってるの?」
「別に」
「皺寄ってるよ〜?」

フィアルは、ヒスイの眉間のあたりを指差す。
どうやら、久し振りにヒスイに会えて、かまいたくて仕方ないらしい。
あれで少しでも場が和んでくれれば・・・と、撮影スタッフたちは一縷の望みを託していた。
そんな中、撮影も順調に進み、再びヒスイの出番がまわってくる。
久し振りの演技ということもあり、多少ヒスイへの不安感があったものの、演技はそれなりに見られるものだった。
撮影スタッフたちも安堵の息を漏らす。

「お前のために命はれたこと・・・こんな役立たずが、それでもほんのわずかでも・・・お前の助けになることができたんだと実感できた・・・嬉しかったし、満足だった。死を選んだのは俺自身。望んで、その道を選んだんだ。だから、お前が気にすることなんてない」
「・・・・・・だけ・・・ど・・・」
「本当に悪いと思ってくれてるなら、俺が成仏してもいいって思えるくらいに、しっかりしてくれよ。今のまんまじゃ、いつまで経ったって、ここから離れられねぇ」

うまくいった!ブラボー!!
誰もがそう思った。
まわされていたカメラが止まり、OKサインが出され、ほっとしたようにアリシラがセットから戻ってくる。

「いや〜・・・一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなるもんだね〜。よかったよかっ・・・」

ごつんっ!!!

「!?!?!?」

突然響き渡った大きな音に、アリシラは振り返った。
そこで彼が目にしたものは・・・

「うわ〜・・・痛そ・・・ヒスイ平気〜?」

ぱたぱたと駆け寄っていくフィアル。
セット内で卒倒しているヒスイ。
どうやら、久し振りの撮影だけに、演技はともかく、セットの高さを完全に忘れ去っていたらしい。
高すぎるヒスイの身長は、セット用機材に見事に額を直撃するサイズ。

「ヒスイ〜?平気〜???」

奇妙な沈黙が降りる中、ヒスイの目の前でぱたぱたと手を振っているフィアルの呑気な姿だけが、妙に浮き立っていた・・・






<ACT16:天下統一>


「・・・アリム・・・ラ・・・・・・さん・・・・・・」

撮影もクライマックスシーンに近づき、現場にはぴりぴりとした雰囲気さえ漂っている。
場面は、既に統一宣言が下され、アリシラが死にかけるシーン。
アリシラとアリムラが、ようやく再会を許される、撮影監督曰く、涙なくしては語れない場面 。

「俺の出番も終わったし、あとは気楽に見守るだけだな〜」
「ぼくも気楽〜♪もう、血糊代わりのトマトジュース飲まなくてもいいし〜」

額に大きなコブの跡が痛々しいヒスイと、呑気にも、スタッフからもらったらしい飴を舐めているフィアルは、アリシラとアリムラの様子を見守っている。
やがて、セット内に「ことん」という物音が響いた。
アリムラがアリシラの部屋に入る合図の効果音。
しかし、いつまで経ってもアリムラは部屋へ姿を現さない。

「おい、どうした?」
「さ・・・さぁ・・・ちょっと様子を見てきます」

スタッフたちがどよめき始め、一人がぱたぱたと、アリムラが待機しているはずのセット裏へと姿を消す。
そして、次の瞬間大声が響いた。

「大変です、監督っ!!!またアリムラさんが逃亡をかましました!!!」
「何ィ!?すぐに確保しろ!!!」
「はいっ!!!」

スタッフが総出でアリムラの捜索へと借り出される。
ぱらぱらと台本をめくったヒスイは、成る程といわんばかりに頷いた。

「あ〜・・・そりゃアリムラも逃げるわな〜・・・・・・」

かくいうセット内のアリシラは、チッと、いかにも恨めしげに舌打ちをする。
なにしろ、この再開後のシーンの青に予定されていたのは、昼メロ仕立ての2人のイチャラブシーンだったのだから。
事情を知らぬフィアルだけが、不思議そうに飴を舐めながら現場を見守っていた。






<ACT17:クライマックス>


さんざんなアクシデントに見舞われ続けた撮影も、ようやく終わりを告げようかという時期に入った。
撮影も架橋へとはいり、あとは血と汗と涙が報われるべきクライマックスを残すのみ。

「アリムラさん」
「うん」
「これからの一生のすべてを、僕のために・・・生きてくれますか・・・?」

アリシラの告白。
実は、このシーン収録の直前にも、アリムラは懲りずに逃亡を企て、スタッフたちに取り押さえられている。

「アリシラ・・・・・・」
「はい?」
「・・・・・・ご苦労様・・・」

もはやこれまでと覚悟を決めたのか、アリムラの演技は完璧に近いものだった。
滞りなく撮影は続いていく。
スタッフたちから安堵の溜息が漏れた。
そうして2人は台本どおりに抱き合い、一旦そこで収録は休憩へと入ることとなった。

「はい、ご苦労様〜。最後に備えて、2人とも少し休んで〜」

撮影監督の声がセット内に響くが、その声は2人には届いていない。
どたばたと騒がしい音が響いているのみ。

「アリシラ!!!いい加減に離せ、このバカ!!!!」
「いやです!!こんなチャンス滅多にないんです!!!このまま、現実のラブシーンへとうつりましょう!!!」
「ふざけるなーっ!!!!!」

