君は何度も僕にその言葉を囁いてくれたけど
それを疑ってるわけじゃないんだけど・・・
絶対的に信じられるほど、僕は自分に自信がないから
だからなのかな・・・
時々、ふとしたことで不安になる
君はいつだって、僕のこと見ていてくれるのに・・・





その視線さえ・・・信じられなくなることがある・・・





「坊ちゃん・・・最近来ないですね・・・・・・」
「・・・・・・・何?なんのこと?」
「アリシラくんのことですよ。以前は3日とあけず、迎えにきてたのに・・・」
「え・・・だって・・・アリシラだって同盟軍の軍主なんだから、忙しいはずじゃ・・・
今まで、あれだけ通ってこられた方が不思議なくらいだよ」
「はぁ・・・でも、坊ちゃん寂しくないですか?」
「寂しいっていうより・・・ヒマ」

アリムラがグレッグミンスターに戻ってきてから、もう2週間目。
その間、あのアリシラは一度も迎えに来ない。
顔ですら出さないのだ。
確かに忙しいのだろうとは思う。
とはいえ・・・・・・

「んー・・・することないし、久し振りに城に出てくるね。しばらく顔出してないから、
レパントうるさそうだし」

そう言って、アリムラは家を出た。
アリシラがいないと、本当にヒマなのだ・・・

「何かあったのかな・・・」

今戦争中の国の軍主であれば、忙しいのが当たり前というのは確かだと思う。
2週間も音沙汰なしだというのなら、戦争が激しくなった可能性もあるのだろう。
しかし、その割には、まったく情報が入ってこない。
戦争が激化したとなれば、トランに援軍の申し出があっても、おかしくはないのだが・・・

「うーん・・・・・・」





「お、アリムラ。久し振りだな〜」
「あ・・・うん・・・・・・」
「珍しいな、お前からこっちに来るなんて」

結局気になったアリムラは、1ヶ月ぶりに同盟国に足を向けていた。

「・・・あんまり変わりないみたいだね」
「あぁ、こっちは相変わらずだ。戦況も膠着状態が続いてるからな・・・ま、その方がこっちとしても
助かるっていえば助かるんだが」

ビクトールの言葉に、なんとなく安心する。
特に戦況が悪化したというわけではなかったらしい。
だけど、それなら・・・

「あ、ねぇビクトール。アリシラは・・・・・・」
「ん?あぁ、あいつも元気でやってる。最近じゃ執務もちゃんとこなしてるってんで、シュウあたりが
近々天変地異でも起こるんじゃないかって危惧してたぜ?」
「そう・・・うん、元気ならいい」

それだけ言うと、アリムラはビクトールに背を向けた。

「おい?お前、どこいくんだ?アリシラに会いにきたんじゃないのか?」
「しばらく音沙汰なしだったから、戦争の方が激しくなったのか、それともアリシラの具合が
悪くでもなったのかって思ってたんだけど、そうじゃないみたいだから、今日は帰るね。
それを確かめにきただけなんだ」
「せっかく来たんなら、顔ぐらい見せてったらどうなんだよ?」
「だけど、特に変わりもないのにアリシラが来ないってことは、むこうにも何か考えがあってのはず
だよね。だから、僕の方から顔見せるっていうのも・・・」
「・・・・・・アリムラさん?」

アリムラがビクトールの言葉にしぶっていたところで、ふと後ろから声が聞こえる。
なんとなく期待していたような、でも会ってはいけないとも思っていた彼の声。

「なんで?ひょっとして、わざわざ会いにきてくれたんですか?」

振り返ると、そこにはアリシラが立っていた。
以前よりも、いくぶん背が高くなったような気がする。

「あ・・・えっと・・・・・・」

アリムラが返答に困っていると、アリシラのすぐ後ろにいる女性に気がついた。
その腕には、幼い子供が抱かれている。
長い黒髪に、白い肌。
どことなく雰囲気がアリムラに似たところがあった。

「アリシラ様・・・・・・」
「え?あ・・・そうだったね。ごめんなさい、アリムラさん。今はちょっと・・・
あのっ!すぐに戻ってきますから、だから絶対に帰らないでくださいね!!僕戻ってくるまで ちゃんとここにいてくださいね!?」
「え・・・あ、あの・・・・・・」
「僕の部屋で待っててください!絶対ですよ!!」

有無を言わさぬ迫力で、アリシラがアリムラに詰め寄る。
気圧されて、アリムラは、ただ頷くことしかできなかった。
それに安心したように笑って、アリシラは女性といっしょに城の外へと歩いていく。
アリムラが知らない、その人と。

