巨大船『まんじゅう』、『こしあん』軍。
…そのネーミングからもわかるように、『こしあん』軍リーダーカイカは、少し…その、お馬鹿さんだ。
しかし、そんな所も、サラサラの癖のない茶髪に、マリンブルー色の瞳を持つ可愛らしい容貌な彼には、チャームポイントになっていると言えよう。…多分。少し抜けていても、ぼんやりしていても、愛さずにはいられない。そんな人物がカイカと言う少年だ。
皆、可愛い可愛いと可愛がってくれもする。
―――――しかし、問題が起きた。
「カイカーーーー!?;」
「………(ぐぅ…)」
「きゃーっ!カイカさーーんっ!?」
「………(すぴょすぴょ…)」
「わあ!?カイカ様!?」
「うわあ!」
「ひゃあっ!;」
「もうっ!;」
樽で発見カイカさん。
網に引っ掛かっているカイカさん。
etc…etc…
…………昼間、異様にカイカが昼寝をするのだ。
それはもう、どこでも所構わず、隙あらば、直ぐさま!
もともと、昼寝をよくする少年だったが、ここまで場所を問わず寝る事はなかった。(多分。)
(操の危機も何度かありつつ)紋章の影響か、それとも連日のリーダー激務から来る疲労か…等と心配しつつ、そこらかしこで寝ているカイカを、皆寝室へ運ぶ…。
………そして、そんなある日、原因が発覚したのだ。
…ただの寝不足、と。
連日、もう毎日のようにリタポンで徹夜していたらしい。(ちなみに、「ラグジーも この頃眠そうにしていて…」というリキエからの申告によって発覚した…。)
リタとカイカ以外にも、他に子供らが真夜中集まって、遊んでいたのだ。
コマを増やして、4人対局にルールを変えて…、(想像するとかなり異様な光景だ。)
そこで、エレノア様が大激怒なさった…。
「一軍のリーダーがそんな事でどうするんだいっ!?カイカ!!
いいかっ!みんな持ち回りでカイカをきっちり夜に寝かすんだよっ!?」
寝ているカイカの首を子猫のように掴み、エレノアは高らかに言い放った。
…その言葉にざわめく一同。
寝かし付ける…!
その方法は、×××や×××な事をして、疲れ果てさせ気絶させるのも有りなのか!?という希望と心配の声だ。
「―――――ただしっ!お触り本番は厳禁だ!―――いいねっ!?」
うおおーー!と、大多数の同意の咆哮(?)が上がった。…一部は、悔し泣きの声だ。
+++++++
………と言う訳で、テッドの番になった。
「…で?」
「そんな顔すんなよ、」
「そうそう。関わるなって言っても、軍全員参加の事なんだからさぁ」
タルとジュエルに言い諭され、テッドは不機嫌そうに顔を歪めた。
(…なんでこの軍は誰も彼も、俺に絡んで来るんだよ…!)
心中で大分焦りはあるが、何とかそれは表面に出さないようにする。
…そんなテッドの姿には、船から落ちかけた時に見せた明るさや、人懐っこさはまったく無い…。
「じゃあ…とにかく、頼んだぞ」
「今日だけだからさ、カイカも今日はちゃんと寝なよ?」
ポスッと、何か泊まる為の荷物だと思われる物と、無表情にボ〜ッとしているカイカを(無理矢理)押し付けられた。
――――テッドは諦めたように大きくため息を付くと、ガシガシと頭を掻いた。そして、
「…やれって言うならやるけど……いいか、俺に関わるなよ?」
++++++
「………」
もう日は暮れて、一応は寝始めてもいい時間に差し掛かって来てはいるが………寝ない。
確かに、『子供』は寝る時間だと言うが…別にそう急いで寝かせる事もないだろう。
…どう対処していいのか分からないという事もあるが、
―――ひとまずテッドは放っておく事にして、チロッと相手を見つつ、自分のベットに転がったままでいた。
最初はベットの件(一つしかない)はどうするのかと思っていたが…相手は一応リーダーと言うので、こちらが譲るべきかと考えてもいたのだ、が。準備されていた荷物の中にあったハンモックが部屋の中に吊るされ、カイカは気にした風もなくそこに横になっている。
「………」
ゆっくり、ゆるやかに揺れる波の動きに合わせて動くハンモックの上、少しだけ真剣な(ように見える)表情でカイカは本を読んでいた。
「………?」
何を読んでいるのかと少しだけ気になったテッドは、興味の無い視線を装いながら、
タイトルを見てみた。
…『薔薇の剣士』。
…絵本のようだ。
しかも、すぐ近くには『ゆううつ婦人』という切り抜きまである。
「……………」
わからない。
(一体何がなんだか;、…そう言えば、船の時からこんな感じだったよな…―――と)
――――少しだけ相手に興味を持ってしまった自分に気付き、テッドは小さくため息を付いた。
これは…少し、まずい状況だろう。
…取り敢えず、もう放って置こう。
今日だけだ、どうせ…
「………」
そろそろ自分の寝る時間に近づいている。
読んでいた本をパタンと閉じて、テッドはまたカイカを見た。…まだ、寝ていない。