どかん
ばきっ
ごしゃっ

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ〜ぁ・・・まだ、このセット、あと1シーン使うのにね〜」

痛いほどのスタッフたちの沈黙の中に、相も変わらず呑気なフィアルの声が響く。
アリムラを離そうとしないアリシラへの鉄槌の被害はセットへも及んだらしい。
アリシラの部屋のセットの急遽修復に費やされた日数は3日。
こうして、様々なアクシデントを乗り越え、撮影予定日数を延びに延びた撮影は、決して「無事」とは言い切れないかたちで幕を閉じたのだった・・・






「終わりましたね・・・」
「うん・・・ようやく・・・・・・」
「ったく、誰がこんな企画思いつきやがったんだよ・・・」
「ちょっと今回は疲れたね〜」

今回の主役メンツのWWリーダーの4人は、楽屋で疲れ果てたように座り込んでいた。
今回の撮影で、スキャンダル誌に「アリシラとアリムラ不仲説」が流れたり、「ヒスイ、ロリコン説」が流れたり、「シードとフィアル密会か」なる情報が流れたりと、なにかと奇妙な噂話(あながち噂ばかりではないフシもあるだろう・・・)が飛び交った撮影だった。
さらに、予定していた日数を大幅に超えたり、労災もきかないような様々な負傷があったりと、しぶとさだけが売りの4人もさすがに疲れがどっと出たらしい。

「この後の打ち上げ会、行く?」
「俺はパス・・・」
「あ、僕も・・・・・・」
「ぼくもちょっと眠いし・・・」
「僕も、あんまり行きたくないな〜」

アリムラの言葉に、全員が浮かない返事を返す。
当のアリムラも、撮影監督から誘いを受けた打ち上げ会に参加する気は、初めから薄かったらしい。

「全員でバッくれるか?」
「それが賢明だね」

ヒスイの提案に、全員が賛同する。
このまま、撮影終了のお祭り騒ぎのどさくさに紛れて逃げ出す。
それが4人の出した答え。
しかし・・・・・・

「そうは問屋が卸さないんだな、これが」

扉の向こうから聞こえてきたのは、撮影監督の声・・・






△月□日(友引)
再び一冊の台本が僕の手元に届きました
角で殴れば人が殺せそうなほどの厚さは相変わらずでした
今度こそ、これで筋力トレーニングでもしろということでしょうか?

アリシラ少年の3日ぼうず(何度目だろう・・・)な日記より抜粋






「うぇぇぇぇぇぇぇ!?何これ!?地獄門第二幕!?謎現代パラレル舞台!?演技ぃ!?やだっ!絶対やだっ!!」
「・・・・・・・・・」

送られてきた台本を手に、アリシラは大騒ぎしていた。
その隣で、ヒスイはぱらぱらと台本のページをめくって、何事か考え込んでいる。
アリシラは、頭を抱えて相変わらず、ぎゃぁぎゃぁと喚いていた。

「だってだって!また、こんな貧乏くじ男の役なんてっ!!今度こそ絶対にやだっ!!!」

どうやら、冒頭部分を軽く読んだだけで、先が読めたらしい・・・
しかし、ヒスイは何やら冷めた目でそれを見ている。

「あのなぁ・・・お前、それ破棄できるとでも思ってるのか?」
「なんで!?」
「・・・・・・・・・」

すでに台本を破り捨てようとしていたアリシラはヒスイを振り返る。
ヒスイは盛大に溜息をつき、台本に視線を戻した。
やれるものならやってみろとばかりに。
そして、無言でアリシラの目の前に「出演承諾書」なるものを突き出す。
まっぴらごめん!と、アリシラは台本といっしょに承諾書も破り捨てようと手をのばした。
しかし・・・・・・

「え?ぎゃ・・・ぎゃーっ!!!いやだーっ!!!」






何やら謎の強制力が以前と同じように働き、哀れアリシラは、再び承諾書に判を押す結果 となった・・・・・・
ちなみに、ヒスイを含めた他の3人は、仕方ないとばかりに承諾したらしい
かくして、4人のパラレル撮影地獄は、これからも果てしなく続く・・・

 
カウンター9100ゲットの陸海月様からのリクエスト
「地獄門演技裏」
さんざんお待たせしてしまった挙句にできたのがコレか!?
話にならねぇ!!!(爆)
ほ・・・本当にすみません、海月さん・・・これが精一杯でした(激涙)
いやまぁ・・・本編であれだけベタついてたアリシラとアリムラですので、その反動で、舞台裏は倦怠期真っ最中なんだろうなぁ・・・と(笑)
で、ヒスイは相変わらず身長で苦労してるだろうなぁ・・・と(笑)
なおかつ、フィアルは子供でまわりに世話をかけてるだろうなぁ・・・と(笑)
舞台裏で最初から想像できたのは、フィアルのトマトジュース嫌いでしたね!
お子様だから、好き嫌いが多い感じ。
しかし、なにげに地獄門は、いろいろと思い入れが深い作品だっただけに、こういうかたちで別 角度から書く機会を与えてくださって、本当に感謝ですvv
内容はともかく、書くのがすごく楽しかったvv こんなダメダメ内容ですが、よろしければお納めください、海月さん!(いらねぇよ)

 


アリシラ君…(涙)アリシラくーん!!(泣)

カナタ:わーんっ!(泣)アリシラさん!漢です!アリシラさんは立派な漢ですよーーっっ!!(もらい泣き)

なんか…こう…読んだ時に涙が止まりませんでした。(笑)

カナタ:笑ってますよ!?

まさか…地獄門の影にはこんな苦労があったなんて…!(涙)

鈴鳴さん!ありがとうございました!!ありがたく受け取ります!!飾ります!!(喜)仰ぎます!(?)

次のキリ番狙ってたのですが、惜しくも1つ前でっ…;…思わず更新ボタンを押しかけました…(吐血)

残念でした(笑)