彼と彼と彼の事情〜成就編〜

 

 

ロイは再び悩んでいた。
ついこの間、悩みに悩んだ結果一つの恋が成就したとみせかけて、振り出しに戻るという結末を迎えたのだから、それは悩んで当然だ。むしろ、燃え尽きなかったことを褒め称えたい。

(いや、でも一歩前進か…?)

そうとでも思わないとやってられないロイだ。
というか、一方にでも想いが通じたのが奇跡だ。
何せ相手は男、しかも王子。尚且つ二重人格者。更に先に成就したのは、難航しそうな性格と口が悪い方。
………そう、今問題になっているのは、その辺りのことだ。
カルム(裏)には、告白の同意をもらえた。
しかし、カルム(表)には、まだ告白をしていない。

(押しに弱い…か?王子さん割と素直だし、なら弱いよな…?いや、いっそ二重人格なことぶちまけた方が後々やりやすいよな?)

こう、色々と。
この時もロイは、考えすぎて頭がテンパっていた。

「ロイっ」

しかも、タイミングよくカルム(表)が姿を見せたのだから、尚更だ。
気分転換にロイが城内をぶらついている姿をみかけ、駆け寄ってきたらしい。

「王子さん…」
「? 何?」
「あんた自分が二重人――」

 

ぽぐぅっ!!

 

首を傾げていたカルムから、突如すばらしい膝蹴りがロイの顎にヒットした。

「〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ!!;」
「…いい度胸だこの××野郎」

物凄い視線で、カルム(裏)がロイを睨みつけていた。
いつもは、どんな言葉を使っていても、美少女じみた笑みを浮かべているだけに、まさに般若の笑みだった。
しかし、ロイは痛みでそれどころではなかった。それでも何とか復活する。

「っ何しやがるッ…!(怒)」
「こっちのセリフだ×××××。」

ゴチーン!と額と額を突き合わせてのいがみ合い。
相思相愛(?)とは言え、容赦は全くない。

「何言おうとした?」
「手っ取り早くあんたが二重人格ってことを教えようと…」
「死ね。」

 

オレが悪かったー!!;とロイが悲鳴を上げるまでの所要時間30秒。
良くこれだけ騒いで人が集まらないものだ。

 

 

 

 

「なんだっつーんだよ」
「…」

つんとそっぽを向くカルム(裏)に、ロイはぐったりと呟く。
そんなロイの姿に何を思うのか、カルムはまだ機嫌が悪そうな様子で口を開いた。

「一つ聞くと、ロイなら自分の知らない間に、自分の意志でなく身体が動いてたらどう思う?」
「気味悪ィ。」
「だろう」

………。

だったら、言おうとするなこの××が!と真顔で殴られ、痛かったロイだ。

「チクショウ…;だったらどうしろっつーんだよ、」
「………」

そもそもそこに行き着いた思考が不明だ。
カルムはその辺りに突っ込まず、意味ありげな視線をロイに向けていた。

「なんだよ?」
「…教えるか××」

べぇと舌を出し、笑みを浮かべると、カルム(裏)は早足でロイから離れた。
…――会話の途中で意識が飛んだ上、どこか別の場所にいることになるカルム(表)は、困惑することだろう。

 

 

 

 

 

―――あ〜もうどうすっかなぁー;

湖のほとりでロイは1人頭を悩ませていた。
その様子をはばかってか、周りに人気はなく、ロイは思う存分悩み放題だ。

…告る、か…
いや、でもなぁ…真正面から行って成功ってのは、もう前にあの王子さんで叶ってるわけだし、そう何度も続くわけねぇし…
やっぱり地道に好感度上げていくしかないか…?
いやでも、王子さんに嫌われてるわけじゃないし、常識的なとこが問題っつーか、男同士ってのが一番問題なわけで…

「ロイ〜」

そう、いつもいつも笑顔で駆け寄ってくるっつっても、それはあくまで友愛とかいうのだろうし…
いっつもオレを連れ回してんのも、嬉しそうに声かけてくるのも、遠慮なく付き合える相手が少ないからで…ランって女とも仲良いわけで…釣りとかしてるしな、
だから、告るにしても切っ掛けを作って段階踏んで…いや、あんまりやりすぎると先に王子さんの身内に気付かれてお陀仏だな…;いくらあっちの王子さんが了解してるとはいえ、ミアキス…リオン辺りにでも知れたら、真っ二つだな…どこがとは言わねーけど。
…それでも出来るのか?いや、やるっきゃねーだろ!命がけで?いつまでも生殺しのままで居て堪るか!

「ロイ、何してるの??」
「何って…王子さんにどう告白するか考えてんだよ…」
「告白って何を?」
「白状とかじゃなくて、恋愛的なイミで好きだって、……」

 

―――今、オレ、誰と話してる…?

 

ロイは固まった。
自問自答を繰り返していた為、うっかり答えてしまっていたのだ。(寝不足が祟っていたのは言うまでもないが。)
ギギギ…と振り返ると、そこにはカルム(表)がいた。

―――あれ?

しかし、一つ予想外だったのは、カルム(表)が顔を真っ赤にしていたことだ。
明らかに照れている。
かなりの好感触だ。

「僕、僕はっ…僕も、たぶん、ロイが、好きっ…!」

初々しく恥じらい、羞恥から瞳を潤ませてそう応えるカルム(表)…。
その初々しい様子に、先程のカルム(裏)の意味深な笑みが重なって見えた。
…きっと知っていたのだろう。何せ、一心同体だ。

 

(エ”〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!?)

 

喜び6割、驚き4割で、内心絶叫を上げたロイだった…。
しかし、これにて、確実に彼らは一歩前進することが出来た。

 

 

待て次回!?
(最初の変換で”自戒”と出た解りやすい次回!)