戦いの中に身を置いているのだから、体調管理も大事な仕事の一つだ。毎日遅くまで起きていて、次の日に支障が出ないはずがない。
まだ本を置こうとしない相手に、部屋の灯りを消すと言う強行手段をテッドはとった。
…フッ、と一瞬で部屋は闇に包まれた。それに目を慣れさせる前に口を開く、
「…寝ろよ、」
「…」
…抵抗を予想していたのだが、意外にも、カイカからの拒否はなく、こっくりと頷いた気配だけが伝わって来た。
(………一体何なんだ、)
理不尽な思いに、テッドは少し苛つきながら、乱暴にシーツを捲った。
+
夜更けの酒盛り…
静かながらも、アダルトなムードがカイカの自室付近の部屋で、行われていた。
話題は当然、眠れなくなっているらしい、こしあん軍リーダーの事だ…「…で、一体何でカイカは寝ないんだ?」
「…さぁね、色々あるんだろうさ。」
色々ね、
…と、息をつきながらエレノアはオベルの王の前で杯を傾けた。
+
「………おい。」
「………」
深夜になった頃…
ピタッ。と、闇の中でカイカの動きが止まる。
…いやに素直に寝るな、と思って様子を見ていたのだ。…そうしたら、案の定。
…いきなりゴソゴソと起き出したかと思うと、道具袋の中から何かを取り出したのだ。
そして、そのままテッドが黙って動きを見ていたら、更に中から折り畳んだ袋を取り出した。
それに、ふぅふぅっ!と空気を入れて、膨らんだ袋の口を紐で縛る。…それを代わり
にハンモックの上に乗せて、先程の会話に戻る。
「…どこ行く気だよ?」
「…………リタポン大会。」
あまり口調に抑揚がないように聞こえるが、何となく困っているようにも聞こえる気がする。
「………」
「………」
相手の表情がよく見えない中、暫く見つめ合う…。
――――――――先に動いたのは、カイカだった。
「…!!」
「あっコラッ…!;」
普段のぼんやりさからは想像もつかない程の超ダッシュで、カイカは強行突破を試みた。
…が、テッドの方が行動が早い。
「待てって!」
「!!」
ズボンの端を掴み、顔から床に倒れた身体を押さえ付け、ベットまで引きずる。
その間もじたばたと暴れられ、だんだん自分にも余裕がなくなって来ている事がテッドにもわかった。
ベットの上に振り投げると、上からシーツをかけて身動きを取れなくしてしまう。
今度は息苦しさからカイカはじたばたともがいているが、
…何とか顔が出せた時には、もう抵抗する気は無くなったようだ。…ぼ〜っとした表情で息をついている。
そんな、自分よりは『見た目』年上の相手の幼い仕草を見ていると、先程の自ら醜態が馬鹿らしくなって来る。
「………ったく、なでそんなに寝ようとしないんだよ、おま…あんたは、」
年下の筈、であるのに…妙に大人びた様子でテッドは自嘲気味に呟いた。
…まさかそれに答えが返るとは思っていなかった。
「………夢…」
「え?」
「…見るから、紋章が…の…」
「、」
紋章を使った後に見る夢、
以前の所有者の死んだ魂を、再び…殺す…
「夢が…怖くて…ずっと…だから夜は寝ない。暗くて…それが、」
使わないようにして、見る事のないように過ごしているが、それでも思いだすのだ…、
そうカイカは言う。
怯えているのか、そうで無いのかよく分からない表情で、ぽそぽそと…呟くように、
「―――…」
呪われた紋章。
―――誰かに渡るくらいなら…
そう言ったけれど…怖くないはずがない。
(―――――俺も…)
…何かを言いかけて、テッドは右手を握りしめて黙り込んだ。
(………言えない。)
…その代わりに、
ボスッとシーツを被った頭を叩くように撫でてやる。
「?」
「寝ろよ、…いいから、夢は見ないよ」
トン、と押してベットに倒してやると、きょとんとした瞳でカイカは見上げて来た。
「…てっど」
「…なんだよ、」
「てっど。」
「…」
「…もぃっかい。」
じぃっと、澄んだマリンブルーの目に促され、テッドは今度は優しく頭を撫でた。…
イイコ、イイコと子供にするように、
「………」
カイカは安心したように、うとうとと目を閉じ始めた…。
しっかりと、左手でテッドの手を握りしめて…
「……まったく、…頼むから関わるなよ、…頼むから、さ…」
暗い部屋の中…握りしめた手だけから相手の存在を感じて…
………少し泣きたい気持ちになった…。
〜…それから。〜
「だからっ!なんで俺が…!」
テッドの怒鳴り声が甲板の上、鳴り響いた…。
「だってカイカがちゃんと寝れたんでしょ?」
「だったら最後まで面倒見ろよ。お前がいれば寝れるっていうんだからさ」
「そういう問題じゃ…!」
「………」
…次の日から、ひよこの様にカイカに懐かれているテッドの姿があった…。
どうあっても、世話役を押し付けられてしまう運命にあるとは…この時、テッドには
想像もしていなかったという…。
END