「・・・・・・とりあえず、待ってようか・・・」

独り言のようにぽつりと呟いて、アリムラはエレベーターに乗り込んだ。





なんとなく、おかしい。
心の奥に何かが引っかかっていて、思考に靄がかかってしまったかのように何も考えられない。
ぼんやりと窓の外の景色をながめていても、なぜかさっきの光景を思い出す。
アリシラと、そして彼といっしょにいた見知らぬ女性。
もちろん彼は、この国の軍主として様々な人々と接するだろう。
自分には知ることのできない顔を、彼は持っているのだろうし、自分以外の人間とだって親しく
なるのは当然のこと。
それが分かっていて尚、心の中に渦巻く暗い影。

「・・・・・・浮気された女性じゃあるまいし・・・」

呟いてはみるものの、やはりそれが今の自分の心の正体らしい。
醜く嫉妬しているのだろう。
彼が、自分以外の誰かに目を向けたという事実に。

「アリムラさん、ごめんなさいっ!!思ったよりも遅くなっちゃったよー!!!」

扉が大きな音をたてて開かれるとともに、息をきらせたアリシラが部屋に飛び込んできた。
あまりのその唐突さに、アリムラは思考を中断して、驚いたように彼を見つめた。
そして―――――――

「アリシラ・・・・・・」
「あー、よかったぁ・・・もう帰っちゃったのかと思った・・・」
「いや、そうじゃなくて・・・」

アリムラの視線は、アリシラの腕に向けられていた。
そこには、先ほどの女性に抱かれていた子供が眠たそうに目をこすっている。
まだ生まれて1年もたっていないだろう。
言葉だって、まだ満足に話せないくらいの年頃だ。
その子供が、まだ舌足らずな言葉でアリシラに向かって口を開いた。

「・・・ぱぁぱ・・・・・・」
「・・・・・・・・・?」
「ぱぱぁ・・・・・・」

一瞬、2人の間に沈黙が訪れる。
パパ・・・・・・・・・?

「え?あ・・・ちょっと・・・・・・」
「アリシラ・・・?」

やけに慌てたようなアリシラの様子。
彼に抱かれた小さな子供。
1ヶ月もの間、音沙汰なしだった彼。
見知らぬ女性の存在。

「ア、アリムラさん!?あの・・・・・・」
「・・・そっか・・・そういうこと・・・・・・」
「え?いや、だから・・・」
「仕方ないよね。確かに、僕じゃ君の傍にいるだけの価値はないから・・・」
「ちょっと!アリムラさん、何言ってるんですか!?」

自分でも何を言っているか分からない。
ただ心の中が、他のことは何一つ考えられないほどに混乱していた。
心の底から湧いてくる思いに、あえて目を向けたくなくて、話し出した口は止まらなかった。

「僕は君にとっての女の人の代わりでしかないから・・・だから、女の人にかなうはずなんかは
ないんだよね・・・。僕は君と添い遂げることだってできないし、君の子供うんであげることだって
できないし・・・だから・・・・・・」
「アリムラさん!ちょっと待ってくださいってば!!僕の話も聞いて」

心底慌てた様子で、アリシラがアリムラの言葉を遮る。

「アリシラ・・・・・・」
「いいから、僕の話、先に聞いてください。このままあなたの話聞いてたら、なんかとんでもないこと
言われそうな気がするし・・・」

困ったようにアリシラが言うと、しばらく考え込んだ後に、アリムラが頷く。
ひとまず、アリシラの腕の中で眠り始めた子供をベッドの上に寝かしつけて、2人で窓際へと移動した。

「あのね、言いたいことはたくさんあるんだけど、まずは一番大事なことから」

アリムラの肩をつかんで、じっとその瞳を覗き込んでアリシラが話し出す。

「あなた、今『自分は女の人の代わりだ』って言いましたよね?」
「うん」
「・・・・・・まぁ・・・確かにその通りなのかもしれない・・・。あなたは、僕にしてみれば
女の人の代わりにはなるだろうけど・・・」

言い訳の言葉は聞きたくない。
しかし、面とむかってはっきり言われるのも、なんとなく悲しい。
心の内を探られないようにと、アリムラがアリシラから目をそらそうとした時。

「でも、じゃぁその逆は?女の人が、僕にとってのあなたの代わりになることができると思いますか?」

意外な言葉に、アリムラは目をそらせなくなる。
自分を見つめてくる、真剣な茶色の瞳。

「なれるわけないでしょう?だって、僕にとってのあなたは、他の何にもかえることはできないんだから。
誰にだって、これだけは譲れないってものあって当然でしょ?僕には、あなたがそれなんです。
あなただけは誰にも渡したくないし、いつだって離したくない、傍にいてほしい」
「なら・・・なんで・・・・・・」

