かきかきかきかきかきかき・・・くしゃくしゃっ・・・ぽいっ
かきかきかきかきかきかき・・・くしゃくしゃっ・・・ぽいっ

「う〜ん・・・どれもイマイチだなぁ・・・」

アリシラの部屋に、延々と同じ効果音が繰り返される。
そして部屋中を散らかす、丸められた紙の山。
一見すれば机に向かってマジメに仕事をしているようにも見えるのだが、アリシラが苦労して書き綴っている内容はといえば・・・・・・

「前略 アリムラ=マクドール殿。つつがなくお過ごしですか?私、不肖アリシラは、心よりあなたをお慕い申し上げております。草々」
「っ!?」

突如後ろから現れた殺気に、アリシラは振り返る。
怒髪天をつくの勢いの、鬼のような形相のシュウが床に転がされた紙くずのひとつを読み上げていた。

「アリシラ殿・・・こんなところで、何をしているのですかっ!?月末と月初は書類の量 が倍増すると何度も言っているでしょう!!!早く仕事を・・・」
「そんなこと言ってるから、日本人のイメージはいつまでたっても、『メガネで出っ歯のサラリーマン』なんですよ、シュウさん・・・」
「何わけの分からないこと言ってるんですか!!!」
「真の漢は、仕事ではなく愛に生きるものなんですよ〜」

吟遊詩人よろしく、琴を奏でる仕草でアリシラが言ってのける。
が、それがシュウの逆鱗にふれたらしい。

「アリシラ殿・・・言っていることは、ご立派ですが・・・・・・そういうことは、きっちり仕事してから言ってください!!!」

しかし、アリシラは突進してきたシュウめがけて、何か丸い球のようなものを投げつけた。
途端に部屋中に煙が満ちる。

「ふっ・・・僕の師匠からもらってきた催涙作用のある煙幕弾!!今日は、なにがなんでも捕まるわけにはいかないんだ!悪いね!!」

アリシラは、煙に満ちた部屋にシュウをのこし、しゅたたたっと走り去った。
どうでもいいが、師匠といえば、当然、アリシラと同じ容姿を持つ、あの人だろう・・・・・・






「というわけで、最高の殺し文句教えてほしいんだけど」
「最高・・・ねぇ・・・・・・」

アリシラは、アップルの部屋の前でシーナを呼び止めていた。
百戦錬磨のシーナなら、何かしらいい情報をくれるかもしれない。

「そうだなぁ・・・それじゃ・・・・・・お!」

ふと視線をめぐらせたシーナは、部屋から出てきたアップルを見つけて、呼び止めた。

「アップル・・・俺、お前のためなら死んでもいいぜ?」

いい男を気取っているのか、きらきらと光り輝くオーラを身に纏っている。
しかし、アップルは冷ややかな視線を向けると、にぎられた手をふりはらった。

「そう、なら今すぐ、そこの窓から飛び降りてちょうだい」

アップルは、かたまるシーナをその場に残して、すたすたと歩き去っていく。
その後姿を見つめながら、アリシラは手にしたメモに、さらさらと書きとめた。

「ふむ・・・この手の言葉は意味がなし・・・と」






「率直に純愛が描かれた歌とかないかなぁ?」
「純愛ですか?」

アリシラは、今度はアンネリーのところに来ていた。
どうやら、コテコテのラブソングのフレーズを、そのまま書き写す戦法に変えたらしい。

「こんな歌どうですか?」

言いながら、アンネリーは、よく通る歌声で旋律をなぞる。
しかし・・・・・・

「ア・・・アリシラさん?」
「ぐー・・・ぐー・・・」

耳に心地よい歌声は、アリシラにとっては眠りへと誘う子守唄に聞こえたらしい。
しばらくして、快適な眠りからさめたアリシラは、再び手にしたメモに書きとめた。

「歌は却下・・・と」






「フリックさんは、どーやってオデッサさんを口説いたんですか!?」
「はぁ!?」

アリシラは、フリックに詰め寄っていた。
青い青いと言われたフリックが女性を口説いた方法が分かれば、それは強力な戦力になるに違いない。

「どうやってって・・・言われても・・・・・・」
「あぁ、もうっ!!!はっきりしないですねぇ!!!まさか、オデッサさんが迫ってくるまで指くわえて待ってたっていうんですかっ!?」
「・・・・・・・・・・・・」

すっかり黙り込んでしまったフリックに、アリシラがいらいらした様子でまくしたてる。
フリックは、うろたえたように視線を泳がせた。

「・・・直球勝負・・・・・・」
「・・・・・・・・・青いですね、フリックさん・・・」

アリシラは呆れた様子で溜息をつくと、酷な一言を残して立ち去った。
あの様子だと、本当に自分からオデッサにアプローチをかけたのかさえ怪しい。
アリシラは懐からメモを取り出すと、殴り書きのように記した。

