彼と彼と彼の事情〜感染編〜
翌日のロイ。
お約束と言うかなんと言うか…風邪を引いていた。「ごほ…;は、鼻で息ができね”え…;」
ぜーはーぜーはー;と荒い息を吐きつつ、寝床に転がっている。
結局あれから自室のベッドは奪い返せたものの、ついでにそこに保菌されている風邪菌を貰ってしまった様子だ。
ロイは咳とくしゃみの連発で、ほぼ瀕死の状態だ。「―――とい”う”か…」
…何で誰もいないんだ?
見舞い客がこないのは予測済みとしても、フェイレンとフェイロンまでもいないのが謎だ。
生暖かくなった布巾が額に置いてある所を見ると、一応風邪を引いているのには気付いているようだったが………しかし、姿はない。
人気のない山賊部屋に1人ロイは取り残されていた。「し…死ぬ…;」
1人で医務室へ移動する気力もないロイは、あわや孤独死か!?という危機を感じていた。
そして暫く経って…
「ロイ〜!大丈夫ー!?」
「お粥持ってきたよ〜」「………げほっ…朝も昼も戻ってこないでの第一声がそれか…」
「「うっ;」」
夕暮れの近付いた室内で、兄妹は硬直した。
孤独死寸前だったロイのまなざしは、熱のせいもあってか、暗く淀んでいる…。「わざとそんなことしてた訳じゃないよっ!」
「そうそう、物凄く大変なことがあったんだよ…;―――ロイのせいで…;」
「はあ!?」何でオレが!?と思わずベッドから身を起こしたロイだ。(実際のところ、半日程寝ていたら回復は出来たようだ。)
「…あのね、ロイが風邪引いたから王子様が心配して、お見舞いをするっていいだしたんだ…」
ぽとりとロイの額から落ちた手拭いを拾いつつ、フェイロンが重々しく口を開く…。
「ちなみに、ロイの風邪が移るといけないからって王子様はここ出入り禁止にされてたよ!」
「ケッ…;あいつが移したんじゃねーか…;」とか言いつつも、慌てているカルム(表)の姿が目に浮かび、まんざらでもない様子だ。
「で!ロイにご飯作ることになったんだ。」
「はい、せっかくだから熱い内に食べようよ」
「ちょっと待て」聞き捨てならないことを言われ、ロイは待ったをかけた。死にたくないからだ。
確かカルムは料理が出来ないはずだ。(※小ネタ参照)「病人から死人にする気かよ!?つーかなんで一食作んのに半日以上かかってんだ!!;」
「だからそれが色々あったんだってば!あたし達だって昼食抜きで頑張ったんだよ!?」フェイレンが力説する。
ついでに、フェイロンも妹の言葉に頷いて言葉を続けた。「まず、軍師様の命令で王子様が料理をするのに反対な人達を、王子様が料理するのを賛成な人達で、王子様から目を離させる作戦が立てられたんだ。」
「あたし達は賛成派だよ!」
「……………」
「それから、レストランの厨房で賛成派の中から料理が出来る人達全員で、王子様の失敗を阻む班が作られて!騒音とか異臭で人が集まらないようにする班が作られたのっ!」
「調理の人の班が一番大変だったんだ〜…」
「………。」そこまでして…何やってんだこの軍!…と、正直ロイはそう思った。
詳しくは2人も見ていなかったようなのだが、それでも人伝で聞いた話によると―――焦げるのは当然で、具を加えようにもまず卵さえ割れずに粉砕し、鍋から中身が噴出す…そんな戦いだったらしい。
そして今現在、カルム(表)は、その廃棄するしかないお粥の残骸を食べると主張した為、何とか周りがそれを押さえ、肥料に活用出来ないかとゲッシュを初めとして悩んでいる所らしい。「一応これが完成品だよ、」
「ちゃんとロイが食べてあげるといいよ」これだけ城を巻き込んでの騒動になっていて、断ったと知れれば病人と言えどもどんな目に合わされるかわからない…。
「くっ…;」
ロイは観念しておそるおそるとフェイレンの差し出す器の中身を見た。
…話している間に少し冷めてしまったようだが、白くて原形のとどめていない物体の入っている、フツーの粥だ。(卵や具は途中で諦めたらしい。)「………」
ばくばくばくばくばく…と、心臓が嫌な音を立てている。
しかし、それを何とか抑え、ロイはそれをレンゲで一さじすくい、口元へ運んだ。ぱくり…
「……………………………フツーの粥だ…」
意外にも普通の食べ物だった。(いや、味自体は鼻が詰まっていて不明瞭なのだが)
刺激を感じたり、吐き気を催したりしない。「これなら何とか食えそうだ…」
「よかった」
「じゃああたし王子様にお礼くるよ!今度はすぐ戻るからロイはちゃんと寝ててよ!」
「おー」もくもくと食べ続けるロイを尻目に、兄妹は何故かそそくさと部屋を出た。
「「………」」
そして、2人は顔を見合わせる。
「…やっぱり、ロイまだだいぶ熱あるみたいだよ;」
「…そうだね、まだ鼻も舌も利いてないみたいだね」
――――アレ、塩と砂糖間違ってるのに!!;
「さ!早くお礼言いに行かないと!」
「待ってよ、フェイレン;」…しかし、それでもその程度の失敗はまだ可愛いものだったのだから…身体に害がある訳でもなし。
と、2人は自分に言い聞かせ、ロイには何も言うまいと心に誓うのだった。