彼と彼と彼の関係〜借金編〜

 

 

コンコン。

珍しくドアの扉が叩かれた。
兄弟分らは夕食を食べに行っており、部屋には自分1人。

「煩せぇな、誰だよ…」

面倒だと思いながらも、自分しかいないのだからしょうがないと思い、ロイは立ち上がりドアを開いた。

 

「おい、この×××××野郎。」

 

「―――スンマセンでした。」

突きつけられた目安箱の投書と、目前に立っていた人物(イイ笑顔)の姿に、思わずロイはその場で土下座をする羽目になった。

 

 

 

事の発端は、あのリンファとかいう女賭博師との勝負に、この軍のリーダーで王子であるカルムに変装してボロ負けした事だ。
10万ポッチもの大金は、いくらなんでも元山賊の懐にある訳もない。
そんな訳で、どうするかと目安箱に投書をしておいたのだけれども…―――そのせいでカルム(裏)がやって来た。
これは顔の形が変わるまで殴られるな…と諦めたのも束の間。

「別にオレもコイツも怒ってねぇよ。」

と、カルム(裏)は言ったのだ。

「じゃあさっきの出会い頭の挨拶はなんだったんだよ;」
「ただの挨拶だ。」

椅子の上に尊大に足を組んだカルムの姿は、行儀が悪いとしか言い様がないのにどこが品がある姿だ。
しかし、当然通常のカルムの振る舞いではない。
普段に猫を被っているのかと思っていたが、どうもそうではなく、ストレスから逃れる為に出来た別の人格であるらしい。(本人談)
故にこのカルム(裏)は、ストレスを少しでも発散させる為に、カルム(表)には出来ないような振る舞いをして、ストレスを発散させているらしい。
…つまり、口は悪い、態度は悪い、すぐに暴れる。

「カルムも、『10万ポッチもどうやって負けたんだろ…?ロイ、どうやって返すつもりかなぁ…??』って驚いてた程度だし、オレも他人事なら笑い飛ばして終わるけど、…すっからかんっていうのはなぁ、このごく潰し。」
「うっせぇ!;」
「まあ、そんなわけだ。目安箱を開けたのがオレだったから、コイツに負担がかかる前に手伝いに来てやったぞ。」
「…………………………は?」

 

手伝いに?
誰が?誰を?

 

「あー…その、何だ?」
「あぁ?」
「オレ、割とお前に好かれてたりする?」
「……………………」

いや、何言ってんだと、自分でも思いながらも、ロイはあまりに混乱した為そんなことを口走っていた。
しかし、相手の反応はその混乱を上回り…

かかかかぁっ…

と、相手の頭に血が上っているのが一目で分かった。
まったく予想もしていなかった事を聞かれ、相手も混乱したのだろう…。
色素の薄い肌色をしている為、嫌でも見とれてしまった。

うわ、なんだ、可愛い?

「…馬鹿。暇潰しだ、暇潰しに来て…お前の頭も潰すぞ?
「ああ、うん…。」

そうだな、そういう事にしておこう。
………何だこの恥ずかしさは!と思いつつも、ひとまずロイはその件は横に置いた。
深く追求すると、脱線しそうだ。

 

多少心持ち距離を置きながら、ひとまず話は10万ポッチの借金へと戻る。

「…代わりに王子さんが払っといてくれるってのは?」
「断る。…というか、この財布の中身を見てから言え、このサル頭。」

装備代、鍛冶代、etcでいつもカルムの財布は軽い。
たまに大金が入っていても、一度遠征があればすぐに空っぽだ。
小規模で動く為の資金は、自腹で稼ぐしかない悲しい反乱軍だ。
節約一番。
そんな言葉がスローガンな王族というのは、とても切ない。

「ちっ。 じゃあ何かアイディアがあるのかよ?」
「―――どこかの本で読んだ気がする。大食い対決で、そっくりに変装した2人が入れ替わりながら食べて賞金を狙うとか言う…」
「あんたどれくらい食べれる、」
「人格は2人分でも、胃袋は1人前だ、期待するなよ。」
「結局オレ1人で食うのかよっ!というかあの女に勝てるか!!」

恐怖の大食らい女、二ケアのことだ。
あの倉庫番の大男さえも負かしたという伝説まである。

「無理か、この役立たず!」
「いてぇ!;」

突然枕をぶつけられ、避けることなく撃沈させられたロイだ。
別にカルム(裏)の機嫌が悪くなったわけではないらしく、暇だっただけなのか相手はニヤニヤ笑っている。

「……………」

やり返したなら100倍にして返されそうな為、ロイは諦めて枕をベッドの上に放る。

「なら、あんたがオレに化けて、借金分を賭けで返済してくれるってのはどうだよ?」
「…使えない頭の割には、面白いこと言うな。」

口は悪いものの、そのキラキラした美少女顔(断じて似ているとは思いたくない)を悪魔のように歪ませ、カルムはお前との腕の差を見せ付けてやると笑った。

が。

――――コンコン、…と、またノックの音が響いた。

「んあ?」

また客か?とロイは首を傾げたが、返事よりも先に部屋のドアが勢いよく開かれた。

「王子、賭け事はダメですよ?」

にーっこりvとこれまた可愛らしく微笑んだ、女王騎士見習いの少女が、そこには立っていた…。

「リオン…!」

ゲッ;と不味い所を見られたと驚くロイと、純粋に慌てふためくカルム。

「少し夜遊びするくらいでしたら見逃しますけど!賭け事までするなら今後はもう見逃してあげませんよっ!」
「うう…;」

こらっ!と怒る少女の姿は、まさしく保護者のようだった…。

 

 

王子のフリをして借金をこしらえてしまったロイにも火の粉は飛び、延々と説教をされた…。
そして、翌日、健全に釣りでお金を貯めるロイの姿があったという…。
もちろん、カルム(表)も喜んで協力したらしい。

 

 

「ロイが一緒に釣りなんて、珍しいね」
「ああ、まあな…;(お前のせいだよお前の…;)」

 

(リオンちゃんは、出歩いている間遠くから護衛しています。)