彼と彼と彼の関係〜風邪編〜

 

 

コンコン。

朝早くに、ノックの音が鳴り響いた。
…ノックの音には、いい記憶がない。
何故なら、3回に2回は自分とそっくりな顔をした、でも全然似ていない相手の姿がそこにあるからだ。
ドラゴンヘッド軍リーダーで、困ったもんだの二重人格王子。
この時間なら、カルム(表)…性格の良い方か?と思いつつ、ロイは寝癖の着いた頭を掻き毟りながら、ドアを開けた。

 

「―――ごはげほがはっ!!」

 

途端、顔面に咳が噴きかけられた。

「……………」

…………………何の嫌がらせだ、こりゃあ?

 

 

 

銀色のキラキラ美少女(にしか見えない)に、その顔からは想像のつかないような咳の嵐を浴びせられ、ロイは黙って怒った。

「いくら王子って言ったって、もっと礼儀を持って一般人に接してもらいたいもんだなあ!(怒)」
「がはごほごはッ!(怒)」

思わず胸倉を掴み上げると、そこへまた容赦なく咳が浴びさせられる。
…ついでに、ゴッ!と頭を殴られた。
どうやらカルム(裏)のようらしい。

「ゲッ。;アンタの方かよ、朝っぱらから一体何しに…」
「ごほごほっ!(怒)」

赤い顔をしたカルムが、まず慌てた様子で部屋に乱入してきた。
同室の2人がまだ寝ているのにも関わらずだ。

―――次に、ロイの服を剥ぎにかかった。

「はあ!?一体何考えてっ…!;」
「ごほげほっ!!ごほっ!(怒)」

抵抗も虚しく、ロイの服は剥ぎ取られた。
そして、次いでカルムは自分の服を脱いだ。
容赦のない問題行動に、さすがに同室の兄妹も起きたが………何故だか顔を赤くして、それを観戦するばかりだ。(ロイの助けろよっ!;という声も無視された。)

 

で。

 

しばしの乱闘の後、―――ロイはカルムの服を着せられ、カツラを装着させられて部屋の外へと放り出されていた。
当然、カルムはロイの服を着てロイのカツラを被り、部屋に篭ったままだ。

「なっ…何なんだ一体…っ!;」

思わずプルプルと怒りに震えてしまうのは、無理のない話だろう。
蹴り出されるだけだと分かっていても、自室に怒鳴り込んでやろうかと思ったロイだったが…そんな時に声がかけられた。

「王子ぃ〜」

とととととと!と手に何かを持ったミアキスが、いつもと代わらぬ笑顔で駆け寄ってきた。
一瞬ギクリとしたものの、今バレる訳にはいかないと思い、ロイは王子の演技をしてみた。

「や、やあミアキスっ…;」
「………あれぇ?」

ミアキスの反応に、バレたか!?と一瞬焦ったが、どうやら首を傾げた理由は別にあったらしい。

「王子、声、ちゃんと出るようになったんですねぇ〜? てっきり風邪だと思ってたんですけど、王子の主張通りむせてただけだったんですね〜」
「あ、ああそうだよ?;」

なるほど。
風邪を引いていたのかと、あの奇行に対する答えを見つけた。
…しかし、何故逃げていたのか?

「ちぇ〜せっかくシルヴァ先生から座薬もらってきたのに、ムダになっちゃいましたぁ〜」
「―――――…」

 

(座薬っ…!;)

 

なるほどっ!と、カルムの逃げ出した理由がよくわかった!

「じゃあ王子!ルクレティア様がお呼びですから、早速一緒に行きましょうか!」
「あ、ああ…;」

 

ミアキスに引きずられ、連れて行かれた先ではルクレティアが不思議そうな顔をしていた。

「あら?王子、今日は風邪を引いていらしたんじゃなかったんですか?」
「それが、私の早とちりで、風邪じゃなかったみたいなんですよ〜。せっかくの座薬が無駄になっちゃいました。」
「うん、僕は風邪なんて引いていないよ?;」
「…………………あらぁ。」

愛用の扇を口元に当てて、ルクレティアは意図の見えない笑みを浮かべた。

「それは残念ですねぇ、……もし明日、治っていなければ今度こそ座薬ですね…?」

ねぇ?と同意を求めてくる相手に、ロイは心の底からこう思った。

 

―――――女って恐ぇぇえええぇっ!!;

 

 

 

 

で、(手加減をされつつ)ルクレティアと今日の仕事を代替わりで片付け、へとへとになりながらも部屋に戻る(勿論自室だ)と、幾分回復したカルムの姿がそこにあった。

「……げほ、」
「座薬入れられかけたんだって?」

そんなからかう口実があったからこそ、今日の仕事の代行を遣り抜いたのだと、ロイは断言できる。
ニヤニヤと笑うロイの姿に、珍しくむすっとふて腐れた顔を見せながらカルム(裏)は堪えた。(もう安全だと思ったのか、今はロイのカツラを被っていないようだ。)

「…薬なんぞに×の×を犯されてたまるかっ…!」

…というか、しくしくと今にも泣き出しそうな様子で、ロイの毛布に潜り込んでいる。

「そりゃ、ごしゅーしょーさまだったな。…で、風邪の事実を隠す為にオレに身代わりさせたって訳か?」
「いや、ロイがオレの代わりに×の×に××されてくれば良いと思っただけ。」
「………」

―――犯すぞゴラア。(怒)

そう言う代わりに、銀色のカツラを床の上に投げ捨てた。…かなりの値段がする為、それ以上乱暴なことは出来なかったが。
その代わり、ルクレティアからの伝言を伝えた。

「ああそうだ、あの軍師さんから伝言。明日も熱が下がってなかったら座薬だってさ。」
「……………………………寝る。寝て治す。おやすみ。」
「………ってここで寝るのかよ!! オレの部屋だぞ!?」
「一日くらい代わってやりなよ、」
「そうだよロイ、相手は病人だよ!」
「お前ら…どっちの味方だーーー!!;」

 

おそらくは今日一日面倒を見ていたのだろう兄妹分の言葉に、ロイは思わず怒声を上げた…。

 

 

 

「そうだ、フェイレン、お前がフェイロンと一緒に寝てオレにベッド貸してくれよ。」
「ロイのスケベ!デリカシーなし!!」
「そうだよ、それにロイは王子様の代わりに王子様の部屋で寝ないと…」
「お前らなぁっ!;」