そう思ってくれるのなら、なぜ1ヶ月もの間顔を見せてくれなかったのか。
アリシラの想いや言葉が信じられないわけじゃない。
それでも不安になる。
いくら強く望んだところで、いつでも傍にいられるわけじゃない。
むしろ、離れている時間の方が長いくらい。
だからこそ、不安な気持ちを忘れられるくらいの明るい声で迎えにきてほしい。
ただそれだけを望んで、一度は離れた故郷で今もずっと待ち続けている。
ただのわがままでしかないけれど、それでもやっぱり彼には自分を見つめてほしい。
時には束縛してほしい、態度で示してほしい。

「・・・・・・ジョウイが・・・」
「?」
「もう、同盟軍の軍主なんてやめろって・・・・・・自分は、ハイランドの皇王という立場を
捨てるつもりはないくせに・・・」
「アリシラ?」
「だから僕も、意地でも今の立場を退くことはできないんです。ジョウイの思い通 りになんか
なってやるもんか・・・いつだって、ジョウイは勝手なんだから・・・」

突然弱々しい声で語られた言葉に、アリムラは少し苦しそうな彼を見つめた。
うつむいたままの顔は、なんだか泣きそうにさえ見える。

「この戦い、僕が同盟軍の軍主をやめれば・・・同盟軍がハイランドに降伏すれば終わるのかな?
でもそれは、みんなが望むところじゃないし・・・それに・・・それで誰もが幸せになれるわけじゃ
ないと思う。だから僕は戦うしかない。そのためには・・・この同盟軍がハイランドに負けない
ためには・・・僕が軍主としてしっかりしなくちゃ・・・。もうわがままばかり言ってられる
子供の時代は終わりなんだ・・・」
「・・・・・・・・・」
「ごめんなさい・・・ずっとあなたのこと迎えに行きたかったんだけど・・・自分の立場に
真剣に向き合ったら、なかなか時間見つけられなくて・・・あなたに、いらぬ不安ばかりを
与えてしまってたんですよね・・・ごめんなさい・・・・・・」
「・・・謝らなくたっていいのに・・・・・・」

肩を震わせて、今にも泣き出しそうなアリシラの身体を優しく抱き寄せて、困ったようにアリムラが
呟くが、アリシラは首を振る。

「だって・・・僕勝手だよね・・・自分のことばっかりで、少しもあなたのこと考えてなかった・・・
ごめんなさい・・・・・・」

縋るように腕が背中にまわされてくる。
胸のあたりに顔をうずめたままで黙り込んでしまったアリシラの頭を、あやすように軽くたたきながら
アリムラは窓の外に視線をうつした。

「ごめんね・・・勝手なのは僕の方だね」
「・・・・・・・・・」
「君の決心も自己犠牲さえも知らずに、わがまま言ってるのは僕の方だよね。ごめん・・・
これでも分かってたつもりだったんだよ?君がこの国を率いる指導者である以上、忙しいのは
当然だって。いつまでも僕にかまっていられるほど軽い立場の人間じゃないんだって。それでも・・・
やっぱり・・・不安にはなったよ。ごめんね、君に当たり散らしてた。こんなにも不安になるのは
君のせいじゃなくて・・・自分に自信がもてないからなのに」
「アリムラさん・・・ごめんなさい・・・・・・」

胸のあたりから、くぐもった苦しげな謝罪の声が聞こえてくる。
背にまわされた腕が強く身体を抱きすくめてきた。

「・・・もう、やめようか。とりあえず、僕の方は、もう気が晴れたから・・・」
「うん・・・・・・」

そうは言ってみるものの、アリシラが離れる様子はない。
こうして会えたのも一月ぶりだから、と自分に言い訳をしてアリムラは、そのままでいた。
その時、ふとうつした視線の先に、さきほど寝かしつけた子供の姿がうつる。
アリシラがここ一ヶ月もの間顔を見せなかったのは、軍主としての多忙な日々におわれていたからとは
分かったものの、あの子供と、そしてあの女性は?

「ねぇ、アリシラ・・・」
「はい?」
「あの子と、それから・・・さっきいっしょにいた女の人って・・・」
「あ・・・・・・あの人ですか?」

顔をあげたアリシラが、気がついたように言う。

「実はね・・・あの子、今日が1歳の誕生日なんです。そして今日は・・・僕が、この国の指導者として
任命されて1年目にあたる日なんですよ・・・」
「・・・・・・・・・」
「あの子は、僕がこの国の指導者となったその日に生まれた子なんです。さっきの女の人は、この子の
母親で・・・もう、この子の父親は、この子が生まれる前に戦争で亡くなっているんです・・・」

