彼と彼と彼の事情〜奮闘編〜

 

 

「あ!王子様、ダメダメー!!;」
「え?」

慌てた表情で、カルム(表)が部屋に入ろうとするのを中から止めたのは、フェイレンフェイロンの兄妹だった。
―――その理由が何だと言えば…ロイが風邪を引いたということらしい。

「ロイが風邪引くなんて…前にあった時には元気だったのに…」
「えーっと…」
「風邪が流行ってるみたいだから…」

まさか当の本人(カルム)から移されたとは言えない。

「でも、それならお見舞いしないとっ…!」

「ダ・メ・で・す・よぅ〜?王子〜?」

「「「わっ!!;」」」
「何驚いてるんですか〜?」

突然背後に現れたミアキスの姿に、予期せず一同同時に驚いた。

「その、ミアキスが急に出てくるからっ…;」
「リオンちゃんから王子のことを任されてるんですから、様子がわからない距離まで離れる訳なんて、ないですよ〜」
「「………」」

何で隠れて護衛をしてるんだろ?…とは、兄妹は口に出さなかった。

「とにかく、ロイ君の風邪をもらっちゃうとダメですから、王子はロイ君の部屋に立ち入り禁止です!」
「でも…!」
「ダメったら、ダメですよぅ〜?」

ニコニコ。
…笑顔が逆にコワイ。

「…でも、まあ差し入れ程度なら許可しますよ?王子の手料理でロイ君を元気にさせちゃいましょう!」
「僕の?」
「「――――」」

虫の知らせというのだろうか…フェイレンとフェイロンは、その時何故かロイの命の危機を感じ取った。
…故に彼らはそのまま、カルムについて行った。

 

 

 

 

「―――王子がお料理を?ふふ、わかりました、私が指揮を取らせていただきますね?」

と、(面白がった)ルクレティアの協力により、カルム(表)は調理場の一角を陣取り、調理を行うことになった。

 

「風邪に効く料理ですか、それなら滋養たっぷりのおじやを作りましょう。」
「王子様がんばってください!」

一同に見守られる中、カルムは包丁に手を伸ばし、にんじんを手に取った…。

「………」

真剣な瞳でにんじんに刃を下ろす…が、肝心なことを忘れている。

「……王子様、皮は剥かないといけませんよ?」
「あっ;」

慌てて皮を剥く形ににんじんを掴むが、…明らかに指を切りそうな構えだ。

「………」
「………」

慎重に刃を入れるその様子から、声をかけたその瞬間に指を切りそうにも見え、声をかけることも出来ない。

「あ」
「!」

ズルッと手が滑り、包丁が指先を襲う!…が、カッ!と目つきが変わり、その寸前で包丁から指が逃げる。…それが何度も繰り返された。
………その結果、数十分後にはほぼ原型を留めていないにんじんが完成した。
そして、レツオウも具を入れたおじやを作るのは諦めた。

「―――さ、先に出汁を作りましょうか;」
「うん!」

引きつった笑みで言うレツオウに疑問を持たず、カルムは料理教室に通う新妻さながらに頷いた。(?)

「沸騰させたお湯の中に、鰹節を入れましょうか…」
「…わあっ!?」

ブシャーーーッッ!!

…鍋の中から鰹節が反乱を起こした。
焦げたダシが、いい匂いだ。

「すみません、出汁は作ってあった物を使いましょう…!;卵を割って、卵とじを…!」
「…つ、潰れちゃった…!;」
「王子様、中にタマゴのカラが入ってます!」
「王子様焦げてる焦げてる!!;」

 

 

外では…

「わ〜明らかに病人向けの料理じゃない臭いがしますね〜?」
「ロ、ロイが死んじゃうっ!!;」

豆板醤がーーッ!!;という悲鳴が上がる調理場を眺め、異臭に眉を顰めていた…というか、鼻を摘んでいる。

 

 

 

そして、泣く泣く妥協と提案を繰り返したレツオウは、敗北感漂う中、こう最後の提案をしていた…。

 

「病人には素材そのままの風味を楽しんでもらうのが一番です…何も入れない白粥を作りましょう…。」

お湯に米と塩を入れるだけの作業で、それでも吹き零れ、塩加減をミスし(容器ごと落とした)…等、失敗を繰り返し…
――――そして、塩と砂糖を入れ間違った白粥が完成した。

…レツオウの完敗である。

 

 

 

 

 

 

「ロイが元気になって良かった…!」
「おう、まあ…その、礼は言っといてやるよ。」
「「……………」」

照れて頭を掻きつつ礼を言っているロイには、絶対に粥の秘密を漏らさないと誓う兄妹らだった…。

 

 

(ちなみに王子の風邪は1日で完治。 
…人に移したからです。>え?)