彼と彼と彼の関係〜災難編〜

 

 

朝、目が覚めると妙に部屋が臭かった。
それに後頭部が妙に痛い上に、背中までも痛い。

「………なんだぁ…?;」

しかしその痛みの理由は、何のことはなく、ただベッドから転がり落ちていたからだった。
寝ぼけて落ちて頭を打ったにしては、頭の痛みは酷い気もしないでもない。
…しかし、この臭気の元は一体なんだ…?とロイは考えた。
―――よくよく嗅いでみると、それは非常に記憶にある臭いで…間違いなく酒の臭いだった。

「何でオレらの部屋で酒の臭いなんてすんだ……よっ!?;」

頭を擦りながらすっかり冷えた身体を起こすと、ベッド上には―――既に先客が転がっていた。

「くー!」

すぴょすぴょと寝息を立てて眠る銀色の塊は、確かに自分と同じ顔をしたこの城のリーダーの姿だった。
ご丁寧にも抱き枕代わりに臭気の元――『大吟醸』を抱いていたりした。
…いや、他人のベッドと思ってか、遠慮もなくシーツの上にも空の酒瓶が転がっている。

「っ…!!;―――な、なんだこりゃぁあああああ!!;」
「―――うるっせぇ!」

ボコッと酒瓶がヒットし、ロイは撃沈した。

「うー…あー…?あー…なんだロイか、おはよう。」
「おはようじゃねぇ!!;一体なんでオレの部屋であんたが寝てんだよっ!!;」
「簡単に説明すると、…ロイの部屋なら酒飲んでもバレないと思ったからだ!」
「はしょり過ぎだよッ!!」

 

 

―――カルムの話はこういう事だった。

ふと、道具袋に『大吟醸』が溜まりっぱなしになっているのを見つけ、何となく好奇心から飲んでみようと思い立った。
しかし、自室で仮にも王子が飲酒に走る訳にもいかない。
そこで、ロイの部屋でなら、ロイが飲んだという事で責任を押し付けられるのではないだろうかと思い至り、わざわざ夜中に忍び込んだらしい。

「アイツ等はどうしたんだよ!?;」
「アイツら?」
「フェイレンとフェイロンだ!」
「あの2人なら、ロイが夜中に起きそうになったのを酒瓶で気絶させたオレ見て、快く宿屋に移動してくれた。」
「どっちの味方だアイツ等!!;」

頭を抱えて絶叫だ。

「…というか、わざわざ気絶させんなよっ!!」
「知ってるか?酒飲むと×××になるんだぞ?」

ニヤニヤ笑うカルム(裏)の姿に、元から酒宴に誘う気などなかったことが判る。

「あ〜あ。いくら飲んでも酔わないのが分かっただけか、ちっ。」
「…勿体ねぇ飲み方すんなよ:」

思わずそう窘める事しか出来ない。
確かに、カルムは酒臭かったが特に酔った様子などなく、全くの素面のようだった。
酒を飲むだけ無駄のようで、ロイにしてみれば勿体無いとしか言いようがない。(酔っ払いの懐からは財布が頂戴しやすいこともあるし。)

「あ〜…もう朝だし、カルムと代わってオレは寝るか〜…」
「ここで変わんなよっ;」

どうフォローしていいのかわからない。
というか、確実に自分が飲酒したことになる為、ロイは多少慌てた。

「――――…」
「…おい?;」

そして、珍しく相手は制止の声を聞いたようで、まだカルム(裏)のままのようだったが―――

「――――…ない…」
「はぁ?」

「―――も、戻れないっ…!」

ザーッと青褪めた顔で、カルム(裏)は軋んだ音が聞こえるような動きでロイを振り返った。
そして、その姿は珍しくも、ぷるぷると震えて涙まで浮かべているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「王子っ!どうしたんですか!?」
「リオン〜〜〜」

医療室で療養中だったリオンの前に、と打つ前ベソ泣き状態のカルム(とそれを引きずってきたロイ)が現れ、リオンは混乱した。
…というか、リオンでなくとも混乱するような光景だった。
幸い来るまでの道のりでは誰にも目撃されなかったものの、当然シルヴァ先生には見られ、ロイに痛い視線が送られたりした。(断固としてオレのせいじゃない!と力説したいロイだ。)

「ほら、王子…泣かないで、落ち着いて説明してくださいね?」
「戻っ…戻れなっアイツがっカルムが出て、…」

ごに”ゃい”〜〜〜っと、涙と鼻水のせいでそんな語尾になったカルム(裏)は、泣き崩れた。

「…アンタ、一体いつもの威勢はどうしちまったんだよ;」
「…ロイ君、確かにいつもの王子はドSに見えますけど、打たれ弱いガラスのハートの持ち主でもあるんですから、そんな言い方しないで下さい。」

病床のシーツに涙の痕をつけるカルムの頭を撫でつつ、リオンはそんな言葉を返す。
…というか、ドSとまでは言っていない。

「何かいつもと変わった事をしませんでしたか?」
「っロイが〜〜っロイの部屋で〜〜っっ」
「オレが原因みたいな言い方で止めんなよっ!!(怒)」
「ロイ君っ!!(怒)」

怪我人にも関わらず、物凄い迫力の眼光で怒るリオン。

…しかし、ふと彼女は原因らしき『匂い』に気が付いた…。

「……………王子……」

 

がしっ。

 

「―――お酒、飲みましたね…?」

逃がさないですよvとばかりにカルムの両肩を掴み、リオンはとても恐い笑顔で言った…。

 

 

お酒はまだ王子には早いです!それにこんなに匂いがつくなんて…一体どれくらい飲んだんですか!?等々…とくとくと説教をされてしばらく…。(ちなみにロイは、「何でオレまで…;」と一緒に正座させられていた。)

 

「ほら、王子。一眠りしたら元に戻れますから、隣のベッドを使ってください。」
「うう…」

優しく諭され、カルムはめそめそしながらも、言われるままに空いているベッドにもぐりこんだ。
途端、安心したようにすぐに眠りに落ちる。

「………」
「………」
「えっと…ロイ君、王子が迷惑をおかけしました。」
「お、おお…。…なぁ、ところでさぁリオン。」
「はい?」
「コイツの元々の人格っつーか、主?の人格ってどっちなんだよ…;」

カルム(表)の方が主人格だと思っていたものの、こう弱って乗っ取られるかのような事態が起こると、どっちがメインの人格だかわからなくなる…。
そんなロイの困惑を余所に、リオンは小さく笑って答えになっていない答えで答えた。

「王子は王子ですよ、」
「……………」

不服そうな顔を見せたロイに、リオンは更に笑って続けた。

「ところで、ロイ君。」
「なんだよ?」
「―――今日の王子の予定の代行、よろしくお願いしますね?」
「―――――…」

 

結局ババを掴まされるロイだった。