「積極性のない男は、幸せになる資格なし・・・と」(酷・・・)






かきかきかきかきかきかき・・・くしゃくしゃっ・・・ぽいっ
かきかきかきかきかきかき・・・くしゃくしゃっ・・・ぽいっ

「はぁ〜・・・まったく、どいつもこいつもアテにならないねぇ・・・・・・」

アリシラは、結局自分ひとりの力で書くことに決め、冒頭と同じく、延々と効果 音を続けさせていた。

「アリムラさんをおとすには、こんな程度じゃダメだし・・・・・・」

アリシラの左手には「これであの人もイチコロ!な愛の囁き詩集」なるものが握られていた。
ぱらぱらとページをめくりながら、ぶつぶつと文句を呟く。

「う〜ん・・・・・・どうしようかなぁ・・・」

窓の外をぼぉっと眺めながら、困ったように呟く。
もともと、文才などないのだ。
シュウの執拗な追跡から逃れているのも、書類を書き上げるのが大の苦手だからだったりする。
口で想いをそのままに伝えれば一番なのだろうけど、それではいつもと同じだ。
日常茶飯事となりつつある光景の中で、自分の気持ちが本当にアリムラに伝わっているのかは、正直分からない。
だから、こうしていつもと違うかたちで伝えようとしているのだが・・・・・・

「あ〜っ!!!もうっ!!なんでこんな・・・・・・」
「アリシラ?」
「っ!?」

扉の向こうから聞こえてきた声に怒鳴り散らしていた言葉を途切れさせる。
床中にちらばった紙くずの山。
今、入ってこられるのはまずい。

「はいっても・・・・・・」
「だっ・・・だっ・・・だめです〜!!!僕が、そっちに行きますから〜っ!!!」

冷や汗をだらだらと流しながら、アリシラは大きな音をたてて扉をあけると、すぐに閉めた。

「アリムラさん、どーしたんですか?」
「・・・アリシラ、大丈夫?ずいぶん汗かいてるけど・・・」
「大丈夫ですっ!!!アリムラさんに会えたら、すっかり回復しましたっ!!」
「そ・・・そう?」

抱きついてきたアリシラの顔色が妙におかしいことを気にとめながら、アリムラは、ふと床に落ちている紙切れを見つけた。
ぐしゃぐしゃに丸められて一見ゴミのようにも思えるのだが、何かかかれている文字が見える。

「?」
「あ・・・アリムラさん、それはっ!!!」

慌ててアリシラが止めようとしたのだが、それよりも早くアリムラはそれを拾い上げていた。

「・・・・・・・・・アリシラ・・・これ?」
「う・・・・・・いや、それは・・・あの・・・・・・」
「君・・・書いたの?」
「あの・・・その・・・・・・」

さらりと文面に目をとおしたアリムラが、アリシラを見つめる。
アリシラはアリシラで、かなり気まずいのか恥ずかしいのか、下を向いてしまっていた。

「・・・・・ありがとね」

くすくすと笑ったアリムラの口からの思わぬ言葉にアリシラは、ばっと顔をあげた。
確かに、かなり不器用な文面だけど、必死に書いてくれたことが、しっかりと伝わってくる。

「でも、もう少し勉強した方がいいかもね」
「そうですよね・・・・・・」

困ったように頭をかくアリシラに、アリムラは嬉しそうに笑っていた。
理屈じゃない。
気持ちを伝えるのは、小手先じゃなくて、心だから。






「・・・・・・とりあえず・・・部屋の掃除しようね?」
「はい・・・・・・」







心はしっかり伝わったらしいが・・・・・・
その代償は、向こう3日かかるほどの部屋の後片付けだったらしい

 
カウンター4979(ゴロ→よく泣く)ゲットの陸海月様からのリクエスト。
「ラブレターを書く2主」
謎だ・・・まったくもってして謎だ・・・
そして、あちこちに、そこはかとなく漂うなりきり交換日記ネタ・・・謎だ・・・
2主って、鈴鳴並みに文才なさそうだよなぁ・・・と思ってたら、こんな話に。
向こう3日かかるほどのゴミの量って、どんなんでしょう・・・
海月様、ごめんなさいっ!!!
しょせん甲斐性ナシのうちの2主じゃ、こんなんしか書けなかったです!
アリシラ「僕のせいじゃないです、師匠っ!!こいつが悪いんです、こいつが!!」(指差し)
・・・・・・・・・はい、悪いのは私です・・・
こんなんでよろしければ、もらってやってください・・・