彼と彼と彼の関係。〜出会い編〜

 

 

あのニセモノ騒動で、彼はドラゴンヘッド軍で王子の影武者を勤める事になっていた。
何せ、断ればその場で縛り首になったかもしれないだろうし、それ自体は自分で納得して決めたことだ。気にはしていない。

…だが、一つ納得出来ていないことがある。

隠れ家に乗り込んできたあの王子は、最初はしおらしげに自分そっくりな(こっちから言わせれば、相手が似てただけのことだ)顔を見て驚いていたというのに、こっちが話し終わった(=馬鹿にし終わった)後豹変したのだ。

 

『―――死ねー!この××××野郎!!』

 

…と。「コイツの事を知らないくせに知ったような口聞いてんじゃねぇッこの×××!!」と言った後に、まだ×××だの、××の×××だの…、貧民街育ちでも使わないだろう(貴族の令嬢なら聞いただけでショック死しそうな)単語を、ぽんぽん口にして殴りかかってきたのだ…。
鬼とはまさにアレのことだろう…。
一時は死を覚悟したものの、それでも今こうして彼は生きていた…。
…しかし。
しかしだ!
その当の本人はと言うと、そんな死のパレードを終えると、何もなかったようにケロリとした表情で「よろしく」とにこりと笑ったのだ。

―――…その時、彼は心に決めた。

 

 

絶対にコイツの化けの皮を剥いでやる、と…!

 

 

 

 

「も〜ロイ君、また殿下に化けて悪戯しましたね?ダメじゃないですか〜」
「へぃへぃ、わるかったよ。ちょっと衣装合わせたまま間違ってうろついただけだよ。」
「それだけでどうしてこんなに苦情が来るんですか!」
「勝手に相手が間違えて来ただけじゃねーか」

へっ!と哂うと、相手の少女…リオンは、更にぷんぷんと怒った。
ロイとリオンのそんなやり取りに、ルクレティアも溜め息をついて扇で口元を隠した。

「小さな子供を泣かしますし、猫は踏む…この辺りは事故ですみますし、釣り上げた長靴をまた湖に捨てたことまでは許せますけど…―――夜中に、壺を破壊して歩くというのは、いただけませんねぇ。」
「……………はあ?」

壺?

「城に飾る為に置いてある壺ですよ。一応失敗の壺ばかりを割っているようですけど、物に当たるのは良くありませんよ?」
「ま、待てよ!そんな事オレはして――」

「――してますよね?

にっこりと、笑ったリオンが、愛刀をロイの咽元に突きつけて来た。
…これはかなり恐い。
…目が笑っていない所が、更に恐い。

「…ハイ、オレがヤリマシタ…;」

両手を頭の横に上げて、(やってなくても)そう言うしか出来ない。
するとリオンはにっこりと笑って刃物を納め、ルクレティアは溜め息をついた。
…で、その後は延々と説教タイムだ。

 

長かった説教も終わりを迎えた頃、今まで気押されていた為に口を挟めなかったカルムが、リオンを宥めるように口を開いたのだ。

「僕は気にしてないから、ね?リオン」
「そうですね、王子がそうおっしゃるんでしたら…」

一件落着。
そんな様子がありありと見える。

(っ…の、ヤロウ…!)

それでは収まらないのがロイの方だ。
プルプル怒りに震えながら、今夜こそこの猫被り王子のしっぽを掴んでやる…!(怒)とロイは心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

夜中。

城内が寝静まった時刻に、ロイはあの銀色しっぽを見つけようと通路を歩いていた。
この日に相手が出歩いているかはわからない。…しかし、何日かかっても捜すつもりだった。
自分の濡れ衣を晴らす為に!
そして何より、濡れ衣を被せられる出来事が起こるのは、圧倒的に夜の方が多いのだ。
カッカッ!しながらロイは宿屋の客間から出て外を覗き込むと――運良く、月の光をキラキラ反射させた目立つ銀色の頭があった。
こんな時には自分の目立たない地毛を有り難く思える。気配を消してそっと釣り場にしている桟橋に近付くと―――…

 

「くっそ!ゴドウィンの×××の××がっ!あのクソ××っ…いつかお前の××に×××して××ってやる…ッ!!」

 

ガン!ドガッ!ドゴドゴドゴドゴ…!

…ありえない暴言と、破壊音が響いていた…。
今声をかけたら、同じような目に合わされる…とは思ったものの、それよりも怒りが勝った。

「おいっ!あんた!」

怒気を隠そうともせず、その白い背中に声をかける。

「やっと本性表したな…!」
「…あ?なんだ。山賊の×××か。」
「誰が××だよっ!!;」

本当に王子なのか!?という疑問を感じながらも、ロイはその発禁ワードに突っ込んだ。
そして、相手がニヤリと笑って振り返ったのがとてつもなく印象的だった…。

 

 

「…で?王子さんよ、あんたやっぱ猫被ってたって訳か?」

つんつんと何かの残骸を棍の先で突いている相手に、そう呼びかける。
…心なしか、スッキリした表情をしているような気がする。

「何が猫被ってるって?オレのどこが?目ん玉腐ってんのか?」

その目玉いらないなら穿り出して瓶に入れて飾るぞ?と、にこにこと笑いながら言う。

「それのどこが被ってねぇって言うつもりだよ、普段と別人だろーがっ;」
「別人だからな。」

あっさり。
…無意識に目を防御しながらロイが言うと、返事がそれだった。

「……………」
「あ。身体は同じだけどな。」
「オマエ…オレを馬鹿にしてんのかよ?」
「馬鹿にするならもっと馬鹿にも分かるように馬鹿にしてやる。」

この×××。…と言いながら、カルムと思わしき人物は、湖に向かって腰掛けるロイの隣に座った。
…認めたくないが、どれだけ乱暴な振る舞いをしていたとしても、どこか身体に染み付いた礼儀を感じさせる所作をしている。

「中身が違う。なーかーみー。」
「はあ?何言ってんだよ、」
「オレとお前の言うカルムは中身が別人で身体は同一人物ぅ。二重人格ってヤツだよ。」

 

二重人格。
詳しいことも理屈も分からなかったが、このカルムとあのカルムは、別の人間だというのは分かった。

 

「オレはなーコイツのストレスの塊みたいなもんなんだよ。コイツが暴れられない代わりに暴れてやるし、コイツが出来ない事を代わってやってすっきりさせてやる人格なんだよ。」
「……………」
「ちなみに、ニセモノ騒動の時にお前をボコボコにしたのはオレだ!あの時は物凄くストレスになってたからなぁ…」

くつくつ笑うカルムの姿は、暴れてスッキリしているからか、どこかいたずらっ子のような表情をしている。

「夜はオレの時間。コイツが安定するまで、オレがこうして好きに暴れてやるのさ。」
「…何でオレが聞いたからって、そこまでの説明したんだ…?」

恐る恐るロイは問いかけた。
実際、リオンに「何なんだよアイツは!豹変しすぎだろ!?」と聞いても、はぐらかされる(というか脅される)ばかりだったのだ。

「ん?そりゃあ…―――お前が、影武者役だからだろ? ロイ、」
「――――…」

 

しっかり泥被れよ、と笑う相手に、「オレが山賊やってたのなんて可愛いもんじゃねぇか!」と心の中で叫ぶロイだった…。

 

 

 

こんな感じの王子です…。
カルム(表)の人格話はまた他で。
…というか、もうこの話を気にせず、王子が2人いる設定で読んでも可。