アリシラは、アリムラからは離れることなしに、視線だけで眠っている子供を見つめる。

「僕が、あの子の父親を奪った戦争を終わらせるために軍を指揮するって知ったあの人が、生まれてきた
あの子の名前を、僕につけてほしいって・・・。僕、あの子の名付け親なんです。今日は、あの子が生まれて
1年目。だから、あの子のお父さんに会いに行こうって・・・母子と名付け親となった僕とで会いに行こうって
決めてたんです・・・。3人でお墓参りして、やっぱりあの人は、旦那さんと2人きりになりたいだろうって
思って、この子連れて先に戻ってきたんです。そういえば、そろそろ帰ってくる頃かな・・・」
「そう・・・・・・」

言われてみれば、納得はいく。
嫉妬心から正常な思考が妨げられていたとはいえ、ずっと思い込んでいたのだ。
あの子は、アリシラとあの女の人の子ではないかと。
冷静な思考を取り戻した今、少し考えてみれば、そんなはずはないとすぐに分かりそうなものを。

「最近、少しずつ言葉覚え始めたみたいなんですよね。ママとパパくらいだけど」
「あ・・・そうなんだ・・・・・・」
「えぇ・・・覚えた言葉ほめてもらいたいんだと思うけど・・・誰を見ても、『ママ』とか『パパ』とか
言うんですよね。えっと・・・その・・・やっぱ、誤解とかされちゃいましたよね?」
「・・・・・・まぁ・・・少しは・・・」

ばつが悪そうに、アリムラがぽつりと小さく呟く。
あの時アリシラが慌てていたのだって、きっと誤解されるのがつらかったからだ。
それにさえも気付くことができなかったほど、あの時の自分はおかしかったらしい。

「妬いてくれました?」
「・・・・・・ひょっとして期待してる?」
「いや、そうだったら嬉しいな〜・・・なんて・・・」

甘えるように下から見上げてくる視線に、ほんの少しだけ悪戯心。

「秘密」
「えぇ〜っ!?いいじゃないですか、教えてくださいよ〜っ」
「教えない」

くすくすと笑いながら、意地悪く言ってみると、少し拗ねたような表情でぷぅっと頬をふくらます。
会わない間にずいぶんと大人になってしまったようだけど、そういう変わらないところを見つけられる
だけでも嬉しい。

「もう、いいです。あなたにどう思われようとも、僕の気持ちは変わらないんだから」
「そうだね・・・もう飽きるくらいに聞かせてもらったもんね・・・」
「僕は何度だって言いますよ。だって、そうでもしなきゃ、あなたに信じてもらえないんだから。
僕は、いつだってあなたのことが大好きです」
「うん・・・ありがとう・・・」
「ずっとずっと傍にいたいって思ってるのは本当のことなんですからね?」

覗き込んでくる茶色の瞳が、嬉しそうに笑う。
そんな風に真剣に見つめられることに少し戸惑いながら、赤い瞳も優しい光を宿して微笑む。
かわされた口付けの合間に、またあの言葉。

「アリムラさん・・・ずっと傍にいたい・・・大好きだよ」




君は何度も僕にその言葉を囁いてくれたから
いつしかそれを信じてしまっていた・・・
僕は自分に自信を持つことはできないけれど
きっと、もう不安になることはない
君はいつだって、僕のこと見ていてくれるから・・・




その視線信じていてもいいよね・・・・・・

 

カウンター1700(キリ番)ゲットの陸海月様からのリクエスト。
「嫉妬する坊ちゃん」
う・・・うーん・・・嫉妬してるのでしょうか、うちの坊ちゃん・・・(汗)
なんだか、うちの2主はともかく、うちの坊ちゃんって、2主に他に好きな人ができたら 平気で自分から身をひきそうな人ですからなぁ・・・なんつーか根が薄情というか、意外と 自分勝手というか。
難しかったっす・・・はうぅぅぅぅぅぅ
やっぱり今回も、どうしてもネタに結びつかなくてprimula様様に泣きついてしまいました(泣)
だけど、やっぱり最後には仲直りでラブラブハッピーな終わり方が一番ですよね!?
やっぱ、坊ちゃんには幸せになってほしいし、坊ちゃん幸せにできるのって2主だと思うし。
そして今回、謎的にグレミオ生きてるヴァージョンのお話です。
いや、なんとなく坊ちゃんが 2主との仲をさらっと話せる相手ってのがグレミオぐらいしか思い当たらなかったんで。
全部いきあたりばったりな話じゃん(泣)
うぅ・・・海月様、ごめんなさい・・・。こんなんしかできなかったです・・・
カナタくんとカイルさんのようなラブラブな嫉妬劇は演じられませんでした(大号泣)
こんな、はずしたうちの2人ですが、もらってやってください・・・焼却処分可ですのでvv