彼と彼と彼の事情〜暴走編〜

 

 

リオンがカルムを庇い、瀕死の重傷を負ったと聞き、
ロイはつい頭に血が上り、あんたがついてて何で!とカルムの胸倉を掴み上げて怒鳴ってしまった。
…身近に出た被害に、パニックになったとしか言いようがない。
言い過ぎたというか、やり過ぎたと気付いたのは、頭の血がすっかり下がってからで…

―――正直、カルム(裏)からの報復が恐ろしかった。

 

部屋にノックの音が響いた時、ロイはすっかり諦めの境地だった…。

(せめて先に謝っとくか…!;)

身の保身を考えたロイは、ドアを開くと同時に口を開き―――…

「さっきは…」

 

ドッターン!

 

…一足遅かった。

 

「ぎゃー!;」

床に押さえつけられたと思えば、その場で服を剥ぎとられ、簀巻きにされた。
半裸で外にでも吊るす気か!;と、ロイは焦ったが…何故か相手はそのまま自分の服とカツラを装着し―――…

「うわああああああああ!!リオンが無事で良かったぁあああっ!!生きてて良かったぁあああああああ!!!!!」
「何の嫌がらせだーー!!;」

泣きながら絶叫して部屋の外へ走り出した。
当然、ロイはギャー!;と叫ぶしかない。
ドア越しにも聞こえてくる声に、外ではロイ(カルムの変装)が泣きながら城中を走り回っているのだろうことが予想出来る…。
…そして、それは予想に違わず大勢の人間に目撃された。

 

 

「ロイも悪戯してんだから、相子だと思いなよ。」
「じゃあ僕たちは、暫く出かけてくるからね」
「お前らせめてこの縄ほどいてからいけよ!!;」

…などと、フェイレンフェイロン兄妹とのやりとり後…

「ちっくしょ〜;」

ロイは縛られていた手を擦って痛さを和らげていた。
外に出ると余計にややこしいことになると分かっている為、自室でカルムの帰還を待っていると…
暫くしてカルムは戻ってきた。

「はー…すっとした…」
「いいからとっとと服返せ!」

ロイの姿のまま、目を腫らして満面の笑みを浮かべるのは、本人としては嫌がらせにしか思えない。

「あ〜返す返すー…。」

素直に返品のために服を脱ぎながら、カルム(裏)は疲れた笑顔で語る。

「ストレスは泣いて叫ぶのも一番だな…」
「………なんであんたわざわざオレの格好ですんだよ…(怒)」
「王子だと大っぴらに泣いたり喜んだり出来ないだろうが。落ち込むくらいならともかく…」

今は城中を走り回って喜んで悲しみたい気分だった!と当然のような顔で言う。

「リムを攫えなくて悲しい、伯母上がいなくなって寂しい、リオンが刺されて辛い、でも生きてて良かった嬉しい。…全部ぶちまけとかないと、壊れるだろ。」
「………」

珍しく愚痴を零すような口調に、何となくかける言葉が見つからなかった。
代わりに、 話を変えるようにその叔母についての話に水を向ける。

「あんたには悪いけど、オレはあの叔母さんを許―――」
「伯母上の悪口を言うなーッ!このクソッたれの××がーーッ!!(怒)」

 

…途端、復活したカルムの拳が顎にクリーンヒットした。

 

「っ…て、てめっ…!」
「リオンは刺したのはあの根暗××な××でっ伯母上は伯母上の事情で向こうに行っただけでヤってねー!死ねっ!この××ッ!」
「…っ上等だー!!」

 

…勢いで喧嘩を買ったものの、当然勝ち目はなく…ほぼ一方的に(たまにやり返しつつ)ボコられ続けるロイだった…。

しかし、落ち込まれているよりは、こうやって暴れられている方がまだマシだと、ロイは…思ったり思わなかったりした…ような気もする。
その辺りは、乱闘10分後に意識が遠ざかってしまった為に、ハッキリしなかった………。